「最新ニュースを古新聞で読み解く」閣議決定でGoTo開始は「感染拡大収束後」  原則に反した政策展開を基本文書が浮き彫りに

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 日々のニュースは、途中経過だったり断片的だったりするが、全体像に迫る方法の一つは、各テーマの過去の基本文書と比べて読むことだ。コロナ禍に対する政府の需要喚起策「GoToキャンペーン」についての基本文書は4月7日の閣議決定で、「新型コロナウイルス感染症拡大が収束した後」と明記している。菅義偉首相は11月21日、GoToの一時停止を表明したが、事業そのものは継続する方針だ。GoTo開始からの流れを基本文書のキーワード「収束後」に照らしてみると、政権が自らの決定に背いた形で政策を展開してきた姿が浮き彫りになる。以下、GoTo、学術会議任命拒否、拉致問題の3点について、基本文書を判断基準としてニュースを読み解く“古新聞の効能”について記したい。

GoToの基本文書は閣議決定

 第1点は、GoToキャンペーンについての政府方針。基本文書は4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」だ。その目次概略は以下の通り。

 第1章 経済の現状認識と本経済対策の考え方
  第2章 取り組む施策
   Ⅰ 感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発
      ①マスク・消毒液等の確保(略②-⑧)
   Ⅱ 雇用の維持と事業の継続
      ①雇用の維持(略②-⑤)
   Ⅲ 次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復
      ①観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテインメント事業等に対する支援
      ②地域経済の活性化
      (略ⅣⅤ)

 GoToキャンペーンはⅢの①で、雇用維持・事業継続対策の後の「次の段階」の施策。地域活性化とあわせた二つの柱の一つ、という位置づけになっているが、①のGoToが突出して展開されていることになる。Ⅲの①の本文の主な点は次の通り。

 「今回の新型コロナウイルス感染症の影響により、売上等に甚大な打撃を被った観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテインメント事業を対象に、Go Toキャンペーン(仮称)として、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束した後の一定期間に限定して、官民一体型の消費喚起キャンペーンを実施する。以下略」

 注目されるのは開始時期で、「拡大収束後」としている。実際の「GoToトラベル」開始は予定の8月上旬を繰り上げて、7月の連休前22日から実施された。当時、菅氏は官房長官で、彼を首相に押し上げる二階俊博自民党幹事長が全国旅行業協会会長であることなどから、二人がキャンペーンの旗振りだと報道された。8月には、感染第二波がグラフを一目見ただけで読み取れるが、事業は継続される。10月には、GoToトラベルに東京も参加し、「GoToイート」も始まる。

 そして、迎えたのが第三波。 11月20日に政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が、一部の都道府県が感染急増段階のステージ3に入りつつあるとして、この地域でGoToトラベル運用の見直しを求める提言をまとめ、尾身茂会長が「政府の英断」を訴えた。これを受けて翌日、首相がGoTo見直しを表明した。

 見直しの内容は、感染拡大地域での運用の一時停止であり、事業自体の中止ではない。25日の衆議院予算委員会で、首相は「地方のホテル、旅館、バス、タクシー、食材提供業者、土産店など全国に900万人おり、GoToトラベルで何とか雇用を維持してきている」「GoToトラベル事業の利用者4000万人のうち陽性者は180人にすぎない」-と経済効果、因果関係否定論を展開し、GoTo事業を継続していく考えを強調した(TBSNEWS)。この日は、感染急拡大に関し日本医師会の中川俊男会長が「全国各地で医療供給体制が崩壊の危機に直面している」と訴えていていた。

 こうした一連の動きをキーワード「収束後」で照らしてみると、政権が、基本文書(閣議決定)に反してGoTo政策を進めていて、首相の見直し表明も、一時停止線の前でブレーキを軽くかけただけ、という図がはっきりと見えてくる。

学術会議:中曽根首相答弁が基本文書

 第2点は、今秋の主な政治的争点の一つ、日本学術会議会員6人の任命拒否について。政府の考え方を示した基本は、1983年5月12日の参議院文教委員会での中曽根康弘首相の答弁だ。問題が発覚した今年10月初旬、メディアが引用していたが、最近はあまり目にしないので、主な部分を掲載する。会員を選挙で選ぶのでなく、推薦制に移行する法案の審議での発言。

「学問の自由ということは憲法でも保障しておるところでございまして、特に日本学術会議法にはそういう独立性を保障しておる条文もあるわけでございまして、そういう点については今後政府も特に留意してまいるつもりでございます」
 「学会やらあるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎません。したがって、実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので、政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば、学問の自由独立というものはあくまで保障されるものと考えております」

 任命拒否発覚した後、政府は、首相が学術会議の「推薦のとおりに任命する義務があるとまでは言えない」とする内閣府作成の文書(2018年11月13日付)を公表したが、これは行政の内部文書に過ぎない。中曽根国会答弁を覆すには、国会の場で首相が任命拒否の法的根拠と理由を含め新たな政府見解を述べる必要があるが、政府は具体的考えを示していない。

 中曽根答弁を座右において、問題発覚後の現政権の一連の弁明を読むと、従来の方針に反した恣意的なものであることがはっきり分かる。

政権の最重要課題は経済再生?

 第3点は拉致問題。 手元の古新聞には、 「引き続き最重要課題である拉致問題を解決する」(2018年1月22日の安倍首相施政方針演説)とある。安倍政権時代、この文言を繰り返し聞いた。

 ところが、菅首相は今年9月16日の就任記者会見の冒頭発言で、「今、取り組むべき最優先の課題は新型コロナウイルス対策です」とし、「経済の再生は引き続き政権の最重要課題です」と述べている。拉致問題に関しては「戦後外交の総決算を目指し、特に拉致問題の解決に全力を傾けます。この2年間、拉致問題担当大臣を兼務し、この問題に取り組んできました。米国を始めとする関係国と緊密に連携し、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、引き続き全力で取り組んでまいります」とあるだけで、政策全体の中での位置づけがない。

 就任会見の冒頭発言は、記者のぶら下がりで予期せぬ質問に答えるのとは違い、一言一句を検討して作った文章を読み上げるわけだから、そこにキーワード「拉致問題=最重要課題」が欠落していることは、菅氏のキャッチコピー「わたしはブレない」(菅氏の横浜の事務所外壁に掲げてある)とは裏腹に、主軸がブレているとの印象を強く与える。

 冒頭発言の後、記者の質問に促される形で、「拉致問題については、安倍政権同様、最重要、政権の課題であります」と答えている。その後、国会での所信表明演説(10月26日)で「拉致問題は、引き続き、政権の最重要課題です」と軌道修正している。

 基本文書は要旨や抜粋ではなく、全文を保存するのが原則。かつては新聞の切り抜きをスクラップ帳にはりつけていたので、この文章の見出しは「ニュースは古新聞で読み解く」とした。引用した閣議決定、首相演説の出典は古新聞と官邸HP。中曽根答弁は、委員会議事録を「国会会議録検索システム」で検索した。国会図書館に足を運び、紙の議事録の該当部分をさがすといった作業は不要だ。現在は簡単にネット検索できるので、様々なテーマの基本文書を手元に置いて、最新ニュースを読まれることをお勧めしたい。コロナ禍については、医療や事業をはじめ多方面の現状を把握し、現場の視点から目つめることが重要だが、この点は別の機会に譲りたい。