米・イスラエル対イラン戦争の終結への障害がイランの「核保有」阻止に絞られてきた。新たな核保有国を許さないのは世界にとっては望ましいことだ。しかし、対立するイスラエルが密かに陸海空の各軍に核兵器を配備している核武装国であることは国際的な常識。それには知らぬ顔してイランの核開発を完全に封じようとするのはなぜか。米国の圧力をかわして核武装を着々と進めている北朝鮮の金正恩総書記を優れた指導者と評価して友好関係を保っている。これにもなぜ。
イスラエルの安全保障
米国とイスラエルは核兵器保有の可能性も含めて、イランからの差し迫った危険にさらされてもいないのに突然、一方的に対イラン侵攻作戦に乗り出した。非戦闘員を含む多数の生命を奪い、市民生活を脅かし、国家・文明の存続さえ危うくする破壊をもたらしたうえに、世界中に大迷惑をもたらすとの警告にもお構いなしにホルムズ海峡の封鎖合戦を続けてきた。
イランは侵略者の想定を超える反撃に出ているが、軍事力の大きな差は明らかだ。そのイランに将来にわたって核兵器を持たせなくするのは、イスラエルの安全保障を万全なものにして、反イスラエル勢力に決定的な打撃を与えるためとみていい。加えて、トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相のコンビにはイランの核開発阻止にこだわるいきさつがあった。
オバマ米政権と英仏独中露の6カ国は2015年イランに穏健外交を掲げたロウハニ大統領が登場したのをとらえて、難交渉の末にイランのウラン濃縮を平和利用(電力、医療など)の範囲内に制限して、国際原子力機関(IAEA)の合意履行を確認する査察を受け入れる合意を達成、見返りに米国と欧州連合(EU)はイランに対する経済制裁を解除した。
トランプの中東政策急転換
イスラエル、サウジアラビアなどイランと対立する中東諸国は、この合意および制裁解除に強い不満を抱いた。トランプ氏は17年に大統領(1期目)に就任するとすぐに中東政策を転換し、歴史的と評価された核合意の実効性は認めないと宣言した。翌18年に核合意から離脱して、イランにウラン濃縮停止など核開発放棄を要求し、経済制裁も復活させた。
トランプ氏はネタニヤフ氏をワシントンに招いて、パレスチナ紛争の解決には「2国家共存」にこだわらないと伝えるとともに、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の三つの宗教の聖地エルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館をテルアビブから移転させるなど、中東におけるイスラエルへの支持拡大に努めた。
こうしたトランプ政権の政策転換に対抗して、イランはウラン濃縮度の引き上げ、新型遠心分離機の導入、IAEAの査察拒否などの対抗措置をとった。こちらも再び核開発を目指すという意思表示である。
対イラン戦争の延長戦として今も続くガザ戦争
パレスチナ紛争はこうした危うい新局面に入り、23年10月にはガザ戦争が始まっている。25年1月にトランプ氏が政権復帰、2年半近くにおよんだガザ戦争は停戦に合意した。しかし、事実上の戦争状態が今も続いている。反イスラエルのパレスチナ勢力の後ろ盾イランに対して、トランプ、ネタニヤフ両氏が組んで2月末に抜き打ちにはじめた対イラン戦争はガザ戦争の延長戦と言っていい。
この対イラン戦争はようやく終結に向かっているようだが、米国との合同作戦がパレスチナの後ろ盾イランに大きな打撃を与えたことは間違いない。ガザ戦争もネタニヤフ政権に対する「ジェノサイド」(集団殺害)との広範な国際的非難にもひるまず、徹底的なハマス殲滅攻撃を続けて、現在も隣国レバノンのパレスチナ武装組織ヒズボラ殲滅戦を継続してきた。ハマスもイランも少なくとも当分の間は、イスラエルに対する大きな脅威にはなり得ない打撃を被ったとみられる。
イスラエル極右は勢いづいているが
「大イスラエル主義」のネタニヤフ氏支持のイスラエル極右勢力は、こうした「戦争勝利」によって勢いづいている。占領地西岸への入植計画をさらに拡大して、国際法や安保理決議では許されない領土への併合に踏み切ろうとの動きを強めていると、イスラエルのメディアが報じている。
少政党乱立によって複数党による連立政権が常態のイスラエル政治の世界で、この20年余のうちほとんどの政権を握ってきたネタニヤフ氏。その「権謀術数」は抜きんでているといわれる。だが、長期政権の常か破廉恥な収賄、詐欺などの罪に問われて裁判中の身。首相の座を失えば直ちに被告の身になる。
現政権は任期切れで10月中に総選挙が行われるが、イスラエルのメディアによると、国民の支持を失っているネタニヤフ氏の「戦果」は支持回復にはつながっていないそうだ。
ローマ法皇の批判に怒り自らがキリストのAI動画流す
コンビを組むトランプ氏も、極端な自己顕示欲が高じた独善的な暴走、暴言、愚挙に二転三転の発言がますます多くなっている。我慢できなくなったローマ法皇の批判にも怒り狂ったり、自分がキリストになったAI動画をSNSに流したりした。大事な支持基盤の一つであるキリスト教保守・右派の票割れが起こるのではないかとみられている。イラン侵攻作戦も国際的なさらなる孤立化を深めている。
穏健保守主義者で共和党支持の著名なジャーナリストで評論家のD・ブルック氏が精神分裂症と判断した症状(『Watchdog21』26/2/2拙稿)が、80歳を超えてさらに進行したのだろう。熱心な支持層からも「正気?」の声が出て議会にも動揺が広がり、修正憲法25条による大統領権限剥奪の声も出ていると報道されている。(4月18日記)