6月4日、5日に行われた衆参両院予算委での高市早苗首相の陣営による「中傷動画疑惑」の審議。答弁に立つ高市氏の姿はテレビで全国中継された。その表情は硬いままで、野党の厳しい追及にときおり「逆切れ」するなど一国を預かる内閣総理大臣として、正直言って見苦しい対応が目立った。
4月29日の週刊文春報道以来数回にわたり国会答弁したが、当初は、動画を作成した男性(起業家、松井健氏)と「私自身も秘書(木下剛志公設第1秘書)も面識のない方だ」と言っていたのが、その後「お会いしたことのない」と微妙に変わり、答弁の信用性のなさを見せつけた。この人の言葉はなぜこのように軽いのか。矛盾に満ちているのか。
週刊文春が第5弾スクープとして出してきた木下秘書と松井氏のZoom会議でのやりとりとされる音声。2人がオンライン会議をしていたならば、高市氏のこれまでの知らぬ存ぜぬの説明が崩れ、他の説明にも大きな疑義が生じる。そういう意味でも疑惑追及を続ける立憲民主党にとって「音声」問題は、大事な場面だった。だが、5日の参院予算委の答弁で、高市氏はのらりくらりとあいまいな対応に終始し、最終的には、木下秘書と松井氏の接点があることを否定した。以下、5日午前の予算委でのやりとりの関係部分を日本経済新聞Web版(5日付)からその要旨を拾ってみると(テレビ中継で見た上、ユーチューブでも確かめた)。
岸真紀子議員(立憲民主党) 2人の動画が公開された。確認したか。
首相 昨夜遅く確認した。内容は広く国民の声を聞くためにはどうしたらいいかというもので、総裁選と全く関係がない。(公開されたのは、昨年12月7日の高市陣営と松井氏の親密さを示す場面の音声で当然、総裁選と直接関係はない)
岸氏 音声は秘書の声か。
首相 秘書本人のものか判断は難しい。私と会話する時よりも、かなり高い声で、ハキハキとしゃべっていたので違和感があった。
岸氏 週刊現代では4月3日付の高市事務所からの回答書に中に12月17日のオンライン会議の話が出てくる。秘書と動画作成の男性はオンラインでやりとりしたのか。
首相 ある団体から招待されてリモート会議に参加したことは確認した。動画作成の男性とは異なる苗字の人物だったと思うとのことだった。
岸氏 首相はこれまで接点がないと説明した。
首相 面識がないと申し上げた。インターネット上でのやりとりがあったかどうかは、事務所には記録がなく分からない。
高市氏はこの答弁で「(相手は)松井氏とは異なる苗字の男性」としたうえで「リモート会議に参加したことは確認した」と述べたが、その相手側は不明だ。このような答弁は高市氏の得意技である。「ごはん論法」とも言える微妙な言い回しではあるが、この部分をとって、ただちに高市氏が木下秘書と松井氏の接点を認めたと解釈するのは難しい。
さらに、この日の午後に質問した共産党の山添拓氏は、木下秘書が「週刊現代」の取材にこの男性(松井氏)との接点を認める回答をしているとして「ご存じか」と追及。「記事を読んだ」と答えた高市氏に対して「つまり秘書とその男性との接点があることを認めるのか」とただした。高市氏は「認めていません」と答弁した。
山添氏が指摘した週刊現代での木下秘書が松井氏との接点を認める回答とは。週刊現代を発行する講談社のネット版「現代ビジネス」(4日、「高市総理の『面識のない方』は大間違い」によると、筆者のジャーナリストの河野嘉誠氏は「暗号資産『サナエトークン』問題を継続取材してきた筆者からみると、(木下秘書と松井氏のやりとりを否定する高市氏答弁)は実に不思議だ」として以下のように書く。
河野氏は3月上旬、高市事務所を尋ね、松井氏ともその後LINEでやりとりした。木下氏からは4月3日付で回答書が届き「12月17日のオンライン会議は、ノーボーダー(ユーチューブ番組「NoBorder」)側からの求めに応じて行った。ノーボーダー側の取り組みとして、国民の政治に対する声を集める『ブロードリスニング』に関する企画について話を聞いた。最新のインターネット技術の活用を検討しているという話の中で、参加者へのインセンティブとして暗号資産を配布するというアイデアについて説明があったのではないかと思う」などと書かれていた(ノーボーダーと松井氏は関係が深い)。
そのうえで河野氏は「高市総理のあいまいな答弁とは裏腹に、木下氏は取材に対して、松井氏との接点は率直に認めてきた。誹謗中傷動画については、松井氏が『勝手連』としてSNS対策をしていたことを認めつつも、アカウントや具体的な活動は承知していなかったというのが、木下氏の主張である」としている。
河野氏はこれまでに「サナエトークン」について、週刊現代に書き続けている。5月18日のノーボーダーに出演した松井氏は木下氏との接点や誹謗中傷動画を作成、拡散したことを認め数百万円を使ったが、無償だったとしている。
そういう意味でも、一連の文春報道だけでなく、木下秘書と松井氏の接点はすでに隠しようのない事実ではないのか。高市氏はなぜ「2人の接点はない」と言い切るのだろう。高市氏は、まだ法的責任は別として説明責任だけでなく、否定すればするほどその政治責任は重くなっている。週刊文春の追及はまだまだ続く。
▼ なぜか記者会見を避ける高市首相 海外メディア記者も追及
5月29日午後の木原稔官房長官の記者会見で海外メディアのラジオフランス記者の西村カリン氏やユーチューブメディア「Arc Times」編集長の尾形聡彦氏が高市氏の記者会見対応について追及した。これに対し、木原氏は真正面からの回答は避けるように「多忙な日程をやりくりして時間を捻出している側面がある」などと逃げの姿勢に終始した。この会見については、朝日、産経新聞の大手メディアが取り上げ、ニュースサイト「ABEMA TIMES(アベマタイムズ)」がこの部分の詳細なやり取りを報じている。
官邸のホームページの官房長官会見動画を見ながら「なぜ、高市首相は会見を避けるのか」を考えた。フリー記者の安積明子氏によると、高市氏は自民党政調会長時代は「政調会長としての会見後にフリー記者らとの懇談会を開いていた。元々、オープンな人だ。首相になって何を怖がっているいるのか」と首をかしげている(4月10日付東京新聞「こちら特報部 語らない姿勢貫く高市首相」)という。
まず、西村カリン氏が「一番最近の記者会見は記者の人数も限られ、事実上、質問制限があった。高市総理になってから海外メディアに答えたことは(ほとんど)ないと思うが、それは異常ではないか」と質問した。
西村氏が指摘した「一番最近の記者会見」には少し説明が必要だ。これは高市首相が①5月25日の26年度補正予算案の内容などを説明した際や②27日の「国家情報会議」創設法が参院本会議で与野党の賛成多数で可決・成立した際の「ぶら下がり会見」で官邸側が「質問は全社で1回」という“原則”を作り、実施したことを指す。「補正予算編成」「国家情報会議」という重要な政治課題なのに高市政権はこれらを短時間で済む「ぶら下がり会見」と位置づけ、官邸の会見室で行う記者会見と区別して、結果としてフリー記者や海外メディアを排除した。フリー記者らには、高市政権はずっとこのやり方を続けるのではないかとの危惧がある。「ぶら下がり会見」とは、官邸会見室などでの正式記者会見とは別に着席スタイルではなく立ち話で行われる。会見時間は①が19分②はたった3分だった。
この海外メディアの記者として当然の疑問に対して、木原氏は海外メディア排除については触れず、「年頭、国会閉会時、外国訪問時など、節目節目には記者会見を行っている。それに加えて何か特別なことがあった際には、(首相が)タイムリーにお伝えしたいという判断をされた場合には『ぶら下がり会見』を行う」と述べた。そして「ぶら下がり会見」というのは、総理が多忙な日程をやりくりして時間を捻出している側面があるので、会見の前後の日程が非常にタイトになってしまうことが多いわけだ」と理解を求めた。これでは、高市氏はやりたくない会見を無理にやっているように聞こえる。
続いて尾形氏は「高市総理は午後8時すぎごろには公邸に帰っていることが多いが、公邸に帰る前に記者会見をきちんと、官邸クラブだけのぶら下がりだけではなくて、フリーも参加できる会見をしていただきたい。そうしないのはなぜか。この前のぶら下がりなる会見では、幹事社が『全社で1問と言われていますので』と言っていた。その瞬間、高市総理は目を伏せていたが、総理は質問制限をかなりしているのではないか。これは国民の知る権利を侵害しているのではないか。質問制限をせずに、きちんと答えるべきだ」と追及した。
木原氏が、本質を突いたこの重要な質問に真正面から答えることはなかった。
木原氏は「会見の在り方ということにつながると思いますが、長い歴史の中において、官邸と内閣記者会とのそういった歴史があるんだろうと思いますので、ご意見・ご要望があれば内閣記者会で相談してほしい」とかわした。
木原氏は高市氏が十分な取材対応ができないことについて「多忙」を理由にした。首相が多忙なのは当たり前だ。記者会見は政府と国民の間をつなぐ窓口であり、メディアにとっては国民の「知る権利」に応えるための「権力監視」の重要な一環である。政権にはこのことが全く分かっていない。
高市氏は「飲み会が苦手」と公言し、安倍晋三政権時代に「癒着」と批判されたマスメディア幹部との会食もない。それはいい。以前はフリー記者にもオープンだったとの証言もあるのになぜ変わったのか。ひとつは元々批判されることがだいっ嫌いで、「高市支持者」の中には、「嫌中」や「反マスコミ」のネット右派的な人も多い。記者会見を避けることで「毅然としている」として、支持率も上がるーなどと考えている節がある。
確か、総裁選で勝利した後のあいさつで「働いて(5回繰り返す)」を煽ったのは高市氏だった。フォロワー約290万人という批判がほとんどない「信者」へのX発信に頼るだけでなく、十分な時間を取った「更問い」も許されるきちんとした記者会見をやるべきだ。メディア側もこれまでにはない「質問は全社で1回」などという官邸による「言論統制」を許してはならない。
日本のメディアを代表する記者クラブである「内閣記者会」。木原氏が「長い歴史」と言及した官邸との関係はどうなのか。木原氏の発言は全体のニュアンスが「癒着している」とも受け止められかねない誤解を招く言い方ではないか。
木原氏が言う「長い歴史」の中には1972年6月、佐藤栄作首相の退陣会見で「新聞は嫌いだ」との発言に抗議して、記者のほとんどが席を立った歴史がある。だから、私はそんな歴史はないと思いたい。SNSでは、「記者クラブ解体論」も見かける。以前に比べ、マスメディアの信頼は大きく揺らいでいる。だからこそ、内閣記者会は当然、ユーチューブで公開されている官房長官会見の場で木原氏の発言の真意をただすべきだろう。いまやメディアも国民から監視される存在であることを自覚すべきである。 (5月31日)
▼そもそもこんな法律必要なのか 高市首相が「国旗損壊罪」創設にこだわってきたわけ
日本国旗を傷つける行為を罰する「国旗損壊罪」をめぐり、自民党プロジェクトチーム(PT)は6月1日、法案の条文案を了承した。党内手続きを経て、近く国会に提出する。日本維新の会との連立合意書には「26年通常国会で制定」と書かれている。「国旗を大切に思う国民感情」の保護を口実に、違反者に対しては「2年以下の拘禁刑または20万円の罰金を科す」という恐ろしい内容だ。
法案の名称は「国旗の損壊等の処罰に関する法律」。対象となる国旗は「国旗・国歌法(1999年8月に公布・施行)に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物」と定義。処罰される行為は①人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法で、公然と国旗を損壊、除去、汚損する②その状況を撮影した者が電子データを不特定多数に提供、公然と陳列するー場合と規定した。②はSNSなどで配信した場合を想定する。PTは「最終的には裁判所が判断する」としている。表現活動を萎縮させかねないとの指摘を踏まえ、表現の自由を不当に侵害しないように留意することも条文案に盛り込まれたなどと報道されている。
5月31日付の東京朝刊の「本音のコラム」。元文科事務次官、前川喜平氏が「国旗損壊罪は憲法違反だ」で問題点を分かりやすくまとめているので紹介しておく。
まず、刑罰を新設する「立法事実(その必要性や正当性を裏付ける事実)がない。その上、「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」で損壊するというが、この要件は極めてあいまいで、恣意的な取り締まりが行われる危険が大きい、とする。あいまいな「不快感」や「嫌悪感」などという「感情」を根拠に人を罰してよいはずはないーなどとする。そして「国旗損壊罪は思想・良心の自由を保障する憲法19条や表現の自由を保障する憲法21条に違反する違憲立法だと言わざるを得ない」と結論している。前川氏の論旨はさすがに明解で説得力がある。
その中でも私が特に重要だと考えるのは「国旗を大切に思う感情を全ての国民が共有しているわけではない」との指摘だ。続けて前川氏は「日の丸を過去の日本の軍国主義や侵略戦争の象徴だと思う人もいるだろう。日中戦争時に作られた『日の丸行進曲』には『日の丸を敵の城頭高々と一番乗りにうちたてた手柄はためく勝ちいくさ』という、南京占領を賛美した歌詞もある」と書いている。
前川氏は文部官僚だったので、「国旗・国歌問題」で日教組と対峙した経験もあるのだと思う。かつては、「日の丸(国旗)掲揚・君が代(国歌)斉唱」問題は、政権による「押し付け」と絡めて政府と日教組が対立、特に公立学校などの教育現場などでは大問題だった。日教組は弱体化したが、必ずしも、現在もこの問題は終わっていない。
2004年の秋の園遊会で、当時の天皇(現、上皇陛下)が「国旗・国歌問題」に触れて、招待者の東京都教育委員を務める棋士の米長邦雄氏との会話の中で、学校現場での日の丸掲揚や君が代斉唱について「強制になるということでないことが望ましいですね」とたしなめたこともある。
TBSが5月31日にネットで配信した「高市総理15年来の“悲願” 『立法事実』よりも『法制化』優先」によると、PT骨子案の要旨では、以上のようなことを配慮してか、「国旗尊重義務」は設けていないという。では、なぜ「15年来の悲願なのか」。高市氏が今回この法案を動かした背景には、個人の強い「思い入れ」がある。
11年、自身のコラム(現在はなぜか削除)に「日本人として日本の威信・尊厳を象徴する国旗に対する愛情や誇りを、せめて外国国旗が刑法で保護されているのと同程度には守りたい」と書いている。翌12年には高市氏も提出者のひとりとなり、自民党が国旗損壊罪を創設する刑法改正案を国会に提出したが衆院解散で廃案に。だから「15年来の悲願」なのだそうだ。
維新との連立合意書に盛り込み、今年1月の衆院選公示日の街頭演説でも高市氏は「日本国旗を損壊しても全くお沙汰ない。変じゃないですか」と有権者に訴えている。その思いの強さは、法案審議のスケジュールにも表れている。この法案が審議される内閣委員会では、これも高市氏肝いりの、(夫婦別姓をつぶすための)「旧姓の通称使用拡大に関する法案」の今国会提出が見送られ、国旗損壊罪の審議を優先させる形となっている、という。
この記事では、この法案が進んでいく構造について「予算もかからず、コスパよく保守層に届く」と分析する。確かに、そういう面もあるのだと思う。4月18,19の両日の毎日新聞世論調査では、国旗損壊罪について尋ねたところ、「罰則付きで禁じる」が40%、「罰則なし」が21%、「禁じる必要はない」は19%だった。「高市人気」と相まってか罰則があるとなしで「賛成」は計6割を超えている。
高市氏が右派系月刊誌「HANADA」の昨年12月号の「わが国家観」で絶賛したのは、12年の自民党憲法改正草案である 。そこで草案が「天皇は日本国の元首」「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」と規定していることにわざわざ触れている。「国旗・国歌尊重」の部分は改正草案の第3条にある。その「Q&A」には「国旗・国歌をめぐって教育現場で混乱が起きていることを踏まえ3条に明文規定をおくことにしました」とある。高市氏の念頭にはこの憲法改正草案もあるのだと私は考えている。したがって「国旗損壊罪」はその下地作りとして、現在の改憲4項目の次を見通している可能性もある。
国旗損壊罪については、連立の維新はもちろんのこと参政党もすでに独自案を国会提出している。しかし、この問題では国民民主の玉木雄一郎代表が、Xで「違憲立法だ」と批判。自民の岩屋毅前外相も党内の議論で一貫して反対し「かかる立法の影響が心配である。国民が自然に尊重の対象としてきた国旗が『尊重しなければ処罰される国家権力の象徴』に変わる。国旗に対する尊重意識が高まるのではなく、むしろ毀損される恐れがあるのではないか」と1日、FBに投稿した。
現在、刑法には「外国国章損壊罪」がある。高市氏はそれとの整合性を強調するが、それはあくまでも外交上の配慮であり、日本国旗については器物損壊罪で十分である。ちなみに、器物損壊罪の方が「3年以上の拘禁刑、もしくは30万円以下の罰金」と今回の法案よりも罪が重い。
また、戦前の日本にも「国旗損壊罪」という独立した罪名はなかった。「国旗損壊罪」がいまなぜ必要なのか。そして6割もの人々が「表現の自由」を侵しかねないこのような恐ろしい法律に賛成してしまうのか。「外国国章損壊罪」があるのにという論法はインチキだが確かに分かりやすい。
高市政権はすでに国民監視が主たる目的の「スパイ防止法」を視野に入れた「国家情報会議設置法」を5月27日に成立させている。このような一連の治安立法は放っておけば必ず独り歩きして治安維持法化することが歴史的教訓である。治安維持法は1925年、普通選挙法とセットで成立し、その後、死刑が取り入れられただけでなく、取り締まり対象も大きく広がっていった。分かりやすい短いフレーズでのアピールや女性であることを武器とした不思議な「作り笑い」 に騙されてはいけない。(6月2日)
▼ 高市首相はマスメディアからの取材をなぜ逃げるのか 国会で立民議員が問題視
6月3日の参院本会議。立民の高木真理議員は5月25日の官邸記者クラブとの「ぶら下がり取材」で、高市氏が26年度の補正予算案に関して説明した後で質疑応答になったが、その際に幹事社の記者が「質問は全社で1度ということですのでまとめてお聞きします」と述べたことに関連して、高木氏がその真意をただした。
高木議員 総理はこの時の説明の後、なぜか、1社のみしか質問を受け付けなかった。なぜマスコミとの対話を避けるのでしょうか。国民は総理とマスコミのやりとりをを通じて、自分の中の疑問を解消することができます。総理とマスコミのやり取りは国民とのコミュニケーションです。この危機を国民とともに乗り越えようと思うなら、国民と対話をする思いでマスコミとも双方向のやりとりで相互理解を高める必要があるのではないでしょうか。(また、高市氏が好むXでの発信について)基本は一方通行です。メディアを通じた国民との対話は重要と思います。
高市首相 国民のみなさまの情報収集の手段が多様化する中、政策内容などについて、国民のみなさまに丁寧に説明する方法としてSNSの重要性は高まっている。さまざまな質問にお答えする機会として、ご指摘の記者会見や国会の場での議論の場での議論も重要と考えています。多様な方法をどのように組み合わせて国民のみなさまとコミュニケーションをはかるのが好ましいのか、試行錯誤しながら、見いだしたいと考えております。(以上、3日、日刊スポーツのWeb記事から)
高市氏はこの答弁でも「論点ずらし」をしている。高木議員は「なぜマスコミとの対話を避けるのか」と質問しているのに、完全に逃げている。「質問は全社で1度」は25日だけでなく、27日の「国家情報会議」設置法成立の際にも行われた。25日の「ぶら下がり」19分、27日は重要法案にもかかわらずたった3分だった。いずれも、フリーや海外メディアは排除されている。高市氏はXのフォロワーは約290万人で1日2、3本を発信している。また、2日には側近中の側近の佐伯耕三内閣広報官が、自身のXのアカウントを開設(朝日)。近い立場から見た首相の動向を伝えるという。いずれも一方的な発信だ。
高市氏は要するに、自分に批判的な質問をするメディアが嫌いなのだ。また、失言が多い人なのでボロが出ることを極度に恐れているのではないか。特にこのところ、週刊文春による自民党総裁選や衆院選での高市陣営の「誹謗中傷動画」問題で高市氏は追い詰められている。衆院選では、公選法違反の疑いも指摘されている。国会で野党からだけでなく、記者クラブメディアからもこの問題で追及されることを避けているとしか思えない。こんなことが続けば「高市独裁」になりかねない。
4日発売の週刊文春。「スクープ第5弾」として「高市事務所と動画作成者『43分のZoom音声』を誌上公開する」が放たれた。大手メディアの追及はどうした。
(6月4日)
▼公設秘書と動画作成者の「参考人招致」か「証人喚問」しかない
6月4日は衆院で、5日は参院でそれぞれ予算委が開かれ、中道や立民が週刊文春の中傷動画報道で明らかにされた公設秘書の音声をめぐって高市氏を追及した。3日の文春オンラインで公開されたこの音声は、週刊文春によると、昨年12月17日に録音されたZoomによるウェッブ会議の音声データで、43分あまりのもの。昨年10月の自民党総裁選での「動画作戦」の成功。そのあとの12月に、高市氏の公設第1秘書の木下剛志氏が動画作成者の起業家松井健氏らに「うまく、一緒にやれたらいいなと思います」などと語りかけるという両者の「蜜月関係」を示す内容だった。
高市氏は5日午前の参院予算委で立民の岸議員の質問に対して「提供のあった動画を昨夜遅く確認した」とした。その上で、秘書本人か確認したかを問われると「私と会話しているときよりもかなり高い声でハキハキとしゃべっていたので違和感があった。やり取りの内容について他候補を批判するものでもない。秘書本人かどうか、あのような音声を基に判断することは難しい」と答弁した。(5日、朝日新聞デジタル)
4日の衆院予算委では、中道改革連合の伊佐進一議員は、事前通告していたとして「音声のやり取りが地元秘書(木下氏)のものか」と問われ、高市氏は「台風対応や国会答弁の準備でほぼ徹夜した」と説明。「質問を見たのは4日午前3時すぎだった」として、「確認できなかった」と答弁している。音声が有料の「電子版」で公開されていることにも言及し、「私の知らない人の言い分ばかりをセンセーショナルに報道してきた、そこの有料オンライン会員になることはできない」と問題をはぐらかす内容の答弁をしている(朝日などによる)。
また、5日の参院予算委では立民の塩村氏が「週刊誌報道はねつ造か」と質問。高市氏は「私が認識している事実とは違う」と述べた。そして、週刊誌側への抗議などを検討しているか問われ「私は日本国を背負って国家経営に取り組んでいる。そういうことに使う時間はない」といらだちをみせて、開き直ったように否定した。
高市氏のこの問題での国会答弁は、はぐらかしや開き直りの連続だ。中道や立民の追及に追い詰められるように見える。だが、23年3月の放送法の「政治的公平」に関する総務省の行政文書をめぐり、当時、総務大臣だった高市氏が「ねつ造されたもの」と主張。「内容が事実であれば議員辞職してもよい」とまで踏み込んで自身の関与を否定したが、結局、ねつ造などではなかったことが判明。それでも、高市氏は辞職しなかった。このような「成功体験」がある高市氏。のらりくらりとかわして国会閉会まで持ちこたえて、問題をうやむやにさせる作戦ではないか。
4日発売の週刊文春の「中傷動画スクープ第5弾」。国会ではもっぱら、公開音声が木下秘書のものかが中心となっている。しかし、このほかに気になる部分がある。
週刊文春によると、音声を公開した12月17日のWeb会議の主要な議題は「高市さんファンクラブ」だった。「ファンクラブ」では、ネット番組「NoBorder(ノーボーダー)」のアプリ上で政策アンケートを行い、回答者に暗号資産(後に「サナエトークン」として発表)を配るものだ。松井氏らはこの企画の実務を担っていた。プロジェクト名は高市氏が掲げるフレーズ「Japan is Back」だった。木下秘書は暗号資産を用いる構想を聞いた上で「すごくいいなと思います」としつつ、マスコミの裏をかくべしという趣旨の持論を述べる。また、高市事務所の広報車「ビーナス号」との連携を呼びかけ「デジタルとアナログのコラボレーション」と表現した。会議の最後で松井氏が「木下さん連携させてください。よろしくお願いします」と念を押した。
どのように連携は進んだのかー。
それは、衆院解散(1月23日)直前の1月19日、松井氏側の担当者が木下秘書にこう送信した。〈先日はイベントについてのご提案をいただきましてありがとうございました。選挙後の2月後半で、高市総理ご参加が可能な日時と、セキュリティ面も鑑みた、実施可能性のある候補場所など、情報をいただけるとありがたいです〉
衆院選では再び木下秘書の具体的な依頼のもと、野党中傷の動画作戦が行われ、自民党は圧勝。その傍らで実は<総理ご参加> のイベントまでを企画していた。木下秘書は<ありがとうございます。現段階で日程がなかなか出てこない状況であり、調整を含めて選挙後にお願いしたく、よろしくお願いします>と返事をした。
しかし、蜜月関係の決裂は突然やってきた。2月、松井氏や起業家の溝口勇児氏らが発表した暗号資産「サナエトークン」が、違法性を疑われて「炎上」し始めたのだ。2月28日、木下秘書は松井氏にこう送信している。
<昨日より、チームサナエがリポストしたことにより、カタログギフトのように1ミリも違法性がなくても、スキャンダルにしようとする動きが出てきています。官邸も高市も溝口さんのチームをトラブルの渦中に巻き込むことを心配しているので、ここをきっちり解決しないと面談やコラボがしにくい状況になっております>
その2日後、高市首相は突如Xで<私は全く存じ上げませんし、私の事務所側も、当該トークンがどのようなものなのかについて知らされておりません> と投稿した。以後、両者の連携は途絶え、今に至るーと週刊文春は報じる。
続けて取材当時、松井氏は木下秘書についてこうも語っていた。
「総理が関わることですので、木下秘書から当然総理にも伝わっていると思って行動していたのは確かです」
かなりはしょって記事の内容を紹介したので、分かりにくいところもあると思う。詳しくは週刊文春を読んでほしい。このやり取りの中での「官邸や高市氏の心配している」とは具体的にどういう意味なのか。松井氏はこれまでに週刊文春で「動画作成」を無償とし、自分でその費用数百万円を使ったと話している。本当にその「対価」はなかったのか。
朝日や東京などが社説で取り上げただけでなく、国会のやり取りについては、これまでよりもやや突っ込んだ報道をし始めた。しかし、まだ自前の取材をもとにした報道はない。週刊文春はまだまだ、問題の核心となる材料を手にしているのだと思う。高市氏に対して、真綿で首を締めるようにジワジワと本丸に迫っているように感じる。どちらにしろ、高市氏は首相として説明責任を果たすべきである。(6月5日)
▼はじめから「男系男子ありき」ではなかったか 国会正副議長の「皇族数確保」合意案
衆参両院の正副議長が6月5日、衆院議長公邸で会談し、皇族数確保策に関する「立法府の総意」案に合意した。その内容は、政府の有識者会議が21年に示した(1)女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する(2)1947年に皇籍を離脱した旧11宮家の男系男子を養子に迎えるーの2案を「了とする」と明記するものだ。
8日に13党派の全体会議を開いて代表者から意見を聞き、さらに調整した上で「立法府の総意」に基づいて皇室典範改正案などの法制化を政府に求める。10日にも決定するという。この問題は高市氏が「旧宮家の男系男子に養子に入ってもらう」と今国会中の法案実現にこだわった「国論二分政策」のひとつだった。
朝日2日付朝刊によると、立民は、(2)案について、「極めて慎重な検討を要する」との見解を示し、党責任者の長浜博行議員は「まず議論しなければいけないのは安定的皇位継承の方策で、養子制度について議論するのは順番が違う」と、このとりまとめに反対していた。
この問題について、とりまとめの「養子案」では、国民の理解を得るために①本人の意思を考慮した養子の年齢(15歳以上を想定)②養親の範囲③縁組の具体的な手続き④養子は皇位継承資格を持たないーの4点を挙げ「慎重に制度設計を行うものとする」とした。さらに、慎重・反対論が根強いことに配慮し「必要があるときは一定年数ごとに見直す」と書かれている(6日付朝日朝刊)。立民出身の福山哲郎参院副議長と長浜氏が話し合い、まとまったということなのだろう。
さらに、朝日によると(1)案では、現在の女性皇族は「経過措置」として、その身分を保持するかどうかを選択できるように配慮すべきだとも提案。各党に意見の隔たりがある「女性皇族の配偶者とその子にも皇族の身分を付与するか」について直接的に言及せず、結論を先送りした。
これは自民党が「皇族の身分を付与すると、女性・女系天皇につながる恐れがある」と強く反対しているためだ。また、安定的な皇位継承策については、引き続き検討することを付帯決議に盛り込むように合意案は促している。
さらに、6日付東京朝刊は「秋篠宮家長男の悠仁親王までの皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないと確認した」と書いている。秋篠宮殿下は「皇嗣」で「皇太子に準ずる」皇位継承順位第1位であるが、次期天皇となることが確実な「皇太子」ではないことに注意が必要だ。例えば、上皇陛下が生まれる前までは、昭和天皇の弟の秩父宮が一時「皇嗣」だった。
新聞報道を見る限りの正副議長「合意案」の要旨は以上だが、この動きは、本来はあくまでも「喫緊の課題」であるはずの皇位継承者がこのままではいなくなる可能性に直接触れたものではない。「皇位継承問題」を「皇族数確保」にすり替えている。
自民党右派や高市氏は明治の皇室典範から定められた「男系男子による皇位継承」にこだわり続け、「養子案」を打ち出してきた。これは何としてでも「女性・女系天皇」の実現を阻止しているようにしかみえない。今回の対象となる11の旧宮家のうち、4宮家に10人程度の若い人がいるといわれるが、いずれも現在の天皇から約600年も前の室町時代に血のつながりのある人々で、そのいずれもが一般人である。法の下の平等を定めた憲法14条の「門地」(個人の家柄や血統、出自のこと)による差別に当たるのではとの指摘もある。
また、皇族になることでさまざまな人権が制約されるのに、わざわざ養子を引き受ける人がいるのか。無理に押し付けることにならないか。この案の狙いは、「女性・女系天皇」を阻止するために、自民党右派の人々が考えたものであり、養子となったひとには皇位継承権はないが、結婚して生まれる男子には皇位継承権を持たせて皇室の「男系男子」を維持することが狙いだ。
憲法第1条で「この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」と規定される「象徴天皇制」。直近の朝日の世論調査でも「女性・女系天皇」は7割以上が支持している。それなのに、なぜ「男系男子」にこだわるのか。憲法は「世襲」と「象徴」を定めているが、「男系男子」には触れておらず、下位法である「皇室典範」に書かれているだけである。「男系男子」による皇位継承は側室制度のあった明治期ならまだしも、現在は当然、側室制度などはない。そもそも「男系男子」で皇位を継承していくこと自体に無理があるのではないか。
19年の平成天皇(現・上皇陛下)の退位を認めた「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」(17年)で「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」について、政府はその検討を行い、その結果を国会に報告することになった。しかし、21年にまとまった「有識者会議報告書」は「皇位継承」ではなく、「皇族数の減少」問題に矮小化した。
さらに、この報告書は「皇位継承」問題を以下のような理由で先送りした。
「皇位継承については悠仁親王殿下までの流れを前提にすべきであるとの考えで会議として一致しました。皇位継承の問題とは切り離した上で、皇族数の減少が喫緊の課題であるという共通認識のもとに、皇族数の確保に向け多様な選択肢を提示するという考え方に立って検討を進め、その具体的な方策を示唆するに至った次第です。これらの方策を実現することは、悠仁親王殿下の後の皇位継承について考える際にも、極めて大事なことであると考えます」
これを受けた形で、報告書が提案した3案のうちの「皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすること」という案を除いて、今回、国会の正副議長がそのうちの2案を採用し「了」とした。
ここで注意すべきは、21年報告書が「悠仁親王までの流れを前提」としていることである。この時に05年の小泉純一郎内閣時の有識者会議がまとめた「女性・女系天皇容認」報告書の結果を排除して「男系男子」による皇位継承の路線はその流れが作られていた、と私は見る。
今後の国会で、結婚した女性皇族の配偶者や子を皇族とするのかが議論されるのだろうが、「男女平等」による「女性・女系天皇」容認との私の立場からも、せめて「女性・女系天皇」につながる可能性のある「配偶者や子」も皇族とする方向に議論が進んでほしい。今回の正副議長の合意により、とりあえず「愛子天皇」の可能性はほとんどなくなった。そもそも、今回の問題は、はじめから「男系男子ありき」ではなかったか。(6月6日)
(了)