「トランプ時代の終わり」が進行中(下) 逆風にさらされるトランプ 浮上する四つの「疑惑」

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 「トランプ時代の終わり」へとトランプ前米大統領をさらに追い詰めているのが、さまざまな不法行為の追及である。次の4件に絞って、現在の状況を報告する。

(1)トランプ支持勢力の武装デモの議会乱入事件(2)トランプ氏が退任時に国家安全保障にかかわる最高機密を含む重要書類を不法に持ち出した問題(3)トランプ氏の不動産ビジネスが詐欺、脱税、記録改ざんなどによって不当な利益を隠していた疑惑(4)トランプ氏が最高裁判決によってやっと納税証明書を議会に提出、いくつもの疑惑が浮かび上がった問題。

(1)議会乱入事件のその① 下院特別委が「刑事訴追」を勧告 

  中間選挙から3週間後の昨年11月末、主導的役割を果たした極右団体首脳ら12人が連邦地裁で反乱・共謀罪などの有罪評決を言い渡された。最高刑は禁固20年の重罪である。その他の主導者たちにも順次、同様の評決が下されとみられる。デモは平和的で、議会乱入は極左勢力がトランプ派を装った陰謀とするトランプ氏の主張は否定された。

 同事件を独自に調査する下院特別委員会は同年12月19日、トランプ政権の中枢部にいた元高官や側近、共和党幹部ら1000人超のインタビューなどに基づく845頁の報告書を公開した。特別委は国会乱入デモをはじめ「選挙否定」の違法なキャンペーンのすべてはトランプ氏から発したと断定して、トランプ氏を訴追するよう司法省に勧告した。同委は報告の主要部分を6〜7月に開いた連続公聴会の映像で世論に訴えており、中間選挙の共和党敗北の一因になったと指摘されている。

(1)議会乱入事件のその② 司法省はなお慎重だが・・・ 

 司法省が勧告を受けてトランプ氏の訴追に踏み切るか否かが今後の焦点。ガーランド司法長官はトランプ氏の訴追に慎重な立場を守ってきた。トランプ・共和党対現大統領バイデン・民主党という対立がとことん深まっている中で、トランプ氏の訴追は「政治捜査」の非難を受けることは避けられないし(事実、トランプ側はトランプ氏の追及のすべてを「魔女狩り」と非難)、刑事訴追となれば内戦を引き起こす懸念もあった。

 だが、一方では「法の下の平等」の原則がある。ある大統領が民主主義の土台である選挙結果を拒絶した犯罪は歴史に記録されねばならない(ニューヨーク・タイムズ紙コラムニスト、L・ポグリーン氏)。内戦になっても、政権側は治安当局や軍を治安出動させるから鎮圧は難しくないだろう。だが、それは避けたい―。この苦しい状況は中間選挙で変わったと言える。だからといって「即・トランプ訴追」でもあるまい。

 同長官は中間選挙後の同年11月末、事件の直接指揮を離れて特別検察官を任命、「政治捜査」の非難を少しでもかわす姿勢をとり、「トランプの終わり」を見届けながら最良の着地点を模索するのではないだろうか。

(2)重要書類持ち出し問題 「核の最高秘密」

 トランプ氏は任期を終えてホワイトハウスを退出する際、国家安全保障にかかわる最高機密を含む重要書類を不法に持ち出してフロリダの別邸に保管していた。これは大統領執務にかかわる記録は国有財産とする法律に違反する。外国の核兵器に関する最高機密も数十通含まれていたとされる。これは国家安全保障を危うくする反逆行為につながる。連邦捜査局(FBI)は強制捜索や返還命令によって回収に努めて、これまでに11,000件を回収したが、未だ秘匿しているものが相当数あるとみている。トランプ氏は大統領時代に指名した裁判官がいる地元裁判所に提訴、大統領特権を主張してあの手この手の引き伸ばし策を弄してきたが、いずれも根拠なしとされて、ここでも追い詰められてきた。

 トランプ氏がこれらの文書に固執する理由は分からない。一部には2016年の大統領選でトランプ氏がロシア情報機関から資金援助や交流サイト(SNS)を使った虚偽情報などの支援を受けたとする「ロシア疑惑」に関する秘密情報が絡んでいるとの見方も出ている。

(3)不動産疑惑 「ビジネスで不当利益」

 トランプ氏と一族が経営してきた不動産ビジネス「トランプ社」が詐欺、脱税、記録改ざんなどによって不当な利益を隠していた疑惑にたいして、ニューヨーク州裁判所は昨年12月6日、有罪の評決を下した。最大で160万ドル(2億円以上)の罰金が科せられる可能性がある。この疑惑はニューヨーク州検察当局が捜査を続けていた。トランプ氏は直接の当事者ではないが、トランプ氏が「トランプ社」の事実上の最高責任者であることは明らかである。

(4)納税巡る疑惑 外国資金流入か

 トランプ氏は大統領が就任時に納税証明書を公開するという慣行を拒絶してきたが、最高裁判決が下院歳入委員会の要求を認めて同委への公開が実現した。同委員会は同年12月20日一般に開示することを決議した。米メディアによると、公開された内容はトランプ氏が在任4年間のうち2年間は納税なし、さらにトランプ氏が外国から多額の収入を得ていたことを示す記載もあった。

 トランプ大統領(当時)が国税当局(IRS)に職権を利して不当な圧力を加えていた疑いが浮上。大統領が外国からの支払いを受けることは国家安全保障に触れる違法行為である。こうした疑惑に対する調査が注目されている。

                                        (了)