<米中間選挙>期日前投票の出足は好調 「不正投票監視」めぐる衝突始まる ペロシ議長襲撃事件、トランプ氏「納税証明」公開問題、反ユダヤ人発言など相次ぎ情勢混沌

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 米中間選挙は8日の投票まで数日に迫る中で、連日のように有権者の選択に微妙な影響を与えるかもしれない出来事が続発している。投票から開票へと民主、共和両党の攻防がどんな展開になるのか予測しがたい状況である。

司法省、不正投票監視は違法と警告

 投票日まで3週間を切った10月下旬入りとともに各州で順次、期日前投票が始まっている。勝敗を左右する決戦州となった中西部から南部にかけてのウィスコンシン、ペンシルベニア、ジョージア、アリゾナ、ネバダの各州とも、中間選挙では前例のない出足の速さだという。新政権初の中間選挙では与党の投票率が停滞して敗北するのが通例とされるので、出足好調は民主党にはいい材料だ。

 しかし、期日前投票の出足好調は、対立意識を掻き立て衝突の危険も高める。アリゾナ州では投票箱の周辺を共和党独自の不正選挙監視グループが取り囲んで、投票者や乗ってきた車の写真を撮るといった「威圧行動」に出ている。米選挙では両党チームが協力して投票監視に当たることがルールになっている。司法省は報告を受けて、選挙法によって決められた選挙監視者以外の監視行動は違法と警告した。

 テキサス州でも共和党のグループが投票監視をもっと強化する必要があると投票所に押し掛けて、拒否した民主党の監視担当者と衝突寸前のやり取りになったと伝えられている。民主党も独自の監視チームを組織している州もあり、この種の衝突が暴力事件に発展する可能性が心配されている。

後を引くペロシ議長事件

 民主党のペロシ下院議長がワシントンに帰任した直後のサンフランシスコの自宅が極右とみられる共和党支持者に襲われ、夫のポール氏が重傷を負った先月28日の事件が後を引いている。共和党の一部の有力議員や州知事は事件の選挙への影響を心配してか、陰謀論で逃げようとしたり、ペロシ議長が幸いに難を免れたことだけを軽い話として取り上げたりしている。これに対して、民主党およびワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ両紙など主要メディアは、トランプ氏をはじめ共和党幹部が日常的に暴力容認の言動を重ねていることが背景にあると厳しく非難、世論へのアピールを狙っている。

 米電気自動車(EV)大手テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏は最近、交流サイト(SNS)最大手ツイッターの買収に成功した。同氏は民主党から共和党支持へ切り替えると宣言していて、ツイッターがトランプ大統領を締め出したのは間違いだったとして、寄稿禁止を解除すると約束している。そのマスク氏の支配下にはいった直後のツイッターが ペロシ事件について全く根拠不明のスキャンダラスな陰謀論を流して非難を浴び、すぐに削除する失態を演じた。

トランプ氏「納税証明」公開先送り

 米国の大統領は就任の際に納税証明書を公開するのがルールになっている。だが、トランプ大統領はこれを拒否し続けてきた。民主党が委員長と多数を握る下院歳入委員会はあきらめることなく財務省に資料提供要求を続け、最近ようやく同委員会に公開されることになっていた。ところがトランプ氏の公開停止の請求を受けて、ロバーツ最高裁長官が一時的に公開停止を認めた。事実上、中間選挙前の公開をストップして投票への影響を避けたとみられても仕方なさそうだ。

 トランプ氏が大統領になった2016年大統領選挙では、クリントン民主党候補が国務長官在任中に職務用のメールアドレスを私的に使用して国家機密を漏洩したとトランプ陣営が攻撃材料に使った。連邦捜査局(FBI)が捜査、外交トップとして不注意ではあったが機密漏洩はなかったと結論を出し決着した。

 ところが投票日が迫る中で、FBI長官が新たな事実が出てきたので捜査を再開したと発表。結局、訴追なしに終わったものの、クリントン候補は総得票では300票近く上回りながら敗北に終わった。FBI長官が共和党員だったこともあって、ことさらのような再捜査発表の背後にはトランプ当選を後押しする意図があったとする陰謀論は今も消えていない。

広がる反ユダヤ主義に懸念の声

 人気ラッパーのカニエ・ウエスト氏は最近、保守系SNS「パーラー」を買収して注目されているが、ユダヤ人に対する差別的発言でも選挙戦に波紋を広げている。トランプ氏の熱狂的な支援グループは極右・白人至上主義や陰謀論信奉者の組織によって形成されているが、彼らの多くは反ユダヤ人の立場をとっていて、反ユダヤ主義が広がっていると懸念する声が強まっている。

 そういう状況の中での知名度の高いウエスト氏の発言は、民主党および在米ユダヤ人の間から強い反発と抗議の声が上がっている。ユダヤ人団体の幹部の中からは、共和党候補には投票しないようにとの呼びかけも出ている。

                             (11月3日記)