イランに対し米国とイスライランが組んで攻め込めば、抑圧されている国民が決起して民主的な政権がイスラム政権に取って代わり、中東に安定をもたらすことができる-。トランプ米大統領とネタニヤフ・イスラエル首相の「夢物語」と報じた主要メディアの観測を「フェイクニュース」(虚偽報道)と嘲笑し、米情報機関の警告を振り切って暴走(愚行)したイラン侵攻作戦は実質6カ月目に入っている。
国民の支持なき戦争
その結果は予測通りに、イランのホルムズ海峡封鎖の反撃を受けて石油危機を引きおこし、世界経済を揺るがし社会生活を脅かす一方でイラン国民のナショナリズムを刺激する結果を招き、イスラム政権の支配体制固めを後押しすることになった。
トランプ氏はイランを「石器時代に引き戻す」などと米軍事力を振り上かざして威嚇を繰り返してきた。だが、11月3日の中間選挙(米国で4年に1度の大統領選の中間年の11月にある上下両院選や州知事選などの総称))まで3カ月を切った中で、国民の支持のない戦争でいくらすごんでも支持率は低下を続けて3割ラインをさまよっている。トランプ氏を頂く右派ポピュリズムの「MAGA(米国を再び偉大に)」にもひび割れが目に付くようになってきた。
トランプ氏が対イラン交渉で、米軍事力を私兵のごとく大規模軍事攻撃の威嚇のカードに繰り返し使ってきたため、あらゆる有事に備える米軍の膨大な常備兵器・弾薬が残り少くなっていると報じられている。トランプ氏周辺はこれも「フェイクニュース」と否定してきたが、海軍首脳部の1人から駆逐艦が不足してイスラエルをイランの弾道ミサイルから防衛することができなくなっているという訴えが出る事態になっている(8月2日ワシントン・ポスト電子版など)。
独りよがりの戦争で深い傷被る
トランプ氏は3日にサウジアラビア、アラブ首長国連合、カタールの要請を受け入れて、準備してきたイランへの大規模攻勢を中止し、4日からイランとの交渉を再開して、ホルムズ海峡の全面開放、イランの核保有断念の確認などについて合意達成を目指すと記者団に語った。
米・イスラエルのイラン侵攻は80年におよぶ「パレスチナ紛争」としての「ガザ戦争」の延長戦から、両勢力の後ろ盾となってきた米国対イランという、相容れない大国同士の意地とプライドをかけた対決の様相を深めていた。トランプ氏は独りよがりの戦争を仕掛けて深い傷を被ったが、ここは何とか格好をつけた「ドロ沼」からの脱出に持ちこむことができるのだろうか。これが当面の焦点だ。
「天井なき監獄」 死者7万人超に
しかし、米国が握ってきた中東紛争における圧倒的なイスラエル支持の国際的なパワーバランスはすでに、トランプ氏の大失策とネタニヤフ氏の「ハマス報復」のやり過ぎを抑えられずに事実上容認してきたバイデン前米大統領およびトランプ氏の両政権によって「ジェノサイド非難」が広がってイスラエルに対する広範な国際的支持を大きく後退させてしまった。
「ガザ戦闘」は、パレスチナ住民のイスラム組織ハマス(イスラエルや米欧からはテロ組織とされている)が2023年10月、イスラエル軍事占領地のイスラエル入植者(国際法違反とされてきた)の農村共同体で行った残忍な奇襲攻撃と、これに対するイスラエルの徹底的な報復攻撃で始まった。このガザ戦闘でネタニヤフ氏率いる与党リクードと極右・ユダヤ教政党の連立政権の報復攻撃は「天井なき監獄」と呼ばれる占領下のガザ住民の女性も子どもも無差別に巻き込み、7万人を超える死者数が積み重ねられている。
大きい米政権の責任
このネタニヤフ政権の「やり過ぎ」は「ジェノサイド」(民族抹殺)との国際批判を浴びるとともに、それを抑えられなかった米政権(バイデンからトランプへ)への批判も強まった。歴代米政権も西欧諸国も、パレスチナ問題解決唯一の道はイスラエルとパレスチナ人国家の「二国家共存」を求める国連総会決議に従うこととする原則を掲げながらも、パレスチナの「一国支配」に固執する双方の勢力(イスラエル側の大イスラエル主義、パレスチナ側のパレスチナの大義)を抑えきれず、特にイスラエル側の占領地に多数の入植者を送り込み、違法な軍事占領地に領土化への既成事実作りを事実上は容認してきた。イスラエルの後ろ盾、米政権の責任は大きい。
圧倒的なイスラエル支援で固まってきた先進諸国の世論が崩れ去ったことが、パレスチナ問題の解決のきっかけになるとすれば、「ガザ戦争」と「イラン侵攻」は結果的には好ましい歴史的役割を果たすことになるのだが・・・。
圧倒的だったイスラエル支持の国際世論が今、どう変わったのかについては、稿をあらためたい。
(8月3日記)