コラム「番犬録」第30回 「高市首相の中傷動画疑惑」 「答弁訂正」に追い込まれる首相 公設秘書と動画作成者との接点を認めたものだ 「虚偽答弁」の可能性も 大きい政治責任 内閣記者会は会見開催でもっと官邸と戦え 週刊文春は「サナエトークン」を持ちかけた経緯などスクープ第6弾 動画作成者は都知事選でも石丸候補にアドバイス

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 立憲民主党の斎藤嘉隆国会対策委員長は6月12日、「(首相の)言っていることが二転三転している。不誠実な答弁に終始していたと言わざるを得ない」と高市早苗首相の総裁選や衆院選での陣営による「中傷動画」疑惑についての一連の国会答弁を批判した、と朝日新聞13日付朝刊は「中傷動画 首相答弁訂正も ぶれる発言 秘書の国会招致要求強まる」との見出しの記事で報じている。高市氏は10日の衆院法務委で5日の参院予算委での答弁を訂正した。どういういきさつがあったのか。改めてその意味を考えた。

 この「答弁訂正」は中傷動画疑惑をめぐり、週刊文春に問題を告発した動画作成のIT会社代表松井健氏(33)について、「私も秘書も面識のない方」(5月11日)、「お会いしたことのない方」(5月19日)、(秘書と松井氏の接点について)「認めておりません」(6月5日)などと、高市氏がこれまで強く否定してきた答弁を変えて、首相公設秘書と松井氏の接点を結果として認めたものとなった。

 高市氏は4月末の週刊文春の報道以来、国会でこの問題について、高市事務所との関係性だけでなく、その接点までも否定してきたが、一連のその接点を否定する国会答弁は国会軽視の「虚偽答弁」だった可能性が出てきた。

  自民党はこの問題についての首相出席の予算委員会を22日に衆参で3時間ずつ実施することを提案しているが、問題の全容解明のためには、高市氏の公設第1秘書木下剛志氏や松井氏の参考人招致は最低限必要なのは言うまでもない。本来ならば、偽証罪のある「証人喚問」すべきテーマである。自民はこれに抵抗しているので難しいかもしれないが、決して、逃げ切りは許されない問題である。

 答弁の訂正までの経緯を少し説明する。朝日によると、5日の参院予算委で野党の質問に対して、動画作成に関わった男性(松井氏)の会社側と秘書のオンライン会議の存在を高市事務所が認めたとの週刊現代の報道(12月17日のオンライン会議とことし4月3日付の高市事務所からの「回答書」)に関して高市氏は「内容が事実と違うと(秘書から)聞いた」と否定した。ところが10日の衆院法務委で首相は「改めて確認したら、高市事務所から回答した内容だということだった。その点は訂正する」と答弁。

 その理由について、高市氏は「私が(秘書に)電話で週刊誌に一部を切り取られた部分だけを確認し、全体の趣旨と違うと彼は思った」と釈明した。つまり秘書が「勘違いした」という説明だった。参院での答弁を衆院の質疑で訂正する事態となり、自民党は書面で訂正内容を参院側に提出すると野党に申し出たという。ただし、国会における会議録の訂正について定めた参院規則158条は、発言の趣旨を変更するような訂正はできないと規定されている。ではこの問題どうなる。

 絶対に「誤りを認めない」といわれる高市氏。その人が「答弁訂正」にまで追い込まれたのは、週刊現代にこの記事を書いたジャーナリストの河野嘉誠氏が7日の「現代ビジネス」で、「高市総理事務所が『サナエトークン』『誹謗中傷動画』首謀者と接触していた『動かぬ証拠』を公開する」で「回答書」を公開したことが決め手となった。

 ネットで公開された「回答書」のファクス表紙には、「送信日時令和8年4月3日19時30分 発信元高市早苗事務所 担当者所長 木下剛志」とあり、現物の写真付きだった。その内容を少し紹介しておく。

 現代ビジネスによると、4月3日、週刊現代編集部は以下のような質問を高市事務所に送った。

 ①週刊文春報道によると、昨年12月17日に、木下様(高市氏の公設第1秘書)はチームサナエのA氏らとともに、ノーボーダーDAOの松井健氏らとリモート会議をしたということです。そこで松井氏から「サナエトークンが売却できる暗号資産」という説明を受けた後、木下様は「すごくいい」と発言したと報じているが、これは事実ですか?  

 ②同誌では、昨年の総裁選前に、木下様が高市選対のSNS対策のリモート会議を、松井氏と繰り返した旨も証言しています。松井氏の貢献に、木下様は「SNS対策は松井氏がダントツ」と話したということですが、これらは事実ですか?ーの2問。

 これに対して、高市事務所は同日付で木下氏の名前で以下のように回答している。

 ①12月17日のオンライン会議は、ノーボーダー側(松井氏側)からの求めに応じて行ったもの。ノーボーダー側の独自の取り組みとして、国民の政治に対する声を集める「ブロードリスニング」に関する企画について話を聞いた。詳細は記憶していないが、最新のインターネット技術の活用を検討しているという話の中で、参加者へのインセンティブとして暗号資産を配布するというアイデアについて説明があったのではないかと思う。

 ②これら一連の説明は、ノーボーダー側の独自の取り組みの話でもあり、特に注意をして話を聞いていたわけではないが、当然、ノーボーダー側が法律にのっとり対応されるものととらえていた。いずれにしても、ノーボーダー側からの説明の中で「サナエトークン」という名前が出されたことはなく、発行する計画などについての説明もなかった。当然、高市事務所側に何か承認などを求められるというものではなかったーなどとしている。(全部で5項目の回答だが、主要部分2項目を取り上げた)

  この高市事務所からの「回答書」で分かることは、12月17日にオンライン会議があり、そこに木下秘書や松井氏が会議に参加していたことは明らかだ。「サナエトークン」問題では、「暗号資産配布」との説明は聞いたが、「サナエトークン」という名前は出されたことはないなどと、高市事務所側の関与は全面否定する内容である。

 高市氏は木下秘書からこの問題できちんとした説明を受けていなかったと、今後言い訳するために「答弁訂正」したのかもしれない。しかし、少なくとも、木下氏と松井氏の接点はあったことになるのではないか。それを一貫して否定してきた高市氏の国会答弁は「虚偽答弁」と言われても仕方がない。その説明責任や政治責任は大きい。

▼大手メディアは「中傷動画問題」報道を競え

 「週刊誌の記事よりも秘書を信じます」「週刊誌の記事が証拠でございますか?」ー。「中傷動画問題」に関する国会答弁でこのような言葉を使って週刊誌報道を貶めて、まともな対応から逃げ続けてきた高市氏。6月4日と5日の衆参予算委が終わった7日、ようやく大手メディアの共同通信が週刊文春報道を後追いする形で問題の中心人物で動画を作成、拡散した松井氏にオンライン取材した結果を報道した。

 「中傷動画」秘書へ提案 AIで作成 IT会社代表証言ーとの共同の報道はヤフーをはじめネットで流されたほか共同に加盟する地方新聞社を中心に大きく掲載された。東京新聞や九州のブロック紙、西日本新聞が社会面トップほか、中日、北海道、河北、信濃毎日などがこの記事を大々的に扱った。テレビの情報番組でもぜひ取り上げてほしい。

 東京新聞によると、松井氏は、高市氏を当選させる目的で、小泉進次郎防衛相を「操り人形」などと批評する動画を独自の生成人工知能(AI)ソフトで作成、投稿したと証言した。首相の秘書から「小泉氏を逆転するにはどうすればいいか」と相談され「ネガティブな発信を提案した」と説明した。

 松井氏は首相の名前が入った暗号資産「サナエトークン」の開発責任者。2月の衆院選でも、首相を含む与野党約50人の陣営から対立候補に関する動画などの作成を依頼され、うち20人に協力した。いずれも無償で広告収入も得ていない、と説明している。「サナエトークン」については、首相の秘書に説明したと強調している。

 松井氏は今月1日、弁護士同席の下、動画作成の経緯を詳細に説明。共同通信は、松井氏が秘書とやり取りした携帯電話のメッセージを入手し、電話番号を秘書本人のものと確認したと書かれている。

 すでに週刊文春報道でほぼ出尽くした内容で「AIにはデマや誹謗中傷はしないように指示した。法律には違反しておらず悪いことをしている認識はない」と主張するなど、松井氏には「逃げ」の姿勢も見え隠れする。

 それでも、今回この記事を出した共同社会部は私の出身なので評価がどうしても甘くなるが、大手メディアが真正面からこの問題を取り上げたことに大きな意義があるのではないか。これをきっかけに大手メディアは競ってこの問題を報道してほしい。

 一方、予算委の審議でも登場した週刊現代報道。そのネット版である現代ビジネスは7日、「高市総理事務所が『サナエトークン』『誹謗中傷動画』首謀者と接触していた『動かぬ証拠』を公開する」との見出しで、筆者のジャーナリスト、河野嘉誠氏と高市氏の公設第1秘書木下剛志氏とのやり取りを示す高市事務所側の「回答書」6枚を公開した。

 河野氏によると、誹謗中傷問題が国会で取り上げるようになっても、高市氏は週刊文春が報じた12月17日の木下氏と松井氏の面会音声について、かたくなに事実関係を認めない。それどころか、木下氏と松井氏の「接点」すら否定する。週刊現代への回答書は、木下氏自らが作成し、高市事務所として回答したものである。否定しようもない物証に高市氏は国会でどう答えたか。

 5日の参院予算委。立憲民主党の岸真紀子氏が週刊現代が4月3日付の回答書で「昨年12月17日のオンライン会議はノーボーダー側(松井氏側)からの求めに応じて行ったもの」とある。「これは高市事務所側から回答したもので、12月17日のオンライン会議を行ったということでよろしいか」と質問。

 これに対して高市氏は「週刊誌にうちから回答したと書かれてあるんでしたら、うちから回答したのかと思います。ただ、、4月3日付の回答については、内容が事実と違うと今朝(秘書から)聞きました」と述べている。

 さらに、同じ問題でこの後、共産党の山添拓氏に対して高市氏は「現代ビジネスの記事を通告があったから読みました」と回答。山添氏が「つまり秘書と松井氏の接点があることはお認めなんですね」と問うと高市氏は「認めていません」と思ってもみない答弁をしだした。そこで、河野氏は、回答書の公開という「動かぬ証拠」を出したとしている。

 河野氏は暗号通貨「サナエトークン」問題を継続的に追ってきたジャーナリストだ。河野氏は「サナエトークンと中傷動画問題をめぐる一連の騒動は、松井氏という複数の投資トラブルが取り沙汰される人物に高市事務所が入り込まれ、振り回されているインテリジェンス問題でもある。高市総理は認めるべきは認め、松井氏の『告発内容』の違うところは違う、とより具体的な説明をすべきだ」としている。

 とはいえ、インテリジェンス(情報の収集・分析)の必要性をさんざん説き、5月27日にその司令塔となる「国家情報会議」創設法を成立させたのは、高市氏自身である。失礼ながら、会議の議長である高市氏がそんなことに振り回されるなんて漫画でしかない。その資格もないのでは。秘書と作成者の「接点」ですら国会で強く否定してしまったいま、高市氏に残された道はあまり多くない。(6月8日)

▼内閣記者会の取材申し込みいったん拒否

 6月7日の共同通信報道で週刊文春報道に続いて高市氏の公設第1秘書と誹謗中傷動画作成の男性の接点が改めて明らかとなったが、高市氏は8日、「私自身も私の事務所も、他の候補者を誹謗したり、中傷したりしたことはない」と強く否定し、問題への関与を否定してきた国会答弁との整合性に関して「(自分の説明は)揺るがない」と強調した。4日と5日の衆参予算委で首相は野党からの追及に秘書と動画作成男性を結びつける、週刊文春が公開した音声についても、否定しており、高市陣営による他候補への誹謗中傷疑惑は高市氏の国会での「虚偽答弁」問題にも発展しそうである。

 東京新聞(9日付朝刊)によると、官邸記者クラブ(内閣記者会)は共同通信の報道を受けて8日、高市首相に事前に取材を申し込んだが、官邸側は「応じない」と回答。首相が官邸を出る際、記者団が質問を投げかけ、約2分間(午後6時6分から同8分まで)立ち止まって質問に答えた。最後は事務方が時間の都合を理由に質問を打ち切り、首相も「行事に出なくてはいけない」と述べて「ぶら下がり」は打ち切られた。

 ある記者は「ウソを繰り返すから逃げるしかできない。この国のリーダーの情けないこと。もう無理、もう限界状態。まともな状況じゃない」とSNSに投稿し、首相の対応について怒りをぶつけている。私も全く同感。国会で週刊誌報道を貶めるような答弁をしてきた高市氏は今度は内閣記者会常駐の大手メディアが書いても、正式の記者会見には応じなかった。日本のトップとして、本当に情けない。

 あのトランプ米大統領でも、問題発言は多いものの、記者の質問には一応答えている。朝日の「首相動静」によると、高市氏が打ち切る理由としたこの後の「行事」とは、都内のホテルの宴会場で開かれた「神道政治連盟国会議員懇談会」であいさつするためだった。ここにも8分いただけで、そのあと、公邸に帰っている。大事な記者会見よりも、身内の議員との会合を優先したことになる。この人は本当にマスメディアの役割を理解していない。

 高市氏のぶら下がりでの発言を一応簡単に紹介しておく(NHKのWeb記事から)。

・高市陣営が他候補を中傷する動画を作成し、拡散したしたとの報道について「これまで答弁してきたが、それは揺るがない。私自身も私の事務所も他の候補者を誹謗中傷することは私の流儀でもないし、決してやっていない」。

・動画を作成したとする男性と自らの秘書との面識について「面識はない。実際に会って名刺交換をした相手の所属や氏名をきちんと承知していることはない」。

 二つ目の「面識」についての発言はこれまでの①私自身も秘書も面識のない方」(5月11日)②私自身も秘書もお会いしたことのない方(5月19日)ーから今回の「実際に会って」と微妙に変わってきたことに気づく。これまでの週刊文春報道でもZoom会議やLineやメールなどでの接点が指摘され、「秘書が実際に会った」などという報道はない。いざという時の「逃げ」の発言とも思える。高市氏の公設秘書と動画作成者との「接点」はこれまでの週刊現代、共同通信を含めた報道で十分証明できている、と私は考えている。それでも逃げる気か。(6月9日)

▼「公選法に抵触しないですよね?」と高市氏の公設秘書が中傷動画作成者にメッセージ

 週刊文春は6月11日発売の6ページにわたるトップ記事で「スクープ第6弾」を放った。 
 「高市首相『中傷動画』動画作成者新証言&未公開Line」で、高市陣営の木下剛志秘書と中傷動画を作成した松井健氏とのLineなどの生々しいやり取りを松井氏の新証言を含めて報道した。ふたりが接点を持ったきっかけや昨年10月の総裁選、今年2月の衆院選や松井氏が暗号資産「サナエトークン」を木下秘書に持ちかけた経緯などが詳述されている。その骨子をまとめた。詳しくは週刊文春を読んでほしい。

 週刊文春によると、松井氏と木下秘書の接点は自民党総裁選。松井氏は「総裁選で高市陣営が苦戦しているので手伝ってほしい」と知人で高市氏の経済ブレーン、藤井聡京大大学院教授を通じて依頼された。藤井氏は6月8日の自身のメルマガで「昨年春頃、松井氏と知り合い、高市氏支援に関心をお持ちの様子だったので、その旨を木下秘書に伝え、連絡先を知らせた」と証言している。そして松井氏は昨年9月24日、木下秘書と電話でやりとり。翌25日のZoom会議に参加した。そこで、松井氏は高市陣営の「動画作戦」に参加することとなった。

 週刊文春にはこの後、小泉進次郎氏や林芳正氏への「中傷動画作戦」のことも書かれているが、この部分は公選法などに違反するもではないので省く。10月4日、総裁選逆転勝利で高市陣営は歓喜に沸いて「松井さんダントツですわ。また次もよろし頼みます」と木下秘書。その関係は深まっていく。

 2月8日、投開票の衆院選でも、高市陣営による中道改革連合への「中傷動画作戦」が始まった。公示日の1月27日、木下秘書と松井氏らのZoom会議。動画のターゲットは、与党と中道が競う接戦区を狙い、中道候補のネガキャンをすること。木下秘書は、岡田克也氏、安住淳氏、馬淵澄夫氏、枝野幸男氏らの名前を出した。前日の26日には木下氏は松井氏にショートメールで指示。「中革連の野田佳彦代表、旧統一教会系団体に後援会を作ってもらうなどズブズブ」などを「拡散していただけませんでしょうか」

 首相と同じ奈良県を地盤とする馬淵氏に関する指示も目立つ。このほか、安住氏がクリームパンを食べる動画などの嫌がらせや米山隆一氏が弁当を食べる動画等も作って拡散した。「くだらないことでも数で嫌がらせをした」と松井氏は証言する。

 そして、この問題の核心ともいえる暗号資産「サナエトークン」問題。6月4日と5日の衆参予算委でも文春が公開した昨年12月17日の会議音声が木下秘書のものかが問題となった。このZoom会議には、高市事務所側から木下秘書のほか事務所公認後援会「チームサナエ」代表(地元自民党支部青年局長)ら、松井氏側は松井氏と会社のスタッフら計8人が参加した。

 この音声によれば、「サナエトークン」を使った政策アンケートについて説明を受けた木下秘書が「すごくいいなと思います」「うまくですね、一緒にやれたらいい」などと発言。松井氏がグループLine作成を提案すると、木下氏は「もちろんです」と快諾している。衆院選後も高市首相が参加するイベントの計画やサナエトークンに関する会議は続いた。SMSなどから総裁選以降計8回のZoom会議の開催が確認できる、としている。

 2月8日の衆院選で自民が単独で3分の2以上の議席獲得という圧倒的に勝利した後の25日、トークンの流通開始。この日、木下秘書はグループLineに「サナエトークンという新たなインセンティブ設計も注目されています。チームサナエはこの取り組みに共感し、ともに日本の明るい未来を紡いでいきたいと思います」「修正を加えましたが、いかがでしょう」。木下秘書は宣伝用の文言を自ら加筆、修正し、松井氏に聞いていた。

 それほど木下秘書がトークンに関与していたことがうかがえるが、流通直後から、無登録営業や利益供与の疑いなどがネット上で指摘され始める。2月28日、木下秘書は松井氏に「公選法には抵触しないですよね?」。木下秘書自身、トークンの在り方に不安を覚えたのだろうか。その2日後の3月2日、高市首相がXで「私は全く存じあげません」と投稿。驚いた松井氏は木下秘書に電話したものの、応答はなかった。「以上が、首相が否定する木下秘書と松井氏の蜜月関係の全貌である」と週刊文春は書いている。

 今回の週刊文春報道のうち、「サナエトークン」問題部分はできるだけ詳しく紹介した。

 10日のJ-CASTニュースなどによると、「サナエトークン」は実業家の溝口勇児氏が運営するユーチューブ番組「ノーボーダー」から派生した暗号資産、コミュニティトークンで、2月25日にリリースされ、3月5日に発行元が事業中止と保有者への補償の実施を発表。発行に必要な登録がないとして、金融庁は調査を検討している。一時は30倍の値がついていたが、その後、大暴落した。

 国民民主党の玉木雄一郎代表も10日、松井氏との関係を認め、自身の動画チャンネルのコンテンツ12本の制作を委託した、と説明した。しかし、松井氏が「国民民主党のネット戦略に関与した事実はない」としている(毎日新聞)。10日の衆院財務金融委員会で金融庁は「約3か月で5件の被害にあった人からの相談があった」としている。

 松井氏側から木下秘書に「サナエトークン」の話が持ち出されたのは、12月17日のZoom 会議だった。現代ビジネスはこの日の会議について、高市事務所が参加の事実を認める「回答書」を公開している。高市氏は5日の参院予算委での野党質問に高市陣営による中傷動画動画の作成疑惑に関連して週刊文春が音声を公開した12月17日の会議について木下秘書と松井氏の接点は「認めていません」と強く否定していた。

 ところが、10日の衆院法務委で中道の西村智奈美氏の質問に高市氏は「(再び秘書に聞いたところ)昨年、信頼できる方から紹介を受けた企業とのグループオンライン会議に参加し、そこで国民の声を広く聞くために検討しているという企画の紹介を聞いたことがあるということだった」と秘書の会議への参加は認めた。さらに、週刊現代への回答書について、「ごく一部抜き出されたところを私が電話で読み上げたものですから、回答した内容と違うと勘違いをしたということという説明が(秘書から)あった」と訂正した。しかし、高市氏は「これまで私も秘書もない」としていた松井氏との面談については言及を避けた(TBS系JNN28局のニュースサイト「TBS NEWSDIG」)。

 高市氏は余計なことを含めてグジャグジャ答弁して問題をずらしたり、はぐらかしたりするのが得意技だ。法務委の首相答弁をユーチューブで見たが、結果として、Zoom会議への参加は認めながら、巧みにその場に木下秘書や松井氏がいたのかなどは言及を避けている。現代ビジネスが「回答書」をネット公開しているので、改めて検討し、高市氏はこの部分は否定できなかったので「訂正」したということなのだろう。

 どちらにせよ、「私も秘書も男性(松井氏)と面識はない」との5日の参院予算委での首相答弁はぐらついてきた。7日の共同通信による松井氏証言報道を朝日新聞は「共同通信の記事によると」という異例の形(朝日新聞は共同通信加盟社ではない)で9日付朝刊で報じた。同記事には「朝日新聞は松井氏に取材を申し込んでいるが、実現してない」と書いており、インタビューができれば参戦するのは確かだ。

 週刊文春による総裁選や衆院選での「誹謗中傷」問題に始まって、国会での首相の「虚偽答弁」疑惑や暗号資産「サナエトークン」まで問題は広がり、二つの週刊誌に大手メディアまで加わった大きな事件になってきた。しかし、動画を作成・拡散した松井健氏はどうして週刊文春に告発したのか。いろいろきな臭さがある人物と報道されており、その点も合わせて解明する必要がある。 (6月11日)

▼ 共同通信が「中傷動画」問題で詳細な続報を配信

 共同通信が6月7日に続いて12日、高市陣営による「中傷動画」問題で、動画を作成・拡散した松井健氏と高市氏の秘書の詳しいやり取りの記事を同社の「47リポーターズ」でネット配信した。高市氏秘書から「(総裁選は)松井さんのおかげで勝てた」とし、衆院選でも「ネガキャン動画」を投稿、「世論調査の一環だ」「全て無償だった」などと述べている。詳しくはネットで共同通信の記事を見てほしい。
 
 週刊文春の一連の報道を裏付ける内容だが、細かいところで週刊文春にはない部分もある。大手メディアの第2弾となり、秘書と松井氏の関係を強く否定してきた高市氏が今後、国会などでどう答えるかが注目される。

 共同通信によると、松井氏とのインタビューは1日、松井氏の顧問弁護士の事務所で、弁護士同席の下、海外にいる松井氏から政治に関心を持ったきっかけや、総裁選での動画作成の経緯、松井氏が開発責任者を務めた暗号資産(仮想通貨)「サナエトークン」が事業中止に至った理由などを聞いた。主な記事の松井氏の発言骨子は以下の通り。

・松井氏は取材に、秘書から2日に1回程度、情勢報告などを受けた、と説明。総裁選に勝利した後、秘書から「松井さんのおかげで勝てた」と電話で何度も感謝され「次回の選挙でも協力をお願いします」と頼まれた。

・総裁選で協力関係を築いた松井氏。続く衆院選でも、秘書から支援を依頼された。「中道改革連合を批判し、大物候補をたたいてほしい」と依頼を受けたという。

・衆院選投開票翌日、松井氏の下に秘書からショートメッセージサービスで「この度も大変お世話になりました。自民党過去最高の議席数を賜り、旧立憲民主の害獣を駆除することができました」。

・「動画の作成、拡散は世論操作の一環。法律には違反しておらず、悪いことをしている認識はない」と松井氏。一方、公人である政治家に対する批評は、どこまでが「意見」で、どこからが「中傷」になるかの判断が難しい。

・高市氏について「明るく、政策をしっかりと実行してくれるという期待感があった。政策に真摯に向き合ってきたと周囲から聞いており、応援させていただきたいと思った」。

・24年の東京都知事選では、切り抜き動画拡散などのSNS戦略を石丸伸二氏陣営にアドバイスした。石丸氏は次点に食い込み、SNSが持つ「動かす力」を実感した。同年10月の衆院選では、国民民主党のSNS発信を支援した。

・松井氏は、高市氏の名前が入った暗号資産「サナエトークン」の開発責任者を務めた。サナエトークンは、政治に対する有権者の意見を集めるアプリの集客目的で発行された。松井氏は、総裁選後も秘書とやり取りを重ね、オンライン会議などで暗号資産の発行を伴う事業を詳細を説明したと強調した。松井氏は、秘書が長年、高市氏の地元秘書を務めていたことから、トークンの発行について、首相の了解を取りながら行動していると考えていた。「首相の了解を得ているかどうかまでは確認せず。拙速だった。慎重さを欠いたことにより世間を騒がせ、社会に迷惑をかけてしまい、深く反省している」。(6月12日)

▼共同通信が「訂正・削除」  現場の記者は萎縮せず積極報道を 

 共同通信は6月15日、自民党総裁選の中傷動画問題を取り上げたインターネット向け記事について、取材先から提供された動画の作成時期に疑義が生じたとして、動画から切り出した写真計4枚と記事の該当箇所を修正した、との記事を配信した。共同通信の対応を含めた問題点を考えた。私は共同通信社会部出身なので、バイアスがあるかもしれないが、現場の記者たちが今回の問題で決して萎縮しないで積極的な取材を続けてほしいとの願いからこの記事を書いた。

 記事は共同通信が自社のニュースサイト「47ニュース」の「47リポーターズ」で12日に配信したIT会社代表、松井健氏のインタビュー。「松井さんのおかげで勝てた」自民総裁選、高市氏秘書から小泉氏批評動画で謝意 衆院選でも『ネガキャン」証言』」の見出しで、一連の週刊文春報道で明らかにされた総裁選や衆院選での首相陣営によるとされる「誹謗中傷」を取り上げて、大手メディアとしては初めて、海外にいる松井氏から顧問弁護士事務所でオンラインで詳しい話を聞いたものである。インタビューは1日に行われ、共同通信は7日にこの記事を配信、多くの地方紙や東京新聞に大きく掲載された。今回問題となったのは、さらにこの記事を深堀りした内容で、ネットだけに配信された。

 15日の「ネット向け記事一部修正 提供動画に疑義、共同通信」によると、記事の中で(松井氏側の)提供動画から切り出した写真1枚を「自民党総裁選期間中の動画の一場面」として掲載したが、衆院選の場面の可能性が高いことが判明した。13日未明、この写真を削除し、記事の一部を修正した。松井氏の顧問弁護士は「一連の経緯に関する松井氏の証言に変わりはない」と強調、この動画の作成時期を調査したが、不明とのことだった。これを受け、共同通信は提供動画から切り出した写真全てを削除し記事の一部を修正した、としている。編集局長は「提供した動画の内容確認が不十分でした。再発防止に努めます」との談話を出した。

 これを読むと、写真を動画から切り出したのは共同側ということになる。松井氏側から提供された動画はどのような内容だったのか。削除・修正前の12日の記事中の写真には、「『総裁選期間中、AIを使って作成された小泉防衛相』や『高市首相』などのキャプション」がつけられていた。(私はこの記事をコピーしていた)。提供を受けた動画は1本だったのか、それとも何本あったのか、日時が記されていたのかーこれでは分からない。動画からの切り出し作業はどのように行われ、取材記者らの確認作業はどのようになされたのか。「確認不十分」との理由だけでは、まだ不十分である。まず、この点を徹底的に調査すべきではないか。

 そして、共同通信はなぜ、間違いに気づいたのか。ジャーナリストの篠原修司氏の「高市陣営の『総裁時の中傷動画』に未来の写真が使われている矛盾」(14日、ヤフー)でそのいきさつの一端が分かる。篠原氏はこの共同記事の魚拓から、「高市首相」として使われたとみられる写真の掲載元を示した上で、実はこの場面は26年2月7日に撮影されたもの、としている。「つまり、この動画が本当に25年10月の総裁選時に作られたものなのか。そうであれば、なぜか未来に撮られた写真が写り込んでいる矛盾が発生する」。

 このために「資料は後から作成されたものではないか?」=「ねつ造されたものではないか?」という指摘がXを中心に騒ぎとなっている状況だという。そのうえで、13日未明に共同は「記事や写真の一部について、事実関係に疑義が生じたため、訂正・削除しました」とあるだけで「何がどう誤っていたのか、どういった疑義が生じたのかは書かれていない」と指摘する。「マスメディアであれば、記事に誤りがあった場合に訂正内容を具体的に説明するのが当然」と共同の事後対応をも批判している。

 この篠原氏の批判はもっともで篠原氏の「報道内容の信頼性に関わる問題」との指摘も当然である。この点で、13日未明に行った共同の「訂正・削除」は簡単すぎただけでなく、ネットは締め切りがないはずなのだから、最初にの簡単なお知らせのあとに、せめて15日に出したような詳しい説明をした記事をだすべきだった。日曜日を挟んだとはいえ、対応がお粗末だった、と言われても仕方がない。篠原氏は「ただ、資料が怪しい、と報道が全てうそ」とは別の話だとしている。

 そこで、12日に共同が出した記事と15日に修正した記事を比べてみた。15日の記事には、写真4枚とキャプションが削除されており、その関係記事も2か所に削除や一部手直しが行われていた。そして本文のリードの後に「記事や写真の一部について、事実関係に疑義が生じたため、訂正・削除しました」とした上で「一連の動画が事後に作成された可能性が残り、動画に関する全ての写真を削除、記事の一部を修正しました。確認が不十分だったことをおわびします」と「共同通信=中傷動画取材班」の名前で書いている。謝罪部分はネット記事だけでなく、一般記事にも入れた方がよかったのではないか。これでは、このネット記事をはじめて読んだ人にしか「謝罪」の意思が伝わらない。共同通信はこれらの問題も含めて検証してほしい。

 私も長い記者経験 から自分の書いた記事で間違えてしまったことが何回かある。特にひどい訂正は亡くなった方の名前を間違いたことだ。ご家族に謝罪して許しを請い記事として「おわびと訂正」を出して間違った経緯を読者に伝えた。今回のように取材対象者が顧問弁護士を介し、海外からオンラインを通してインタビューに応じた場合、おそらく、取材対象者の住所や連絡先は明らかにされていなかったと思われるが、弁護士を通じての矛盾点などの確認は難しかったのではないか。だからといって「事後に作成された可能性が残る」ような写真を掲載したことは、本筋の話ではなくても「報道の信頼性」を損ねることになることは間違いない。

 週刊文春の取材で今回の問題が明らかにされたが、取材対象者がなぜ文春に告発したのかはまだ分からない。あくまでも一般論だが、取材対象の言うことを全て信用してはならない。だから報じないのではなく、現場の記者は決して萎縮せず、発言の裏取りをしっかりと行いつつ、書き方や提供資料の使い方には慎重を期すことが今回の教訓だと思う。高市氏の「虚偽答弁」疑惑まで指摘されるこの問題はしっかりと報じるべきである。いまこそ、「権力監視」というジャーナリズムの役割をマスメディアは果たしてほしい。(6月16日)