高市早苗首相のもとで行われた国会質疑。物価高騰対策をはじめ、予算審議での財政政策、軍事・防衛政策などテーマは山積する。最大の課題は選挙での圧勝を背景に憲法改正の動きが強まり、衆参の国会での発議が通れば、国民投票が実施されることになりかねないことだ。現行憲法を擁護する世論も根強いが、安倍政治を踏襲する「高市右傾化路線」は、戦後初めてといわれるほど身近に迫る存在になりそうだ。
というところで高市首相が自民党の315議員に、一人当たり3万円のカタログギフトを渡していたことが明るみに出た。法的に問題ないとされても、総額1000万円が有権者との意見交換などと異なる政治資金の使い方として妥当かである。
危険な「世論の二分」論
高市首相は1月19日の衆院解散表明の記者会見で、「国論を二分するような大胆な政策、改革にも批判を恐れることなく果敢に挑戦していくためには国民の信任も必要」と述べた。憲法改定など、自民党が長年主張しながら、世論の賛否がかけ離れて、進まない状況にいら立ちを見せたのかもしれない。ただし、世論を二分して数で押し切るかのようなこの発言は、議会制民主主義の精神からも不穏当のそしりを免れない。
最近は身近なところでも勝ち組、負け組とか富裕層、貧困層などという物言いがされ、世の中が裂かれていく感じがある。日本はさまざまな面で大事な立ち位置にいると思われるので、足元から課題を見ていこう。
1945年8月15日の「敗戦の日」から立ち上がった日本経済は、1970年代から1990年代にかけて国内総生産(GDP)のピークを迎える。その後2025年にドイツに抜かれ、米国、中国、ドイツに次ぐ世界第4位に後退し、間もなくインドに抜かれるとされる。24年の貿易総額で見ると、中国は44兆円、米国は33兆円だから、対中貿易の比重は増えている。日中の政治レベルの交流は、高市発言で止まっているが、経済界には交流再開の声があり、関係改善は経済面だけではなく、高市政権にとって大きな政治課題である。
氷河期世代の非正規問題
非正規雇用問題は、高石政権が真っ先に取り組まなければならない大事な課題だ。氷河期世代の非正規問題は特に深刻だ。氷河期世代というと1991年のバブル崩壊以降、雇用環境が悪化した世代を指し、現在40~50代前半までの人で、社会の中核世代に当たる。総数は2000万人で、当時の就職事情から非正規社員が多い。この人々が定年になる2040年には、65歳以上の人口が3900万人になる。この世代の人々への対応は喫緊の課題だ。
非正規問題といえば、今や日本の雇用労働者6000万人の三分の一を占めるといわれる。二十代から三十代の非正規社員の年収は200万円ぐらいとされ、結婚が難しい。また日本の少子化とも連動している。国民生活重視を掲げる高市政権にとって待ったなしの課題である。
格差や貧困がやかましく言われるのは、子供の教育に影響が出るからで、社会学者は「貧困が子、孫へと継承、固定化されると、将来を絶望して過激な行動に走り、社会不安が起きる」と警告している。
貧困と格差の固定化が危険
1930年代の日本はそれを痛いほど経験した。歴史は繰り返すといわれるので少し当時を調べると、金解禁と大恐慌で世界的に景気が悪くなり、中国は日本の農村の綿製品や織物の輸入をやめる。日本の重要な輸出品だったから、農村は途端に苦境に陥る。それに天候不順で不作が加わる。災害はよく重なるといわれるが、東北では三陸沖地震が発生した。人々は小粥どころか重湯を飲んだ。女の子が上野駅で売りに出され、ある県では一年に2000人という記録がある。
国民皆兵だったから、こうした実情を農村出身の兵から聞いた若手将校は、義憤を感じて右翼の青年たちに話す。政治家や経済人が悪いということになり、要人のテロが続き、そして2・26事件につながる。事件を高校生で目撃した後藤田正晴元副総理(故人)は「当時の新聞や世論はテロが起きるたびに拍手喝采するようだった」と言った。多くの人々が政治や経済の無策ぶりを怒っていたのである。
「経世済民」という有名な古語は、政治や経済はいつの時代も国民生活を安心、安定させることの大事さを言っているのだ。
高市政権では消費税の減税が焦点だが、税収を項目別に見ると2025年度は、所得税22兆円、消費税25兆円、法人税は19兆円だ。ちなみに2020年は、所得税19・2兆円、消費税21・0兆円、法人税11・2兆円である。個人が負担する消費税と所得税が、法人税を上回っている。法人税は安倍政権時代に何回か税が下げられている。
尋常でない外国軍隊の大幅受け入れ
米価の高騰に関連して、日本の食糧の自給率が38%と激減しているのには驚いた。少し前になるが49%で、もう少しで50%を超えると言われていたと思うが、ずるずる下がっていたのだ。米国の高価なミサイルや戦闘機をいくら買っても、国民の食糧自給率を考えないようでは、一体何をやっているのかと不安になる。
高市氏といえば、米軍艦上でトランプ米大統領の隣で片手をあげながら飛び上がった時の印象が強い。しかし戦後80年、静かに周囲を見渡してみると、日本ほど外国の軍隊を大きく受け入れている国は尋常でない。米国兵器の爆買いなど、日米安保体制にかかわってきたジャパンハンドラーは後退しつつあるとされる。
こういう機会にこそ米国依存を再点検する必要があるのではないか。反米とということではなく、米国に正面から向き合う機会だと思われる。日本にある米軍基地を、東アジアの安全保障の見地から俯瞰して、縮小を考えてよいのではないか。外交、安保について高市政権は、米国への過剰依存体質から少し脱して、日本人の目でアジアを見渡していくことが大事である。
東南アジアは米国離れが出始めているとされるが、多国間の貿易の仕組みである包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)の加盟拡大や、アジアの安全保障に関係する多国間関係の形成への取り組みも大事だ。その際、米国を含めてアジアの国とどう協調していくのか。さまざまな視点から対米過剰依存からの脱却を議論する時期であろう。
中国との関係だが、日中平和友好条約では、お互いがアジアで覇権を求めないとうたっているところが核心部分だ。日中の古い井戸を掘った古井喜実元法相(故人)は「中国の言動に覇権を感じたら、はっきりものを言うべきだ。中国は言われれば必ず反応を示す国だ」と言っていた。
財政赤字の究明と行財政改革
不思議に思うことは、「日本政府の借金」である。最近では「国民1人当たり1000万円」といった物言いがある。1兆円とはどのくらいの規模なのかだが、足元に一万円札を積むとエベレストの9000メートル級を超える高さになるという。それが1000本である。
毎年9月から財務省と各省との間で予算の編成作業が真剣に行われる。それでもなぜこんなに積もったのか、編成作業のどこかに問題があったのではないか。欠陥があればどこをどう直すのか、またその責任はどこにあるのか―などを吟味して、国民に披露し、行政改革や無駄の排除につなげていくのが行政の本来の在り方である。エネルギーのいる作業なので、高市政権の求心力のあるうちに取り組んでほしいところだ。それがないと重苦しい雰囲気はいつまでも続くだろう。債務残高の多さこそ、日本が元気印になることのブレーキになっているという指摘がある。
憲法は国の予算について、選挙で選ばれた国会議員による国会審議で厳しくチェックされるとしている。だが肥大化した補正予算、国会のチェックを受けない予備費、基金などは増え、最近では規模が大きすぎて使いきれず、次の年度に繰り越すなど責任感のない対応が増えている。
高市首相の国会論戦は、圧倒的な自民党勢力を背景に展開される。憲法をはじめ見解の異なる課題について、数を頼んで破竹の勢いで事を進めるのはご法度である。経済成長著しいアジア各国も高市政治を注目している。「勢力善用」と「熟議ファースト」の精神で、国会論戦の模範を見せてもらいたいところである。
(了)