「最悪のタイミング」と懸念されていた高市早苗首相のワシントン訪問、トランプ米大統領との日米首脳会談(19日)が終わった。高市氏はトランプ氏を怒らせないことを至上目的に、迎合的な対応で何とか切り抜けたようだが、本当にこれで良かったのかどうか更に検証が必要だろう。
「禁じ手」のカーグ島占領に出るのか
そうした中で、ペルシャ湾奥のイランの原油積み出し基地であるカーグ島(ペルシャ語ではハールク島)をトランプ政権が地上部隊で占拠する案を検討している、と20日付の日本経済新聞がワシントン発で報じた。同紙によると、カーグ島はイラン経済の生命線で指導部に屈服を迫る狙いとみられ、激しい報復を招いて戦況が一段と泥沼化するおそれもあるという。
この作戦が実行される場合に使用される戦力として想定されるのが、米海軍佐世保基地(長崎県佐世保市)に配備する強襲揚陸艦トリポリと、沖縄県に駐留する海兵隊の即応部隊を含む約2500人だ。トリポリは17日にシンガポール海峡を通過し、ペルシャ湾周辺へ向かっている。この第31海兵遠征部隊は地上部隊と航空部隊を併せ持つ。
ペルシャ湾は平均水深が40メートル前後と比浅いが、カーグ島付近は深いため巨大タンカーが複数接岸できる。イランの主要油田とカーグ島はパイプラインでつながっており、同国原油の9割はカーグ島から輸出されている。米軍に頑強な抵抗を続けるイランの革命防衛隊の主な資金源は同島からの原油輸出とされる。
トランプ氏はなぜか以前から、カーグ島が「イランの至宝」であることを熟知しており、1988年のインタビューでイランが米軍を攻撃した際は「カーグ島を徹底的にたたく。乗り込んで奪う]と語っていた。今回のイラン攻撃でも既に13日、カーグ島にある軍事目標を「完全に破壊した」とSNSに投稿。石油インフラは破壊しなかったとしたが、イランがホルムズ海峡で船舶の航行を妨害するなら攻撃すると示唆し、警告している。
カーグ島はホルムズ海峡から北西に483キロの位置にあり、イラン本土の沖合25キロに浮かぶ島。その占領はいわば「禁じ手」の作戦であり、トランプ政権が本当にそれに踏み切るのか、それともイランに方針転換を促す圧力の強化なのか予断を許さない。だが、トランプ政権がこれまで距離を置いていた地上作戦に足を踏み入れ、この戦争が泥沼化する第一歩となることを危ぐする。
これについて米国の政治、安全保障に詳しい明海大学の小谷哲男教授は20日、テレビ朝日の番組で、カーグ島というのは「陽動戦術」で、米軍はホルムズ海峡上に位置するケシム島( ゲシュム島)の占領を狙ってい る可能性もあると述べた。
ケシム島は総面積1491平方キロの細長い島で、イラン本土の港町と数キロの距離で向かい合っている。ペルシャ湾の入り口とも言える運輸、通商上の要衝で、約300平方キロが無関税区域に指定されている。
「日本はNATOと違う」と歓迎
記者団を招き入れた日米首脳会談の冒頭で高市氏は中東情勢の緊迫化に触れ「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだと思っている。そのために私は諸外国に働きかけてしっかりと応援をしたい」と切り出した。これはトランプ大統領のご機嫌を取ったものだが、えん曲に停戦への努力を促したと解せないこともない。だが、その一方で、奇襲攻撃をかけられたイランに対しては「核開発は許されない」「日本は周辺国に対する攻撃や、ホルムズ海峡の実質的な閉鎖を非難してきた」と非難し、日米同盟を絶対視する迎合的な姿勢が目立った。
トランプ氏は、日本が原油輸入の9割以上を中東に依存しているとして「行動加速の大きな理由になる」と更なる行動を促し、「米国はホルムズ海峡を使っていないのに、他の皆のために防衛している」と不満を示した。また北大西洋条約機構(NATO)が非協力的だと批判し、日本は「NATOと違う」と評価した。
NATO諸国の中ではまず、スペインのサンチェス首相が口火を切ってイラン攻撃を「一方的な国際法違反」と非難、国内の米軍基地の使用を拒否した。当初は様子見だった他の欧州諸国も、民族右派を基盤とするイタリアのメローニ首相が「国際法の枠外の一方的な介入」と批判し、米軍による誤爆とみられるイランの小学校へのミサイル直撃で小学生175人以上が死亡した責任を追及するなど、距離を置く姿勢を鮮明にし始めている。
トランプ氏は首脳会談後の夕食会で、日本が安全保障と防衛の取り組みを強化し、米国の防衛装備品を大量購入する方針を示していることを歓迎すると述べた。高市氏は米国が求めたホルムズ海峡への艦船派遣について、法律の制約を抱える日本の立場を伝えたとしているが、防衛予算の更なる増額、米国からの兵器購入の積み増しを迫られそうだ。
「日本ほど奇襲に詳しい国はない」と皮肉る
首脳会談のかなりの部分を記者団に公開するようになったのは第2次トランプ政権になってからとみられるが、今回の日米首脳会談では日本メディアから、イラン攻撃を日本など同盟国に事前に知らせなかったのはなぜかと質問が飛んだ。それに対しトランプ氏は、奇襲を成功させるためだったと説明。「日本ほど奇襲に詳しい国はない」と皮肉った。
トランプ氏が日本は「なぜ真珠湾攻撃を知らせてくれなかったのか」と冗談めかして語ると、米側関係者から笑い声が起きた。高市氏は一言も発せず、目を大きく見開いて、やり取りを聞き入っていたが、いかにも居心地が悪そうだった。このやり取りは米国内では大きく報道された。
トランプ氏はイラン攻撃では奇襲によって、想定よりも多くの損害を与えることに成功したと誇示した。
「戦争開始はイスラエルと米ロビー団体の圧力」
米国家テロ対策センターのジョー・ケント所長が17日、イラン攻撃への不支持を理由に辞任した。イラン攻撃をトランプ政権の主要幹部が辞任するのは初めて。
ケント氏はトランプ氏宛ての手紙で「イランは米国に差し迫った脅威をもたらしていなかった」「良心に恥じることなく、この戦争を支持できない」と辞任の理由を説明した。また「我々がイスラエルと、その強力な米ロビー団体からの圧力でこの戦争を始めたのは明らか」と述べ、トランプ氏に方針転換を促した。
ケント氏は米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)や米中央情報局(CIA)に所属した経験があり、2025年2月にトランプ氏から国家テロ対策センターの所長に任命された。
ケント氏はトランプ氏を熱烈に支持する米国第一主義運動「MAGA」派として知られ、一部からは極右、反ユダヤ主義者との批判も受けてきた。ケント氏の辞任をMAGA派とトランプ氏との間に亀裂が入ったとの指摘も出ている。MAGA派にはもともと、国内問題を最優先にすべき(アメリカ・ファースト)で、他国に介入する戦争は避けるべきだとの主張がある。
(了)