米軍とイスラエル軍によるイランへの奇襲攻撃(2月28日)により最高指導者ハメネイ師=当時(86)=ら政権幹部が殺害されてから約3週間。ハメネイ政権が1月に激化した反体制派市民の抗議デモを弾圧し、多数を殺害した強権的体質は許されないものだが、国際法とイランの主権を完全に無視したこの「斬首作戦」は世界全体を大きな危機に陥れるものとして、厳しく非難されるべきだ。
そうした重要な時期に高市早苗首相は訪米し、19日にトランプ大統領と首脳会談する。日本政府は今回のイラン攻撃(米側の作戦名は「壮大な怒り」)に対する見解を示すことを避けてきたが、首脳会談ではそうもいくまい。昨年10月末に米海軍横須賀基地に停泊中だった空母「ジョージ・ワシントン」の甲板でトランプ氏ととともに演説した際に右手を突き上げ跳びはねてひんしゅくを買った高市氏のことだから、恐らくイラン攻撃に対する批判めいたことは一切口にせずに追従することを懸念する。
だが、まるで専制暴君のようなトランプ氏の無茶苦茶なやり方に対して、かつては「ムソリーニの流れをくむ極右」と、最近は「トランプと欧州の橋渡し役」と見られていたイタリアのメローニ首相からも手厳しい批判の声が上がったことを、今回の総選挙で高市圧勝を許した日本の選挙民はどう受け止めているのだろうか。また、日本共産党の田村智子委員長が2日の衆院予算委員会で、それに先立つ衆院予算委員会での高市氏とのイラン攻撃に関するやり取りについて語ったことを、右派の産経新聞が結構詳しく好意的とも受け取れる報道をしている。イランはホルムズ海峡の封鎖宣言で対抗し、世界的なガソリン価格の急騰に慌てたトランプ氏は日本を含む数カ国に封鎖解除のための艦船の派遣を要請するなど動きが慌ただしいが、「暴君」トランプをめぐる3人の女性政治家の発言を見てみよう。
イラン歴新年直前の奇襲攻撃
イランの暦では春分の日(今年は3月20日)が「ノウルーズ」と呼ばれる元日に当たる。春の始まりを告げるこの日にイランや周辺地域の人々は、ご馳走を食べ、贈り物を交わし、愛と平和を広めてきた。私もテヘラン特派員だった43年前のこの日、アパート近くの路地に初めて芽吹いた緑色の雑草が、褐色に覆われた景色の中で、とてもうれしかったことを覚えている。
それが一変し、テヘランの町がミサイルや戦闘機による激しい爆撃にさらされ、多くの死傷者を出しているイラン国民の事を思うと胸が痛む。
政教一致のイスラム教シーア派の大国イラン(人口約8900万人)を約37年間にわたって統治してきたハメネイ師は2月28日朝、テヘラン市内の施設で政権幹部とともに秘密会議に出席することを米、イスラエルの情報機関に察知され、空爆で殺された。イランと米国は2月末にジュネーブでオマーンが仲介するイランの核開発、制裁解除をめぐる高官協議を持ち、オマーン外相は「重要な進展」があったと発言したが、米側はイランの交渉姿勢に強い不満を示した。ハメネイ政権を打倒し、イランの体制転換を狙うイスラエルのネタニヤフ首相は再三、トランプ氏と会談し極秘情報を伝え、奇襲攻撃を迫っていたようだ。
当初はそれに乗らなかったトランプ大統領も、1月にテヘランなどで起きた通貨リアルの大幅下落、インフレに抗議する大規模デモによって政権の体力が弱っていると期待し、この作戦に同意したとみられる。イランとの核協議は実は、攻撃態勢が整う(地地中海とペルシャ湾への米原子力空母2隻の配備完了)までの単なる時間稼ぎだったと中東専門家は見ている。
小学校誤爆で160人死亡 伊首相が非難
イタリア初の女性首相で、昨年のトランプ大統領の就任式に欧州首脳でただ一人出席する親密な関係を築いてきたメローニ氏は3月11日に上院で演説し、イラン攻撃について「国際法の範囲外の一方的な介入」だったと批判、米国とイスラエルの軍事行動から距離を置く姿勢を鮮明にした。また「国際秩序が崩壊する状況」が「極めて明確な転機」を迎えたと危機感を示した。
メローニ氏はさらに児童ら160人以上が死亡したとされるイラン南部ミナブでの女子小学校へのミサイル攻撃を「断固として非難する」「この悲劇の責任の所在が速やかに特定されることを望む」と述べた。この攻撃は初日の28日にあった。
トランプ氏は3月7日に「イランの仕業だ。イランの兵器は精度が低い」と一方的に主張。公開画像から米軍の巡航ミサイル「トマホーク」によるものとの疑いが濃厚になると、9日には「トマホークをイランも持っている」と虚偽の事実を述べる体たらくだった。11日付のニューヨーク・タイムズ紙は、米軍が内部調査で誤爆だったと判断したと報じた。米中央軍が国防総省傘下の情報機関「国防情報局(DIA)」から提供された古いデータを使用して標的を決めたという。小学校はイラン革命防衛隊の基地に隣接しており、かつては校舎も基地の一部だった。検証しないまま古いデータが使われたようだ。
イラン側は「明白な戦争犯罪で国際法違反だ」とし、国連児童基金(ユニセフ)に緊急行動を取るよう求めている。イラン攻撃に対する米国内の支持率は、米国の軍事介入としては最低水準になっており、「ここ数10年間で最大の軍事的な過誤」(同紙)とされる小学校誤爆はトランプ政権への批判をさらに高めよう。
メローニ氏は一方で、イランへの作戦は悲劇的だが「これらの結果がイランの(核開発の)野望に目をつぶった場合に直面するリスクと比べられないことは理解する」と述べ、対米外交上の釣り合いを取っている。だが、米国とイスラエルの軍事行動について「詳細な情報を持ち合わせている訳ではなく、我が国として法的評価は差し控える」と国会質疑で逃げ回る一方の高市首相と比較すると、民族右派を基盤として国のトップに上り詰めた似たような経歴ながら、政治家としての器量が段違いだと言わざるを得ない。
産経新聞が共産党委員長の会見を詳報
その高市氏の煮え切らない態度をやり玉に挙げたのは共産党の田村智子委員長だ。面白かったのは右派紙と分類される産経新聞が3日付の記事で、その質疑と田村氏の記者会見を詳しく報じていることだ。以下、ネットで閲覧した産経記事の概略を引用する。
<田村氏はイラン攻撃に踏み切った米、イスラエルに対し日本政府は停戦を働きかけるべきだと繰り返した。「先制攻撃した側に『止めろ』と求めることが必要だ。米国を批判しない態度をいつまで続けるのか。トランプ政権を批判できない危険性はいよいよ大きい」「日米同盟絶対の思考停止と言わざるを得ない」
首相に対し衆院予算委で対米批判を迫った田村氏だったが「(批判の)やりようはいろいろだ。『今回の行動についてわが国は支持できない。国際法の順守を求めたい』。これだけでも批判になる。喧嘩しろと言っているわけではない』とも語った。>
<田村氏は(自由を求めるデモの武力弾圧にも触れて)「外からの武力攻撃を容認する理由にはならない。体制転覆を武力攻撃で行うことを認めれば、世界の法秩序は崩壊してしまう。日本政府は『法の支配』を掲げ、『力による現状変更』を論難する立場を取って、専制国家の拡張路線に対抗する姿勢を示している。(それなのに)ダブルスタンダードは許されない。日本の国の価値を落としてしまう」と語った>
思惑違いのガソリン価格急騰
トランプ氏が期待していたイラン民衆の蜂起、体制奪取は砂上の幻と消え、最高指導者にハメネイ師の次男、モジタバ師が選出された。イラン国軍とは別組織の革命防衛隊(約19万人)は地下基地に秘匿していたミサイル、ドローンなどで周辺諸国の石油施設などに頑強な攻撃を続け、原油動脈のホルムズ海峡を封鎖状態に置いたと宣言。
この戦争の継続期間についてトランプ大統領の発言は揺れ動いているが、世界の原油価格が開戦後の2週間で25%値上がりしたのは最大の誤算だろう。米国はシェール革命以降、日量1,300万バレルを超える世界最大の原油生産国だ。しかし、米国のガソリン価格は国際市場に連動しており、遠く離れた場所での供給途絶が価格に影響を与える。
トランプ氏の支持率は低迷(各種調査の平均値を算出すると2月下旬で42.2%)しており、下院議員全員と上院議員の3分の1を改選する今年11月の中間選挙では下院の多数派を野党民主党に奪還される見通しが強い。
日英仏韓などに米が艦船派遣を要請
そうした中でトランプ氏は15日、封鎖状態のホルムズ海峡での船舶護衛について7カ国程度に艦船派遣を求めたことを明らかにした。前日には日本や英、仏、中国、韓国の5カ国を名指ししていた。大統領は「これらの国には、エネルギーを得ている場所、いわば〝自国の領土”を守るよう求めている」と述べた。これに対して「勝手に始めた戦争に対して、国連での決議も何もないのに、関係諸国が(なぜ)巻き込まれなければならないのか」(16日のフジテレビ系番組でメインキャスター)と怒りの声も出ている。
ペルシャ湾内には今も日本関係船舶が45隻停泊し、うち5隻に日本人24人が乗船している。
派遣拒否も予想されたフランスは一転し派遣するようで、日本の対応が注目される。この問題に関しては集団的自衛権を認めた安倍政権下の平和安全法制を審議した中で、ホルムズ海峡での機雷設置が「存立危機事態」に該当し得るとの首相答弁も関係してくるとみられる。設置された機雷を除去するのは国際法規上、相手国に対する戦争行為となり、もし日本が機雷の掃海に関与すればイラン側から敵国認定されることも予想される。
ロイター通信は16日、東京発で日本政府が自国の関係船舶や乗員保護のための情報収集を目的に、中東地域へ自衛隊を派遣する可能性を探っていることが分かったと報じた。ホルムズ海峡への護衛艦派遣は、戦闘が続く現時点で難しいと判断。ペルシャ湾やホルムズを除外して派遣した2019年と同様の形を取ることを視野に入れているという。
(了)