大手メディアは「統一教会」と安倍元首相や自民党政治家との関係をきちんと報じているか  当初、教会名伏せ世論調査に国葬の項目もなく 「腰が引けている」との批判相次ぐ いまこそ徹底した「調査報道」で勝負を

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 「(統一教会という)教団の延命に手を貸したのはわれわれマスメデイアの無関心です。私を含め政治家との癒着を見過ごしてきたことは、権力の監視というメディアとしての大切な任務を果たしてこなかったということになります。これも知らなかったでは済まない問題です」

 現役のニュースキャスターからこんな厳しい自省の弁が飛び出した。「原爆の日」の8月6日。TBSの大型ニュース・報道ドキュメンタリー番組「報道特集」で日下部正樹キャスターが番組の中で強い言葉でこれまでのメディアの統一教会報道を批判した。

 また、長い間、週刊誌報道にたずさわってきた「週刊現代」元名物編集長の元木昌彦氏は7日の「日刊ゲンダイDIGITAL」の「安倍3代にわたる統一教会との蜜月関係を、なぜ大新聞は追及しないのか」の記事で 「腰抜けの大新聞やテレビ」という言葉を使って、こう批判した。

 「今ごろになって自民党の政治家と統一教会との癒着構造や、安倍政権時代に統一教会から世界平和統一家庭連合への名称変更が認められたなどと寝とぼけたことを報じているが、週刊誌ははるか先へいっている」とこれも厳しい。確かに、「週刊文春」「週刊新潮」や講談社のオンラインの「現代ビジネス」などは、事件発生後から毎週特集を組み、「統一教会」のさまざまな問題点をあぶり出し、追及している。

 ジャーナリスト自身からなぜこのような「自省の弁」や大手メディアの報道に「腰抜け」との罵るような言葉が出るのかー。7月8日の安倍晋三元首相の銃撃事件発生以来、1カ月が過ぎた。ここで、日本を代表する朝日新聞を中心に「腰が引けている」と批判されている大手メディアの報道ぶりを取り上げてみたい。

予兆 

 山上徹也容疑者が安倍氏を狙った犯行動機について朝日新聞は、当初は「特定の宗教団体の名称を挙げて『恨む気持ちがあった』と説明。『団体のトップを狙うことが難しく、安倍氏が(その団体と)つながりがあると思い込んで狙った』」(7月9日付朝刊)と「特定の宗教団体」について名前を伏せて報道した。記者クラブに加盟する他の新聞・通信、NHKを含む民放テレビ各社(これらを「大手メディア」と呼ぶ)も同様に報じた。事件後、奈良県警捜査1課長が記者会見で意図的に使ったとみられても仕方がない「思い込み」という言葉をメディアがそのまま垂れ流したことも後で、メディア批判の対象になる。この宗教団体が「世界平和統一家庭連合」(統一教会)であることを大手メディアが明らかにしたのは、事件発生後3日たった11日に統一教会の田中富広会長が記者会見してからだった。

 すでに9日にはオンラインの「現代ビジネス」(講談社)が〃独自ダネ〃として「安倍元首相を撃った山上徹也が供述した、宗教団体『統一教会』の名前」との見出しで「統一教会」を実名で報じていた。この後写真週刊誌「Smart Flash」(光文社)が続いている。ワシントンポスト、フィナンシャルタイムズ、フィガロなど外国のメディアもいち早く教団名を出していた、という。

 朝日新聞は同じ9日には、山上容疑者の伯父にインタビューし、10日付朝刊で母親の宗教団体への入信やその後のいきさつについて詳しく聞いている(だから、団体名は当然、聞いていたのではないか)。また、東京新聞も10日付朝刊(取材は9日、書いた記者の名前がないので共同通信の記事だと思われる)にこの宗教団体の広報担当者から「母親が長年信者だったことは間違いない」ことを確認する記事が掲載されている。

 大手メディアは、犯行動機が事実かどうか裏付けがとれていなかったことなどを理由としているようだが、「現代ビジネス」と同じように9日には、容疑者のおじにインタビューし、教団側が一部のメディア取材に山上容疑者の母親が「正会員」だったことを認めているのだから、そのとき、実名を出すべきだった。私の警察取材の経験からみても、8日夜の県警幹部の夜回りや警察庁取材でメディアは「宗教団体名」を知っていたのだと思う。だが、捜査当局から「まだ実名は出さないで」といわれていた可能性もある。10日が参院選投開票日だったことも影響したのかもしれない。だとすると、メディアの「匿名判断」はかなり政治的だったのではないか。また、統一教会側も11日に会見を開いたのは、参院選を意識していたのだろう。

小さいが大切な「おことわり」記事

 新聞は12日付朝刊でいっせいに初めて教団の実名報道をした(テレビは11日午後)が、そのとき紙面で実名報道の理由を書いた「おことわり」を出したのは在京紙では東京新聞だけだった。共同通信が加盟社(NHK、毎日、日経、産経と地方紙)に配信したものをそのまま使用した。調べていないが、かなりの地方紙がこの「おことわり」を使用しているのではないか。

「おことわり」記事には、こう書かれていた。

 「安倍晋三元首相が銃撃された事件の容疑者は、奈良県警の調べに『母親が宗教団体に入信し、家庭が崩壊した』と供述しています。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が記者会見し、母親が信者であることを正式に認めましたので、記事中に団体名を表記します(共同)」

「おことわり」は、誘拐事件などで報道各社が報道協定を結んだ際に、犯人逮捕などで解禁になったときに紙面に必ず、掲載するものだ。読者にこれまで報道せずに伏せてきた理由を知らせる小さいが大切な記事である。メーンの記事(業界では「本記」と呼ばれる)記事の最後に付記される。

 大手メディアが「統一教会」名を報じなかったことについて、実名が報じられるまでに、インターネットやSNSなどで強い批判の声が上がっていた。「統一教会」の名前はかなりの人がすでに知っていたとみられる状況にあった。大手メディアは教団名を出す際に、せめて「おことわり」か、できたら実名発表に至るまでのもう少し詳しい経過を読者や視聴者に知らせるべきではなかったか。読者や視聴者の「メディア不信」を払拭するためにも、これからでも遅くないので、その「検証記事」は出すべきだ。その後も、大手メディアの報道は、安倍氏や自民党政治家と統一教会の関係について、警察発表を垂れ流しの報道が続き、当初は森友・加計学園問題や「桜を見る会」問題へなどでその毀誉褒貶が指摘されていたにもかかわらず、安倍氏の生前の政治的成果をたたえる「翼賛報道」一色となったことも「メディア不信」を増幅させたのではないか。

腰が引けた朝日新聞、テレビ朝日、NHKの報道ぶり

 オンライン記事やSNSでは、統一教会問題をきっかけに「きちんと報じていない」「調査報道がない」「紙面の扱いが小さい」など読者・視聴者のみならず、識者からも厳しい批判が相次いだ。「権力監視」への期待が大きいからだろうか、特に新聞では「朝日」、テレビでは「NHK」と「テレビ朝日」への批判が数多く見受けられる。テレビではTBSの「報道特集」や日本テレビと読売テレビの「ミヤネ屋」、BS・TBSの報道、新聞では東京新聞の「こちら特報部」、週刊誌では前にも書いたが、週刊文春と週刊新潮の毎回の本質を突く素晴らしい調査報道ぶりには敬意を表する。これに比べてもこの三つの媒体の腰の引けた報道ぶりには、私自身、怒りより、あきれかえるほかはない。

 フランス文学者で神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏は6日、ツイッターで「今の紙面を見て、じゃあ、これから朝日新聞を購買しようと思う人がいるでしょうか。政権翼賛記事を読みたいなら、産経新聞を読むし、政権批判を読みたければ、日刊ゲンダイを読む。まともな報道を読みたければ、ニューヨークタイムスかガーディアンの電子版を読む。朝日より安いから」と皮肉を込めて朝日新聞を批判している。

 今回の安倍氏銃撃事件をきっかけとした安倍氏や自民党政治家との関係についてのその後の報道で 朝日新聞は扱いも小さく、それも会見などの表記事ばかりで独自の視点から切り込んだ記事や調査報道がほとんどみられなかった。80年代以降、統一教会問題をリードしていたのは、「朝日ジャーナル」を中心とした朝日新聞であり、他のメディアを圧倒していた。それがいまどうしてこのようになってしまったのか。今回は特に朝日新聞を取り上げる。

弱腰を象徴する「インタビュー記事削除問題」

 それを象徴する出来事が社会学者で宮台真司東京都立大教授のインタビュー記事削除
問題だ。問題のインタビュー記事は朝日新聞7月19日付朝刊に「元首相銃撃 いま問われるもの」というインタビューシリーズで「『寄る辺なき個人』包み込む社会を」との見出しで掲載された。宮台氏は7月22日、削除された部分をJ-CASTニュースの取材で公開。「(自分の)見識を疑われる削除を(朝日が)要求するのはあり得ない」と反省を促した。これに対して朝日は「編集の経緯や判断への答えは差し控えます」などと答えた。

 7月22日のJ-CASTニュース「朝日新聞の要求あり得ない」と苦言、との記事によると、宮台氏は、この記事について、日本の政治の闇を語っていないとの指摘を受け「自民党と統一教会についてズブズブ」などの記述が記事では削除された、と同日のツイッター投稿で訴えていた。宮台氏が削除されたのは以下の3点だ。

①偏った世界観と過度な資金集めを特徴とする宗教団体が、フランス・ドイツのように「カルト指定」されなかったことが大きい。
②70年代末からは、旧統一教会系の原理研究会が各大学キャンパスで地方から上京したての孤独な新入生を勧誘した。
③90年代にオウム真理教が社会問題化して以降、政治家は宗教団体と距離を置くようになった。だが、被害対策の弁護士らによると、民主党政権が生まれたゼロ年代末から10年代初めにかけて両者が再び目立つ形で接近し始めた。自民党の下野から政権奪還に至る過程で、確実な集票を期待できる宗教団体やネット右翼との関係が深まったのだ。教祖が世を去った宗教団体側も、政治家を新たなアイコンとして組織の求心力を維持したがった。持ちつ持たれつだーの3点である。

 正直言って、新聞で宮台氏の論考を読んだとき、私も「物足りなさ」を感じた。その後の、テレビや週刊誌報道をみると、特に③は重要で、事実はその通りなことが分かってきている。事件が発生してから10日あまりでここまで見通していたとは、宮台氏の洞察力はさすがだと感じる。「ズブズブ」とか「持ちつ持たれつ」という表現も全く違和感はない。

 J-CASTニュースの記事は、宮台氏が明かした朝日の削除の経緯について「朝日は社会部の取材で確かめてからでないと掲載できない、と言っていた。僕は社会部の取材が追いつかないのは社会部の責任ではないかと申し立てた。朝日は、今回は社会部が勉強課題を負ったということで勘弁してほしいと答えました」と書いている。

 朝日と筆者とのこのようなトラブル。どこかで見た光景ではないか。8年前の14年8月に掲載予定のコラム「新聞ななめ読み」で、ジャーナリスト池上彰氏が「朝日の従軍慰安婦報道の検証が不十分」と書いた原稿掲載を朝日側が拒否。池上氏は逆に連載中止を申し入れた。このことが、週刊誌報道で公となり、朝日はこの後、池上氏の記事を掲載し、おわびした。このことをきっかけに朝日はかなりの部数を減らした、とされる。

 この記事の中で宮台氏は「自民党と統一教会の関係を書くことで〃右派〃の攻撃や自民党関係者の抗議を恐れたのでは」と指摘する。「赤報隊」を名乗る犯人が当時29歳の小尻知博記者を射殺した35年前の87年5月3日の「朝日新聞阪神支局事件」(03年に他の関連事件とともに未解決のまま公訴時効となった)の悲しい経験も、朝日の今回の腰の引けた報道姿勢に微妙に影響していなければいいが・・・。

 内田樹氏の〃怒りのツイート〃翌日の7日付朝刊でタイミングを合わせたかのように、朝日新聞は1面トップで「教団票『10万票は切らない』 旧統一教会が支えた安倍派候補」という記事を掲載。2面で「自民と旧統一教会 共鳴の半世紀」との見出しで全面展開。8日は休刊日だったが、9日付朝刊でも、統一教会や山上容疑者関連の記事であふれた。もっとも、事件発生後、1カ月という節目であったことや10日の岸田内閣の改造で統一教会との接点が問題になっていることが紙面に影響したのではないか。ジャーナリスト出身のフェイスブック友達からは「朝日がやっと動いた」との賛同の声が多数寄せられた。疑り深い私は「やっと動き出したならばいいのだが、(今回の記事は)民放がさんざんやっている話ばかり。(朝日は)まだまだ腰が引けていないか」とFBに辛口の評価を書いた。そして「様々なルートがあるはずなので、徹底した調査報道を」と期待の言葉を付け加えた。

視聴者からの抗議殺到か

 朝日新聞は7月16日、17日に定例の世論調査を実施している。NHKも同じ7月16日、17日。18日に実施。しかし、朝日調査には、NHKにはある「国葬」に関する質問はなかった。その代わりに「安倍元首相は参院選の応援中に銃撃され、死亡しました。あなたは、政治や社会のあり方を暴力で変えようという動きが日本でも増える不安を感じますか、そうは思いませんか」と「銃撃事件で、あなたは、安全保障や憲法改正の議論に大きな影響が出ると思いますか。そうは思いませんか」の2つの項目を質問していた。なぜ「国葬」について質問しなかったのか。政権に「忖度」したとは思いたくないが、やはり気になる。ちなみに、系列のテレビ朝日も7月16日、17日に調査を行ったが、「安倍元総理の銃撃による不安」を問う内容でやはり「国葬」の項目はなかった。

 これまで安倍氏や自民政治家と統一教会との関係の報道をあまりしてこなかったNHKは8日の午後7時のニュースで、テレビ朝日「報道ステーション」も同日夜の番組で、やっとこのことを報道した。10日の岸田政権の内閣改造はこの問題を抜きには考えられないからだろう。それにしても、そのほとんどの内容がTBS「報道特集」や日本テレビ・読売テレビの「ミヤネ屋」、週刊文春がすでに繰り返し報道している内容の上書きだった。やらないよりやった方がいい。何があったのか。おそらく、視聴者からの抗議が殺到していたのではないか。今のNHKは視聴者からの受信料で成り立つ公共放送の役目を果たしているとは、とてもいえない。

 毎日新聞や東京新聞も好きだが、朝日新聞は日本の良識を代表する新聞であると私は考える。長い間の親子2代にわたる愛読者だ。だからこそ、絶対に守りたい。国民が抱き始めた「メディア不信」をはねのけるためにも、「権力監視」の役割を果たすためにも、大手メディアは徹底した「調査報道」で勝負をしよう。

【参考資料】
▼ 大手メディア各社の「安倍氏国葬」についての世論調査結果(8月8日報道まで)

・ NHK1回目(7月16日から18日調査)「評価する」49%、「評価しない」38%
・産経・FNN調査(7月23日、24日)「よかった」50・1%、「よくなかった」46・9%)
・共同通信(7月30日、31日)「賛成」45・1%、「反対」53・3%
・日本経済・テレ東(7月29日から31日)「賛成」43%、「反対」47%
・JNN(8月7日の「速報」で調査日はない)「賛成」42%、「反対」45%
・読売・NNN(8月5日から7日)「評価する」49%、「評価しない」46%
・NHK2回目 (8月5日から7日)「評価する」36%、「評価しない」50%

「賛成」と反対がほぼ拮抗している。直近ではNHK2回目調査が「評価しない」が「評価する」を14ポイントも上回っている。今月中旬以降、朝日調査でどういう結果が出るのか。あるいは、また「国葬」への質問はパスなのか、注目される。繰り返すが、さまざまな意味で9月27日の「安倍氏国葬」に反対する。
                               (了)