「バイデン新大統領就任」民主、共和両党とも「和解」への準備なく 民主党はトランプ氏の責任追及を最優先 共和党は自立か継承か主導権争い

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 バイデン米新大統領の「和解」を呼びかける就任演説を聞いた与党民主党の論客クルーグマン氏(ノーベル経済学賞受賞者)は涙が出てきたが、それは「夢」だと思った(ニューヨーク・タイムズ紙コラム)。トランプ前大統領と共和党を支持してきたFOXニュースの人気ホストのカールソン氏は、演説が過激主義、白人至上主義、テロリズムと戦うといっていることは多くの国民に対する宣戦布告のようなものだと非難した。両党とも「和解」への準備は全くない。民主党はトランプ氏の「責任追及」が最優先。共和党ではトランプ氏からの自立か、「トランプ主導」の継承か―をめぐる主導権争いが始まっている。

「平常に戻ろう」

 バイデン大統領は選挙戦で「平常に戻ろう」と訴えた。敵をつくって攻撃するというトランプ政治に疲れ果てた普通の市民には、これが党を超えて受けたといわれている。就任演説でも「すべての国民の大統領」になると誓った。そうはいっても就任早々の大忙しの仕事は、外交では温暖化防止のパリ協定、コロナ対策で知られる世界保健機関(WHO)、イラン核合意などトランプ氏が離脱、脱退した国際協定や合意への復帰など、内政でも環境規制緩和、国境の壁建設含めた移民規制強化策などを「トランプ以前」に戻す問題が山積みだ。

弾劾裁判

 民主党中間派のバイデン氏はこうした問題で共和党をあまり刺激したくない。だが、民主党の大勢は「平常」に戻すだけではなく、議事堂乱入事件を始めトランプ氏の権力乱用、違法・脱法行為について厳しく追及しようと動いている。悪しき前例を残してはならないというのだ。その第一歩が議事堂乱入事件を扇動したトランプ氏の責任を問う弾劾裁判。

 下院の訴追決議を受けて上院が裁判を担当する。有罪となればトランプ氏の政治生命は絶たれる。審理は2月9 日から。上院議席は50対50と同数。議長(ハリス副大統領)は民主党が握っているが、有罪判決には3分の2(67票)が必要なので難しいとの見方が一般的だ。しかし、民主党は世論の後押しを期待している。

脱トランプか継承か

 選挙で敗北した共和党は大きく揺れている。「トランプ支配」から脱して元の共和党に戻りたいのがマコネル院内総務が率いる主流派。これに対してトランプ派は「トランプ党」を継承し、その支持基盤に乗って2 年後の中間選挙(上下両院、知事などの改選)で挽回を図ろうとしている。この両者の対立が次第にはっきりと浮かび上がってきた。

 弾劾裁判でトランプ氏が有罪となれば、共和党は大きなダメージを受ける。だが、トランプ氏からの自立を図るマコネル氏らは、トランプ氏の党に対する影響力をそぎたい。弾劾で有罪となっても悪くはない。マコネル氏は、共和党少数派時代9年のあと多数派となってこの1 月まで6年間、上院共和党のトップに座ってきた議会政治のベテラン。表と裏の使い分けに長けている。トランプ氏とはつかず離れずの微妙な間合いを保ち、「バイデンに選挙を盗まれた」キャンペーンを模様見しながら最後に見切りをつけて「バイデン当選」を容認、議会乱入事件でもトランプ氏に煽った責任があると公に発言している。周辺からはマコネル氏は弾劾支持に回るとの情報が流れている(ワシントン・ポスト紙電子版)。マコネル氏の観測用情報流しともみられるが、本当だとするとトランプ有罪の可能が高まる。

MAGA党出現

 トランプ氏は4年間で党内に強固な支持派(かたくなな保守で、陰謀論を信奉する勢力「Qアノン」支持者もいる)を育成した。今回選挙でもトランプ支持派候補を何人も当選させている。選挙になると「トランプ支持」は票につながる。各州の党組織にも同じ状況がある。今回選挙で長年の共和党州から民主党州に覆ったアリゾナ州では、トランプ派が党指導部と対立、党を割って新党を結成する騒ぎになっている。新党名は、トランプ氏のスローガン「米国を再び偉大な国にする」の頭文字を並べたMAGA党だという。

 注目されたのはフロリダ州に引きこもったトランプ氏が、このMAGA党支持を打ち出したことだ(ワシントン・ポスト紙電子版1月24 日)。 この動きがどこへ行くのか、まだ分からないが、各州に広がってMAGA党が第3党として登場するとなれば、共和党は大打撃を蒙り、民主党を利することになるだろう。

「いずれ戻ってくる」

 トランプ発言は、差し当たりはマコネル氏らの「トランプ排除(自立)」の動きは許さないという警告だろう。トランプ氏は、ワシントンを去るにあたって支持者の集まりに「いずれ戻ってくる、また会おう」と言い残した。このMAGA支持発言は、2年後の中間選挙に向けての政治的野心をちらつかせたものだろう。

 トランプ氏は自分の下で仕事をする者に絶対的な忠誠心を要求、少しでもそれに沿わないと裏切者として徹底的に報復を加える。大統領選挙では敗北を認めず、「不正選挙」という虚像を掲げて2カ月半粘った。この前例のない異常な戦いは、マコネル氏とペンス副大統領がバイデン当選を承認して終わった。

 2人は憲法と選挙関連法に従ってバイデン当選を承認する手続きを取った。それを拒否することはできなかっただけだ。だが、トランプ氏は今、この2人を最大の裏切者と敵視している。

予測不能

 大統領経験者が第3党をつくって大統領選挙に出た例は、1912年の革新党候補セオドア・ルーズベルトがいる。ルーズベルトは、共和党マッキンリー大統領の暗殺で1901年に副大統領から昇格して09年まで務めたが、後継のタフト大統領の下で共和党と対立し、共和党を割って革新党から出馬、落選した。

 歴史的に2大政党による選挙・政治を前提にした米国政治の構造の下では第3党候補が大統領に当選する可能性はゼロに等しい。しかし、予測不能のトランプ氏である。MAGA党支持の発言には、トランプ氏が政治へのカムバックを策して何をするか分からないという恐怖感を感じさせられる。 (1月25日記)