<米中間選挙>「トランプの世界」を読めなかった民主党 上院の攻防が焦点 トランプ支持勢力と民主党支持者との衝突懸念 2024年決戦へ

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 米中間選挙は最後の1週間。トランプ前大統領率いる共和党が議会の上下両院の多数を奪取する可能性が強まっている。両党は2年後の大統領・議会選という決戦へ向けてさらなる分断の道を突き進むが、トランプ氏が勢いを得て、バイデン大統領の民主党政権はさらに守勢に追い込まれることなるだろう。だが、政権党が最初の中間選挙で議席を減らすのは通例でもある。この選挙にはもう一つの注目点がある。民主主義の基盤となる国政選挙でトランプ氏の「根拠なき盗まれた選挙」に続いて落選者の敗北受け入れ拒絶、トランプ支持の極右や陰謀論を信じる勢力の「不正選挙監視」行動が民主党支持者との衝突事件などの混乱を引き起こすことなく終えることができるだろうか。

評価されない「ニューディール」

 民主党は落胆と危機感を深めながら投票日を迎えようとしている。10月半ばまでは民主党の上院多数の確保が有力とみられていた。ところが女性票を中心に無党派票の民主党離れが急浮上(ニューヨーク・タイムズ紙などの世論調査)した。民主党は長年女性票の圧倒的多数の支持を得てきた。6月には最高裁が妊娠中絶権利を取り上げる判決を下して女性の強い反発を買っていることも加わって、民主党はこれまで以上に女性票に期待をかけていた(『Watchdog21』10月24日拙稿参照)。

 この民主党離れは上院の勝敗に直結する中西部諸州におよんだと思われる。優位を保ってきた民主党候補がそろって共和党候補の急追を受けてほぼ並ばれてしまった。これらの候補がそろって敗れるとなれば、上院の多数確保は夢に終わる。民主党支配が長く続いてきたニューヨーク、カリフォルニア、オレゴンなどの州でも、安全圏と思われた民主党候補が追い上げられるケースが出てきた。

 バイデン大統領は支持率が低迷する中で、米経済再生を目指す意欲的な「バイデン・ニューディール」を打ち出し、少数の党内保守派の抵抗と共和党の強い反発をかわしながら、思い切った財源投入を伴うコロナ救援法、インフラ再構築、さらにインフレ抑制法(気候変動対策、医療保険充実、半導体産業再建などとのパッケージ)を成立させた。こうした成果が世論の支持にほとんどつながらなかったのはなぜか。

 共和党系の保守派理論家D・ブルック氏の指摘(『Watchdog21』10月24日拙稿で引用)が分かりやすいので、再び紹介する。「共和党支持者、あるいはトランプ支持者、または無党派の普通の人は、有名大学を出たエリートの民主党に見下されていると思っている。民主党には投票したくないのだ」

「トランプの世界」

 グローバリズム経済の暴走がもたらした貧富の格差が世界を変えた。民主党は少数派(黒人、先住民、ヒスパニックなどの移民)を抱え込む多様な米国を目指すリベラリズムのさらなる推進を目指した。トランプ氏は白人主導の「偉大な米国」を取り戻そうと呼びかけた。 

 グローバリズム経済がもたらした貧富の格差は世界を変えた。インターネット社会では事実と虚偽の境界が見えにくい。トランプ氏はこの状況をうまく利用した。民主党は新しい米国の世論の動向を読み間違えたというほかはない。しかし、民主党だけでなく、最近のイタリアや英国の政変をはじめ西欧先進諸国はいずれも同じような誤りを犯してきたと言っていいだろう。

「トランプの犯罪」にどう決着つける

 「盗まれた選挙」の「大嘘」(民主党)はいつの間にか事実化されていった。議会襲撃事件が起きると「ここまでやると世論が許さない」と思った。議会襲撃事件調査に当たる下院特別委員会が今夏10回にもおよぶ連続公聴会で、トランプ政権内部からの膨大な証言を公開してトランプ氏が不正投票の事実はなかったことを知りながら、政権を手放すことを拒んで選挙結果を転覆するためにあらゆる手段を弄してきた―と報告した。 

 しかし、同事件にトランプ氏が直接関与したと考える人は公聴会前の42%から38%にわずかに減ったものの、何も悪いことはしていないとみる人は33%と変わらなかった(どちらも誤差の範囲内か)。

 こうした「トランプの世界」では、いい目的のためには暴力による威嚇およびその行使を容認する。議会襲撃もその一つということのようだ。ホワイトハウスの側近や議会首脳がトランプ大統領(当時)にデモ隊の行動を制止するよう直接指示して欲しいと訴えても、長時間動かなかった。結局は「家に帰るように」と呼びかけたものの、彼らの行動を称賛した。

 議会襲撃事件では司法省が武装デモ隊の700人余りを訴追し、極左や陰謀論者組織の幹部ら約20人を反乱・謀議の重罪で起訴している。だが、最大の責任者であるトランプ氏の訴追はトランプ派勢力との内戦を引き起こす可能性がある、と司法省はなお慎重である。

 トランプ氏はホワイトハウスを去るときに、大統領職に伴う公的記録を大量にフロリダの別邸に運ばせた。これは明らかな法律違反で、しかも持ち出した記録の中に国家安全保障にかかわる重要秘密文書が相当数含まれていることが分かった。FBIの捜査が進んでいる。

 バイデン政権が2024年選挙で政権奪還を果たすには、この「トランプの犯罪」に決着を受けなければならない。

苦難の2年間へ

 バイデン政権は上下両院を共和党に奪われるとすれば、重要な政策を法案化するチャンスを失う。オバマ民主党政権も最初の中間選挙で下院を奪われ、二期目の中間選挙で上院も失った。大統領は議会から送られた法案を拒否する権限を持ち、大統領行政命令によって重要政策を強行することもあり得る。だが、後半の2年間の政治はほとんどマヒ状態に陥ることは避けられまい。トランプ氏と共和党は「トランプ弾劾」を含め、バイデン政権の「迫害」に対する「報復」に出るのは必至とみられている。
バイデン政権と民主党はこの苦難に耐えながら、トランプ共和党を制して政権奪還を目指すことになる。

                                 (10月31日記)