<衆院選2024>石破首相、野田代表を待ち構える課題 与野党とも厳しく問われる 自公過半数割れで政界再編の観測も 1930年代と酷似の時代の雰囲気

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 石破茂首相は就任からわずか8日で衆院を解散、総選挙が始まったと思ったら、もう中盤戦の予想が出た。激しく舞台が変わるこういう時こそ、八方気を配って監視を怠らないようにすることが大事だ。ここまで書き出したところで、自民党本部に火炎瓶が投げ込まれたというニュースが飛び込んだ。「高橋是清と2・26事件」を読んでいたので、今は1930年代当時と政治、経済環境などすべて違うが、時代の雰囲気は酷似していると思われた。

「経済悪い時テロが起きやすい」

 日本では政治や経済が混乱すると、要人テロが起きがちだとされる。国会開設以来テロに襲われた現職首相は6人。米国では4人の大統領がテロに遭った。いまの日本では右寄りの勢力が強くなり、政治混乱が生まれているとされるので、万事、冷静な対応が求められる。

 竹下登、宮澤喜一の両元首相や後藤田正晴元副総理を時々訪ねて、2・26事件当時の話を聞く機会があったが、3氏とも「日本人の気質から経済の悪い時にテロが起きやすいから、政治は景気や国民生活に気を付けないといけない」とよく言っていた。今は貧富や正規・非正規社員の格差が大きく、しかも長期間続いている。不満も長く沈潜化していると思われ、政治にはことのほか注意が欠かせない。

選挙でクリーンというわけにはいかない

 横道にそれたが、石破政権の課題は、おのずとはっきりしてくる。自民党派閥裏金事件で地に落ちた政治への信頼を回復させ、驚異的な物価高など国民生活の改善により真剣に取り組まなければならない。石破首相は9日の記者会見で「国民の信任を得て、新政権の政策に力強い後押しをお願いしたい」と述べた。

 政権の基盤がまだ十分固まっていないことから、選挙を通じて早く国民の支持を得たいところであろう。ただし、派閥裏金事件に関係した前議員らは総選挙が済んだからと言って、クリーンになったというわけにはいかない。

改革論が起きない不思議 

 本来、民間の企業でも不祥事があると外部の専門家による委員会を設けて、疑惑の実態を公表して関係者の処分をするものだ。裏金事件を通じて気になることは、自民党内から改革論議が起きないことである。自民党はこれまでロッキード、リクルート両事件のような政界がらみの疑惑事件があると、若手議員が離党して新党を結成したり、小選挙区制の導入に動くなど政治刷新の動きがあった。ところが今回は裏金事件だけでなく、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題でもそうだが、党再生の動きがみられない。自民党の長老議員は「党のガバナンスだけでなく、若い議員も自分の選挙に関心が向いていて、政治家としてすべきことを考えなくなっているのではないか」と懸念する。

「税は議会政治の生みの母」   

 裏金事件は税金問題だが、実は税は議会政治の誕生と深くかかわっている。それは英国で議会が誕生したきっかけは、国王や貴族の苛斂誅求な税の取り立てをやめさせ、公平に税を収める話し合いの場として作られた。したがって税こそ「議会政治を生んだ母」といわれる。

 裏金事件にこれまでになく国民の怒りが大きいのは、国民はきちんと税を払っているのに政治家は、税優遇、相続優遇、パーティ開催など抜け穴が多いからだ。支部間では不透明な政治資金の授受などについても議論され解決されないまま転換している。税の使い方で言えば、防衛費の大幅増や少子化では、安定財源の確保を先送りして進められたが、こうした政治手法も問われなければならない。

安倍政権の総括も不十分

 7年8カ月に及んだ安倍晋三政権の総括もまだ不十分だ。一強多弱政権で党内野党を貫いた石破首相は安倍政権に対して批判的だった。

 安倍政治との関係でいえば、立法府の行政監視機能の回復も大事である。森友学園に関する国有地売却をめぐる財務省の決裁文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局元職員赤木俊夫さん=当時(54)=の問題は税の重要さから見ると、どういう経緯で改ざんされたのか法と秩序、道義の面からも検証されるべきだろう。日本の役所が諸外国からも信頼されてきたのは、赤木さんのような誠実でまじめに仕事をこなす人達が支えてきたからだと言われる。

自民党議員の三分の二は世襲

 少し話は飛ぶが、政治に緊張感が感じられないのは、世襲や選挙制度との関係も指摘される。自民党議員の三分の二は世襲議員という調査もあり、新しい人材が注入されにくくなっている。卑近な例では21世紀に入ってから誕生した7人の首相のうち小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、岸田文雄、石破茂の各氏が世襲で、世襲でないのは菅義偉氏だけだ。首相ポストも世襲が幅を利かせている。

野田代表は汚名そそげるか

 一方 自公過半数割れを目指すとしている野党第一党の立憲民主党の立場は重要だ。野田佳彦代表は攻める野党をアピールするため、衆院の過半数233議席を超える237人の立候補者をそろえ意気込みを示した。2009年の総選挙で立憲民主党の前身、民主党は308議席を獲得。これは日本の議会史上最も多い議席といわれる。しかし野田代表が首相(民主党代表)だった2012年の総選挙では、308議席から一挙に57議席へと陥落した。政権を降りて以来12年ぶりの再登場になるが、政権陥落劇の汚名をそそぎ、奪還の手がかりをつかみたいところだろう。

 野田氏は自民党が裏金事件で守勢に立つ状況を政権交代の好機とにらんで、先の代表選挙に手を挙げたとされる。ただし野田氏は日本維新の会との連携には前向きで右に翼を広げたが、共産党との連携には消極的とされ、党内リベラル勢からは警戒の目が向けられている。

 野田体制は党務総括の代表代行兼選挙対策委員長に大串博志氏、幹事長に小川淳也氏を起用。財務省出身の大串氏と総務省出身の小川氏という50代コンビを中心に、アグレッシブな野党を印象付けたいようだ。

 総選挙の前面に裏金事件を打ち出している。だが地方議員からは「裏金事件ばかりでは、国民は飯を食えない。もっと税金や生活関連問題を取り上げるべきだ」との声が少なくないようだ。

政権担当能力をアピールできるか 

 立憲のもう一つの懸案は、政権担当能力をいかにアピールするかだろう。旧民主党政権時代に起きた東日本大地震と東京電力福島第一原子力発電所の事故対応では行政運営に不慣れであることを露呈した。政策担当のスタッフを充実させるとともに、官僚の排除ばかりではなく、知恵を引き出す柔軟さも欠かせないだろう。

 政策作成の過程やブレーンなどの発言などがマスコミでは伝えられないが、党内論議の過程をガラス張りにする努力も急がれる。

裏金事件で生じた自民党の亀裂の深さ

 野田執行部は衆院選で善戦してその勢いを、来年の参院選に結び付けたい考えという。また世論調査の一部の初盤情勢を見て、自公が過半数を割った場合、自民党が割れて立憲などと政界再編になるのではないかという観測もある。まだ予測不可能だが、こういう見方が生まれること自体、裏金事件で生じた自民党内の亀裂の深さを物語っている。与野党ともに厳しく問われる選挙である。

                                        (了)