コラム「番犬録」第27回 危機に立つ「象徴天皇制」 旧宮家の男系男子養子案の早期実現にこだわる高市首相 「皇室典範改正」など二つの世論調査結果に強い違和感 質問の仕方で回答が異なる可能性も これでは「女性・女系天皇」への道が閉ざされてしまう なぜ自民党は「男系男子」にこだわるのか 二つの「有識者会議」の考え方の乖離こそが問題の原点だ 自民党総裁選や総選挙でライバルの自民党候補や中道の議員誹謗中傷で「文春砲」第2弾の衝撃 「第三の男」は大臣補佐官だった 高市首相は説明責任がある   

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 5月16,17日両日に行われた朝日新聞と共同通信の二つのメディアの世論調査の結果に強い違和感を覚えた。「皇室典範改正」や「再審制度見直し」のテーマについて、質問の仕方によっては、回答が異なる可能性もあったのではないか。

 まず、朝日新聞の世論調査(18日付朝刊掲載)。皇室について聞いたところ、女性皇族が結婚後も皇室に残れるようにすることに「賛成」が65%で「反対」の19%を上回った。旧宮家の男系男子を養子として皇族にすることは「賛成」47%、「反対」36%だった。また、皇位継承についても質問した。女性天皇は72%(男性に限るは18%)、これまで男系が続いてきたが、歴史上はじめて、母方だけに天皇の血をを引く「女系天皇」になることについては74%(男系維持は18%)が容認する考えを示した、との結果だった。

 今国会で、政府の有識者会議が「皇族数確保策」として提示(21年)したのは①女性皇族が結婚後も皇室に残れるようにする②旧宮家の男系男子を養子として皇族にするーの2案。①案では、女性皇族が民間人として結婚後も皇室に残る場合に、夫や子も皇族にすることの賛否を問うと、「賛成」42%、「反対」42%と割れた。

 私がとても不思議な結果だと考えたのは、「女系天皇」容認が7割を超えているのに、「男系男子」を維持するために高市首相や自民党右派がこだわった「旧宮家」からの「養子案」についてだった。「賛成」47%と「反対」の36%を11ポイントも上回っている。これは「女系天皇容認7割」と大きく矛盾する結果だ。今回の皇室典範改正問題での根幹となるテーマで、どうしてこうなるのか。朝日記事にはその説明がない。

 私は質問の仕方に問題があったのではないかと考える。「世論調査 質問と回答」によると、その質問全文は以下の通りだ。

「元々は皇族でしたが、戦後まもなく皇室を離れて民間人となっている人たちがいます。その家系で、父方に天皇の血を引く男性を養子として皇族にすることに、賛成ですか。反対ですか」

  丁寧に質問しているように見えるが、これでは不十分だ。1947年に皇籍を離脱した11の宮家のうち現在若い男系男子がいるのは、四つの宮家で10人程度いる(読売新聞)という。まず「男系男子」を皇位継承者としたのは明治の皇室典範からで、新旧典範とも「養子」は禁じられている。

 2005年の小泉純一郎内閣の時に「女性・女系天皇」を容認した有識者会議報告書では「旧皇族の皇籍復帰等の方策」について「国民の理解と支持、安定性、伝統のいずれの観点から見ても問題点があり、採用することは極めて困難である」としている。そのうえで「旧皇族はすでに60年(現在では80年)近く一般国民として過ごしており、今上天皇(現在の上皇陛下)との共通の祖先は約600年前の室町時代までさかのぼる遠い血筋の方々で、これらの方々を広く国民が皇族として受け入れることができるか懸念される」とし、この考え方を排除した。

 質問は「元々は皇族でしたが・・・」という聞き方が誤解を生まないか。対象となる若い方々はおそらくその親の世代も「元々皇族」ではなく、民間人である。47年の皇籍離脱まで当時の方々が皇族であっただけである。05年報告書の見解も含めながら、質問しないと、調査対象者に誤解を与えないか。私は賛成が11ポイントも上回った理由は、この質問の内容も影響していたと考えている。

 もうひとつは共同通信の世論調査だ。「皇室典範改正問題」での「旧宮家の養子案」についての質問は、朝日新聞よりもさらに荒っぽい。「皇族の数を確保するためのもう一つの策は、11ある旧宮家の男系男子を養子に迎える案です。あなたは、この案に賛成ですか、反対ですか」というのが質問全文。

 回答は「賛成」43・7%、「反対」42・6%、「分からない・無回答」13・7%との結果だった。皇室問題に興味を持っている人は別だが、この質問だけで問題を理解できる人は少ないと思う。共同調査には「女系天皇」への質問はなく「女性天皇」の「賛成」は83%だった。

 共同の世論調査は朝日にはない「再審制度見直し」について質問している。

 その質問全文は「刑事裁判の見直しが進んでいますが、裁判所の再審開始決定に検察が不服を申し立てる抗告の扱いが焦点となっています。あなたは、検察の不服申し立てをどうすべきだと思いますか」。

 私はこの質問に対する回答の仕方に問題があると考える。

「現行のまま残すべきだ」19・4%
「十分な根拠がある場合を除いて原則禁止すべきだ」59・7%
「全面禁止にすべきだ」11・9%
「分からない・無回答」9・0%

 この問題では、法務省は当初、現行制度と同様に検察抗告を全面的に可能とする原案を準備したが、自民党内で反対論が続出。修正を3回重ねた上で、再審開始決定に対する検察官不服申し立て(抗告)を原則禁止にし、法律本体部分の本則に盛り込んだ刑事訴訟法改正案を政府が閣議決定した。そして改正案では「十分な根拠がある場合」に限り抗告理由を公表するほか、その是非を審理する期間を1年以内とする規定も設けられた。

 このような経緯があって「十分な根拠がある場合を除いては原則禁止」という規定になったということだが、これは「抗告禁止」に例外が設けられたことになる。弁護士資格を持つ一部自民党議員が法務・検察と対峙し、粘り強く交渉を続けたこと自体、自民党としては稀有なことで評価することにやぶさかではないが、「全面禁止」にしないと、したたかな検察は例外規定を多用すると思う。そのことも質問できちんと触れるべきだった。「十分な根拠」などと回答欄に書くと、この問題をよく知らない人々に、これだけで「それでいいのではないか」と考える人が出ても不思議ではない。これこそ、法務・検察の思うつぼである。さらに、「証拠開示」や「目的外使用禁止」の問題もきちんと質問に加えるべきだった。

 メディア各社で内閣支持率が20ポイント近く異なる事例も出ており、質問項目や質問の仕方だけでなく、現在のコンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかけるRDD方式を検討すべき時期にきているのではないか。

▼ 大手メディアは調査報道で週刊文春に続いて新たな事実の発掘を

 5月8日の参院本会議で、高市早苗首相は、昨年の自民党総裁選や2月の総選挙で高市陣営がライバル候補や中道改革連合の大物議員を誹謗中傷する動画を作成してSNSに投稿していた、との週刊文春報道を否定した。立憲民主党の小島智子氏への答弁。

  9日付の朝日新聞によると、高市氏は「事務所の職員に確認し、他候補のネガティブな情報発信や、動画を作成するといったことは一切行っていないとの報告を受けている」と述べた。事務所職員に確認した内容として、総裁選と総選挙について「高市事務所と陣営で、事務所が運営するアカウントでのSNS発信は行った」と説明。「ただそれ以外のアカウントでの発信は行っていない。他候補を中傷するような内容の投稿も行っていない」と語った。

 4月30日発売の週刊文春ゴールデンウイーク特大号によれば、総裁選については、高市事務所が運営するアカウントではなく、中傷動画を投稿したのは「真実の政治」を名乗るアカウントで「投稿の責任者は分かっていない」と書かれている。

 その上で、この「動画作戦」をけん引したのは高市氏側近の公設第1秘書の木下剛志氏で、その実働部隊は、この問題以前に週刊文春が問題視した暗号資産「サナエトークン」に開発に関わった技術者の松井健氏だったという。「真実の政治」は総裁選の期間中に計3本の動画を投稿していた。

 高市陣営の「動画作戦」は、総裁選だけでなく2月の衆院選でも同様の行為に及んだという。私はこちらの方が公選法違反になる可能性があり、総裁選よりも大きな問題だと考える。

 週刊文春によると、公示日前日の1月26日に松井氏が高市氏秘書に「明日から切り抜き部隊を動かします。明日の午前中15分ほどお打合せできる時間はございますでしょうか」とショートメッセージ。木下秘書が「明日は初日で街宣車の送り出しがあるので、11時半には大丈夫かと思います」と返している。

 この話し合いのターゲットは、選挙直前に発足した中道改革連合の大物議員たち。「ネガティブキャンペーンを張ることで一致した」(松井氏)。再び「部隊が動き出した。翌日から木下秘書は、メッセージ上で具体的な中道批判を次々と依頼する、などと書かれている。この後も双方のショートメッセージでのやり取りが続いた。

  週刊文春の取材は徹底的な裏撮りに定評がある。だから記事の読者からの信頼性も高く、時の権力を揺さぶる力を持つ。ゆえに「文春砲」と呼ばれる。あまり詳しく書くと、著作権にも絡むのでこのくらいにしておくが、安住淳氏、馬淵澄夫氏、岡田克也氏、枝野幸男氏の4人がターゲットに選ばれ、誹謗中傷動画を「様々なアカウントを使って投稿していました」(松井氏)。4人はそろって落選した。なぜか野田佳彦前代表や中道の代表に選ばれた小川淳也氏は対象とならなかった。

 国政選挙で野党第1党の大物議員を誹謗中傷する動画を拡散させたのであれば、民主主義の根幹を揺るがす大問題だ。弁護士であり、立憲民主党の創立者でもある枝野氏は「政局ゲームに興じるプロのクレーマー」とやられている。

 ネットメディアのJ-CASTニュースによると、その枝野氏、5月6日にXを更新し「もし週刊文春の記事の内容が事実なのであれば、私にとっても、また日本の民主制にとっても、到底容認できるものではありません」との見解を示した。さらに「週刊文春による渾身の記事であり、記述内容の具体性からも信ぴょう性は高いと思います」とも指摘した。

 その上で、法的措置を求める意見に対して「法的な事実認定は、それが民事であっても、社会一般的に求められる確からしさよりも、あるいは政治責任の前提となるという意味での政治的な確からしさよりも、相当程度高い証明力がが求められます。刑事にあってはなおさらです」と法律家らしい言葉で名誉棄損や公選法違反などでの刑事告訴や民事提訴について当面は慎重な姿勢を示した。

 そして「まずは現職の皆さんが政治的な追及を徹底され、また、他のメディアも良識を発揮して、さらに具体的かつ裏付けられた事実を明らかにしてもらいたいと強く期待しています」と述べている。

 高市氏は「事務所に確認したが、そういうことは一切行っていないと報告を受けた」と答弁しており、必ずしも完全否定とはいえない。その報告が虚偽の場合もありうるわけだ。もし、虚偽と分かった場合の逃げの構えも答弁から感じる。

 まず、メディアは少なくとも、この問題のキーパーソンの松井健氏に取材し、事実関係の確認だけでなく、新たな事実の発掘取材をすべきではないか。週刊文春の第2弾に期待するとともに、国会での「証人喚問」などの野党の追及もありだと思う。

 繰り返すが、この問題は事実ならば、現職の首相陣営による民主主義を揺るがす大スキャンダルである。それにしても9日の朝刊の各紙の扱いにはあまりにも小さすぎてがっかりした。

 メディアにとってはこれまでの高市政権に忖度した「大本営報道」というまっとうな視聴者や読者からの批判を跳ね返す大きなチャンスでもある。この問題を放置することは許されない。 (5月9日)

▼「ネガキャン動画」で「文春砲」第2弾 

 昨年の自民党総裁選と今年の衆院選をめぐり、高市陣営が、対立候補や野党候補者への誹謗中傷動画をSNSで大量に拡散していた問題。5月13日発売の週刊文春が「独占スクープ第2弾」として「高市首相“ネガキャン動画大作戦”に大臣補佐官が参加していた」との記事を掲載した。

 この問題では、参院で国会論戦が行われ、立憲民主党が「民主主義の根幹である選挙の公平性に関わる問題だ」と追及した。ショートメール、ライン、シグナルなどのSNSを駆使しての誹謗中傷。高市首相は「週刊誌の記事を信じるか、秘書を信じるかというと、私は秘書を信じます」と逃げとも思える、完全否定かどうかもよくわからない答弁をしている。

 選挙でのSNSを使った誹謗中傷が問題となっているおり、一番やってはいけない首相陣営が本当にやっていたとしたら、日本の民主主義を危機に陥らせる重大問題で、国会や大手メディアが徹底的に追及するべきである。しかし、大手メディアの反応は、単に首相が否定した事実を伝えるのみで何とも弱すぎる。週刊文春は「取材班の手元には高市陣営の関与を示す新たな証拠が、まだまだ存在する」と書いており、第3弾以降の展開もありそうである。

 週刊文春5月21日号によると、この“ネガキャン動画作戦”には、政府の要職にある「第3の男」も参加していた。(その証拠として)総裁選告示から2日後の9月24日、打合せ準備のために高市氏の公設第1秘書の木下剛志氏と文春報道で暗号資産「サナエトークン」に関わったとされる技術者の松井健氏が交わしたショートメールがある。まず、松井氏が<明日21時~Zoomミーテイングよろしくお願いします>とWeb会議のリンクを送信。

 すると、木下氏はこう返信した。<よろしくお願い申し上げます。明日は、うちのSNS班の責任者の西田と統括のNも参加させていただいてよろしいでしょうか?>。これに、松井氏は<もちろんです>と返答した。この会議で松井氏は西田氏らと総裁選の情勢等を相談し「小泉氏へのアンチ7割、林氏アンチ1割、高市氏のポジティブ動画を2割」を作ることで一致したと証言している。

 この西田氏とは、実は自民党や日本維新の会に所属した元衆院議員の西田譲氏。総裁選で西田氏は高市陣営におけるSNS対策班の責任者だった。4月1日、黄川田仁志・こども政策担当大臣の補佐官に就任している。

 3月31日の記者会見で黄川田大臣は「西田さんは旧知の仲で議員も務められてきたこともありまして、こども家庭庁が発足してから関心をもってきたということでございます。もともと、私が彼と出会ったのは、SNSとかインターネットとかで、そういう方面に強い方でありましたので、人材としては適任かと思った次第でございます」と記者の質問に答えている(内閣府ホームページ)。

 要するに、黄川田氏のお友達だったわけだ。黄川田氏は高市内閣で初入閣し、高市氏の側近として総裁選での司会を務めるなど信頼が厚かったといわれる。高市氏の側近のお友達というわけだ。

 文春が西田氏に携帯電話を入れると、「総裁選で動画を」との問いに「うーん。1回ちゃんと話した方がいいですね、そういうのは」と答えた。「相手候補のネガキャンを話し合った」かを尋ねると「ないです。戦略上そういったことをやる必要はないですし」と否定。その後、取材には応じなかった、という。文春記事では西田氏について、総裁選でのネガキャン参加しか書いていない。文春記事はこう結論している。

「ネガキャン動画の作戦を練った人物が今まさに高市政権を支えて、子供たちのSNS利用規制の議論に関わっているのだ」

 5月11日の参院決算委では、立憲民主党の森裕子議員が文春報道を取り上げ「秘書の方を信じる」との答弁を引き出している。そのやり取りの詳報が12日の弁護士ドットコムに掲載されているので少し紹介しておく。

 高市氏はこの問題については「事務所の秘書に電話で確認しました」としたうえで「他の候補に対するネガティブな情報を発信する、あるいはそのような動画を作成して発信するといったことは一切、行っておりません、と、このような報告を受けております」と答えた。「松井さんという方の名前が出ましたが、私自身も、そして地元の秘書も面識のない方でございます」ときっぱり否定した。

 この後、森氏は「第1秘書さんと松井さんとのやり取りが具体的に記述されているんですがあれは捏造ですか」とただし、さらに「自民党過去最高の議席数を賜り、旧立憲民主の害獣をたくさん駆除することができましたなど、ショートメッセージの写真が配信されておりますけれど、これは全くの事実無根、捏造だということでよろしいですか」と追及。「捏造だと思うなら、そうお答えいただけばいいし、全くの事実無根だっていうんだったら、そうお答えください」と繰り返すと、高市氏はこう言い放った。
 
 「私自身の戦い方、戦い方の流儀ですね。ずっとそばで一緒に見ていた秘書でございますので、その週刊誌の記事を信じるか秘書を信じるかというと、私は秘書を信じます」。

 最後に森氏は「捏造なら捏造だと言っていただければいいと思います。過去には捏造だって言い張ったじゃないですか。総務省の公文書ですよ。捏造だと言い張ってそのままそのことについて説明責任を果たしておりません」とまで言って追及したが、なぜか高市氏は「捏造」や「事実無根」という言葉は一切、口にしなかった。

 この問題をFBに投稿するのは連続3回目。国会での証人喚問か、参考人招致か、名指しで誹謗中傷された中道改革連合だけでなく、全野党がもっとしっかりとこの問題を追及すべきではないのか。「それにしても・・・」と考えてしまうのは、大手メディアの鈍すぎる反応である。 (5月14日)

▼女性・女系天皇論議の復活を

 衆参両院は5月15日、安定的な皇位継承に関する与野党の全体会議を開き、中道改革連合が党見解を表明して各党、会派の意見が出そろった。森英介衆院議長(自民党)は記者会見で、正副議長が立法府としての見解案をまとめ、来週にも各党派に示す意向を明らかにした。この見解案を各党の代表者協議で「立法府の総意」としてまとめ、それに沿った皇室典範の改正法案作成を政府に求める。

 高市氏は、7月17日に会期末を迎える今国会での成立を目指す方針を表明している。「男系男子の皇統を守り続ける」ために「旧宮家の男系男子に皇室に養子に入っていただく方法があります」(雑誌「月刊Hanada」の「わが国家観」)というのが高市氏の「国論二分政策」の柱のひとつだ。だからこそ高市氏は早期実現にこだわる。

 21年12月の菅義偉内閣時の有識者会議報告書(「21年報告書」)は、次世代の皇位継承者が秋篠宮家の長男、悠仁親王1人しかいなくなるという皇室存続の危機をめぐって、あくまで「男系男子」の皇統を維持し、「女性・女系天皇」問題を避けるために、「皇族数確保」の問題にすり替えたとしか思えない結論を出した。

 そのためには、新旧皇室典範で否定されている「皇族の養子案」を容認した。男系維持のためにこの結論を土台にして、「静謐な中での議論」と称して、衆参の正副議長が中心となって協議が続けられた。

 21年報告書が提示したのは、05年の小泉純一郎内閣時の「女性・女系天皇容認」の報告書(05年報告書)結果を排除した内容だ。「皇族数確保」のために①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保つ②旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎えるーとの2案だった。

 与党の自民党や日本維新の会と国民民主は①②とも賛成し、①については、夫と子に皇族の身分を与えることには「女系天皇につながる恐れがある」として、夫や子は皇族としない方針だ。②については、「男系男子」による皇位継承を主張してきたのでもちろん賛成というよりも、自民は「第1優先」(朝日新聞)だそうだ。なぜか「男系男子」に固執する自民党右派にとっては、これこそが実現させたかったテーマだった。

 最大野党の衆院の中道は①には賛成だが、夫と子の身分付与については「適時適切に対応する」とした上で、「皇室典範改正案の付則に検討事項として明記するとの賛否を示さない」という煮え切らない対応だ。②については相方の公明が以前から賛成していたことから、立憲出身もこれに応じた形で「条件付き容認」に転じた。参院の立憲は①について賛成、夫と子の身分付与に賛成。②については「慎重」の立場だ。

 結局、「女性・女系天皇を認めるべきだ」とし、旧宮家の男系男子の養子を認める案には反対する党派はごく少数となった。れいわは「議論の仕切り直し」、社民は①は容認するが、夫と子に身分付与については「慎重」、養子案は反対する(読売新聞16日付朝刊の各党の立場表から)。

 このままでは、高市氏のもくろみ通り①②とも与党と賛成する野党により、皇室典範改正案として国会で成立してしまう可能性は高い。これでは、「女性・女系天皇」への道は閉ざされてしまわないか。英国はじめ世界の王室、特に欧州では、次々と女王が誕生している。日本の場合は、天皇制が長くその制度を維持できたその大きな理由の一つに「側室」という前近代的な存在がある。そのことを抜きにしてこの問題は語れない。もう側室制度などとっくの昔になくなっているのに、なぜ「男系男子」にこだわるのか。

▼「論理的整合性を欠く養子案」

 2005年報告書は「天皇の直系子孫を優先し、天皇の子である兄弟姉妹の間では、男女を区別せずに、年齢順に皇位継承順位を設定する長子優先の制度が適当である」と結論する「女性・女系天皇」を認める内容だ。今回の衆参両院による協議とは全くその方向性が異なる。

 05年報告書に従えば、皇位継承順位第1位は愛子内親王となり、あの時、典範改正が実現していたら、愛子皇太子が誕生していた。このことは可能性があった事実である。この報告書は、残念なながら、秋篠宮妃が懐妊したことにより、右派の安倍晋三氏が官房長官となったことでさたやみとなり、悠仁親王が生まれたという経緯がある。この事実はしっかりと抑えておきたい。

  今回の与野党協議では当初から、21年報告書にある皇位継承順位は①秋篠宮②悠仁親王③常陸宮ーという男系男子による皇位継承を前提とし、皇族数減少による皇族の公務負担増大への対応の議論が中心となった。私にとって、この問題で感じる大きなも「もやもや感」は、05年と21年の二つの「有識者会議」報告書の大きな乖離にある。

 「有識者会議」というのは、時の政権が政策を実現する際に設ける政権に都合の良い識者を集めたアリバイ的な組織であることは間違いない。だから、決して、「中立的」であることなどはあり得ない。そのことが事実であったとしても、05年と21年の有識者会議の報告書の結果は考え方などに違いがありすぎる。

 17日付の東京新聞に載った「養子案 論理的整合性を欠く」との記事で、30年以上、皇室の歴史や制度を研究してきた宮内庁書陵部の元編修課長の鹿内浩胤氏は「過去の議論で選択肢から除外された養子案が前面に出てきている。論理的に整合性を欠く拙速な議論で、強い危惧を覚える」と述べており、今回の養子案を問題視する意見に全く賛成である。

 鹿内氏によると、「憲法上の平等原則との整合性」や「歴史的な類型が未確立である」として、「養子案」を選択肢から除外した05年報告書。これがクリアされたという報告も政府からないまま復活したことは「一貫性の観点から極めて特異と感じた」という。その上で、皇族の養子を禁じた皇室典範9条の精神は、皇位という公的な地位を「人為」から遠ざけることにあると紹介。「当事者間の私的な合意が基盤となる養子縁組では皇位継承の世襲の客観性が揺らぎかねない」とする。

 そして憲法で天皇の地位が「国民の総意に基づく」としていることに触れて、国民が主体的に参加できるよう「皇室典範国民会議」のような場で熟議を尽くすべきだと提言している。

 鹿内氏は8日付の朝日新聞の「私の視点」でも「何より危惧するのは、議論における当事者の不在である。憲法上、天皇は国政に関する権能を有しないが、皇位継承の問題は皇族方の人生に直結する」として、皇室の方々からご意向を聞く機会が必要ではないかと提言している。いずれも今回の問題を考える上で、宮内庁書陵部という皇室をよく知る研究者からの貴重な提言として受け止めたい。

 今回対象となるのは、1947年に連合国軍総司令部(GHQ)の指令や財政上の理由で皇籍を離脱した11宮家の人々。このうち4宮家に 未婚の男系男子が10人程度いるという(読売新聞)。

 05年報告書によると、すでに60年(現在からだと80年)近く一般国民として過ごしており、また今上天皇(現・上皇陛下)との共通の祖先は約600年前の室町時代までさかのぼる遠い血筋の方々であることを考えると、これらの方々を広く国民が皇族として受け入れることができるか懸念される。皇族として親しまれていることが過去のどの時代よりも重要な意味を持つ象徴天皇の制度の下では、このような方策につき国民の理解と支持を得ることは難しいと考えられる、としている。

▼「絶対的長子相続制」が当たり前の欧州の王室

 なぜ自民党は「男系男子」にこだわるのか。戦前の天皇や皇族は軍人になったことも関係があると考えるが、なぜ今となると、私には正直言って理解できない。

 「男系男子」としたのは明治の皇室典範からだ。この時、「女帝論」の議論もあった。中継ぎ説もあるが、歴代天皇のうち、10代8人は女帝である。現在、日本の皇室に「皇太子」はいない。秋篠宮殿下が「皇嗣」となっているだけである。この「皇嗣」について「あくまでも暫定的にそうなっているに過ぎない」というのは皇室研究家の高森明勅氏(25年5月2日、ダイヤモンドオンライン「皇位継承順位第1位・秋篠宮『皇嗣』殿下はなぜ『皇太子』ではないのか?」)。メディアの世論調査で女性天皇に「賛成」69%、「女系も認める」は64%(25年12月読売調査)。24年4月の共同通信調査では「女系天皇容認」が約80%に達しているーこれらの事実をどう考えるのか。

  私は「男女平等」の観点からの「女性・女系天皇」容認派である。

 欧州の王室も、かつて、王位継承権は男系男子に限られていた。それが男性の世継ぎが生まれなかったことや「男女平等」が当たり前になってきたことから次々と女王が生まれ「絶対的長子相続制」が当たり前になっている(君塚直隆・駒沢大教授、週刊文春5月7日、14日号=徹底論争 愛子天皇じゃダメですか?)。いま「象徴天皇制」は危機に立っている。 (5月15日)