メディア各社の高支持率を背景に高市早苗首相はやりたい放題というところか。
「自分の身の回りに高市氏の支持者が見当たらないのに、なぜ、こういうことになるのか」との声を友人やSNSなどでよく聞く。実際の世論調査の数字は高市内閣支持が60~70%。25年10月21日の発足だから毎月、多少の微増、微減はあったとしても約半年間もの間、国民多くが高市内閣を支持し続けていることになる。
何か高市内閣が国民にとって良いことをしてくれたのかと振り返ってみても、あまり心当たりはない。昨年の衆院選前に国民の多数が望んでいた食料品の消費減税はどこかにいってしまったようだし、ホルムズ海峡の事実上の封鎖による石油危機への政権のエネルギー対策などの対応も、トランプ氏に忖度ばかりしていて何とも生ぬるい。
そもそも、イラン戦争は明らかな国連憲章、国際法違反の「侵略」であるにも関わらず、米国やイスラエルを支持し続ける高市氏の政治姿勢がおかしい。EU諸国をはじめ世界の国々の声が米国やイスラエルに加担しないということでまとまってきた状況下で、世界の動きを読めない高市氏は対米従属まっしぐら、「トランプ命」にしか見えない。それでも、国民の大多数が支持しているのだからと納得するしかないのか。何とも寂しいというか、悲しいというか、平和憲法を持つ国として「恥ずかしい」というのが今の私の実感である。
そんな中で高市氏が2026年度予算案をめぐる国会で見せた、何としても年度内成立しようともくろんだ審議時間の大幅短縮のやり方は、憲法上「国権の最高機関」と位置づけられる国会審議を重視するという議会制民主主義に反するものだった。自分の突然の衆院解散が理由なのに恥ずかしげもなく、野党や国会のせいにした。何事も他人のせいにするのはこの人の得意技である。ただ、この「女王様」ぶりはさすがに世論調査で不人気だった。
そんな高市氏。このところ、周囲の意見に耳を傾けず、官邸の総理執務室の「隠し部屋」に引きこもって煙草をくゆらせながら、資料を読む毎日が続いているという。週刊文春4月16日号が「高市首相の3人の親衛隊と『隠し部屋に引きこもり』」との見出しで大々的に報じた。記事によると、3人の親衛隊とは、木原稔官房長官と2人の官房副長官。3人だけがこの部屋の出入りを許される。「彼らは高市氏が煙草を吸おうとすると、胸元からさっとライターを出して火をつけるそうです」(官邸は否定)との官邸関係者の言葉を紹介している。
こんな記事が出始めたのも、月刊総合雑誌「選択」4月号がきかけだった。日米首脳会談の手土産として高市氏はホルムズ海峡への自衛隊派遣を行う腹づもりだったが、今井尚哉内閣官房参与が執務室に乗り込んで猛反対して大ゲンカとなり、派遣は見送られたという記事だった。4月7日の参院予算委で高市氏はこのことを否定している。また、週刊文春も今井氏に質問状を送ったところ、今井氏から編集部に電話があり、「このことで高市さんと直接やり取りしたことはありません」と選択の報道を否定した。
ただ、週刊新潮も4月16日号で「『高市首相』と『安倍晋三の懐刀』が大ゲンカ」の記事の中で、官邸関係者が「2人に修復しがたい亀裂が生じているのは間違いない」と証言しているので、この話は本当らしい、と12日付の東京新聞「週刊誌を読む」で月刊誌「月刊『創』編集長の篠田博之氏は分析する。
高市氏は秘書官も寄せ付けず、官邸官僚ともうまくいっていないようだ。要するに「唯我独尊」の性格らしい。閣内でも石破茂前首相の盟友、赤沢亮正経産相との間がギクシャクしていると報じられた。片山さつき財務相が14日の閣議後記者会見で、中東情勢の緊迫化に伴う原油などの物価高対策について、赤沢氏が「日銀の利上げもひとつの選択肢」と述べたことに対して、高市氏が口頭で注意したことを明らかにした(毎日新聞14日付朝刊)。いまの日本経済にとって、利上げすれば円高になるので、物価高を抑えられる赤沢氏の見解の方が正しいと思うが、「責任ある積極財政」を掲げる高市氏は許せなかったのだろう。
もともと、高市氏は赤沢氏の「親分筋」の石破茂前首相とは政治家としての思想も異なり、仲が悪い。2月の衆院予算委でも高市氏は赤沢氏のことを振り向きながら「私に恥をかかさないでよね」と言ったことがある。麻生太郎副総裁とも、解散総選挙のことを事前に知らせず、終わりポストの衆院議長就任を打診するなど険悪な仲だといわれる。高い支持率の高揚感からか、あるいは性格なのか高市氏には、他人をリスペクトするという感覚がそもそもないのではないか。それでも高い支持率が続いている。不思議だ。
4月12日の高市首相就任後初の自民党大会。高市氏は「時は来た」と大げさな言い方で「憲法改正のめどが立った状態で来年の党大会を迎えたい」と改憲論議の加速をアピールした。この党大会では「自衛隊の歌姫」と呼ばれる陸自中央音楽隊の現職自衛隊員が公式の制服で登壇し、君が代斉唱をリード。特定政党への「政治的行為」を制限する自衛隊法違反にならないか大きな問題となっている。
スパイ防止法につながる「国家情報会議関連法制」、男系男子による皇位継承を目的とする「皇室典範改正」、武器輸出を全面解禁する「防衛装備移転3原則」と運用指針の見直し、内心の自由を奪いかねない「日本国旗損壊罪創設」など「憲法改正」だけでなく、「高市カラー」とメディアが呼ぶ、平和憲法や人権をないがしろにしかねない高市氏肝いりの危うい法案や政策が相次いで出てきている。
「朝令暮改」どころか時間単位でその主張がコロコロ変わり、相手を汚い言葉でののしる、どこかが狂っているとしか思えないトランプ大統領。人の言うことを聞かず、国会や記者会見が大嫌いで「独断専行」が多い高市首相。残念ながら、2人ともまだ任期はたっぷりある。われわれには徹底的な「愛想尽かし」をすることぐらいしか対抗する方法はないのかもしれない。
▼「裸の王様化」してきた高市首相
「いくら中国のことを好きではないからといって、謝るべきときには謝罪すべきである」。「いくら衆院選で大勝し、支持率が高いからといって、憲法の財政民主主義をないがしろにしてはいけない」ー。自衛隊幹部の中国大使館侵入事件と26年度当初予算案の年度内の成立への高市氏の対応はいずれもいただけない。
中国政府や議会制民主主義に対する敬意を欠いたもので、心ある人から見たらその振る舞いは傲慢にすら映りかねない。日本での最高権力者なのだから、もっと謙虚な姿勢で臨んでもらいたい。
朝日新聞によると、3月24日、東京都港区の中国大使館へ侵入し、建造物侵入の容疑で逮捕されたのは、陸上自衛隊えびの駐屯地(宮崎県)勤務の村田晃大3等陸尉(23)だった。村田容疑者は同日午前9時ごろ、大使館に侵入。大使館関係者に身柄を確保され、警視庁に引き渡された。敷地内から刃物1本が押収された。
村田容疑者は警視庁の調べに「中国に強硬発言を控えてほしかった」と動機を話し「大使に意見を伝えて受け入れられなかった場合は自決して相手を驚かせようとした」などと述べているという。日本も含めたウイーン条約で大使館などを不可侵とする国際ルールがあり「あってはならないこと」というのが外務省の見解。
村田容疑者は一般大学を出て25年に一般幹部候補生として陸自に入隊した。木原氏は「中国側に遺憾の意を伝え、法令に従って、再発防止を含め適切に対応していく旨を説明した」と述べた。中国側は、中国外務省の副報道局長が「日本は遺憾の意を表明しているが、到底、不十分。自衛隊員の管理・教育を怠った」とウイーン条約の義務を履行できなかったと批判。環球時報は27日付で「2日を経ても最低限の謝罪がない」とする社説を掲載し「責任を拒否する国家の国際的信用は根本から揺らぐことになる」と論じている。
小泉進次郎防衛相は事件3日後の27日になって「誠に遺憾」との初めて事件に言及したが、高市氏からは何のメッセージもない。朝日新聞は28日付朝刊で「中国国内では日本側に謝罪がないことで反発も広がっている」と書いている。
20日(日本時間)の日米首脳会談でトランプ大統領から「(日中関係は)ぎくしゃくしている」との指摘を受けたばかりの高市首相。このとき「日本は常にオープンだ」といつも通りの答えを返していたが、今回の大使館侵入事件で中国側の反発が強くなり、さらに日中関係が悪化しなければと願うばかりである。
警視庁は事件の背景や動機などをきちんと調べ、防衛省は自衛官の教育の在り方について、再発防止策を打ち出すべきだろう。そして、高市氏は昨年11月の「台湾有事は存立危機事態になりうる」との衆院予算委での軽い発言が中国側を刺激し、日中関係の悪化につながったことへの自覚が全くないように見える。今回は「遺憾」などではなく、首相として「謝罪の意」をきちんと中国側に示すべきだ。
はっきり言って首相としての危機対応ができていない。もうひとつ。26年度当初予算案の年度内成立に高市氏がこだわった件。結局、ぎりぎりになって暫定予算案を出すことになったが、これも自分の都合で衆院を解散したことが原因。絶対多数を占める衆院では強行的に採決までもっていってたが、もともと無理筋だった。その背景には自分の「メンツ」を優先した総選挙大勝のおごりからくる傲慢さがあることは明らかだ。もう少し、野党はもちろん、与党を含む他人の意見に耳を傾けるべきではないか。そろそろ「裸の王様化」してきていないか。(3月29日)
▼トランプ大統領にインサイダー疑惑
「トランプ大統領は言うことが1日単位だけでなく、場合によったら時間単位や相手次第で、コロコロ変わるので信用できない。世界最強国の指導者がこれでは世界は混乱するばかりである」。共同通信の報道によると、トランプ氏は3月29日、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に対して「望ましいのはイランの石油を奪うことだ」と主張。イランとの交渉は「かなり早く合意が成立する可能性がある」と述べた。米軍がイランの石油積み出し拠点のカーグ島を「掌握するかもしれないし、しないかもしれない」と含みを持たせた発言もした。日本からの強襲揚陸艦「トリポリ」などが中東海域に到着。欧州にいる軍隊と合わせて米軍は5万人規模に膨れ上がった。このような米軍による地上作戦の実行の危機が伝えられる中での相変わらずのふざけた発言。
特にトランプ氏が「イランの石油を奪う」と言ったことに注目したい。「核脅威からの除去」や「政治体制転換」など先制攻撃の理由をトランプ氏はさまざま挙げているが、ホンネはやはりベネズエラの時と同様「石油利権」ということなのか。米国やイスラエルの攻撃で殺された多くの子どもたちを含むイランの人々やイランの報復攻撃で死んだペルシャ湾岸諸国の人々にとってはたまったものではない。イランとの核開発をめぐって交渉の最中に起きた「だまし討ち」ともいえる米とイスラエルによるイラン攻撃。交渉の席には、不動産投資家のウィトコフ米特使やなぜかトランプ氏の娘婿のクシュナー氏がおり、米国の核の専門家などはいなかったので何かこの交渉自体が「怪しい」と思った。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖で世界の経済は危機に瀕しているのに本当に「石油利権」が狙いだったとしたら、あきれるしかない。朝日の3月31日付朝刊での「中東情勢めぐりインサイダー疑惑」の記事にびっくりした。記事は「重大発表の直前に不自然な売買があったことから、未公開情報に基づいて不当に利益を求めようとした『インサイダー取引』疑惑が浮上している」との書き出しで始まる。
朝日によると、発端はトランプ氏による23日午前7時すぎのSNS投稿だった。攻撃を続けるイランと「生産的な対話」をしたと表明した。事実上の封鎖が続くホルムズ海峡を開放しなければイランの発電所を攻撃すると警告していた中での投稿に、緊張緩和への期待が広がり、原油価格は急落。「米国産WTI原油の先物価格は一時、前営業日より14%安い1バレル=84ドル台をつけた。フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、投稿の15分ほど前の午前6時49~50分、WTI原油と別の国際指標である「北海ブレント原油」の先物で、5億8千万ドル(約920億円)相当の取引が行われた。主要な株価指数の先物でも似た動きがみられた、という。
FTは[だれが投稿の15分前に積極的に売っていたのか、疑問に思わざるを得ない」との市場関係者の見解を紹介している。米国では、もちろんこのようなことは「インサイダー取引」として違法だ。ホワイトハウスはこの報道に「証拠もなく当局者がそのような行為に関与していると示唆するのは、根拠がなく、無責任だ」とコメントしたそうだ。トランプ氏のSNS投稿を事前に知っていた人は誰なのか。ごく限られていると考えるが、今の米国ではこういうことはきちんと調べないのか。証券取引委はどうするのか。日本だけでなく、米国でも強い政権への官僚たちの忖度がはやっているのか。こういう話をメディアは騒いだ方がいい。(3月31日)
▼陸自隊員が自民党大会で国歌斉唱 高市氏「知らなかった」は本当か
「ホルムズ海峡封鎖による危機的状況にも関わらず、高市政権って、こんな余計なことばかりやっていて大丈夫なの」と感じているのは私だけなのだろうか。
陸自隊員が自民党大会で国歌斉唱したぐらいで騒ぐのはおかしいという意見もあるけれど、「隊員は選挙権の行使を除き、政治的行為をしてはならない」と定めている自衛隊法61条は何のためにあるのか、その立法趣旨を考えると、厳密には「グレー」なのかもしれないが、やってはいけない行為を自民党がやったことになるのではないか。企画会社のせいになんかにするな。その責任はすべて高市早苗自民党総裁にある。
一番の問題は、国歌を斉唱した「自衛隊の歌姫」と呼ばれる陸自隊員が制服を着て登場したところにある。4月12日に都内のホテルで開かれた自民党大会のハイライトは、高市氏が「日本人の手による自主的な憲法改正は党是だ。時は来た」と主張。「改正のめどが立った状態で来年の党大会を迎えたい」と述べて国会での改憲議論を加速させたい強い意思を表明したことである。
このような雰囲気の中で、隊員は「陸上自衛隊が誇るソプラノ歌手」と司会者が紹介、制服姿で君が代を斉唱した(朝日新聞15日付朝刊)。自民党の改憲4項目のうち、「憲法への自衛隊の明記」はその中心だ。高市氏の「時は来た」のパフォーマンスに合わせて自衛隊歌姫の制服姿での登場は私には「改憲アピール」の象徴のように見える。その意味でも歌姫の行為は法律が禁じている「政治的行為」にあたるのではないか。
「当日会場に着くまで知らなかった」と高市氏。「特定の政党への支援を呼びかけるのではなく、国歌を斉唱した。法律的に問題はない」と強調したうえで「事前に連絡はなかった」という小泉進次郎防衛相も「国歌斉唱をしたことをもって、自衛隊法の違反という判断はしていない」と述べた(いずれも朝日)。そもそも2人が「事前に知らなかった」というのは本当か。
日本経済新聞電子版(14日)によると、高市氏は14日「自衛官は職務でなく、私人として旧知の民間の方からの依頼を受けて歌唱した」と説明している。陸自トップの荒井正芳陸上幕僚長は隊員の歌唱について3日に報告を受けていた、と説明「防衛省の内部部局と陸幕で政治的行為に当たらないか『事務的に確認した」と補足した。また、隊員は謝礼を受け取っておらず、上司の中央音楽隊の副隊長が「私人」として同席していた、という。
もしも、首相や防衛相より先に自衛隊の制服組がこのことの法律問題を検討していたとしたら、さらに大きな問題だ。故安倍晋三政権下で夫人のことで、繰り返された「私人」という言葉がまた、その「理由付け」として出てきたことも引っかかる。
当然、野党側は14日、「自衛隊が党大会に協力したことに疑義が向けられている」(中道改革連合・小川淳也代表)、「隊員が党大会に出席したことは、党勢拡大に協力するとみなされても仕方がない」(国民民主・玉木雄一郎代表)とやや生ぬるいが、一応、反発を強める。
水島朝穂早大名誉教授(憲法)が東京新聞15日付朝刊で 「(今回の問題は)自衛官の政治活動を禁じた自衛隊法に抵触する恐れがある」と指摘した。「私人として参加したと政府は説明するが、歌手として名の知られた『スター自衛官』が党大会に呼ばれ、正装で参加した。外形的に自衛官と分かるように演出している。特定政党の党大会は極めて政治的な場であり、『政治的行為ではない』と言い張っていることもおかしい。自衛隊の中立性に鑑みて大きな問題だ」。そう強調する水島氏のコメントはストンと胸に落ちる。
一見、大した問題ではないように見えても、おかしいことはおかしいと言う。こういう問題をメディアが見逃したら、日本の民主主義は大変なことになる。高市政権に対しては、そういう危機意識を持ちたい。高市氏が就任後初の晴れ舞台となる党大会という大きな行事。細かいことにまで口を出すと伝えられる高市氏がその段取りを全く知らなかったということには大きな疑問符が付く。どちらにせよ、高市氏と小泉氏には説明責任がある。(4月15日)
▼事実上、幕引きの様相
陸上自衛隊中央音楽隊の「自衛隊の歌姫」が公式の制服姿で4月12日の自民党大会に登壇して国歌斉唱をリードしたことが自衛隊法61条が禁じる自衛隊員の「政治的行為」に当たるかの問題。木原稔官房長官は15日、衆院内閣委員会で中道改革連合の長妻昭氏の質問に「法律に違反することと、政治的な誤解を招くことがないかは別問題だ。その点はしっかり反省すべきだと考えている」と答弁した。メディアでは木原氏の「反省すべきだ」が強調されて、事実上、問題の幕引きの様相も呈してきたが、本当にそれでいいのか。
問題は木原氏の言うような「政治的な誤解を招いたこと」などではなく、法律違反は濃厚だが、少なくとも、与党の日本維新の会の藤田文武共同代表が言う「不適切だった」ことは間違いないのではないか。また、もっぱら「君が代」に焦点が当たっているが、問題にすべきは、自衛隊員である歌姫が公式の制服姿での党大会に参加したこと、この大会で高市早苗首相が「時が来た」と「憲法の自衛隊明記」をメーンとする憲法改正への強いアピールを示したことが一体となり自衛隊の「政治的中立性」を揺るがしたことにある、と考える。
「なぜ、情報が官邸や党本部にまで上げられなかったのか」など、問題の全体像はまだ未解明のままである。いまのところ「歌姫の出演」については、高市政権は防衛省による「独断的決定」のせいにする可能性が浮かび上がっている。もしそうだとしても、自衛隊法の「選挙権行使を除く自衛隊員の政治的行為の禁止」は政治と軍が一体化した戦前の体制の反省からくるもので、自衛隊の最高指揮官である高市氏の管理責任や説明責任は免れない。
ことはシビリアンコントロール(文民統制)や政権のガバナンスに絡む大きな問題だ。「再発防止」のためにも、内部調査を徹底したうえで、一問一答式のきちんとした記者会見を開き、国会の委員会で審議を極めるべきである。
15日付朝日新聞朝刊によると、木原氏は「この自衛官は長期休暇中で、私人として関係者からの依頼を受けて国歌を歌唱した」と説明。党大会の運営などを依頼されたイベント会社が防衛省に自衛隊違反になるかを尋ねたところ「法には触れない」との回答があり、出演に至った、とした。
これに、14日の定例会見での荒井正芳陸幕長の言葉でもう少し詳しく説明すると、鶫(つぐみ)真衣3等陸曹は陸自初の声楽要員として14年に任官し、これまでも定期演奏会など多くの行事に参加。自民党大会についてはイベント会社を通じて本人に出演依頼があり、相談を受けた中央音楽隊が陸幕に報告した。荒井氏に対しても4月3日に担当部署から報告があり、私人として依頼を受けて歌唱するため「自衛隊法違反には当たらない」と確認した、との説明を受けたという(毎日新聞14日付朝刊)。同じ日の日経電子版では「防衛省の内部部局と陸幕で政治的行為に当たらないか『事務的に確認した』と補足した」と報道。さらに、鶫氏は謝礼を受け取らず、上司の中央音楽隊副隊長が「私人」として同席したとしている。
小泉防衛相は問題になると思わなかったのでは
要するに、党本部が頼んだイベント会社から直接、本人に出演依頼があり、鶫氏が中央音楽隊に相談、陸幕に報告されて自衛隊法が禁じる「政治的行為」に当たるかが防衛省の内部部局と陸幕で検討され、「出演OK」となったということになる。少なくとも、陸自トップまでは情報が上がっていた。だから、木原氏は「党大会への出演が防衛省の政務3役や、官房長、事務次官まで上がっていれば、別の判断があったかと思う」と語り「省内の報告体制に問題がある」とした。
ただ、小泉進次郎防衛相は12日、X(旧ツイッター)で「全国から党員らが結集する自民党にとって重要な場で国歌斉唱の大役を担ってくれたのが鶫真衣さん。凛とした君が代が大会場にしみわたりました。鶫さんをはじめ自衛隊の音楽隊を誇りに思います」などと投稿、後に削除している。ということは小泉氏はこのことが問題になるとは思わなかったのではないか。小泉氏は問題発覚後、「事前に連絡はなかった」とつれない対応をしているので、この情報が上がっていても木原氏が期待するような「別の判断」ができたかどうかわからない。
木原官房長官の政治的誤解を招いたとする「反省」は決して政府としての誤りを認めたものではない。むしろ「政治的行為の禁止」という自衛隊法違反から問題の論点をすり替える内容であり、許容できない。統一教会による選挙応援で名前の出た自民党の北村経夫参院議員は自身のSNSに「今回の自民党大会、実は『自衛官による国家斉唱』が史上初めて実現しました」と鶫氏と上司の中央音楽隊の副隊長が党大会に出席していたことを示すとみられる3人のショットを公開している。自衛隊員の「政治的行為」はこのように拡大再生産されていく。(4月16日)
(了)