<米中間選挙>女性票が共和党へ雪崩うつ異変 無党派層が民主党離れか 両院とも共和党が奪還の可能性

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 投票日まで3週間を切ろうとしている中間選挙で全く予想されなかった異変が起こっていることが分かった。妊娠中絶の権利を取り上げた最高裁判決が女性の民主党支持を増やすのは確実とみられていた。だが、その女性票が逆に民主党離れを起こしていることが世論調査で突然、浮かび上がったのだ。女性票は長年、民主党支持が圧倒的多数を占めていた。連邦下院は当初からの共和党が多数を奪回とする見通しは変わらないが、改選35議席をめぐって5~6議席でぎりぎりの接戦が続く上院選では、女性票が雪崩現象を引き起こせば民主党候補がそっくり締め出されて、共和党が両院を奪還する可能性が強くなる。

世論調査が「異変」報じる

 この「異変」が浮かびあがったきっかけは、ニューヨーク・タイムズ紙とSIENAカレッジが10月9〜12日に実施した共同世論調査の結果、中間選挙での女性の投票先として民主党と共和党がともに47%で並んだと報じられたことだった。続いてマンモス社の10 月世論調査でも女性の投票先は46 対46 と同数。同社7月調査では56 対36だったから、この間に女性票の行方に大きな変動が起きたことは間違いないようだ。それも民主党有利の方向へ動くと思われたのとは逆方向だから大逆流である。 

 半世紀にわたって妊娠中絶の権利を認めてきた1973 年判決を覆してこの権利を否定、その扱いを各州の判断に委ねるとした最高裁判決が米国社会に与えた衝撃は大きかった。共和党支持の強い13州(10月下旬現在)では直ちに1973年以前の中絶禁止法を復活させたり、厳格な規制をとる州法制定に取り掛かったりした。このため暴行によって妊娠した少女や流産など母体保護のための中絶手術が必要な人たちが手術を受けられなくなって、中絶を認める州へ駆け込んだり、緊急手術を引き受けた医師が訴追されたりといった混乱が広がった。 

 しかし、最も保守的な州のひとつとされるケンタッキー州では、古い州法の復活を阻止するための住民投票が行われ、誰も予想しなかった多数の支持を集めて旧法は廃棄された。「判決大歓迎」の保守派には大きな衝撃となった。リベラルな州では古い中絶禁止州法を廃棄し、権利を認める新法つくりが進んでいる。 

 米国の分断がまた一段深化する中で、中間選挙では共和党支持の女性票が相当数、民主党に移動するだろうと予想したのは、期待を込めての民主党ばかりではなかった。バイデン政権と民主党は加えて8月半ばの夏期休会入り直前の議会で気候変動対策、医療保険支援、半導体企業支援、財政赤字対策としての企業増税などを一括して盛り込んだインフレ抑制法を押し通し、世論の支持を大きく回復した。民主党は敗北必至とみられていた中間選挙で巻き返しに乗り出した。だが、それからわずか2カ月、世論に何が起きたのだろうか。

「中絶禁止」と「生きる知恵」

 半世紀におよんだ妊娠中絶の権利を最高裁とはいえ、ひとつの判決で社会から締め出すことには無理があった。判決と同時に引き起こされた怒り・反発と混乱は4カ月が過ぎた今、新しい状況にとって代わられている。 州法で中絶の権利を維持した州では禁止州からの中絶希望者を受け入れるクリニックが次々に生まれ、そのネットーワークの整備が進んでいる。米国では既にFDA(米食品医薬品局)が医師の処方箋によって服用を認めている中絶薬も広く使われるようになっている。

しかし、医師の処方箋なしに口径中絶薬がインターネットなどを通して蔓延している現実もある。中にはいかがわしい避妊薬をばらまく闇ルートもある。最高裁判決はこうした中絶薬の弊害をさらに広げる結果を招いている(ワシントン・ポスト紙電子版などの報道から)。

 いずれにしても最高裁判決によって生じた「政治的状況」は4カ月を経て、こうした庶民の「生きる知恵」に吸い込まれて中間選挙の重要な争点から消えてしまったのかもしれない。

「成果誇示」封殺されて

 共和党は中間選挙の最大争点としてインフレを掲げ、バイデン政権および民主党の責任を追及してきた。民主党は8月のインフレ抑制法のほかにも、米経済再生を掲げた「バイデン・ニューディール」が議会の壁に阻まれた後、これを分解して(インフレ抑制法もその一つ)「コロナ救済法」と「インフラ整備法」を成立させて「弱者支援」をアピールしてきた。 

 だが、共和党はこれがインフレを引き起こしたとの非難に使っている。バイデン大統領はトランプ共和党が米民主主義を破壊しようとしてきたと激しく非難してきた。だが、バイデン氏も民主党も「バイデン・ニューディール」の成果の誇示を、共和党のインフレ攻撃によって封殺されている。頼みの女性票に頼れなくなるとすればどうするのだろうか。ニューヨーク・タイムズ紙(国際版)はビジネス欄で、民主党はなぜ、この成果をもっと訴えればいいのにと忠告する記事を掲載している。

カギ握る「無党派」

 民主、共和両党の分断はこの30年でとことんまで深まってきた。中間選挙の女性票の投票先が47対47(%)と民主、共和両党に二分されたとしても、民主党支持票の中核を占めてきた女性票が大量に共和党に移行したとは考え難い。そうだとすると、今回選挙では共和党に投票するという女性票はどこからきたのだろうか。

 世論調査機関の老舗ギャラップは2004年以来、年に20数回、継続的に両党と無党派の三者の支持率を調査している。それによると、調査開始後しばらくは三者とも30%台の支持を得ていたが、政党不信が年々高まってきたことを反映して2010年を過ぎるころから二大政党制と言いながら実際には無党派層が40%台半ばを占める最大グループになっている。民主党が時に30%を割り込むが大体は30%+アルファを維持する2位、共和党は20%台が普通で時たま30%に届くのがやっとという3位に定着してきた。この勢力分布図にはトランプ政権時代の4年間も、そしてバイデン政権の2年間も、ほとんど変化は起きていない。

時代の流れから外れる

 ギャラップはこの調査と並行して無党派と答えた最大グループの一人一人に対して、民主党に近いか、共和党に近いかを聞く調査を積み重ねてきた。その結果によると、全体を通して「共和党に近い」という答えは「民主党に近い」には数%から10%に近い幅で後れを取っている。

 しかし、2020年大統領選・議会選挙および現在進行中の中間選挙が視野に入って関心が高まった2021年および2022年の夏ごろから秋にかけて、「共和党に近い」が「民主党に近い」とほとんど並ぶという数字が記録されている。投票日が近づくとともに無党派がトランプ氏あるいは共和党寄りに流れるという傾向を示しているように見える。これだけで女性票の民主党離れを説明することにはならない。しかし、もともと政党不信から無党派になった人たちのバラバラにみえる思いが選挙の行方に大きな影響を及ぼすという現実がうかがえる。

 穏健な保守主義者で共和党の理論的指導者としてリベラルなニューヨーク・タイムズ紙にも定期寄稿しているD・ブルック氏は10月22日の意見欄への寄稿で、民主党の政策と有権者への呼びかけには時代の流れから外れた大きな「穴」が開いていると批判している。同氏はトランプ氏を支持しているわけではない。 

 以下は、筆者が理解した長文の論評の要点である。

 「民主党は政策面で成果を上げていることは認める。しかし共和党支持者あるいはトランプ支持者、また無党派の普通の人は、有名大学を出たエリートの民主党に見下されていると思っていて、政策の良し悪しにかかわりなく、民主党には投票したくないのだ」

                           (10月23日記)