高市政権のこのようなやり方にはとても納得できないー。6月26日、政府がまとめた皇室典範改正案の全容が判明した。この改正案には、旧宮家出身の男系男子を養子縁組で皇族とする案について、養子となった皇族男子(配偶者と子のいない15歳以上)の子孫の男系男子が皇位継承資格を有することが明示されている。木原稔官房長官は同日の記者会見で「皇位継承は男系男子とする現行の皇室典範の規定が(養子の子や子孫に)適用される」と説明したという。
これは衆参両院議長がまとめた「立法府の総意」にはない内容だ。今回の議論は「皇族数確保」が建前だったはず。それが、政府の骨子、要綱と段階を踏むごとに「男系男子」への皇位継承の色彩が濃厚になり、政府改正案では「養子の子に皇位継承権」となった。「養子案」は野党からの反対もあり、世論の支持も拮抗していることなどから、高市早苗政権はこのような進め方をしたのだろうが、「立法府の総意」をないがしろにした「とても公正とは言えない進め方」(27日付朝日新聞社説)である。
私は26日、この政府要綱について「偽装された男系男子による皇位継承案」とFBに投稿した。これでは「偽装」ですらなく、女性・女系天皇賛成の多数派の世論や議論を全く無視した、とんでもない政府改正案である。強権的な政権のこのようなやり方にはとても納得できない。議論の進め方も拙速で、いったん撤回して議論をやり直すべきである。
毎日新聞によると、現行の皇室典範は第1条で「皇統に属する男系の男子」による皇位継承を規定。第2条で皇位継承順位を定めている。改正案で養子本人について2条は「適用しない」とし、皇位継承資格がないことが規定された。
一方、養子本人の子や子孫については「2条の規定の適用については、実方(養子の実家)の系統によるものとする」と明記。養子の子(男子)には2条が適用され、皇位継承資格を有することが明確化された。これは悠仁親王が結婚して男子が生まれない場合、今上天皇とは別な系統の養子の子(男子)が皇位を継承する可能性があることを示唆する。
養子は自民党保守派 が「男系男子」の伝統のよりどころとする明治の皇室典範(現行の一般法と異なり、憲法と並ぶ位置にあった)でも、できないことになっていた。これと矛盾する「養子案」は保守派のご都合主義にしか見えない。
朝日は社説で、養子解禁について、女性・女系天皇への道を妨げるのみならず、①事実上の世襲の貴族をつくることにつながる②今の天皇家と共通の男系の祖先は室町時代にさかのぼり、国民に受け入れられるか懸念される③養子選びの時の政権の恣意が入る恐れがある④国民に信頼される有為な人材が実際にいるのか不明ーなどとの懸念を示す。さらに、養子は、「意思に基づき、皇族の身分を離れることはできない」としており「事情を十分に理解できないまま皇室に入り、その後は一生離脱が認められないとすれば人権上の問題が大きいとする。
朝日社説が指摘する懸念はもっともで、「男系男子」に固執するあまり、皇室に新たな人権侵害が起きる可能性がある。それでなくても、天皇や皇族の様々な人権上の制約という問題は「象徴天皇制」にとっても大きな課題である。さらに、その課題を増やすことにならないか。憲法に違反し、戦後民主主義に逆行するのではないかが心配である。
一方、高市陣営によるとされる「中傷動画」疑惑。高市氏は26日の参院災害対策特別委で、22日の「秘書の陳述書をもって答弁とさせていただきたい」と事実上の答弁拒否をしたが、これを軌道修正したらしい。朝日新聞によると、高市氏は「陳述書を提出し、国会での質問に対応しないという趣旨ではない」と述べ「あらかじめ陳述書を提出し、全体像を読んでいただくことで、理解が深まると考えた」と釈明した。
国会で長々と質問にない持論を展開し、「眠れない」と同情を引き、挙句の果てに逆切れする。そして、答弁が二転三転する。いずれも7月17日と迫った国会閉会を狙った時間稼ぎなのだろう。高市政権は何でもありである。
▼週刊文春は「今後も取材を続けていく」と決意表明
高市氏をめぐる自民党総裁選や衆院選での「中傷動画」疑惑。週刊文春は6月18日発売のトップ記事「高市首相『中傷動画』 全ての疑問に答える」との4ページの記事で、「中傷動画に時系列上の疑義がある」とのネット上で指摘について、再検証し、関連動画の公開を一時停止したことに対して詳しい経緯を説明した。陣営が中傷動画に関与したとする内容は「揺るがない」としている。
週刊文春によると、今回、ネットなどで指摘を受けたすべての動画を検証。これまで高市陣営によるものとして報じてきた中傷動画は計23本。動画には2種類あり、20本は起業家松井健氏が作成したもの、3本がTikTok(ティックトック)アカウント「真実の政治」に投稿されていたものだった。松井氏作成のもののうち、4本の動画に時系列上の齟齬がある写真が使われていた。総裁選に関する自民党の小泉進次郎氏を揶揄したり、高市氏に関する動画だった。いずれも、昨年の総裁選や今年の衆院選の後に撮影・公開された写真が含まれていたという。
松井氏側に問い合わせたところ、弁護士を通じて「スタッフに動画データの復元・探索を依頼し見つかったものを文春側に提供した。このような事態になって驚いている。私が候補者の求めに応じ、動画の作成・拡散に携わっていたという一連の話は間違いなく事実だということです」と説明した。一方、「真実の政治」の3本の動画については、時系列上の疑義は一切確認されなかった。3本の動画は、高市陣営が松井氏の協力を得る前から、高市氏の公設第1秘書の木下剛志氏が先導する形で動画作戦を進めてていたものだ。週刊文春はネット上に投稿されていた3本の動画を保存。高市事務所に4月23日に質問状を送った後、このアカウントは突如「永久停止」となっていた。
松井氏側が作成した動画の一部に疑義が生じたため、週刊文春は関連動画の公開を一時停止する。ただ、「真実の政治」の動画やシグナルのメッセージなどが存在している以上、高市陣営が他候補の中傷に関与していた事実は揺らぐものではないと強調している。
この問題のカギは木下秘書と松井氏の関係を示す最重要証拠の一つである昨年12月17日のビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」による会議だ。会議の音声によれば、この日の主要議題は暗号資産(後にサナエトークンとして発表)を使った政策アンケートだった。週刊文春は電子版でこの時の音声を公開した。しかし、高市氏は木下秘書の音声かどうかの答弁を変遷させている。そこで、警察の捜査などに協力する研究所に、この会議と過去にテレビの取材に応じた木下秘書の声を比較してもらった。その結果は「同一人物の音声と推定してよい」というものだった。
こうして、週刊文春は「なぜ、高市首相はこの音声を木下秘書と認めようとしないのか。中傷問題とは別の根深い問題につながっているからだ」とし、暗号資産「サナエトークン問題」に言及。今回、再検証する中で浮き彫りになったのは、首相の公設第1秘書の木下剛志氏が他候補を中傷する動画の交流サイト(SNS)アカウントに携わり、「ネガキャン」を繰り返し指示していたこと。そして声紋鑑定の結果は、一連の首相答弁の整合性を揺るがすものだということだ。今後も本件をめぐる取材を続けていくとの決意を表明している。
この記事の中での松井氏側のコメントは、時系列的に疑義のある4本の動画について、納得のいく説明とはいえない。後から作成したと疑われても仕方がない内容だ。ただ、松井氏と木下秘書との間のメールやシグナルなどの連絡記録が残されていることや松井氏が作成したものではない「真実の政治」の中傷動画が残されていることなどから私は週刊文春の説明には納得する。週刊文春は本筋が揺るがない詳細な理由を挙げているので、ぜひ読んでほしい。国会では、立憲民主党の森裕子らの「サナエトークン」問題への追及が続いている。22日の衆参予算委での審議に注目したい。(6月18日)
▼高橋純子氏の胸に突き刺さる「変化球」
朝日新聞の高橋純子編集委員の政治批評はいつも批判精神だけでなく、諧謔的な文章が散りばめられており、その持ち球の「変化球」はいつも私の胸に突き刺さる。高橋編集員が書く「多事奏論」が待ち遠しいほどの私は大ファンである。
そこで今日(6月20日付朝刊)のテーマは「中傷動画 雑な高市氏の弁明 ゆらぐ民主主義」。そのキーワードは「高市ブルー」。記事には、何の説明もないが、ブルーは高市氏が好きなファッションの色。「高市ブルー」は、このブルーをもじり、高市氏の振る舞いに対して何となく「鬱」になる気分を指しているのだと私は解釈した。
まず書き出しがすごい。
「世の中は『サムライブルー』に沸き立っているようだが、私は絶賛『高市ブルー』である。厭世観にさいなまれ、深く眠れず、脳が目詰まりを起こして、カラフルだった世界はモノクロに一変した。あのポテトチップスのパッケージが白黒に見えるのだから重症である」
これに続いて、高市陣営による総裁選や衆院選での他候補を中傷する動画問題に言及。
「この国の民主主義を揺るがす重大な疑惑がこの国の最高権力者に降りかかっている以上は、政権・与党の総力を結集して対応にあたるのがふつうだろう。ところが、高市政権はふつうじゃない。対応が雑。尋常じゃなく雑。過去イチ高イチ雑すぎて減!」
日本国旗損壊罪にも触れる。
「『国旗損壊罪』法案が今国会で成立する見通しだ。首相はかねて『日本の名誉を守る上でも必要』と訴えるが、民主主義損壊疑惑を抱える人たちに言われても片腹痛い。顔を洗って出直すのが筋である」
読み進めるうちに「そうだ。そうだ。その通り」と心が納得してしまう。そして、締めの言葉ー。
「ガラスの天井を突き破ってくれると期待したら、屋根ごと吹っ飛ばされてしまった感。空は青い。私のブルーは加速する。」
読む人に好き嫌いはあるだろうが、「直球」しか書けなかった自分の記者時代を振り返り、「迷文」なのかもしれないが、その圧倒的な存在感や説得力に舌を巻くほかはない。見事な文章である。
ところで、19日の参院本会議。G7から帰国したばかりの高市氏は公設秘書と動画を作成したと主張する松井健氏にオンライン会議で同席したことがあるかと問われ、高市氏は「その可能性は否定しない」と答弁。松井氏については「秘書としてははっきりとした記憶はなく、直接お会いしたこともないため、面識がない方との認識だ」と述べた(朝日20日付朝刊)。
「面識はない」「お会いしたことなない」からやっと出た「記憶はない」という言葉。私が検察担当として現役記者だった1976年のロッキード事件で、国際興業の小佐野賢治氏が国会での「証人喚問」で発した「記憶にございません」という言葉を思い出した。
共同通信に続いて、週刊文春も再検証の結果、中傷動画23本のうち4本に時系列的に合わないものが出てきたことで、せっかく始動し始めた大手メディアの報道がまた消極的になってきたように見える。大手メディアは高支持率が続く政権に忖度などせず、萎縮せずに報道をすべきだ。週刊文春は検証記事で高市陣営が中傷動画に関与した内容は「ゆるがない」との決意を表明している。
国会閉会は7月17日。高市氏は7月上旬にインド訪問を予定している。聞かれもしない余計なことばかりを長々と話し、のらりくらりと野党の質問をはぐらかすのが高市氏の得意技である。時間はあまりない。22日に国会の予算委でこの問題での集中審議がある。暗号資産「サナエトークン」という本丸を立憲や中道、共産の野党は徹底追及してほしい。逃げ切りを許してはならない。 (6月20日)
▼秘書の陳述書だけで逃げ切る気なのか
6月22日に開かれた衆参両院の予算委員会審議。午前中は中道改革連合の後藤祐一氏に、午後は立憲民主党の杉尾秀哉氏にいわゆる「中傷動画問題」で厳しく追及された高市氏。この問題での一連の答弁での矛盾を突かれると、一方的にしゃべりまくり時には開き直りまた逆切れするなど顔を硬直させながらの答弁に終始した。
高市氏は午前中の衆院予算委で、公設第1秘書の木下剛志氏の説明などを陳述書の形で予算委理事会に提出すると述べ、「動画作成疑惑」や暗号資産「サナエトークン」への関与をめぐる後藤氏の質問に正面から答えない事実上の「答弁拒否」。坂本哲志委員長(自民)が「陳述書を私が預かり、理事会で協議していただきたい」と露骨に高市氏に寄り添う姿勢を示したため、後藤氏が「質問を圧殺するのか」と強く反発する姿も見られた。
参院でも、高市氏は、藤川政人委員長(自民)から3回も続けて「簡略に答弁願います」との警告を無視してみっともないほど一方的に持論を主張し続けた。一国の首相として恥ずかしい姿をテレビを通して国民に見せつけた。20、21の両日実施の世論調査で朝日がこの問題での首相の対応に「納得できる」26%、「納得できない」37%。同じ日の共同通信調査では、49・7%が首相の説明を「不十分」と回答している。やはり、木下秘書と中傷動画を作成し、「サナエトークン」の開発に関わったとされる起業家、松井健氏について、国会での「参考人聴取」か偽証罪のある「証人喚問」しかない。
午前中、後藤氏は、松井氏と木下秘書が無料通信アプリLINE(ライン)でやりとりしていたのではないかと質問。これに対し、高市氏は一切答えず、「近日中に秘書の陳述書と、暗号資産に関する相手企業から送られてきた提案書を理事会に提出させてください。それをもって答弁とさせていただきたい」と述べた。さらに、自民党総裁選での中傷動画作成疑惑への対応により「残念ながら首相としての業務時間を確保できなくなっている」と訴えた。
杉尾氏は午後の審議でこれまでの一連の答弁と同様の主張を繰り返す首相に強く反発。「聞かれてないことを長々しゃべる、時間を使う。私の持ち時間は25分しかない。ここまででもう8分。ほとんど総理が一人で聞かれてもいないことをずっとしゃべっている」と批判した。陳述書を出すことで詳細な問いへの答弁としたい」との首相の意向について「野党の質問に真摯に答えない。秘書の陳述書を出す。それで勘弁してくださいと言われたが、総理は自分で答弁されるつもりがないのか」と迫り、続いて「サナエトークン」と名づけられた暗号資産への首相側の関与を追及したが、首相は関与を再度否定した。
(以上、すべてをメモを取りながらテレビ中継を見ていたが、朝日新聞デジタル、日刊スポーツ、フジテレビのネットでの報道を参考にした)
あくまで想像だが、高市氏は英国、イタリアの訪問中や、フランスで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)に参加の間にも予算委での野党の追及が気になって仕方がなかったのではないか。この問題での記者会見を一切やらず、約290万人といわれるXのフォロワーだけを頼りにしてきた高市氏。その答弁はあまりにも感情的で見苦しかった。各社の世論調査の支持率結果が共同通信(55・8%)や時事通信(54%)、毎日(51%)と50%台になるなど、少しずつだが落ち始めている。(6月22日)
6月23日の「沖縄戦81年慰霊の日」。高市早苗首相は昨年10月の首相就任後初めて沖縄を訪問。平和祈念公園での「沖縄全戦没者追悼式」に参列した。首相は「私たちが享受している平和と繁栄が、沖縄の歩んだ筆舌に尽くしがたい苦難の歴史の上に築かれた」と述べ、「基地の整理縮小や跡地利用を進める」などとあいさつした。
その内容は「苦難の歴史」と言いながらも「安保・経済」に偏重、決して心から沖縄の人々に寄り添うものではなかった。首相あいさつの際に、会場の各所から異例の「戦争反対」や「憲法9条を守れ」などの市民からの抗議の声が相次いだ。それらの市民を係員が強制的に排除する姿が見られた(琉球新報のユーチューブをみると排除の様子がよくわかる)。 その抗議の声は23日のテレビ朝日「報道ステーション」でも伝えられた。
式典後、高市氏はこのことについて記者団から問われ「その声自体がはっきりと何を言っているのか聞こえたわけではない」とし、「内閣総理大臣も国会議員も憲法順守義務を負っている。日本は戦争をやっていない。平和国家としての歩みを戦後ずっと続けてきたのが日本の誇りだ。平和を守るため、国民の命を守るために防衛力をしっかりと自主的に強化したい」(毎日新聞)と述べており、改めて「力による平和」を強調した形だ。
初めてデニー玉城沖縄県知事と会談したが、わずか5分。玉城氏は首相就任後、たびたび会談を求めてきたが、「日程調整」を理由に実現していない。少なくとも、今回、もう少し時間が取れなかったのか。やろうと思えば時間はとれたはずである。
高市氏は、玉城氏から普天間飛行場の辺野古移転や政権が進める沖縄を含む日本の南西地域で自衛隊の体制を強化する「南西シフト」などに触れられるのが嫌で逃げたのではないか。つい、そんな疑いが私の頭によぎる。
朝日の「首相動静」によると、市民らの声をきちんと聞く機会もなく、報道各社インタビューはたったの10分。午後6時前には公邸に戻っている。せっかく、沖縄まで来たのだから、沖縄の人々の生の声をきちんと聞く絶好のチャンスだったのではないか。あるいは、そんなつもりは全くなかったということなのだろうか。
殺傷兵器の輸出全面解禁、米国に言われるがままの防衛費の増強、「インテリジェンス機能の強化」を口実としたスパイ防止法制定(沖縄戦時には、日本軍が住民をスパイとして殺したこともある)を織り込んだ「国家情報局」の創設など、日本を「戦争できる国」へと促進する政策を次から次へと進める高市政権。防衛力の拠点となるのが沖縄だ。
この日も記者団に「内閣総理大臣も憲法順守義務を負っている」と答えながらも、首相自身はこれと矛盾する憲法改正の動きを強めている。衆院議員1期目の新進党時代の1995年。戦後50年の節目にアジア諸国への反省を示す国会決議に抵抗。「私自身は当事者とは言えない世代ですから、反省などしておりませんし、反省を求められるいわれもない」(朝日)と国会で言い放った過去のある高市氏。そもそも歴史から学ぶ姿勢が見られない。
太平洋戦争で唯一の地上戦を戦い、県民の4分の1が命を落とし、いまも米軍施設の7割が集中する沖縄の犠牲のことなど、あまり関心がないのだろう。
この人は大衆受けし、支持率が上がるパフォーマンスこそ得意だが、沖縄の基地問題を真正面から取り組む気などさらさらないのではないか。このような首相を日本がつくってしまったこと自体が悲しい。 (6月24日)
▼「睡眠もとっていない」と答弁 予算委開催に難色のなぜ
高市氏の公設第1秘書の木下氏が自民党総裁選や衆院選で他候補を中傷する動画のSNS投稿や必要な登録も得ずに発行された暗号通貨「サナエトークン」に何らかの形で関わったのではないかとされる疑惑。6月22日の衆院予算委で首相は「みなさまへの答弁資料も読みながら、時にはペンを入れながら本当に、(この問題のために)ほとんど睡眠もとっていません」などと聞く人の同情を引く語り口で野党の追及をかわし、疑惑を否定した。そのうえで秘書の「陳述書」提出で「それをもって本件に関する詳細な問いへの答弁としたい」と言い出し、この問題の幕引きを示唆する言葉を連ねた。
朝日によると、中道改革連合と立民は24日、首相が出席する予算委員会と党首討論の開催を強く求めたが、自民党はこれに難色を示した。与党が少数の参院では、政府提出法案の審議が滞る可能性が出てきたという。
参院自民と立民の国対委員長が会談し、自民側は予算委や党首討論開催について「今日の段階では応じられない」と伝えた。関係者によると、高市氏が参院自民幹部に対し、出席に難色を示したという。国会の会期は7月17日。首相はインド訪問も予定されており、秘書の「陳述書」提出で逃げ切る気なのか。疑惑は「中傷動画」「暗号資産」問題にとどまらず、中傷動画のSNS投稿を自らやったと週刊文春に告白している起業家、松井健氏と木下秘書の接点についての首相の「虚偽答弁」の可能性も出ている。
朝日はこの問題で2度目となる24日付朝刊社説で「陳述書は一方的な説明にすぎない。具体的に疑問点をただすやり取りが欠かせない。首相が潔白を証明したいのなら、秘書の参考人招致に堂々と応じるべきだ」と書いた。当然の主張である。22日の首相の国会での対応を見ると、「長広舌ではぐらかし、時には色をなして反論する」(朝日社説)だけではなく、衆院予算委では、中道議員の質問に対してまともに答えようとしない高市氏に、自民の予算委員長が何も注意せず、むしろ長々と自分の主張を言い続ける高市氏に寄り添うという議事運営を繰り返したのをテレビ中継で見て、怒りさえ感じた。
これは、国権の最高機関である国会での議論をないがしろにする暴挙であり、高市氏の幼稚な振る舞いは、常軌を逸していると思わざるを得ない。まだ、メディアではどこも首相自身が疑惑に直接、関与したなどとは言っていない。あくまでも秘書に対する疑惑である。にもかかわらず、秘書の疑惑にこんなにも感情的になり、強く反発するのはなぜなのか。具体的に疑問点をただす予算委を嫌がるのは、首相自身に何か都合の悪いことでもあるのかとつい勘ぐってしまう。
そこで25日発売の週刊文春。8回連続でこの問題を取り上げたことになる。ただし、今回は本筋の話ではない。「高市首相 暴かれた本性 独裁に党内から異論噴出!」とのテーマで5ページのトップ記事。ただ、それは、木下秘書が「文春は中国から毎週1千万円から2千万円の提供を受け、“高市内閣潰し”に協力している」との事実無根の「陰謀論」を知人に語っていたというものだった。「秘書を信じる」との高市氏の国会答弁を受けて、木下秘書の過去の発言を拾い、その人間性を疑う内容となっている。
例えば、木下秘書は、石破茂前首相について「石破さんなんて、半分以上中国人の血が流れてるんじゃないか」など言い、「(中略)有力政治家に媚中レッテルを貼った“デマ拡散YouTuber” への動画の一件なども踏まえると、首相自身も、よもや本気で小誌が中国から資金を得て自身を批判していると信じているのではないか、と疑ってしまう」と反論している。
一方で、22日発売の「週刊現代」。こちらは、フリージャーナリストの河野嘉誠氏がネット版の「現代ビジネス」などを使って暗号資産「サナエトークン」問題を追及してきた。週刊現代は「高市陣営『中傷動画』『サナエトークン』首謀者の正体」のテーマで中傷動画をSNS投稿したとする松井健氏を取り上げ、「正義の告発者」として振る舞う松井氏は「俺を裏切ったら、YouTuberに晒すぞ」と被害者たちに「逆切れ」していたことを書いている。
週刊現代によると、河野氏は発覚当初からこの問題を追い、高市事務所にも取材を重ねた。木下氏と松井氏によるLINEやオンライン会議でのやり取り、松井氏による「勝手連」での高市陣営支援、「ノーボーダー(暗号資産の発行元)」からの依頼で高市事務所(後援会)が「サナエトークン」を宣伝した経緯を追及した。高市事務所からは事実関係を認める回答を得た。それにも関わらず高市氏は国会で「週刊現代への回答書は事実と違う」と語り、木下氏と松井氏の接点も認めていない。そこで、高市事務所からの回答書の原本を現代ビジネスで公開。一転して、高市氏が答弁の訂正に踏み切ったとしている。これは河野氏の言う通りで、高市氏は確かに6月10日、衆院法務委でこの部分を訂正した。週刊現代が高市事務所からの回答書を表紙付きで報じた意味は大きかった。
河野氏によると、松井氏は初めから総理の名前を暗号資産ビジネスに利用するために高市事務所に近づいたとみられる。松井氏が週刊文春や共同で告発し始めた動機は何か。高市氏がサナエトークンとの関係を否定し、計画が崩壊したことへの「腹いせ」にも見えるが、それだけではない。
(中略)本誌が松井氏の本性を暴く中、彼は勝負に出た。4月以降、弁護士同伴で週刊文春の取材を受け「高市陣営として誹謗中傷動画を作成し、流布した」などと告発。急所となる「サナエトークン」から「誹謗中傷動画」へ世間の注目をそらそうとしたという。そのうえで、河野氏は週刊文春や共同が松井氏の言うとおりに裏取りもせずに「虚偽の経歴」を垂れ流したとする。そして「総理事務所もメディアも皆踊らされた。インテリジェンス強化を掲げる高市政権だが、ちゃんちゃらおかしい」と結んでいる。
週刊文春は誹謗中傷動画とされる文春オンラインでの有料公開動画23枚のうち4枚を「時系列が合わない」として一時停止にして、18日発売号で詳細な検証記事を掲載。高市陣営が中傷動画に関与したとする動画は松井氏と木下秘書のLINEなどの連絡記録が残されていることなどから、その内容は「揺るがない」として報道を続けている。
週刊文春と週刊現代は主な取材源が異なる。文春は松井氏で、現代は木下氏。松井氏は現代の、木下氏は文春の取材を拒否しているという関係だ。私から見れば、2人とも失礼ながら怪しいところのある人物である。それだけに書く際には、念には念を入れた慎重さが求められる。その中で、事実を証拠で裏付けながらひとつひとつ確かめていく取材は並大抵ではない。
私もこの問題の本丸は河野氏の言うように「サナエトークン」だと考えている。文春報道も当初は「誹謗中傷動画」が中心だったが、いまや一辺倒ではなく、「サナエトークン」にも積極的に言及している。朝日は今回この問題で2度目の社説を書き、日経や東京もすでに社説で書いている。週刊誌報道に大手メディアの報道が加わる。今こそ、メディアの正念場だ。 (6月25日)
▼偽装された皇室典範改正案要綱
立法の必要性がなく、「表現の自由」を侵しかねない日本国旗損壊罪と同様、「静謐な環境下で決める」「皇族数確保」などという言葉を巧みに使い、実質は多数の世論に反した「偽装された男系男子による皇位継承案」である政府の皇室典範改正案要綱が6月25日、各党派に代表者に示された。
いずれも、高市政権が日本維新の会と結んだ連立合意書にある「国論二分政策」である。なぜ、高市政権はこのような右派的な政策ばかりをやろうとするのか。本来、衆参両院の正副議長による話し合いの目的は、減少するばかりの「皇族数確保」にあったはずである。それが、政権は日本会議など宗教右派の後押しで「皇位継承」問題にすり替えた。これまで、国民と寄り添うことで支持を集めてきた「象徴天皇制」を揺るがす大きな問題である。もうあまり審議時間がない今国会で決めることなど許してはならない。
26日付朝日の「時時刻刻」がこの問題の本質を突いている。
25日夕、保守系議員が集まり、国会内で日本会議国会議員懇談会の総会があった。
「皇位継承は大きな歴史と伝統にもとづく。不安定な時の世論、特にメディアの世論調査などに、悠久の皇室の存在が左右される性質のものではない」
終了後、報道陣から世論調査の結果と国会での議論にズレがあると問われた。皇室制度プロジェクトチーム座長の柴山昌彦・元文部科学相はこう主張し、政府から示された要綱を評価した。
象徴天皇制に詳しい河西秀哉・名古屋大学大学院教授(日本近現代史)は要綱についての「男系男子論者の本音があらわになってきた」と指摘する。
そこで「時時刻刻」よりもこの部分に詳しい説明のある朝日新聞デジタルのインタビュー記事(25日配信)から河西氏の意見を紹介する(分かりやすくするために、私が付け加えた部分もある)。
河西氏によると、要綱でまず注目したのは「結婚した女性皇族に住民基本台帳を適用する」との項目だった。
天皇と皇族は皇統譜(皇室の戸籍簿)に登録され、戸籍や住民基本台帳に登録される一般国民とは扱いが異なる。しかし、要綱には一般国民と結婚した後も皇室に残る女性皇族には、住民基本台帳法を適用するとの記載がある。これは「他の皇族とは異なる『二流の皇族』という意味に取れる。河西氏は「(配偶者や子は)絶対に皇族にはしないという意味だ」と指摘する。
要綱は女性皇族の配偶者や子をどうするかに直接触れていないが、これでは、間接的に女性皇族の「配偶者や子」を皇族としないと明言したことにならないか。結婚した女性皇族は「二流の皇族」というよりも、「国家公務員」に近い存在ということになるのではないかと思う。「愛子天皇待望論」に象徴される「女系天皇」の芽をつぶすことにその目的があるのだと私は考える。
ただ、フェイスブックに投稿した立民の辻元清美参院議員によると、まだ「要綱」ではなく、「骨子」の段階だったが、各所に確認したところ、①女性皇族は皇族の身分を離れないため、皇統譜に残る②配偶者や子については結論を先送りするため、通常の戸籍のままとする③一家として生活する以上、住民基本台帳に登録し、居住の公証を明らかにするとともに、制度上の利便性を確保するーと整理している。
河西氏のもうひとつの注目点は、旧11宮家から受け入れる男系男子の養子について、「意思に基づき皇族の身分を離れることができない」とする項目だ。
河西氏によると、男性皇族は、天皇の子や孫に当たる直系が「親王」、それ以外は「王」の称号を持つ。このうち「王」について、皇室典範は自分の意思と皇室会議の議決によって皇室から離脱することを認めている。ところが今回の「要綱」では、「王」となる養子に自分の意思による離脱を認めていない。この点は、天皇に血縁が近く、皇位継承順位が高い「親王」と同様の扱いになっている。現在、親王は①秋篠宮②悠仁親王③常陸宮ーの3人。「王」はおらず、皇位継承権者はこの3人のみ。
今回、旧11宮家からの15歳以上の男性養子は、いったん皇族になったら、皇族をやめることは許されないことになる。何より重要なのは、今回の養子は皇族となり、皇位継承権はないが、皇室典範第1条の「皇位は、皇統に属する男系の男子がこれを継承する」との規定は変えないので、その子孫(男系男子)が天皇になる可能性があるということだ。この点を朝日は「時時刻刻」の記事で、皇室研究家の所功氏が「男系男子絶対主義をあいまいにしながら、男系男子に導こうという仕掛けが要綱の随所に埋め込まれている」と指摘する。
今回対象となる旧11宮家は戦後の1947年に表面上は連合国軍総司令部(GHQ)によるものとされているが、皇室経済上の理由もあって皇籍を離脱した人々である。約80年前に一般国民になっている。要綱では、「15歳以上の男子」というが、大部分の方々は父も、場合によったら祖父もすでに一般人だった。10人程度の候補者がいるとの報道もあるが、大体、なり手がいるのか。あるいは、法案が成立していないにも関わらず、すでに事情を聞いているのか。男系男子にこだわり続ければ、側室制度を復活させない限りいずれは皇位継承者はいなくなる可能性が高い。
また、日本の皇室と親しい欧州の王室を見ても、男女平等の立場などから「男女に関係なく、生まれた順」に王位を継承することは国際基準でもある(ただし、スペインは男子優先)。旧11宮家は約600年以上も前の室町時代の天皇が現天皇との接点で、愛子内親王や悠仁親王からざっと40親等も離れている(東京21日付社説)。
そもそも、明治の皇室典範以来、養子は政治的に利用される恐れなどの理由で認められてこなかった。今回の受け皿となる「養親」は、天皇や皇嗣の秋篠宮は省かれるが、すでにその選定自体について時の政権による「政治的利用」のにおいを懸念する指摘が一部の新聞や週刊誌などのメディアから出始めている。
月刊誌「文芸春秋」7月号。「皇族の政治的中立性が揺らぐ可能性もある」との対談記事で、政治学者の御厨貴氏は「具体的な議論をすると反対が出るから、大枠だけ通せばあとは何とかなるだろうと高市政権はそう考えている。実際,そう言っている官僚と話したことがある。この国の政治がときどきやる、一番まずい進め方だ」との分析も示唆に富む。
天皇陛下がオランダ、ベルギー訪問を前にした6月11日に行った記者会見での発言。国会での皇族数確保の議論について感想を問われて「制度に関わる事項については私から言及することは控えたいと思いますが」と前置きしたうえで、「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」と述べた。上皇陛下の「生前退位発言」もそうだが、天皇が自分に深く関係することについて発言することは憲法違反でも何でもない。そもそも、政府は一番の当事者である天皇や皇族から意見を聞いたのかー。(6月26日)