投稿者: 朝廷が崇敬した渡来の神
宇佐神宮（大分県宇佐市）は、広大な原生林の中にいくつも池が広がり、目に染みるような緑の中に朱塗りの本殿が浮かぶ。早くから神仏習合が進み、八幡大菩薩とも呼ばれ、武家の守護神といわれる。弓削道鏡や東大寺大仏殿の建立、隼人征伐のご託宣などで、朝廷から崇敬を受け、全国９万社の神社のうち４万社が八幡神社とされる。石清水八幡宮（京都）、鶴岡八幡宮（鎌倉）にも勧請されている。
複雑で謎の多い成立過程
道路地図を広げると、どのページにも八幡神社があり、全国的に広がっていることがうかがえる。有名な神社だが、古事記（７１２年）、日本書紀（７２０年）には登場しないことから、この時はまだ一地方神だったとみられる。社伝などによると、５７１（欽明天皇32）年、宇佐に八幡神が顕れ、社殿をつくったという。祭神は八幡大神、比売大神＝多岐津姫命（宗像三女神のひとつ）、市杵島姫命、多紀理姫命＝、神功皇后になっている。
ただ成立の過程をみるとなかなか複雑で謎も多い。まず八幡の名前の由来になるが、専門家の間にも地名、仏教説話、幡に由来する説などがあって絞りがたい。
元来は韓国の神
手掛かりを求めて研究書を当たってみると、神話学の三品彰英氏は、「対馬の天童伝説」で「八幡は多くの旗を立てた祭祀様式に名づけられた」とする。また田村円澄氏は、「宇佐八幡」で、1313年に選修された「宇佐八幡託宣集」に「辛国ノ城ニ始メテ八流ノ幡ヲ天降シテ、吾ハ日本ノ神トナレリ」と宣言があることから「日本の神となる以前の八幡神は、日本の神でなかったことになる。ではどこの国の神であったか」となると、「辛国は韓国であり、宇佐八幡は元来韓国の神であった」とする。
「豊前国風土記」の「逸文」には、「昔、新羅国の神、自ら度り到来して、此の河原〔香春〕に住めり」とあり、この話も渡来をうかがわせる。新羅といえば大きな渡来集団である秦族も八幡神社の信仰で知られる。この時代はまだ国の意識も薄く、パスポートなども必要ないから、人々は自由に半島と列島を行き来していたにちがいがない。
成立は、宇佐地方に住んだ渡来系の辛嶋氏に八幡信仰があり、そこに大神氏が大和から応神天皇と神功皇后の伝承を持ち込み、宇佐に土着の豪族の宇佐氏の本拠地の御許山の信仰の三つが重なって、宇佐八幡宮が形作られたとみられている。
殺された隼人の霊慰めるため始まった法生会
宇佐八幡では放生会も知られている。７２０年、鹿児島、宮崎に勢力を誇る隼人が大反乱を起こした。この時、萬葉集の歌人でもある大伴旅人が征隼人持節大将軍となって、反乱鎮圧の指揮を執った。八幡神も「我（われ）征（ゆ）きて降（くだ）し伏（おろ）すべし」と宣言して、征討に赴き、多くの隼人を殺したという。放生会は殺された隼人の霊を慰めるために始まったとされる。
宇佐八幡神は政治の大きな節目には、託宣を発して中央の崇敬を高めて行くが、一方神宮の成立にかかわった辛嶋、大神、宇佐の３氏の主導権争いや朝廷内の勢力争いに巻き込まれることも少なくなかったようだ。