高市早苗首相が8月3日、熊本地震の被災地を視察した際の様子をまとめ、首相官邸SNSに投稿した動画の評判がすこぶる悪い。
この視察は、「まだ早すぎる」との側近の「反対」を押し切って行われたという。いかにもわがままで独断的な振る舞いが目立つ高市氏らしい。6日発売の週刊文春によると、「視察は首相の意向で、地震発生直後から検討が始まった。ただ、ある首相秘書官は『現場が大変なので自分は反対だ』と周囲に漏らしていた」(永田町関係者)。地元選出の金子恭之国土交通相(熊本県出身)も、自身の早期訪問について「被災現場を混乱させない」「作業を中断させることにもなりうる」とXに投稿し、慎重姿勢を示した。暗に首相の判断を批判しているとも受け取られたと書いている。
首相訪問でその準備に人を取られるなどの弊害もあるので、地元の事情などに十分に配慮して、訪問日は慎重を期すのは国のトップとして、当然である。ここは秘書官や国交相の判断が正しい。ただ、この記事からは、首相側近が高市氏に怖くて何も進言できないことを示している。高市氏は他人の言うことを素直に聞かない。だから失敗する。それを「かっこいい」と評価する支持者もいるが、その判断が無謀だとされるリスクも大きい。
7月28日午後の発生から1週間での首相の被災地視察。7月のメディア各社の世論調査で軒並み支持率が急落し、10ポイント以上下がったことに「何でこんなに下がるの」と側近にいらだちを示していたとも報道された高市氏。今回のSNSでの官邸発信動画の「炎上騒ぎ」は、その焦りが逆目に出たかっこう、といえるのかもしれない。
特別国会で改正皇室典範、国旗損壊罪、副首都法と衆院での絶対多数を力に強引な手法によるゴリ押しでの法案成立が続いた。食料品消費税率を8%から1%に下げる基本方針について、政調審議会などでは6割が反対するなど党内に強い抵抗があった。それにもかかわらず、「賛成してほしい」との執行部の要請文を委員に回して多数派工作を図る(なぜか、賛成8割に逆転)など、熟議とは縁遠い閣議決定で押し切った。
早すぎる被災地訪問や食料品の消費税1%下げは、いずれも首相の支持率回復が目的と見られる。このようななりふりをかまわない見え見えの振る舞いを平然と行うところに高市氏のおそろしさがある。高市氏が何よりも優先するのは、党内基盤が弱いという立場もあり、首相の地位を維持することと、そのために高い支持率を保つことにある。高市首相の国民の気持ちなどは二の次と考えているとしか思えない、支持率回復のための過剰な「人気取り」と「ゴリ押し」はもうたくさんである。
3日夜に官邸の公式Xやフェイスブック(FB)などに首相の被災地視察の動画が投稿されるやいなや、SNSでは「首相のプロパガンダ」「プロモーション動画のようだ」などとの批判の声が上がり始めた。私もFBを使っているが、特に1日たった4日には動画を批判する投稿一色となった。以下の模様は官邸動画を見た上で、新聞やFBの投稿記事などを参考にした。
官邸が投稿した動画は、2分弱。水色の防災服姿の首相が自衛隊のヘリコプターに乗り込む場面の直後からピアノのBGMが流れ出す。ヘリから地震後の爆発で死者7人を出したイオンモール熊本などを視察し、ヘリの窓から両手を合わせる首相の後ろ姿を映し出した。(そもそも滞在時間の関係からなのだろうが、陸上から行ける現場に行かず、上空から手を合わせるとは・・・。これにも多くの批判が集まった)
続けて、熊本県氷川町の避難所となっている氷川中学校を訪問する映像に。そこでは高市氏が住民の意見を聞いて手を強く握るシーンや高市氏が「明日、200億円を超える規模の予備費の使用を閣議決定し、必要な予算を確保してまいります」という首相の宣言が語られた。住民からは「段ボールベッドは来るし、支援物資は来るし、こんな快適な生活はないと思いました。全部が全部ありがたかったです」「日本人でよかった」などとなぜか、政府の対応をほめたたえる言葉が目立った。
被災者の声を聞いたのは、エアコンのある中学の校長室だったという。首相と対面した5人の住民の選ばれ方(地元出身の金子国土交通相の後援会が選んだらしい)やエアコンのない体育館などの避難所にも首相は行ってみるべきだったなどとSNSでは厳しく批判された。
この高市氏の被災地訪問について、大手メディアでは5日付東京新聞が「本音のコラム」で文芸評論家の斎藤美奈子氏が「氷川中学校はエアコン、段ボールベッドも入った選良避難所。劣悪な避難所にこそ行きなさいよ。かくて浮上したヤラセ視察疑惑。接待視察と言った方が正確かな」と皮肉った。
木原稔官房長官が5日の記者会見で朝日新聞記者の質問に対して、この問題に触れたこともあって、6日付朝刊で朝日は「首相の熊本視察動画『PRのよう』」と、東京が「首相の熊本視察動画 物議」との記事を大きく掲載した。日本経済新聞も官房長官の「情報発信の一環として視察した際の様子を分かりやすく伝える必要がある」とのコメントを短く紹介した。
どうも、大手メディアのこの問題への反応はにぶかった。首相の政治部同行記者は一体何を見ていたのか。大手メディアの現地記者たちも疑問を持たなかったのか。
その中でも、秀逸な記事を載せたのは毎日新聞だった。オピニオン欄の「木語(もくご)」で「首相動画誰のため?」の見出しで町野幸専門記者が書いた記事である。一部を紹介する。
さっそうとヘリコプターに乗り込むカットから始まり、ひたすら首相を中心にしたカメラワーク。大胆かつさまざまなアングル、わずかな秒数でカットの切り替えを重ねた、まるでプロモーションビデオのような「かっこよさを追求した映像」だ、と官邸動画について動画としての出来映えを皮肉を交えて評価する。
その上で、被災地支援は政府や首相の当たり前の業務だ。たとえ、実際に感謝の言葉を(被災者から)伝えられたとしても、政府自らが動画に使うという行為は慎むのが「通常の判断」ではないか。極め付きは、全編にわたって「感動的なBGM」がかけられていることだ。甚大な被害のまっただ中で、さすがに違和感がすごすぎる。もはや一体誰のため、何のための動画なのか。当然、SNSで非難が殺到している。
東京によると、この官邸Xは、5日午後9時の時点で1万回以上再投稿され、2800万回以上表示されている。佐伯耕三内閣広報官は4日にXを更新し、「一部SNSで事実と異なる情報が流れている」と批判した。一時、「高市首相が避難所を視察したのは3分間」というSNSが流れたが、それは高市氏の中学校の実際の滞在時間を指すものではなかったからだ。
しかし、朝日の「首相動静」を見ると、氷川中学校で首相が避難所を視察したのは、午後3時21分から同34分までの13分間、被災者との意見交換は19分だったことが分かる。滞在時間は午後3時13分から同4時4分までの51分だった。確かに、表面上は3分間ではないが、実際の避難所視察は13分にすぎない。これも、その内容は不明。実際に取材していたカメラマンが3分ぐらいだったとSNSで発信したとの説もあるが、私は確認できていない。どちらにせよ、被災者との意見交換の時間と合わせてもたった32分。こんな細かいことまで持ち出す内閣広報官の忠犬ぶりがむしろ滑稽である。
「事務次官級」といわれる内閣広報官の仕事は首相個人の宣伝動画を作ることではないはずである。佐伯氏は経産省出身のキャリア官僚。安倍晋三首相のスピーチライターをつとめ、高市内閣でも抜擢された。評判が悪かった「アベノマスク」の発案者として知られる。
それよりも、高市氏はエアコンもない避難所の体育館になぜ行かなっかったのか。選ばれた5人(画面ではその後ろにも人が見える。少なくとも、首相と対面した人)だけではなく、その他の被災者となぜ率直な意見交換できなかったのかとの疑問がわく。事前に首相の意向通りの詳細な段取りがなされていたのではないか。こんな首相、見たことない。
大部分の避難所にはエアコンはなく、水も足りていない。被災者の厳しい生活環境をちゃんと見て、その要望をできるだけ多くの被災者から聞き取る。高市氏はそのために行ったのではなかったか。天皇、皇后両陛下の被災者に寄り添う姿をもっと勉強してほしい。高市氏の前の石破茂首相が2024年10月、能登半島地震の被災地を視察した際の写真が高市氏と比較してSNSに上げられている。これを見ると、避難所の体育館で膝を曲げて、被災者と同じ位置で意見を聞いている姿が写っている。石破氏に比べてこのような首相を持ったことが悲しい。
▼官邸に完全にコントロールされた「茶番会見」
7月27日、衆院予算委の閉会中審査が終わり、事実上特別国会が閉幕した。これに伴い行われた高市氏の記者会見。前回2月以来、5カ月ぶりの会見だった。しかし、記者から耳の痛い厳しい質問はなく、私には官邸に完全にコントロールされた「茶番会見」のように見えた。日本のマスメディアはいよいよ、戦前のように「大政翼賛会化」してきたのかもしれない。
27日午後6時、高市氏はこの日午前中に行われた衆院予算委の時に着ていた真っ赤なスーツから落ち着いたクリーム色のスーツに「お召替え」して颯爽と登場。改正皇室典範や国旗損壊罪など64の全ての政府提出法案が成立したとの成果を強調。「公約実現への歩みを止めることはない。むしろ加速しなければならない」と時々、目の下にあるプロンプターを見ながら約30分にわたり、「所信表明演説」と見まがうような大演説を一方的にまくしたてた。この間、ニコニコといつもの作り笑いが支持者へのアピールに見えた。NHKが中継したため、ちょうど夕食時に当たった国民のかなりの人々が視聴したと思う。
野党から追及を受ける国会答弁やフリー記者からの厳しい質問が飛ぶ記者会見を首相は大嫌いのはずだが、この日は狙いがあったという。28日付の朝日朝刊によると、「物価高対策をやっていないという誤解を解消したい(政府高官)」というものだったという。(朝日は書いていないが、マスメディアの世論調査が出そろい、40%台から50%台に軒並み10ポイント前後支持率が下落したことの挽回の意味もあると、私は考えている)
このため、高市氏は会見冒頭、「物価高対策は昨年10月の政権発足以来の最優先課題だと強調。ガソリンや電気・ガス料金の補助金など政策を細かく並べ立て『今後、お手元に届く物価高対策も数多くある』と訴えた。ただ説明したのは過去のものばかりで、新たな対策を打ち出すことはなかった」としている。
そう言う意味でも支持率回復を狙った見え見えの会見だった。その成果は、政府寄りの読売新聞が「消費税減税『速やかに法案提出』 首相、週内にも方向性」との見出しで、1面トップで記者会見の首相の言葉を報じるなどの成果が出ている。
これに対して、毎日は、特別国会での「数の力」を背景にした強引な国会運営が目立つとの指摘については「反省点は特にない」と強弁し「とにかくがむしゃらに政権公約を実現しようとしてきたと振り返ったと記事のリード部分で高市氏の国会軽視の姿勢を厳しく指摘。東京も、国会軽視と指摘された会期中と同様、自ら「成果」とみなすテーマを饒舌に語る一方、政策などをめぐる疑問や懸念には真正面から答えなかったと書いている。この記者会見のキーワードはどう見ても毎日、東京がいうように「強引国会『反省点ない』」だろう。
「物価高対策」「インテリジェンス」「内閣改造・連立拡大」「日中関係」など質問を含めてテーマは多岐にわたったが、首相の回答の内容は乏しかった。それよりも私が問題にするのは、記者側の姿勢である。
会見は計1時間で首相演説に30分、あとの30分を幹事社2人とそれ以外の記者の計10人程度が質問に立った。NHKと西日本新聞の幹事社の質問は事前に記者クラブで集約した内容で、最低限は必要事項だったと思うが、幹事社以外の記者の質問も久しぶりの会見だというのに、「日中関係」、「拉致問題」、「外国人問題」など、「更問」をしなければ、首相がまともに答えない複雑なテーマでの質問が続いた。国会運営で「反省点なし」を引き出した日本テレビの質問が光ったが、あとはほとんど内容のない回答しか引き出せなかった。
「中傷動画・暗号資産サナエトークン」などの首相の嫌がるような質問は一切なかった。午後6時50分ごろ司会から「あと2問」との指示があり、ちょうど7時前にフリーの記者らが手を挙げる中、高市氏はこれを無視したかのように会場をあとにした。「首相動静」によると、高市氏は少し休んでまもなく公邸に帰っている。会見時間は十分とれたはずである。
官邸記者クラブ(内閣記者会)はこれまでに就任以来ほとんど記者会見のない高市氏に会見を申し入れてきたという報道があるが、本気で官邸と交渉してきたのか。1社1人1問、更問なしでは、首相のホンネを引き出せるわけはない。高市首相は幹事社以外の記者の質問でも、目を下に落とし、プロンプターを見ていたことがテレビ中継でも分かった。官邸広報室がいきなりの質問で首相が慌てることがあってはいけないと配慮して、事前に幹事社以外の記者からも質問内容を聞き取っている、と聞く。
ネットメディア「アークタイムス」の尾形聡彦氏は「会見に参加したが、質問させてもらえなかった。いつもの『茶番会見』『台本読み合い会見』で、事前に質問を教えた記者だけが当たっているのは明白だ。高市首相は一体何が怖いのか。記者からその場の質問すら受けられないようでは、一国のリーダーの力が問われる首脳外交の場で、とても(各国首脳と)太刀打ちできない。こんなヤラセ会見を許している内閣記者会に憤りを覚える」と厳しいX投稿している。
尾形氏は元朝日経済部記者でワシントンなどの海外特派員も経験するベテラン記者だ。尾形氏はXでさらに「これは視聴者や読者への重大な裏切り行為だ」としている。私も大昔のことではあるが、長い間、記者クラブに所属する社会部記者だった。だから、尾形氏の憤りには共感しかない。私が現役のころも閉鎖的な記者クラブは何度も学者などから問題点を指摘されてきた。その責任の一端は私たち世代にもあることは認める。「新しい戦前」よりも「もはや戦中」とまで言われるいま、マスメディアの「大政翼賛会化」「言論報国会化」に強く危惧する。 (7月28日)
▼ 高市首相公設秘書の「陳述書」に五つのウソ
7月30日発売の週刊文春が「中傷動画・暗号資産サナエトークン」疑惑で高市首相陣営が22日に国会提出した公設第1秘書、木下剛志氏の陳述書に反論記事を掲載した。陳述書の「五つのウソ」を指摘する内容だ。
「近日中」に提出するはずの首相答弁から1カ月も経ち、しかも国会閉会ギリギリに出された「陳述書」。これを基にした衆院予算委審議は、日本維新の会の肝いりの「副首都法案」が首相側の強引な国会運営でもめにもめ、首相が「この法案を通さないならば、24日のの集中審議に出ない」(週刊文春)とごねた結果、25日に特別国会を閉めて、わざわざ「閉会中審査」として、27日に実施したのだそうである。これも高市氏の国会軽視を示すひどい話だ。
この疑惑については、中道改革連合の後藤祐一議員が陳述書をもとに、高市氏の名前を冠した「サナエトークン」問題を取り上げて追及した。しかし、高市氏は「私自身も私の事務所も、サナエトークンという名前の暗号資産が発行され、取引されるなどということを承知していないし、了解もしていない」などと陣営の関与を否定する答弁を繰り返した。木下秘書のA4版5ページの陳述書には「記憶にない」が私が数えたところ、9回、「よく覚えていない」「問題があるとは認識していない」など、「お粗末な内容」(週刊文春)だった。週刊文春が指摘した「陳述書の五つのウソ」とは・・・。
【第1のウソ】「中傷動画問題」では、冒頭に「私を含め、高市事務所、高市陣営においては、他の候補者を誹謗中傷するような動画を作成・発信するようなことは行っておりません」
週刊文春はこれまで自民党総裁選中に木下氏自ら中傷動画作戦に関与したことを報じてきた。それを示すのが動画投稿アプリTikTok(ティックトック)カウントの「真実の政治」だ。対立候補を中傷する3本の動画を投稿。小泉進次郎防衛相を「カンペで炎上!無能で炎上」と嘲笑し、林芳正総務相に対しても「林君もルール破っちゃった」などと誹謗した。木下氏は昨年9月26日、秘匿性の高いシグナルを通じて「サナエトークン」の開発責任者を務めた松井健氏に、投稿前だった林氏の動画データを送信。「以上です。これからアップしてアカウントを送付いたします」として「真実の政治」のリンクも送った。「予告」通り、林氏の動画は26日に公開されている。さらに言えば、「真実の政治」はことし、4月23日、小誌が木下氏の関与を問う質問状を送った後、まもなく「永久停止」された。
真実の政治は一部に時系列上の疑義が生じた松井氏作成の動画とは別アカウントで投稿され、時系列上の疑義も生じていない。木下氏自身も動画の作成・発信に携わったことは明白だ。
【第2のウソ】「動画作成を第三者に依頼したことはありません。私はそのような動画を一度も見たことはありません。(松井氏への依頼メールについて)私の側には、そのような記録は見つかりませんし、記憶もありません」
衆院選公示日前日の1月26日夕方には、松井氏が「明日から切り抜き部隊を動かします」として打ち合わせを打診すると、多忙を極める公示日の午前中にもかかわらず、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」での会議を実施。2月4日には木下氏が松井氏にメールを送り、安住淳氏について「足を組んでの食事、とても日本人の道徳心とは思えません。皆さんに知らしめてやってください」と依頼。「依頼」を示す物証が残っている。
【第3のウソ】「『サナエトークン』という名称の暗号資産が発行され、取引がなされるということについて、事前に説明を受けたことはない」
昨年12月17日のZoom会議では、松井氏側の担当者が「トークンですね。いわゆる暗号資産と言われるものを、今後発行していく」と3回にわたり暗号資産であることを明言。木下氏は「すごくいいなと思います」「トークンというのは、その後に何か利用することが可能なのかどうか」と尋ね、担当者は「発行した後は当然上場を考えています」「マーケットで売却できるので、経済的なインセンティブ(成功報酬)も得られる」などと説明している。つまり、自ら質問し、売却可能な暗号資産だとする回答を得ていた。
【第4のウソ】「12月17日のZoom会議について、松井氏が出席されていたのかどうか。私にははっきりとした記憶はありません」
木下氏の音声の声紋鑑定で「同一人物の音声と推定してもよい」との結果が出ている。
【第5のウソ】「陳述書」の末尾。「高市氏の公認後援会『チームサナエが日本を変える』がサナエトークンを応援する投稿をしたことについて『深く考えることなく、この部分はいわれるうがままにリポストに応じました』」
2月25日のサナエトークン、リリース当日、松井氏は木下氏とのZoom会議でサナエトークンを紹介するチームサナエ側の投稿文として「私たちはこの取り組みを心から応援します」との文案を提示した。木下氏は文案を書き換えて「修正を加えたが、いかがでしょうか」と打ち返している。
週刊文春側の反論要旨は以上である。かなり大雑把な要約なので、詳しくは8月6日号を読んでほしい。現代ビジネスも27日、ジャーナリストの河野嘉誠(よしのぶ)氏が「高市総理が提出した『陳述書』に時系列崩壊の重大疑惑」を書いている。ネットで読めるのでこちらも参考にしてほしい。
週刊文春側には松井氏と木下秘書のこの間の詳しいやり取りを示したメールやLINE(ライン)、シグナルなどの「物証」 があるはずである。これがねつ造されたものでない限り、高市氏側の主張は苦しいのではないか。高市氏は国会閉会により、これで幕引きしたと考えているのだろうが、それは甘い。高市氏の世論調査での支持率急落の原因のひとつはこの疑惑である。サナエトークンでは被害が出ている。このままでは国民の政治不信は広がるばかりだ。高市氏には「説明責任」だけではなく「政治責任」もあることをしっかりと認識すべきである。(7月30日)
▼「非核三原則」見直しなどとんでもない
8月は新聞など日本のジャーナリズムにとって「平和報道月間」である。「8月ジャーナリズム」とも呼ばれる。7月に入ってから少しづつ「広島」や「長崎」の原爆被爆者報道が目立ち始め、8月には各紙が競うように年を追うごとに少なくなっている「被爆の語り部」の貴重な証言を紹介する記事が読む人の心を打つ。
8月15日の「敗戦の日」を含めて6日(広島)、9日(長崎)のこの時期に報道が集中する「記念日報道」との批判はある。しかし、親が実際に戦争を経験した世代である1945年9月生まれの私は社会部の現役記者のころから、それでも若い人々にその実相を知らせることは重要と考えてきた。例え、いずれ「語り部」の皆さんがいなくなっても「核兵器廃絶」の日がくるまでは報道し続ける義務が唯一の戦争被爆国日本のメディアにはあるのだと考えている。
そんな中で小泉進次郎防衛相の「核議論すべきだ」との発言が、日本の国是とされる非核三原則見直しに関連した発言と受け止められて、被爆者団体などからの強い反発を招くなど波紋が広がっている。
小泉氏は7月17日、日本会議系の論客でジャーナリスト,櫻井よしこ氏のネット番組「言論テレビ」に出演。櫻井氏はもちろん「非核三原則見直しは必須」(高市氏との対談集「ハト派の嘘」から)論者である。小泉氏は、核戦力の増強方針を表明したフランスや、自国領内への核戦力持ち込みを認めたフィンランドを例に挙げ、日本についても「危機感をもって、あらゆる政策をタブーなく議論して進めなければいけない状況だ」と述べた(東京、7月28日)。
年内にも改定される予定の安保関連3文書のひとつの「国家安全保障戦略」には非核三原則の堅持が明記されている。東京によると、小泉氏は、7月24日の記者会見では「非核三原則を政策上の方針として堅持していく」と改めて述べる一方、3文書の改定に向けて「強い危機感を持って、あらゆる選択肢を排除せずに議論を進めることは不可欠だ」などと強調した。
現職防衛相の「議論を進めることは不可欠」という表現は、「非核三原則見直しもありうる」との発言と受け止められても仕方がない。むしろ、朝日が29日の社説で「三原則の見直しを俎上に載せる布石に違いない」と指摘していることに説得力がある。そうだとするならば、被爆者だけでなく、被爆国の国民としてとても許せることではない。戦争準備に前のめりな高市政権の危険性がここにある。
「ハト派の嘘」は高市氏が政調会長時代の対談だが、ここで高市氏は、非核三原則について、「持たず」「つくらず」は堅持するにしても「持ち込ませず」を見直すことについては「リスクの最小化に向けた備え」として考えておくべきことであり、議論を封じてはならないと語っている。別の編著書「国力研究」では「『持ち込ませず』は邪魔」とまで言い切っている。小泉発言は、持論なのかもしれないが、高市氏の次という野望を隠さない小泉氏がこのような高市氏の意向に合わせたものなのだろう。
同じ東京の記事で安保政策に詳しいジャーナリストの布施祐仁氏は「日本が米国の核の傘に頼る関係を続けるならば、近いうちに『持ち込ませず』の見直しにいたるだろう。中国の軍拡に対抗するために米国の攻撃型原潜に戦術核ミサイルを搭載すれば、在日米軍基地への寄港を日本は求められる」と指摘している。布施氏はネット番組で具体的な日程を挙げて、その可能性は高まっていると発言している。
自衛隊幹部OBには、日本も原潜を保有し、それに小型戦術核を載せる議論も出ている。高市政権の尾上定正首相補佐官(元空将、安全保障・核軍縮担当)が昨年12月、記者とのオフレコ懇談で「日本は核保有すべきだ」と発言して問題となったが、高市政権は辞職もさせず、問題にもしなかった。この時のメディアの追及も甘すぎた。
8月2日付の東京朝刊。共同通信とその加盟社で構成する日本世論調査会が実施した「平和に関する世論調査」結果が掲載された。電話やネットよりも正確度の高い郵送調査である。
それによると、核兵器を「持たず」「作らず」「持ち込ませず」の非核三原則を「堅持すべきだ」とした人は76%に上った。米国の核兵器を日本に配備し、共同運用する「核共有」について「目指すべきではない」とした人は77%だった。三原則見直しが議論となる中、「唯一の戦争被爆国」として、非核を志向する国民意識が浮かび上がった形だ。
また、26年度の当初予算で過去最大(約9億円)となり、今後も増え続ける可能性がある防衛費(米側要求のGDP比3・5%ならば、20兆円超)について、増額を支持しない意見は78%、増額すべきだは19%だった。日本の現状について「平和だと思う」とした人は86%。戦争をしない国であり続けるために必要なことは「平和外交に力を入れる」が31%と最も多く、「憲法9条を守る」が28%、「防衛力を増強し、他国から攻められないようにする」が23%で続いた。調査は6~7月、全国の18歳以上の男女3千人を対象とした。
この調査で分かることは、高市政権が進める「戦争のできる国」路線と異なり、国民の「非核志向」や平和のための「外交重視」の意識がはっきりしたことである。非核三原則の見直しなど大多数の国民が望んでいない。メディア各社の高市内閣の支持率は7月の世論調査で10ポイント以上も下落する調査結果が相次いだ。多数を頼みにした強引な国会運営や「女性天皇」への道を閉ざす改正皇室典範など、独りよがりの高市政権の性格が浮き彫りになったことが大きな原因だろう。
あくまでも、日本が目指すべきは「核廃絶」であり、その象徴でもある非核三原則の見直しは絶対に許されるべきではない。それが圧倒的多数の国民の声である。軍備増強に前のめりな「危ない高市政権」は一刻も早く退場してほしい。(8月2日)
▼小泉防衛相が非核三原則見直しを示唆する発言を続けるわけは
小泉氏は7月17日にインターネット番組で、同月22日には訪問先のベルギーで、核戦力を増強する欧州の動向に触れながら核兵器について「タブーなき議論を」と2度も被爆者を刺激する発言を繰り返した。高市氏は非核三原則のうち「持ち込ませず」の削除が持論であり、その見直しについては、野党の追及に、あいまいな国会答弁を繰り返した。政権が年内に安全保障関連3文書の改定を予定している中での小泉発言は、その見直しを示唆するものと被爆者らに受け止められたのは当然だった。
このような状況にあって危機感を感じた地方議会による、日本が国是とする非核三原則の堅持を求める意見書が高市政権になってから急増し、これまでに128件と歴代首相の中でも突出している(8月5日、東京)。
8月6日と9日の広島や長崎の「原爆の日」を目前に控えた4日の防衛大臣記者会見では、「小泉大臣の発言に被爆者団体や広島県知事から非核三原則堅持について、厳しい指摘や声明が出ているが、どう受け止めているか」との質問が記者から出た。
これに対して小泉氏は「防衛政策に関して一般論として、あらゆる選択肢を排除することなく、国民のみなさまに丁寧に説明しながら議論していくことが重要であるという趣旨を述べた」と説明。その上で「政府としては核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずとの非核三原則を政策上の方針として堅持します」と述べた。
さらに「持ち込ませずについては2010年当時の岡田克也外相(民主党)による答弁を引き継いでいる。被爆地や被爆者の方々が訴えてこられた核兵器のない世界を願う切実な思いに私も共感している」とも述べている(以上、防衛省ホームページ)。
「岡田外相答弁」とは、10年3月17日、「緊急事態が発生し、核(を積んだ原潜など)の一時的寄港を認めないと日本の安全が守れないような事態になれば、その時の政権が政権の命運をかけて判断する」と岡田氏が述べたことを指す。
高市氏も首相就任前に書いた編著書「国力研究」などで、このことを指摘した上で「持ち込ませず」の削除を主張している。「緊急事態の発生」と「平時も」と、そのニュアンスが異なると思うが、民主党政権時にこのように言っていた、というアリバイにも聞こえる。岡田氏は「非核三原則の見直し」に言及したわけではない。小泉氏のこの発言では、やはり、非核三原則を見直すのかどうかははっきりしない。
ではなぜ、小泉氏が「非核三原則」見直しの布石となるような発言をするのかー。
5日付朝日新聞朝刊「小泉防衛相『核タブーなく議論』」では、複数の政府関係者によると、小泉氏の発言は官邸と調整したものではなく、小泉氏個人としての発言と見られている。安全保障関連3文書の見直しに向けた自民党内の議論では、非核三原則は議題に上らず、政府への提言でも触れていない。唯一の戦争被爆国として、政府内では、否定的な意見も根強く、見直しを検討するかは「政治的判断」(防衛省関係者)とみられている、と書かれている。
この記事では「小泉氏のいきなり発言」とする自民党安保調査会幹部の苦言が紹介されている。目立ちたがり屋の小泉氏の勇み足といいたいのだろう。
ただ、この問題で高市氏は見直しの可能性を否定していない。むしろ、前のめりな姿勢なのではないか。確かに、25年10月20日に自民党と日本維新の会が交わした「連立政権合意書」を改めて見ると、「3文書を前倒しで改定する」とは書かれているものの、非核三原則見直しには触れていない。しかし、維新は安保関連3文書の改定に向けた提言で、非核三原則のうち「持ち込ませず」については米国の核巡航ミサイル配備などを念頭に「現実的検討を行うべきだ」と「原潜導入」と合わせて踏み込んだ見直しを求めている(6月17日、朝日)。
ジャーナリスト、布施祐仁氏の「日米軍事一体化が日本に何をもたらすか」の講演記録(2月11日、長周新聞)に小泉氏がこの問題にこだわるヒントがある。
この講演で布施氏は、米軍のバージニア級原潜は日本の米軍基地に頻繁に出入りしている。ただし、1990年代から米国は原潜への核ミサイルの搭載をやめている。トランプ政権は2032年ごろまでに原潜に戦略核を再搭載する計画を進めている。こうなると、核ミサイルを搭載した原潜が日本に入ってくることになる。それを認めるならば、非核三原則を変えねばならないというのが自民党の考えだ、と指摘している。
その上で、布施氏は「この搭載原潜の入港を拒否できるのかは、はなはだ疑問な状況だ。日本は『米国の核の傘』から出るスタンスを取らない限り、非核三原則も維持できない段階にきている」と述べている。
また、慶応大総合政策学部教授の鶴岡路人氏も7月23日の「核兵器『持ち込み』問題の論点」との笹川平和財団に掲載された論文で、「米国は現在、海洋発射型巡航ミサイル(SLCMーN)を開発中で2030年代前半から半ばまでには攻撃型原潜などに搭載を開始することを目指している。日本も定期的に寄港するバージニア級攻撃原潜も有力な搭載候補である。これにいかに対処するかが問われるのである。平時の一時寄港に関する問題だ」と指摘していることに注目したい。
非核三原則は1967年に当時の佐藤栄作首相が国会で表明したものである。それから約60年がたった。日本と米国との「核持ち込み密約」も民主党政権時に暴露され、現在は日本に核は持ち込まれていない、とされている。
布施氏や鶴岡氏の指摘を見ると、まだ、はっきりとしない部分もあるが、米国の原潜による日本への核を持ち込んでの寄港は現実的な問題へと浮上していることがわかる。
私は正直言って、ここまで事態が進行しているとは知らなかった。小泉発言はその布石である。このままでは、米軍による日本への核持ち込みが近い将来、非核三原則堅持の被爆者や国民の76%もの強い支持(日本世論調査会の調査、8月2日、東京)にも関わらず、再び行われてしまう可能性がある。唯一の戦争被爆国の「非核3原則堅持」も風前の灯かもしれない。いまこそ、国民が「国是を変えるな」の大きな声を出すときである。(8月5日)
▼非核三原則堅持は大丈夫か 式典で現状説明にとどめた高市首相
8月6日の広島の「平和記念式典」に初めて出席した高市氏。そのあいさつの中で、非核三原則について、「政府として堅持している」という現状の説明にとどめた。これまでの歴代首相は毎回、あいさつで非核三原則は揺るぎない方針だという意味を持つ「堅持しながら」「堅持しつつ」などの表現を用いることが多かった。昨年の石破茂前首相のあいさつや、安倍晋三元首相すらこのような表現を使っていた。
記者会見で、高市氏は、年末に予定される安保関連3文書改定に当たり非核三原則を見直すかどうかを問われて「予断することは差し控える」と述べて、見直しに含みを残した。恒例の被爆者団体との面会でも、「堅持している」との現時点での説明だけだった(東京などから)。
核問題に詳しいジャーナリストの布施祐仁氏は8月6日の「非核三原則堅持は本当か?アメリカの核兵器政策の変更で迫られる日本の選択」と題するニュースレターでこう述べている。
「小泉進次郎防衛相の一連の発言は、あくまでも一般論として述べたものだと弁明しているが、私は非核三原則の見直しを念頭に置いた発言だったと見ている。背景には、米国の核兵器政策の変更がある。米国の『核の傘』に頼る日本政府は、近い将来、非核3原則の見直しを提起する可能性が高い」と警告している。
高市氏は非核三原則のうち、「持ち込ませず」の見直しが持論である。だから、平和記念式典でも「堅持している」との現時点での説明でごまかした。年末の安保3文書改定時に見直すかどうかは、国民の8割近くが反対する政策をやると、確実に支持率が落ちるのでそこまでやるかは不透明ではあるが、「見直し」に踏み切る可能性はあると私も考えている。
布施氏はニュースレターで見直しの「可能性の根拠」を以下のように書く。
「現在、米海軍は攻撃型原潜に核兵器を搭載していないので、日本への寄港が非核3原則との関係で問題になることはない。だが、米国は主に中国の戦術核戦力に対抗するため、攻撃型原潜に核弾頭を装着した巡航ミサイル(SLCMーN)を配備する計画だ。2026年会計年度の国防権限法は、国防総省とエネルギー省国家安全保障局に対して、32年9月までにSLCMーNの限定的な配備・運用を開始できるようにすることを義務付けている。米海軍の攻撃型原潜にこの巡航ミサイルが配備されるようになれば、日本への寄港が非核三原則との関係で問題となる」
なぜか、この問題は専門家の間では周知の事実なのかもしれないが、マスメディアでは公然と語られていないように思う。布施氏のこのような「警告」をどのように受け止めるのか。「国是」のはずの非核三原則の堅持はどうなるのか。唯一の戦争被爆国の国民としては、到底、無関心ではいられない。(8月7日)