世界大学ランキングに異変 西側先進国失速アカデミズムも 米英の突出した地位に陰り 欧州大陸主要国も順位低下 東アジア、東南アジアが急迫 日本は欧米主要国と同じか

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 今年も英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」の世界大学ランキングが9月30日に公表された。1位から10位までを米国と英国の大学が占める結果はこれまでと変わりない。上位200位内の校数も、米国が53校と飛び抜けて多く、2番目に多い英国が25校と米英両国の圧倒的優位に変わりはないように見える。ところがTHEの見立ては「世界の学術界の最上位層における欧米大学の独占体制は、ますます揺らぎを見せている」。トランプ大統領の関与が大きい米国内外の混乱や悲惨な事態に加え、欧州諸国の財政不安や極右政党の勢力拡大など政治、経済面での欧米先進国の優位はだいぶ怪しくなってはいる。長年、突出した実績と評価を維持してきたとみえるアカデミズムの世界でも似たような状況が顕在化しつつあるのだろうか。

 1位オックスフォード大学、2位マサチューセッツ工科大学、3位プリンストン大学とスタンフォード大学が同順位、5位ケンブリッジ大学、6位ハーバード大学、7位カリフォルニア工科とイェール大学同順位。特に大学ランキングなどに関心がない人でもよく目、耳にする大学ばかりで、これらがトップ10に並ぶことに違和感はないかもしれない。しかし、THEの発表文には、次のような記述もみられる。

高い評判に支えられた順位 

 「英語圏の各国で各大学は依然として高い評判に支えられているが、研究の質を含むその他の指標では、全体的に低下傾向が見られる」。「米国の教育機関はトップ10のうち7校を占めたものの、研究力、論文被引用数、留学生数など、ほとんどの指標において同国の総合的な評価は低下した」。「米国では『政治的干渉』が『科学的卓越性と学術制度』を損なっている」。「英国の大学は財政的課題に特に苦しんでおり、機関収入、研究収入、産業界からの収入といったあらゆる収入指標評価点が世界平均に比べて減少しているほか、研究力や研究生産性も大幅に低下している」。「フランスもランキング上位4校がいずれも約10ランクずつ順位を落とした。同国でトップ200に入ったのは、昨年の5校から3校に減少した」

 ではこれら欧米主要国を脅かしているのはどこか。こちらもTHEの発表文から拾ってみる。「西側諸国の多くで相対的な順位低下が見られるのとは対照的に、東アジアおよびASEAN(東南アジア諸国連合)地域では主に研究評価の向上にけん引され、全体として順位が上昇した。ASEAN地域では、教育評価においても大幅な改善が見られた」。「中国は、トップ200にランクインする大学数が13校で横ばいとなっていた3年間の膠着状態を打破し、今年は17校がトップ200にランクインし、そのうち71%が順位を上げた」。「アジアを代表する教育機関である清華大学は、スイスのスイス連邦工科大学チューリヒ校を抜き、11位に順位を上げた。トップ10入りは惜しくも逃したが、アジアで最高位の大学が、ヨーロッパ本土のトップ大学を初めて上回る結果となった」

 「シンガポール国立大学も二つ順位を上げて15位となったことで、(清華大学、北京大学と合わせ)トップ15に今回初めてアジアの大学が3校入った」。「東南アジアは、シンガポール国立大学を筆頭に、上昇傾向を維持している。シンガポールの南洋理工大学も、31位タイから28位へと順位を上げた」。「マレーシアはマラヤ大学がついにトップ200にランクインし、上昇傾向を維持している。特に『外国人学生比率』や『外国人教職員比率』といった『国際性』指標で著しい改善が見られ、これは同国をグローバルな高等教育のハブとして位置づけ、広い地域から学者を誘致しようとする政府の取り組みを反映している」

客観的指標の評価低下

 数字で比べた方が分かりやすいか、とTHEの発表資料を基に、上位200に入った大学がある国・地域の前年結果との違いが分かる表を作ってみた。2校以上上位200に入った国のうち、前年より順位を上げた大学が上位200校に入った大学の半数を超すのは、中国17校中12(比率71%)、韓国6校中5(同83%)、デンマーク3校中3(比率100%)、シンガポール2校中2(同100%)、スペイン2校中2(同100%)。5カ国中、アジアの大学が3カ国計19校と、欧州大陸の2カ国計5校を大きく上回る。

 逆に上位200校のうち順位を下げた大学が半数を超すのは、スウェーデン4校中4(同100%)、フランス3校中3(同100%)、スイス6校中5(同83%)、日本5校中4(同80%)、ベルギー3校中2(同67%)。欧州大陸の大学が4カ国計14校に上るのに対し、アジアでは唯一日本の4校のみとなっている。

 半数は超えなかったものの米国は53校中24校(同46%)が順位を下げ、順位を上げたのはそれより少ない17校(同33%)に留まる。英国は25校中12校(同48%)が前年より順位を上げたものの、10校(同40%)が順位を下げた。結局、米英両国にカナダ、欧州大陸国を加えた欧米諸国の上位200大学は147校と依然、大多数を占めるとはいえ、前年よりは11校減った。さらに147校のうち前年より順位を下げたのが71校(48%)あり、順位を上げた64校(44%)を上回る結果となっている。

 一方、上位200の残る53校のうち、最も多かったのはアジア地域で38校(前年より5校増)。このうち昨年より順位を上げた大学が24校(63%)あり、順位を下げた10校(26%)を上回る。

主観的な評判評価が支え

 欧米先進国の大学の評価低落がこの程度で済んでいるとみなされる理由としてTHEが挙げた中で目を引くのは「依然として高い評判に支えられている」という記述だ。THEの世界大学ランキングは「教育(学習環境)」(配点比率29.5%)、「研究環境」(同29.0%)、「研究の質」(同30.0%)、「企業との関係」(同4.0%)、「国際性」(同7.5%)の五つの指標による評価法となっている。五つの指標は計17の項目から成っているが、このうち「教育(学習環境)」「研究環境」指標の中でもっとも配点比率が大きいのが、世界の有力な研究者を対象にした調査に基づく「評判」によって大学を評価した項目。主観的要素の濃いこの評価項目の配点比率は「教育(学習環境)」「研究環境」二つを合わせると全体の33%を占める。残る67%は論文の被引用数や教職員一人当たりの学生数といったより客観的な多くの項目から成る。

 こうした客観的指標項目に対する欧米先進国の評価点数は低下しているものの、残る33%の主観的要素の濃い評価項目で依然として高い評価点数を得ている。この程度の低落で済んだのはそのため。THEの発表文からはこんな現状が読み取れる。

 「THE世界大学ランキング2027」

上位200位内に入った大学がある国・地域の前年結果との比較(太字はアジアの国・地域)

国・地域上位200大学数 (前年)前年より順位が上昇した大学数(比率)前年より順位が低下した大学数(比率)最上位大学名(ランキング順位)
米国53(55)17(33%)24(46%)マサチューセッツ工科大学(2)
英国25(26)12(48%)10(40%)オックスフォード大学(1)
ドイツ19(18)9(47%)9(47%)ミュンヘン工科大学(25)
中国17(13)12(71%)3(2%)清華大学(11)
オランダ10(11)3(30%)4(40%)デルフト工科大学(50)
オーストラリア10(10)5(50%)5(50%)メルボルン大学(=34)
カナダ9(9)5(56%)3(33%)トロント大学(22)
スイス6(6)1(17%)5(83%)スイス連邦工科大学チューリヒ校(12)
韓国6(6)5(83%)1(17%)ソウル大学(56)
日本5(5)1(20%)4(80%)東京大学(27)
香港5(6)2(40%)1(20%)香港大学(33)
スウェーデン4(4)0(0%)4(100%)カロリンスカ研究所(55)
イタリア4(3)3(75%)1(25%)ボローニャ大学(=111)
ベルギー3(4)1(33%)2(67%)ルーベン・カトリック大学(45)
フランス3(5)0(0%)3(100%)PSL研究大学(57)
デンマーク3(3)3(100%)0(0%)コペンハーゲン大学(81)
シンガポール2(2)2(100%)0(0%)シンガポール国立大学(15)
オーストリア2(2)1(50%)0(0%)ウイーン大学(95)
フィンランド2(2)1(50%)1(50%)ヘルシンキ大学(=118)
スペイン2(2)2(100%)0(0%)バルセロナ大学(=143)
ノルウェー1(0)0(0%)1(100%)オスロ大学(=118)
カタール1(O)1(100%)0(0%)ハマド・ビン・ハリファ大学(=126)
台湾1(0)1(100%)0(0%)国立台湾大学(=126)
ブラジル1(0)1(100%)0(0%)サンパウロ大学(=141)
アイルランド1(0)1(100%)0(0%)トリニティ・カレッジ・ダブリン(=171)
サウジアラビア1(0)1(100%)0(0%)キングファハド石油鉱物大学(=176)
南アフリカ1(0)1(100%)0(0%)ケープタウン大学(=147)
マカオ1(1)0(0%)1(100%)マカオ大学(=154)
ニュージーランド1(1)0(0%)1(100%)オークランド大学(=168)
マレーシア1(0)1(100%)0(0%)マラヤ大学(=194)
  
欧米地域合計147(158)64 (44%)71 (48%)
アジア地域合計38 (33)24 (63%)10 (26%)

 (Times Higher Education World University Rankings 2027」「同2026」から作成):数字の前の=は、同順位(タイ)を示す

主観的評価重視の「QS世界大学ランキング」

 THEと並んで有名な世界大学ランキングに「QS世界大学ランキング」がある。英国の高等教育評価機関「クアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds)」が、THE同様、毎年公表している。今年6月に公表された最新の「QS世界大学ランキング2027」を見直してみた。米英をはじめとする欧米先進国の大学とアジア地域の大学との力量差は、「THE世界大学ランキング2027」以上に縮まっていることが読み取れる。

 QS世界大学ランキングは、「学術関係者からの評判」(配点比率30%)、「教員一人当たりの論文被引用数」(同20%)、「雇用者からの評判」(同15%)、「学生一人当たりの教員比率」(同10%)、「外国人教員比率」、「留学生比率」「持続可能性」、「雇用成果」、「国際研究ネットワーク」(同各5%)という9項目の評価指標の合計点数で順位付けしている。THE世界大学ランキングの評価法との大きな違いの一つが、「学術関係者からの評判」と「雇用者からの評判」という主観的要素の濃い項目の配点比率が計45%と、THEの33%を上回ることだ。その分、「教員一人当たりの論文被引用数」や「学生一人当たりの教員比率」といった研究と教育に関する数値を基にしたより客観的な指標の配点比率は67%のTHEの方が55%のQSより大きい。

上位200アジアから44校

 「QS世界大学ランキング」の発表資料を基にアジア地域の上位200大学の前年との比較をみる表も作成してみた。上位200に入ったアジアの大学は「THE世界大学ランキング2027」の38を上回る44校。THEにはないインドとインドネシアの大学も入っている。さらに順位をみるとアジア地域の評価上昇がよりはっきりする。「THE世界大学ランキング2027」では、シンガポール国立大学が15位になったことで初めて上位15位内にアジアから3校が入ったことが特記されていた。しかし、「QS世界大学ランキング2027」では、シンガポール国立大学(10位)、香港大学(11位)、南洋理工大学(12位)、北京大学(13位)、清華大学(14位)と5校が上位15に並ぶ。THEの世界大学ランキングではこれまで欧米先進国以外の大学が上位10に入ったことはないが、シンガポール大学は4年前に8位に浮上して以来4年間10位内の順位を維持している。

 上位30の大学数を比べてみても「THE世界大学ランキング2027」の5校に対し、「QS世界大学ランキング2027」の方が7校と多い。こうした結果から見えてくることは何か。「QS世界大学ランキング」より欧米先進国の順位が総じて高く出ていた「THE世界大学ランキング」においても、今後は欧米先進国にとってさらに厳しい結果が予想されるということだろう。THEのランキングの方がQSランキングよりも「研究の質」といった数値を基にしたより客観的な評価項目の配点比率が高い。「依然として高い評判に支えられているが、研究の質を含むその他の指標では、全体的に低下傾向が見られる」。今回すでにこうした変化が示されたということは、今後、THE世界大学ランキングも、QS世界大学ランキングに似てくることが十分予想できるということではないか。数値で明確に裏付けられるより客観的な評価項目は、「評判」のような主観的要素の濃い評価項目に比べ、新しい変化をとらえるのが早いとみられるからだ。

欧米先進国に近いか?日本の大学

 ところで日本の評価はどうか。「THE世界大学ランキング2027」の上位200に日本は前年と同じ5校が入った。しかし、東京大学27位(前年26位)、京都大学62位(同61位)、東北大学106位(同103位)、大阪大学147位(同151位)、東京科学大学185位(同166位)と、大阪大学を除く4校が前年より順位を下げている。

 THEの発表文は次のように記している。「日本では、政府が大学の質向上に向けた取り組みに継続的に投資しているにもかかわらず、東京大学と京都大学がいずれも1ランクずつ順位を下げ、それぞれ27位と62位タイとなったことから、低迷の兆しが見られる」。さらに中国と日本の状況に詳しい黄福涛広島大学高等教育研究開発センター教授の次のようなコメントも。「限られた数の大学に資金を提供するだけでは、根本的な構造的問題をすべて解決できるとは考えにくい」

 「QS世界大学ランキング2027」ではどうだったか。日本の上位200大学は東京大学39位(前年36位)、京都大学64位(同57位)、大阪大学95位(同91位)、東京科学大学97位(前年は統合前のため評価対象外)、東北大学102位(同109位)、名古屋大学156位(同164位)、九州大学171位(同170位)、北海道大学179位(同170位)。前年より順位が上がったのは東北大学と名古屋大学の2校のみだが、「THE世界大学ランキング2027」の5校より3校多い8校が上位200に入っている。しかし、前々年の10校から前年の9校、さらに今年の8校と数が減り続けているのはアジアの中で日本だけだ。THEが「全体として順位が上がっている」と認める「東アジア、ASEAN地域」に日本が含まれるとみることはできないだろう。

25年以上前の業績多いノーベル賞

 昨年、坂口志文大阪大学特別栄誉教授・京都大学名誉教授がノーベル生理学・医学賞、北川進京都大学総合研究推進本部長がノーベル化学賞を受賞したのに続き、今年も硤合憲三東京理科大学名誉教授がノーベル化学賞を受賞した。硤合氏以外のノーベル生理学・医学賞、同物理学賞、同化学賞の受賞者5人は米国、フランス、ドイツの大学に所属する欧米先進国の研究者ばかり。こうした結果をみると、欧米先進国や日本の大学の評価に陰りが、という見方に違和感を覚える日本人は少なくないかもしれない。しかし、ノーベルノーベル生理学・医学賞、同物理学賞、同化学賞については、次のような指摘がある。受賞者発表を前に毎年、他の研究者から引用された論文が特に多い、つまり重要な研究成果を挙げているかどうかを主たる評価法として、受賞の可能性が高い研究者を「クラリベイト引用栄誉賞」としている公表している国際学術情報サービス会社「クラリベイト」の担当者による分析結果だ。

 「ノーベル賞の対象となった研究成果はこれまで25年以上前のものが多かった」(安藤聡子アカデミア・ガバメント事業部リード・ビジネスソリューションコンサルタント)。硤合氏の授賞理由となった研究成果は30年前に論文として公表されたもので、共同受賞者のアンリ・カガン・パリ第11大学教授の研究成果はそれ以上前に発表されている。欧米先進国さらには日本の大学の現在の実力とノーベル賞受賞者が輩出しているかどうかを単純に関連付けすることはできない、ということのようだ。

 「QS世界大学ランキング2027」

上位200位内に入った大学があるアジア国・地域の前年、前々年からの校数変化

国・地域大学数 (前年、前々年)前年より順位が上昇した大学数(比率)前年より順位が低下した大学数(比率)最上位大学名(ランキング順位)
中国10(9、9)8(80%)2(20%)北京大学(13)
韓国7(6、7)4(57%)1(14%)ソウル大学(38)
日本8(9、10)2(25%)5(63%)東京大学(39)
香港5(5、5)4(80%)0(0%)香港大学(11)
マレーシア4(5、5)2(50%)2(50%)マラヤ大学(56)
台湾4(3、1)4(100%)0(0%)国立台湾大学(54)
インド3(3、2)2(67%)1(33%)インド工科大学デリー校(118)
シンガポール2(2、2)0(0%)1(50%)シンガポール大学(10)
インドネシア1(1、0)0(0%)1(100%)インドネシア大学(189)
合計44(43、41)26(60%)13(30%)

  (QS World University Rankings 2027、同 2026、同2025から作成)

                      (了)