5月28日午前の参院厚生労働委員会。高市早苗首相は、昨年の自民党総裁選や今年の衆院選を巡り、自陣営が自民党のライバル候補や野党候補を誹謗中傷する動画を作成し交流サイト(SNS)に投稿していたとする週刊文春の報道について、改めて陣営の関与を否定した。立憲民主党の石橋通宏氏から報道の真偽を問われての答弁。 高市氏は「秘書に確認した」としたうえで「ないものはない。確認できないことを私自身が証明できない限り、まるであったかのように印象付けられるには大変心外だ」とも語った。
▼「高市ネガキャン動画1日100本」 週刊文春の「スクープ第4弾」
さらに「答弁と違う事実が判明した時は責任を取るのか」と石橋氏に追及されると「秘書から『信じていないんですか』と怒られた。当該秘書ではない第三者の秘書に事務所のパソコンの記録もチェックしてもらったが、そういうものはございません」と説明。そして高市氏は「週刊誌の記事が証拠でございますか? 私、そして秘書の名誉や信用にもかかわる、政治の安定にかかわる重大な問題だ」と答えて質問した石橋氏をにらみつけるような怖い顔を見せた(立憲民主党の動画や朝日、共同通信の記事などから拾った。朝日新聞デジタルではこのシーンを「気色ばむ場面もあった」と書いている)。
「ないものはない」「大変心外だ」「私と秘書の名誉にかかわる」とまで言うのならば、高市氏は名誉棄損で週刊文春を訴えたらいいのではないか。高市氏は、国会での立民の森裕子氏の「それではこれらの記事は文春の捏造か」との追及に対して、決して今回の問題を「捏造」とは言わなかった。なぜなのか。訴えないのは、裁判などで事実関係を精査されると、何か都合の悪いことが出てくることを恐れていると勘ぐられる。だから、高市氏は国会でこのような質問をはぐらかすような答弁を繰り返すのかもしれない。
国会では参院でこのところ立民によるこのような追及が続いており、同じような場面が繰り返されている。28日発売の週刊文春は「スクープ第4弾」として「高市ネガキャン動画1日100本 スマホ工作の全貌」との記事を掲載した。
詳しくは週刊文春を読んでほしいが、その骨子だけを伝えるとー。
「1日百本から2百本の(他候補への)誹謗中傷動画を作成して拡散した」と証言したIT技術者で起業家の松井健氏は、スマホを用いてAIで機械的に動画を大量生産する。それを拡散して「世論そのものを書き換える」ことを狙った大規模なネット工作だったとする。20台ほどのスマホを用意し、Gmailのアカウントを三つずつ作り、そのアカウントと連携する形でSNSにまたアカウントを作る。そこに動画をどんどん投稿していく。
松井氏はその効果について「実際、当時TikTokなどで「小泉進次郎」と検索すると、表示される結果の半数くらいが自分たちの作った動画だった、という印象です」としている。そのうえで「名前を検索すると、対立候補はネガティブな情報で、応援する候補はポジティブな情報で埋まるようにする。こうしてアルゴリズムを動かし、世論を作れる」と松井氏は世論誘導の手法を週刊文春に語っている。
さらに、松井氏によると、自民党総裁選開票10日前の昨年9月24日、高市氏とも近しい知人から「総裁選で高市陣営が苦戦しているので手伝ってあげてほしい」との依頼を受けた(この知人が誰だか明らかにされていないが、分かれば、また大きな問題になる可能性もある)。総裁選情勢では小泉氏にリードを許していた。そこに松井氏が助言を加えた、最大のターゲットは小泉氏だったという。かくして高市氏は総裁の座をもぎとった、と文春は報じる。
また、「投開票当日、その日のうちにアカウントをを消去し、痕跡を消した」と松井氏は証言している。もともと高市氏を応援したい気持ちがあるので無償で、松井氏の持ち出しは(かかった費用は)数百万円だったとも語る。衆院選でも高市氏の公設第1秘書の木下剛志氏に「中道大物議員」をターゲットとするように依頼されて、安住淳氏らを標的にしたという。松井氏と木下氏の間の67通の証拠メールや計8回のWeb会議記録を週刊文春は入手したとしており、まだそのすべての内容を報じていないので「第5弾」以降もありそうである。
ただ、計4回の一連の週刊文春報道で私が気になるのは、松井氏は出演した5月18日のユーチューブ番組で動画の作成や拡散を認め「木下秘書とやりとりして実施した」と述べているが、一方で「高市氏のプラスになるだろうと思い、自ら主導した」と話し、今回の文春記事では、「無償」と証言していることである。
なぜ、週刊文春に松井氏は高市陣営による誹謗中傷動画のことを「告発」したのか、その真の動機は不明のままだ。松井氏が動画を作成した本当の動機や金銭授受か暗号資産の「サナエトークン」などのそれに代わる何か「対価」があったのか、その事実関係を知りたい。ここがこの問題の本丸だと思う。
▼関係者の参考人招致か証人喚問を
朝日は29日付朝刊の社説で「中傷動画問題 首相の説明 納得できぬ」と初めてこの問題を取り上げた。すでに、東京新聞や信濃毎日新聞が社説で書いているので、「やっと」という感じだが、調査報道を得意とする朝日がこの問題に参戦した意味は大きい。
社説は「首相は自身の事務所が動画の作成・発信を依頼したことはないと繰り返すが、疑念を払拭できたとは言い難い。徹底した内部調査を行い、説明責任を果たすべきだ」と主張。「首相が2月に削除したブログには『問題が起きた時に 秘書が勝手にやったこと。知りませんでした』とだけはいいたくない、との記述があった。自らの責任で事実関係を究明すべきだ」と書いた。そもそも、高市氏の国会答弁を見ていると、とても「自らの責任で事実関係を究明する」などということを高市氏がするとは思えない。やはり松井氏ら関係者の「参考人招致」か「証人喚問」を求めるべきではないか。
週刊誌報道を新聞やテレビの大手メディアが追っかけ取材する意味は大きい。高市氏は28日の答弁で「週刊誌の記事が証拠でございますか?」とまで言っている。これまで時の政権を揺るがすような報道を「文春砲」はしてきた。この首相の認識は大いに間違っている。
▼「逃げ切り」を許すな
高市陣営が昨年の自民党総裁選やことし2月の衆院選で対立候補や中道改革連合の大物候補者に対して誹謗中傷動画を拡散したとされる問題。5月21日発売の週刊文春は「スクープ第3弾」を放った。これまで、首相の「否定」のコメントばかりを短く報道してきた新聞などの大手メディアも東京新聞が「疑念払拭に説明必要だ」、信濃毎日新聞が「首相の国会説明 逃げの姿勢はゆるされない」とする「社説」を掲載するなど、このところ少しずつだが報道は広がりを見せ始めている。選挙での動画を使った政敵に対する「誹謗中傷」という民主主義の根幹を揺るがしかねない問題だけに高市陣営の逃げ切りを許してはならない。
「文春砲」第3弾は「高市首相国会答弁のウソ」を主見出しにトップの3ページで報道した。その記事は、高市氏が11日の参院予算委で立民の森裕子議員が引き出した「週刊誌の記事を信じるか、秘書を信じるかというと、私は秘書を信じます」との答弁や「お尋ねのLINE,シグナル、ショートメッセージのやり取りについても、その存在を確認できなかったと(事務所から)報告を受けている」との説明などに、高市氏の公設第1秘書で「高市早苗事務所長」の木下剛志氏と「ネガキャン動画」を作成した起業家の松井健氏との間のやり取りを示した67通の証拠メールが存在するとして全面的に反論する内容となっている。
週刊文春によると、一連のネガキャンは木下秘書が中心となり、こども政策担当大臣補佐官の西田譲氏(元衆院議員)も会議に参加。木下秘書自ら、松井氏に動画制作を依頼していた。松井氏は週刊文春の取材に(総裁選では)木下氏らと相談し、「小泉進次郎氏へのアンチ7割」、「林芳正氏アンチ1割」、「高市氏のポジティブ動画2割」を作ることで一致し、AIを用いて1日百~2百本作り、SNSに投稿していたと証言している。にもかかわらず、否定を繰り返す高市氏。そこで、木下秘書が松井氏に25年9月から今年3月にかけて送信したショートメールやLINE、シグナルの計67通に及ぶ記録を入手。これをもとに木下、松井両氏の関係を検証した、としている。
高市氏は「今、松井さんという方の名前が出ましたが、私自身もそして地元の秘書も面識のない方でございます」と11日に国会答弁しているが、メールなどによれば、木下、松井両氏は「ミーティング」と称したウェブ会議を少なくとも計8回、繰り返している。
例えば、総裁選告示2日後のショートメールでは、松井氏が「ご紹介いただきました松井です。明日のZoomミーティングよろしくお願いします」としてウェブ会議用のURLを送信。木下氏は「よろしくお願いします。明日は、うちのSNS班の責任者の西田と統括のNも参加させてよろしいでしょうか?」としている。
また、衆院選公示日前日には「明日から切り抜き部隊を動かします。明日の午前中15分程度お打合せできる時間はございますでしょうか?」と松井氏。これに対して。木下秘書は「明日は街宣車の送り出しがあるので11時半頃には大丈夫かと思います」と返信。さらに両者は少なくとも2回電話も交わしていた。
「秘書も面識がない」(後に「会ったことはない」と微妙に言い方が変化している)との首相の説明は蜜月関係を覆い隠すものだ、と断定している。
さらに、週刊文春は、首相の「他の候補者に関するネガティブな発信は一切行っていない、と(秘書から)報告を受けている」の国会答弁も事実ではないとする。その証拠として、木下秘書が松井氏に送った中道の安住氏や馬淵氏に関する中傷を依頼するショートメールを紹介。そう上で木下秘書は「うちの裏選対のネット分析の日報です。参考にしてください」 と松井氏に送信したなどと証拠を上げている。詳しくは週刊文春を読んでほしい。
一方、松井氏は18日、ユーチューブ番組の「ノーボーダーニュース」に出演。動画の作成や拡散を認めた。木下秘書とは直接に会ったわけではないが、オンライン会議をしたとした。「木下氏から具体的な指示があったわけではなく、首相の陣営にプラスになると思い、私が主導してやった」などと説明した。動画作成について「首相が認識していたかどうかは分からない」とも発言した。また、高市首相のこれまでの主張には「私の認識と一部違うところがある」と微妙な発言をしたが、その具体的な内容には触れなかった。
私もこの動画を見たが、番組自体が高市政権を応援する人々が経営し、運営するもので、番組司会者でジャーナリストの上杉隆氏が「今回のようなスピンコントロール(情報操作)は世界では当たり前で、世界中でどこでもやっている」という言葉を何度も繰り返していたことに強い違和感を覚えた。
今回のような相手を貶め、その人格まで否定するような誹謗中傷動画を拡散させることは犯罪となりうる。上杉氏は高市氏陣営を擁護するつもりで言ったのだと思うが、私にはとても許しがたい言葉に聞こえた。しかし、誹謗中傷動画をつくり、拡散させた松井氏が自らユーチューブ番組に出演し、告白した事実は大きい。
「木下秘書からの具体的な指示はない」という松井氏のユーチューブ証言について、木下秘書が誹謗中傷の素材を提供していることは一連の週刊文春報道を見れば明らかだ。私には「指示」というよりも「依頼」に見える。ただ、高市氏の認識については、まだよくわからない。松井氏の「私の認識と一部違うところ」とは何なのか。
元検察官でコンプライアンスや公選法に詳しい郷原信郎弁護士は、5月15日のユーチューブ番組「日本の権力を斬る」の中でこの問題の法律的なポイントを整理し、要旨(短くした部分や分かりやすくするために追加した)を以下のように述べている。私は非常に重要な指摘だと思う。
▼「対価」の有無が今後の焦点に
この問題のうち、法律的に問題となるのは、安住淳氏、岡田克也氏、馬淵澄夫氏、枝野幸男氏ら中道改革連合への2月の総選挙での誹謗中傷だ。総裁選は公職選挙法の対象ではない。週刊文春の記事では客観的証拠は示されている。松井氏の「公設秘書への指示」があったとするならば、公選法235条(虚偽事項公表罪)2項の「当選させない目的をもって公職の候補者または公職の候補者になろうとするものに関し虚偽事項を公にし、または事実をゆがめて公にしたものは、4年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処する」に該当する。
だが、「私が見る限り、誹謗中傷の内容は、巧妙に事実とは言えない印象だけで批判する作り込みになっていて難しい」という。しかし、「松井氏はこの動画作成にすごい手間をかけて、仕事としてやっている。通常は何らかの対価があるはずで、対価の支払いがあったか、その約束があれば、公選法221条の買収罪が成立する」としている。
この問題の被害者である弁護士出身の枝野幸男氏が6日のXを更新して「法的な事実認定は、それが民事であっても、社会一般的に求められる確からしさよりも、あるいは政治責任の前提となるという意味での政治的な確からしさよりも、相当程度高い証明力が求められる。刑事にあってはなおさらです」(J-CASTニュース)との見解にも繋がる。
松井氏は「私が主導した」とユーチューブ番組で言っているが、高市陣営から松井氏に対して「誹謗中傷動画」への「対価」があったかどうかが、今後の焦点となりそうだ。野党が木下秘書、松井氏の国会での「参考人招致」や「証人喚問」要求をする一方で、18日の松井氏のユーチューブ動画出演以降、少しづつ報道を拡大し始めた大手メディアの調査報道や週刊文春の第4弾に期待したい。 (5月21日)
▼辺野古沖の事故「背後に政権の政治的意図」
沖縄県名護市辺野古沖で小型船2隻が転覆し、研修旅行の平和学習で訪れていた京都の同志社国際高校の女子生徒と船長が亡くなった。あってはならない悲しい事故だ。
3月16日の事故発生以来、右派的な政策を次々と進める高市政権がこの事故に何らかの動きを見せるのではないかと危惧はしていた。ただ、文科省が5月22日に、学校の教育内容が「政治的中立性」を定めた教育基本法に違反するとして、同法施行以来初となる「違法認定」することにまでなるとは正直、考えていなかった。なぜ、政権はそこまでやるのかー。
5月24日付の東京新聞の「本音のコラム」。元文科事務次官の前川喜平氏の「文科相の教育基本法違反」は初等中等教育局長も務めた専門家だけあって、短い文章の中で、この問題の核心や「違法認定」の背後にある事情などをぴたりと言い当てていた。この文章を読んで、何か胸につかえていたつきものが落ちた感じだ。
前川氏によると、記者会見した松本洋平文科相は、辺野古での学習が政治活動を禁じた教育基本法14条2項違反だと断じ、同志社などに指導通知を出したと発言した。しかし、この条項は本来、教育者自身の自律のために規範であるとした。そして、むしろ大臣発言と指導通知こそ、教育に対する不当な支配を禁じる教育基本法16条1項違反だ。政治学習や平和学習の取り組みを抑え込むために、不幸な事故を「政治利用」したのだと言ってよいと歯切れのよい言葉で問題の核心に迫る。
今回の問題では、教師への「萎縮効果」だけが、識者から強調されがちで、それはそれでその通りなのだが、前川氏の「政治利用」という言葉を使った、その論旨は明解で「納得、納得」である。
さらに、前川氏は「同志社を狙い撃ちにしたのは、事故が辺野古で起きたからだ。背後には政権の政治的な意図が働いているとみるべきだ」と、今回の問題の背後に高市政権がいるとみる。
最後に「政治学習や平和学習は、教育基本法が教育の目的とする『平和で民主的な国家及び社会の形成者』の育成に不可欠の学習」だとし、「そこには現実の政治への批判が当然含まれる。その批判を封じるために政権が持ち出すのが『政治的中立性』という言葉だ。そんな合法性を装った不当な支配にひるんではいけない」と結論している。
16年の高市氏の総務相時代の発言を思い出そう。衆院予算委で、放送局が政治的に著しく公平を欠く番組を繰り返した場合、放送法や電波法に基づき、電波停止(放送停止)を命じる可能性に言及する発言をして問題となった。今回の問題もその延長線上にある、と私は見る。政治権力側が「政治的中立性」や「政治的公平性」との言葉を持ち出すときは、必ず何か狙いがある。
文科省は今回、学校側の平和教育が「偏った教育内容だった」との判断を明確にしたが、これは学校の自主性を一応、尊重してきた従来の姿勢とは一転したということだろう。その理由は、「米軍基地をめぐる反対運動に神経をとがらせる自民党保守派の影がちらつく」(23日、共同通信)と書かれているように、この問題をきっかに、辺野古の新基地反対運動に打撃を加える目的もあるだろう。また、今年8月27日告示、9月13日投開票の沖縄県知事選に影響を与えることにも政権の狙いがあるのだろう。これこそまさに、高市政権による「政治利用」ではないか。
今回の問題で注意が必要なのは、教育基本法の「政治的中立性」条項を使った政権による「政治利用」と船の安全性をめぐる船主側や学校側のずさんな対応は別な問題である。将来ある女子生徒が亡くなっている。事故の原因を究明し、その責任を追及し、再発防止策を立てることは当然である。(5月24日)
▼「はぐらかすような姿勢目立つ」 追い詰められた首相
いまはよく知らないが、以前は大学入試にも出た朝日朝刊1面の名物コラム「天声人語」。5月27日にようやく高市陣営が自民党総裁選や総選挙で他候補を誹謗中傷する動画をSNSに投稿したとする疑惑を報じる一連の週刊文春報道を取り上げた。その書き出しが「不思議で、仕方がない。なぜ高市首相は正面から向き合おうとしないのだろうか。(中略)疑惑に対し、はぐらかすかのような姿勢が目立つ」と書いた。
「リクルート事件」など時の政権批判を調査報道の手法で「権力監視の視点」から追及してきたはずの朝日新聞。長年の愛読者だからこそいうのだが、この問題での論調はなぜか腰が引けていて、弱々しいと感じるのは私だけだろうか。「不思議で仕方がない」のは、この問題に対して他の問題に絡んでちょっぴり触れたことはあるものの、一回も真正面から社説にすら取り上げない朝日の姿勢である。
この日の「天声人語」の内容をもう少し紹介する。週刊文春の報道では、衆院選や自民党の総裁選で秘書とやりとりし、中傷動画を作ったと主張する男性の言葉が報じられた。国会で真偽を問われた首相は言った。そうした動画の作製や発信はないとの報告を受けている。「私は秘書を信じる」。いや、誰を信じるかではなく、人々が知りたいのは事実関係だ。秘書は中傷動画に関与したのか、男性とやりとりしたのか。日をおいて問われても「私自身が関わっていることは一切ない」。どうしてこうかみ合わないのか。「私自身も秘書もお会いしたことのない方だ」。オンラインのやりとりはないかと言われると「私に聞かれても分からない」。
その上で天声人語は「SNSの言説に投票が大きく左右される。そんな新しい世界の入り口に私たちはいて、不安を感じている」とし、「もっと丁寧に、誠実に、首相が説明してもいい話ではないのか」と書く。週刊文春が3回にわたって疑惑を報道し、秘書と動画を作った男性とのやりとりを示すメッセージという具体的な証拠を付きつけた。男性はユーチューブ番組に出演し、自らがこの動画を作り、SNSで拡散したことを認めているなど客観的にみても、それが法律違反に当たるのかは別として、その証拠はかなりそろっているように見える。すでに「単なる疑惑」では済まない段階にあるのではないのか。
高市氏のこれまでの数回の国会答弁の内容もはぐらかしや故意に質問をずらすことばかりである。「秘書の報告を電話で聞いた」というだけで、高市氏が本気で調査などをしていないことを示している。野党の質問に「かみあわない」のではない。きちんと答えていないのだ。いや、本当は答えられないのかもしれない。そこを天声人語の言うように、「もっと丁寧に、誠実な説明」を首相に求めるだけでいいのか。天声人語は甘すぎないか。。私には、高市氏はすでに、きちんと疑惑にこたえられないほど追い詰められているようにすら見える。
「文春の第1報から、1か月以上近くが過ぎる。改めて思うなぜだろう」が天声人語の最後の2行だ。朝日だけではないが、大手メディアはなぜこの問題で調査報道をしないのか。社説で国会での証人喚問を要求しないのか。改めて思う。なぜだろう。
いま、私のメールに文春オンラインのニュースメールが届いた。週刊文春のスクープ第4弾は「《新証拠入手》高市ネカ゛キャン動画『1日百本』ネット工作の全貌」だそうである。 (5月27日)
▼問われる首相の資質
国会の委員会でのシビアな野党質問への答弁を見ていても分かることだが、高市氏には与党議員だけでなく野党議員も国民の代表であり、国民に丁寧に説明するという姿勢や能力が欠けているのではないか。それが国会だけでなく、マスメディアへの対応でも今回の「質問は全社で1度ということですので、幹事社の方からまとめてお聞きします」との民放テレビの記者が質問時に発したニュースでからくも明らかになった。政権がいつまでこのような対応を取るのか、不明だが、これも政権による「メディア統制」であり、新聞協会、NHK,民放連は抗議して是正させるべきである。
首相がメディアとの記者会見で記者からの質問を受け、それに丁寧に答えることは民主主義国家にとって、メディア側では国民を代表しての「権力監視」の重要な手段であり、日本の最高権力者である首相には、国民に対しての義務でもある。このことがきちんと出来ない首相はその資質が疑われても仕方がない。日本はどこかの国のような専制国家ではないはずだ。
このことが明らかになったのは、5月25日の3兆円規模の補正予算編成発表の際の首相官邸記者クラブ(内閣記者会)と首相の「会見」だった。首相側の対応は記者会見とはとても言えない内容だった。朝日の首相動静を見ると、午後5時35分から同54分までの19分。ホルムズ海峡封鎖で石油が入って来ず、ナフサ不足などで国民の生活に大きな影響が出始めているにも関わらず、「目詰まり」を理由に備蓄は足りているとしてきた高市氏がこれまで否定してきた補正予算を編成をするとの重要な節目の「会見」のはずだった。
5月26日のJーCASTニュースによると、高市氏は「必要に応じて、今回創設する『中東情勢等対応予備費』も活用しながら、適切に対応してまいります」などと、一方的に補正予算編成となった理由や言い訳としか思えない内容の主張を並べたてた。これに対して、テレビ朝日の記者が前述のように前置きして「長期金利上昇が続く中で、今の補正予算に関する説明は市場の信認を得られるか、多額の予備費を積むことへの説明責任をどう考えられますか」と述べて、大きく四つの質問を一気に投げかけた。高市首相は回答したが、「質問は全社で1度」と話した通り、他の記者からの質問はなかった。
▼短い会見 フリー記者は排除
朝日の26日付夕刊「素粒子」は「大切な補正予算案なのに、アピールするだけして質問は『全社で一度』とは。首相のコンビニ『会見』がネットで炎上する。世論の支持はお手軽には手に入らない」と皮肉った。
同じことが27日の政府のインテリジェンス(情報の収集・分析)の司令塔となる「国家情報会議」創設法が参院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立した際にも再現した。官邸ホームページによると、今回は幹事社の共同通信が「一部野党からプライバシー侵害への懸念も指摘されましたが、法案成立の受け止め、意義をお聞かせください」などと質問した。
高市氏は「この法律は、自民党総裁選挙2回にわたりまして、私自身の候補者としての公約の中で、重視をしてきたものでもございます。本法律では、複雑で厳しい国際環境の中で、我が国のインテリジェンスの基盤を整備する、そして情報力を高めることによって、直面する困難な課題に的確に対応する、国民の皆様の安全を守る、安心を守る、そして国益を守る、こういったものでございます。国会審議の中では、プライバシーなどに関する御懸念の声も示されました。けれども、本法律は行政機関相互の関係を律するものでございますので、そのようなリスクを高めるようなものではないということを丁寧に説明申し上げてまいりました」と答えている。これに対する、他の記者の質問はなかった。
野党は国会審議で、国民監視の強化や民主的統制の必要性など歯止めを要求したが、高市政権はその必要性を否定。今後「スパイ防止法」や日本版CIAといわれる「対外情報庁」設置につながる国民の人権を侵しかねない重要法案の成立にもかかわらず、「会見」は官邸HPの動画を見ると、午後5時3分から同6分までのたった3分だった。
フリージャーナリストの畠山理仁(みちよし)氏は「また短い『ぶら下がり会見』。この場にフリーランス記者は入れない。内閣記者会だけ。内閣広報室は報道側にカメラを向けることで、質問する記者がほぼいないことを写した。実際、共同通信の1問だけで、ほぼ高市早苗首相の発表会。追加質問なし。もう「『内閣総理大臣記者会見』は開かれないのだろう」とSNSに投稿している。
「質問は全社で一度」と首相側が言い出したのは、これまでの首相会見で幹事社だけでなく、幹事社以外の質問でも事前にその内容を官邸側に教え、官邸側がその回答を準備することを繰り返してきたことにある。安倍晋三政権以降、その積み重ねがあるので、記者クラブ側をなめた官邸側が高市氏の強い意向もあってこうした措置を取ったのではないか、と私は見る。だから政権にとっては、うるさい存在のフリー記者は排除した。
▼「権力監視」の役割果たせるか 大手メディアは本気で追及を
内閣記者会もこれらの政権の対応に全く黙っていたわけでもなさそうだ。
26年度当初予算が成立後の4月7日に高市氏は記者団の取材に応じ、「歴代政権と比べて取材対応の機会が少ない」との質問にこう答えている。
「歴代と比べて多いか少ないか承知していない。国民に必要な情報をお伝えする方法も多様化してきている。首相就任以降はできる限り、毎日、主にXで政策に関するものを含め発信を行うようにしている」と述べた(4月7日、毎日新聞)。このときの「会見」は約22分(うち12分は首相の冒頭発言)で、質問した記者も2人だった。
高市氏のXのフォロワー数は約290万人と政治家の中でもダントツを誇る。しかし、フォロワーは支持者が中心で、必ずしも、民意を示しているものではない。また、支持者だけでなく、批判的な人々の意見を聞くことも首相としては重要なことはいうまでもない。高市氏は何しろ、自分を批判する人が大嫌いと聞く。記者会見を開けば、厳しい質問が出るのでできるだけ会見を避け、「質問は全社で1度」にしたのだと思う。総務大臣時代に放送局の「電波停止」に言及するなど、応援団を除いて批判メディアは敵ぐらいに考えているのだろう。
それにしても、「質問は全社で1度」になぜなってしまったのか。官邸と内閣記者会の交渉経過を知りたいし、メディアはそれを記事にして報道し、抗議すべきではないか。いくら高支持率が続いているからといって、このような状況になった大きな責任は記者クラブ側にもある。こんなことが続くと、すり寄りやゴマすり記者ばかりになっているのではないか、との批判も読者や視聴者から出てこよう。それでは「権力監視」の役割は果たせない。
28日発売の週刊文春が高市陣営による自民党総裁選や衆院選での他候補の誹謗中傷動画疑惑の「第4弾」を放った。主見出しは「高市ネガキャン動画1日100本 スマホ工作の全貌」である。この動画を作成した松井健氏の証言やおそらく松井氏から提供されたメッセージのやりとり67本やZoom画面など8本という証拠を基に生々しい事実がまた明らかになっている。
この問題は高市氏のアキレス腱である。大手メディアは選挙という民主主義の根幹にかかわる問題で高市陣営の関与があったのか、本気でこの問題を追及すべきである。SNSにはこの問題に深堀りをしようとしないメディアにあきらめに似た批判の声があふれている。このことを肝に銘じてもらいたい。(5月28日)