NHK「ニュース7」を点検した 首相が登場しないのは2週間で1日だけ 質問カットで好印象に

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  安倍晋三首相がNHKのニュースによく出てるなあ、という漠然とした印象があるが、実際はどうなのか、という問題意識から、NHK「ニュース7」を2週間録画し分析した。結果は、首相の動画が13日も流れるという「高露出度」だった。記者会見は、インパクトの強いの音声付き動画が計2分50秒放送され、国会質疑では答弁が質問の4倍近い場面もあり、質問をカットしたため実際とは逆の好印象を与えるシーンもあった。天気予報後に首相の声付き動画を入れるという“離れ業”もあった。

 テレビへの首相登場は、その印象が内閣支持率に影響し、政権の浮沈にもかかわってくる。今回は1人でチェックしたが、多くの人が下記の記述を参考にNHKニュースを点検し、そのデータに基づいて、NHKに「正確で公平・公正な情報発信」(前田晃伸NHK会長就任あいさつ)を求める意見を出していくことがますます重要になっている、と感じた。

【Ⅰ】調査方法

調査対象: NHK「ニュース7」(通常は午後7時から30分)  期間: 3月2日(月)から15日(日)までの14日間

手法: 録画で首相の動画声付き、動画声なし、写真をチェックし、内容と秒数を記録

2分50秒、首相会見の声付き動画が流れた

【Ⅱ】結果

 首相首相動画の有無 有 14日間のうち13日

内訳 動画(音声付き)11日、動画(音声なし)2日

 動画の最多回数 動画(音声付き)7回+動画(音声なし)複数(3月14日)

 動画(音声付き)の最長時間 2分50秒(3月14日)=記者会見

 2014年3-4月にも「ニュース7」への首相露出度調査をした。50日のうち首相が登場しない日は10日だった。数字だけ見ると、露出度は今回の方が高いが、この2週間は、新型肺炎の蔓延・対策の「瀬戸際」で、首相の土日出勤があった。首相という最高権力者の動きの取材はメディアの重要な仕事で、報道量が多くなることは当然のことだろうが、以下、「ニュース7」への首相露出の実態を紹介する。

【Ⅲ】特徴とケーススタディー

 (ⅰ)音声付き動画が2分50秒。会見内容の紹介だけで記者の解説なし

  〈ケース1〉首相記者会見(3月14日) 改正新型インフルエンザ等対策特別措置法の施行にあわせての会見(首相官邸午後6時01分から約52分)

 「ニュース7」は、首相動画(音声付き)7回計2分50秒(①法の性格「万が一に備えた」25秒 ②「宣言する状況にない」9秒 ③必要なら手続き実行18秒 ④経済対策25秒 ⑤新たな経済対策36秒 ⑥国際協調40秒 ⑦東京五輪・パラ17秒)を断続的に放送。この動画の前後にキャスターが会見要旨を読み上げ、その背景に首相の音声なし動画が複数回放映された。この日の「ニュース7」は、会見がトップニュースで放送時間は7分05秒。内容は、動画とキャスターの要旨朗読だけで、記者の解説、専門家や野党幹部、医療や学校関係者の反応はなかった。

 一方、TBSテレビ「報道特集」(午後5時30分-6時50分)は会見中継を6時37分、質疑中に打ち切り、政治部長がポイントを解説(1分23秒)した。官邸からの会見通知は前日にあったのだから、「ニュース7」では、記者の解説はもちろん、医療・学校関係者、経済関係者、野党幹部らに待機し感想を述べてもらう段取りをしていれば、会見の直後であってもニュース時間内の放送は可能で、そうすれば、多面的でバランスのとれた内容になっていた。

 翌3月15日の朝日、毎日、読売3紙朝刊の扱いを見ると、首相会見はいずれも1面トップではなく、左肩準トップ(3段見出し)だった。新聞論調の二極分化(朝日・毎日・東京vs読売・産経・日経)が報道面にも影響している状態が続いているため、「読売はトップかな」と推測していたが、結果は違った。「見出しの取れない記事」はトップに据えられない、という新聞作りの職人の技が反映した形だ。3紙とも「緊急事態でない」(読売)など同じような主見出しだった。

質問カットで首相、好印象に

(ⅱ)答弁が質問より長い

<ケース2〉 参議院予算委員会質疑(3月3日放送)

 テーマ=新型肺炎対策

   「 ニュース7」での質疑の音声付き動画秒数は次の通り。

質問者政党 質問・秒  答弁・秒 質問内容

①国民民主  14     24     トイレットペーパー在庫   

②公明     19    32    感染症対策組織       

③公明            16    24    保護者への助成金    

④維新            12    31    都道府県との連携       

⑤共産           12    27     PCR検査

  上記の数字で「首相の答弁は長い」ことが確認された。3月9日の参議院予算委員会では、国民民主党議員の質問・音声付き動画8秒に対し、答弁は30秒で、質問の約4倍だった。質問は新型肺炎の蔓延・対策の「瀬戸際」に関してだったが、答弁には別の話が入っていた。首相答弁は政策実施に直結することがあるから長くなる、との主張が妥当な場合も一般的にはありえる。今回の放送が、NHKの担当者が忖度した結果、とは即断できない。質疑の内容をひとつひとつ検討する必要がある。

(ⅲ)質問削除で印象は正反対に

 〈ケース3〉 参議院予算委員会質疑(3月3日放送) テーマ=自民党の河井(克行前法相・衆議院議員と案里参議院議員)夫妻の秘書らの公職選挙法違反容疑での逮捕  「ニュース7」で、首相答弁の動画が19秒流れ、「わが党の議員の秘書が逮捕されたことは大変残念」「(両議員は)説明責任を果たすべきだ」「辞職すべきかどうかは政治家一人一人の判断」という音声付きだった。

 質問は放送されなかったのでネット検索すると、YouTubeに動画があった。質問者は共産党の小池晃議員で、自民党総裁として、法相を任命した首相としての責任について触れ、両議員の辞任を求めないのか、と質問。首相は「捜査に関することだからコメントは控える」などと答弁。立憲民主党の蓮舫議員が委員長席に2回、詰め寄って審議は一時中断。小池議員の5回目の「自民党総裁として遺憾なことだぐらい言えないのか」との質問後、上記の答弁となった。質問開始から6分が過ぎていた。「ニュース7」の動画は、首相がすんなり「残念発言」をしたような印象で、YouTubeの画像を見た感じとは正反対だった。

 ニュース価値は相対的で、大型事件があるかどうかでも扱いが変わり、テレビの場合、ニュースセンターが、ニュースの素材、順番、放映時間などを通常は判断する。予算委員会で質問を削除したことへのNHKの弁明を推測すると、①小池議員については、同じ委員会での新型肺炎関係の質疑で動画を流していて、さらに動画を付けるとダブり感が出るので避けた、②首相答弁の直前に立憲民主党の安住淳国会対策委員長のインタビュー動画を放送しているので、政府vs野党の均衡はとれている-の2点が浮かぶ。しかし、今回のように、実際の質疑のとは逆の印象を視聴者が持つように編集されている点は弁解の余地がない。

ニュースの最後・天気予報の後に押し込む

  (ⅳ)天気予報後に音声付き首相動画

〈ケース4〉 テーマ 中韓からの入国者2週間待機要請へ、新型コロナウイルス感染症対策本部決定(3月5日放送)。

経過は次の通り。

午後7時10分 対策本部会議終了。 

7時20分30秒 速報(動画音声なし)。キャスターが2回、原稿を読み、背景に首相の音声なし動画。

7時29分21秒 動画音声付き25秒。この後、天気予報。キャスターがあいさつをして終了。

 天気予報後に動画声付きを流す前にキャスターがもう一度、原稿を読んだ。内容は伝わっていたため、その後の動画にはダブり感があった。天気予報は2分2秒で、通常の長さだったので、その前のニュースを短縮、天気予報を前倒しして最後に動画を追加した形だ。首相の音声付き動画を是が非でもというNHKニュースセンターの“意気込み”が感じられた。

 こうした“意気込み”は3月8日にも見られた。首相が官邸に入って歩くシーンの動画(音声なし)が10秒流れた。日曜日で新型コロナウイルス対策本部も開かれなかったが、首相が午後、翌日発表予定の緊急対策第二弾作成のため出勤した。これを“絵付きのニュース”にしたというわけだ。

(ⅴ)背景に動画・写真を多用

 音声なしの動画や写真がニュースの背景などに流されるケースが目立った。閣議前に閣僚応接室に首相らが集まり懇談しているシーン、首相の官邸への出入場面、官邸の外観、資料映像(例・東日本大震災記念式典中止関連で昨年の映像)、写真(例・習近平主席来日延期で両首脳の写真)などがあった。資料映像については、ビデオ時代は保管室に探しに行き、その中から該当部分を見つけ、編集するのに時間がかかったが、デジタル時代の今は簡単に検索・編集ができる。技術の進歩で多用が可能になっている。「絵が命」のテレビ界では当然、というのがこれまでの常識だろうが、本当に必要なのか、検討する時期だ。

 音声なしの動画、写真はインパクトが小さいので、視聴者はなんとなく見てしまうが、首相の姿を繰り返し見ることで、「頑張っているなあ」というメッセージが潜在意識に作用するのではないだろうか。広告関係などでは、視聴者が気づかないほど瞬時に映像を流し、その結果、例えば、喉が渇いて清涼飲料水を飲みたくなる、というような手法が“サブリミナル効果”という名前で知られている。これと同じような現象が、音声なし動画などにはあるのではないかと推測できるが、専門家の研究に期待したい。

データを基にNHKに意見を送ろう

【Ⅳ】今後の課題

 以上のように、1つのテーマに関した2週間限定の点検でも問題点を指摘できるが、次のような今後の課題がある。

1、複数の人が複数のテーマを毎日チェックする。1人の作業では、テーマや期間を絞るなど限界がある。それに、ビデオの同じシーンを複数回見るのは苦痛だが、それを分散できる。

2、グループだと、ニュースの内容、扱いなども点検でき、NHKの他の時間帯のニュース、民放や新聞、ネットニュースと比較することが可能となる。

3、点検した日か翌日にデータに基づく意見をまとめ、NHKに送る。メディアについて、民主主義を守る番犬watchdogという古典的な位置づけがあり、当ブログはそれにちなんで名付けられている。実態に関しては、メディア=lapdog(愛玩犬)との批判があり、さらには権力を積極的に擁護するguarddog(護衛犬)という概念もある。今回の点検では、NHK≒guarddogという側面を示すデータもあった。多数の人が具体的な調査結果に基づいた意見をNHKに送り続ければ、ボディーブローのように効いて、watchdogの方向に戻す機会をつくる可能性があるのではないだろうか。もちろん、褒めるべき取材・報道についてはその旨を伝えるも忘れてはならないが…。

 〈参考〉NHKへの意見と返事の例  NHKにネットにあるフォーマットを使って意見を出すと、返事はその日のうちに来る。 最初は丁寧だが、回を重ねると、ひな形を一部手直ししたような文章になってくるが…。

◇例:松野の質問・意見( 2016年8月25日午前9時50分)  

 総合テレビおはよう日本で、「安部首相、きょうケニアに」をトップにし、約5分流したニュースセンターの判断基準を聞きたい。「みなさまのNHK」としては、3番手の台風10号、5番手のイタリア地震を上位にするのが常識的だ。映像メディアとしても、最新映像のあるイタリア地震関係が資料映像のアフリカ関係よりも優先されるのが明白だ。abe channelと呼ばれないようなニュース編集にしないと NHK離れは加速する。

 ◇ NHKふれあいセンターからの返事 (2016年8月25日13時30分) 

 NHKでは、ニュース報道については、報道機関として自主的な編集判断に基づいて放送しています。放送にあたっては国内番組基準を設け、この中で、全国民の基盤に立つ公共放送の機関として、何人からも干渉されず、不偏不党の立場を守って、放送による言論と表現の自由を確保し、豊かで、よい放送を行うことを明記しています。この基準に基づいて、報道の担当責任者が具体的な対応を判断してニュースおよびニュース番組を制作しています。ニュース項目の放送する順番および放送項目の選択については、編集責任者が、日毎にその日一日に起きた政治・経済・社会・国際・スポーツなど様々な分野のニュース全般を見渡しつつ、内容の重要度や緊急度、さらには視聴者の関心の度合いや広がりといった要素はもとより、深刻なニュースと明るいニュースのバランスなど、様々な要素を勘案して決めています。(略)