<自民党総裁選>9候補の論議で浮かび上がる政策争点 主張の開きは政党として強みか弱点か 総選挙でもあらためて問われる課題に

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 自民党総裁選は9月27日の投開票に向けて最終盤に入った。誰が総裁(首相)になるかが最大の焦点だが、候補間の論議で浮かび上がった政策争点も興味深い。同じ党と思えないほど開きがある。それは政党として強みか弱点か。次の総選挙であらためて問われる課題だ。裏金問題、政策活動費、選択的夫婦別姓、解雇規制緩和、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせるマイナー保険証などの主要争点についての各候補者の主張を見てみるとー。

裏金・非公認問題

<各候補の主張>

・石破茂元自民党幹事長:「ルールを守る政治、自民党を確立する」「(不記載議員は)国民の審判は経るべきステップだ」「党として公認をするからには、ふさわしいかどうか、徹底的に議論すべきだ」と非公認の可能性に言及。(8月24日) → 不記載議員の公認について「新体制で決めることだ。まだなっていない者が予断をもって言うべきではない」と発言後退。(8月25日)

・野田聖子元総務相:「不記載の人たちは自分の力で勝っていきませんかということだ」

・小泉進次郎元環境相:「政治改革」を1年以内に実行する3大課題の一つとする。しかし不記載議員については「選挙を経るまでは要職に起用しない」としつつも、「新執行部で厳正に判断する」と歯切れが悪い。/「党内で一定の処分をし、総理は責任を取って辞任を表明した。(公認問題は)衆院解散後に、執行部で厳正な判断を下す」(9月14日、日本記者クラブ討論会)

・茂木敏充自民党幹事長:「処分は党内プロセスを経て決めている」。不記載議員の公認については「党の選挙対策本部で決める。その時点で厳正に判断したい」と明言を避ける。

・小林鷹之前経済安全保障担当相:「自民党のルールにのっとって適切に判断する」。安倍派議員の処遇について「一定の理解を得られた時点で、適材適所の人事を行うことが大切」と再登用を示唆。

・加藤勝信元官房長官:「既に処分は決定している。取り組むべきは説明責任。不記載相当額については、国庫に返納する手続きを検討すべき」(9月10日、出馬表明)

・上川陽子外相:「党紀委員会で最終的な処分が出たところだ。こうした手続きにのっとって進めてきたところだ」と見直さない姿勢。

・林芳正官房長官:「(不記載議員は)選挙で国民の審判を受けて戻ってきた方々は、適材適所で登用していきたい」

・高市早苗経済安全保障担当相:「(不記載議員は)既に処分は決まっている。総裁が代わったからといって、ちゃぶ台返しすることはしない」/「これまで弁護士を入れて調査し、党紀委員会で処分を決めた。いったん決まった処分を総裁が代わったからといって全てひっくり返すのは独裁だ」(9月14日、日本記者クラブ討論会)

<新聞の見出し・論調>

「裏金解明 全員が消極姿勢/国会議員票を意識か」(9月14日付朝日新聞)

「裏金再調査 9候補否定的」(9月14日付熊本日日)

「『政活費廃止』『国庫返納』/政治改革 各候補明確に」(9月14日付読売新聞)

<朝日、熊日(共同通信配信記事)はネガティブ感、読売はポジティブ感を出した紙面>

「政策活動費」

<各候補の主張>

・小泉氏:「不透明なお金の流れをなくす。政策活動費は廃止する」(9月13日、共同記者会見)、「旧文通費(調査研究広報滞在費)の使途公開、残金の国庫返納を掲げる。

・茂木氏:「政活費(政策活動費)は上限をゼロ。すなわち廃止する」(9月13日、共同記者会見) ☞ 幹事長時代の自民党の方針は「廃止に反対」だったため、茂木発言には党内から疑問の声。 ⇒ 岸田首相も茂木発言に怒っている(9月6日付読売)、「一体何なんだ」と周囲にぶちまけた(9月5日付朝日)という。

・小林氏:「毎年公開できないのであれば、廃止もあり得る」

・石破氏:「廃止なら廃止で構わない」

・河野太郎デジタル担当相:「領収書を付けて速やかに報告するのがいい」(廃止には言及せず)

・加藤氏:「政策活動費は原則公開でいい」(9月10日、出馬表明)「廃止は違う費目に行くだけだ。使途公開は第三者機関を設置して相手方の立場にも配慮したうえで判断すべきだ」(9月14日、日本記者クラブ討論会)

・林氏:「政策活動費については、10年後の公開を前倒しする」

・高市氏:「政策活動費は廃止した方がいい。誰にどう配られ、使われているのかが分からない」(9月9日、BS日テレ)

「衆院解散時期」

<各候補の主張>

・小泉氏:「国民に信を問うことを基礎として政権運営をしなければ、どんな政策だって前に進まない」(9月14日、日本記者クラブ討論会)「できる限り早期に衆院を解散する」(9月15日、NHK討論番組)/有権者への判断材料がないとの指摘に対し「判断材料は十分ある。史上最長の自民党総裁選。これだけの政策論争だ。国民は次の鮮魚があったらどう判断するかを考えながら、総裁選を見ている」(同番組)

・石破氏:「世界情勢がどうなるか分からないのに『すぐ解散します』という言い方は、私はしない」(9月14日、日本記者クラブ討論会)「国会の場で野党ときちんとした論戦をするべきだ。野党を選ぶか、自公政権を選ぶかという選挙だ。国会における議論なくして、これ(総裁選での論戦)で十分だって話になるとは思っていない」と持論を展開した。(9月15日、NHK討論番組)

・高市氏:「『この内閣はこういうことをやるんだ』と国会の場で明らかにして、質問を受けて、その上で重要な争点があるとなったら信を問う」(9月15日、NHK討論番組)

・小林氏:「新政権の政策と、それに対する論戦をやるというのがあるべき形だ」(9月15日、NHK討論番組)

・加藤氏:「政権構想を出し、国会で論戦をしながら、国民が消化できる状況にして、私は判断していただく」(9月15日、NHK討論番組)

【立憲民主党の各候補の主張】

・野田佳彦元首相:「最低限、予算委員会を開いて質疑をしろ。質疑をしないと、本当に何を信を問うのか分からない」「いきなり『信を問え』と言うのは論戦力のない人の論理。だまされちゃいけない」(9月15日、NHK討論番組)

・枝野幸男前立憲民主党代表:「本当に国民生活を考えているなら、まず年内に補正予算だ。解散している余裕はない」(9月15日、NHK討論番組)

・泉健太立憲民主党代表:「いろいろな政策をバラ色のように振りまいているが、これは裏金を忘れさせるための媚薬みたいだ」(9月15日、NHK討論番組)

・吉田晴美衆院議員:「今すぐ信を問う場合、大義はどこにあるのか疑問だ」(9月15日、NHK討論番組)

<新聞の見出し・論調>

・「『国会論戦なし解散』論に包囲網/小泉氏へ異論相次ぐ 石破氏『野党ときちんとすべきだ』/高市・小林氏らも慎重論」(9月16日付朝日)

≪選択的夫婦別姓≫

<各候補の主張>

【積極派】

・小泉氏:「反対する理由は何もない」(2020年12月4日の会見)「党議拘束をかけずに国会に法案を提出する」(9月9日、十倉経団連会長に)

・石破氏:「姓が選べないことによって、つらい思いをしている。不利益を受けている。そういうことは解消しなければらならない」(8月24日、出馬会見)「かねてより個人的に積極的な姿勢を持っている」

・河野氏:「本会議での党議拘束を外してやらないといけないかなと思う」

・林氏:「個人的には選択的夫婦別姓はあってもいい」

【慎重派】

・高市氏:「旧姓も幅広く使えるような環境整備」を主張。

<小泉氏が「旧姓では不動産登記ができない」(9月6日)と発言したことに対し、「4月から旧姓でできる」と反論(9月9日の出馬会見)>☞ 朝日新聞のファクトチェックで登記手続きでは、通称の併記はできるが、本名は書かなくてはならない。戸籍謄本の提出も義務付けられている。

※旧姓併記は運転免許証、パスポート、商業登記でも認められている。

・加藤氏:「同姓制度は維持しつつ、まずは法的、社会的な不都合を解決する」

・小林氏:「旧姓の通称使用が制度改正によって拡大している」(8月24日、テレビ番組で)「子供たちの立場・視点をもっと考えるべきだ」「旧姓の通称使用が最も現実的だ」(9月14日、日本記者クラブ討論会)

・茂木氏:「もう少し世論の醸成・集約が大切ではないか」。過去には「選択であれば別姓でもよいという方が若い世代には多いのではないか」(2021年3月10日の衆院外務委員会で)

・上川氏:「個人的には賛成だが、社会が分断に陥るリスクがある」(9月14日、日本記者クラブ討論会)

「マイナ保険証」

<各候補の主張>

・林氏:「国民にまだ不安があることを踏まえて適切に対応していかなければならない」と廃止時期を見直す考えを示唆。

・河野氏:「岸田政権で医療のデジタル化を、官房長官もその政策を推し進めてきた一人だ。発言の真意を確認したい」

・小林氏:「メリットを伝えていく必要がある。現時点で、今の(廃止)時期をさらに延ばすことは考えていない」

・加藤氏:「決めたスケジュールはしっかり守っていくべきだ」

・小泉氏:「党内を含めて岸田政権の中で2年以上議論をして決めた。そこは変える必要ない」

・石破氏:「一部の人々に不便や不利益を与えないよう配慮しながらやっていけない」

・高市氏:「マイナ保険証が使える環境が整備されてからというのが一番皆様のためにある」

※現行保険証は12月2日廃止(ただし最大1年間有効)

「年末調整」

<各候補の主張>

・河野氏:「将来的に年末調整を廃止し、すべての国民に確定申告してもらう」「雑所得の経費は手入力が必要だが、画面を確認してボタンを押せば確定申告が終わる。これがゴールだ」=理由「国税庁、市町村、年金機構でバラバラに行っている所得関係データを一元管理するため」 ⇒ <問題点>国税庁職員数が大幅に不足。企業の経理事務は簡素化。納税意識の向上狙う。<歴史的経緯>所得税の源泉徴収制度は戦前の軍国主義化と関連して、徴税効率を高めることに狙い。戦後、「シャウプ税制勧告」では全国民の確定申告化が求められたが、日本側が抵抗し、いまだに源泉徴収制度は残った。国税庁の職員数5万6000人、米歳入庁(IRS)9万3000人。 

・小林氏:「より案雑な事務負担を多く」

<新聞の見出し・論調>

・「河野氏 年末調整廃止訴え/総裁選公約」(9月3日付読売記事)

・「年末調整廃止? 議論呼ぶ/河野氏が公約に/『仕事増える』税の現場困惑/『納税意識向上』歓迎の声も」(9月7日付朝日記事)

「増税ゼロ」

<各候補の主張>

・茂木氏:「防衛増税、子育て支援金の保険料の増額負担は停止する」 ⇒ 自らも中軸となっている現政権の主要政策の根本的な否定を主要公約に掲げるのは矛盾ではないかとの厳しい批判が出た。

・石破氏:「スローガンだけ言っても、どうしようもない」「経済成長で税収が増えるので防衛増税はやらないという理屈にはならない」

・小泉氏:「岸田総理を支えてきた幹事長としてどう考えるのか問われる」と疑問視。

・河野氏:「限られた財源をどう振り分けるのか、何を犠牲にするのかという議論も必要だ」と問題点を指摘。

・小林氏:「党で議論し、財源を見つけ、閣議決定した重い事項だ」と否定的。

・林氏:「歳出改革や税外収入の確保などで足りない部分を税制措置でお願いする方針を閣議決定したものだ」と真っ向から否定。

・上川氏:「抑止力、防衛力を整備していく方向性を予算の見通しをも立てて議論し結論が出ている」と、いまさら蒸し返す議論に不快感。

※少子化対策財源:児童手当拡充など「こども未来戦略」年3.6兆円。財源は国民からの支援金1兆円集める。

※防衛増税:防衛費を43兆円に増やすため、新たに14・6兆円の財源が必要になるため一部を法人税・所得税・たばこ税の増税で賄う。

・茂木氏の反論:①経済成長による税収アップ。成長率が年1%上がれば、1・4兆円の税収増が見込まれる。②外為特会(外国為替特別会計)の余剰金を当て込む―このため、過去の政策との「矛盾はない」

「積極財政論」

<各候補の主張>

【積極派】

・高市氏:「政府の資産と債務の両方で見れば健全」

・茂木氏:「財務相のやり方は、何かやるといつも負担増を求める。これをいつも続けるのか」

・小林氏:「物価高や若者らの収入を増やす。力強い経済で税収を増やし、財政を安定させる」

・小泉氏「過度に単年度のPB(基礎的財政収支)にこだわり、経済成長型のモデルになってきたところに水を差してはならない」(9月16日、金沢市での討論会)

・加藤氏:「財政健全化は念頭に置くが、最優先ではない」

【規律重視派】

・河野氏:「選挙になると『給付します』『補助金を出します』という議論が多いが、財源の議論がほとんどないまま終わる」と財政出動派を批判。

・上川氏:「令和の財政強靭(きょうじん)化に乗り出す」

・林氏:「金利がプラスに戻った緊張感を持つべきだ」

・石破氏:「震災や災害、有事の財政を考えよ」

<新聞の見出し・論調>

・「積極財政論 財源語らず/『規律重視』は少数派」(9月19日付読売)

「金融所得課税」

<各候補の主張>

・石破氏:「(金融課税強化について)実行したい」(9月2日、BS番組で)⇒「金融所得全てに課税強化するという考え方には反対だ」(9月3日)と後退発言。

・小林氏:「中間層が金融所得の恩恵を得られる取り組みに逆行する」

・茂木氏:「いま進めている貯蓄から投資への流れ、そして戦略分野への投資拡大に逆行するものだ」(9月日、出馬表明会見)

・小泉氏:「貯蓄から投資への流れに水を差すような議論をするタイミングではない」

・河野氏:「再配分の強化はしないといけないが、少なくとも今ではない」

・林氏:「市場への影響も勘案し丁寧な議論をすべきだ」

※もともと2021年総裁選で、岸田首相が公約したが、途中で大幅に株価が下落したため、断念した経緯がある。所得税は累進税率が適用されるが、金融資産に対しては一律20%の分離課税であるため、所得が1億円を超えると税負担率が下がる「1億円の壁」が指摘されている。

<新聞の見出し・論調>

・「金融所得課税 戻ってきた議論/石破氏が口火 他候補は慎重論/再配分か投資促進か 経済界も促す/岸田氏も『見直し』後に修正」(9月5日付朝日)

・「金融所得課税 争点に/公正な税制 投資推進に逆行」(9月20日付読売)

「解雇規制緩和」

<各候補の主張>

【推進派】

・河野氏:「解雇された時に金融補償のルールがあれば、次の仕事に余裕を持って向かえる」

・小泉氏:「賃上げや人手不足を解決するため、労働市場改革の本丸である解雇規制を見直す」。解雇が認められる要件に「リスキリング(学び直し)」や「再就職支援」を含めることを提案。(9月6日の出馬会見)⇒ 解雇しやすくするのではないかとの批判を受けて「解雇の自由を言っている人は私を含めて誰もいない。大企業で眠っている人材が成長分野で働ける労働市場を作っていかなければならない」(9月13日、共同記者会見)/「私が言っているのは(解雇規制の緩和でなく)リスキリング(学び直し)、再就職の支援だ」「(解雇規制)緩和ではなく、見直しだ」(9月14日、日本記者クラブ討論会)と解雇規制緩和のトーンを落とす。「解雇を促進するとの指摘は全く当たらない」と反論も。

・茂木氏:「人生百年時代。転職が普通という社会を作っていくことが先決だ」

【慎重派】

・林氏:「不本意な解雇が自由にできるのは果たしてあっていいのか」

・加藤氏:「解雇規制緩和はまだ早い」と反対論。「解雇規制のベースは最高裁の4要件。働く人の立場を踏まえた議論が大事だ」

・高市氏:「整理解雇は判例で4要件が確立されており、立法で覆すのは容易ではない」

・小林氏:「安易な解雇規制の緩和は働く人を不安にさせかねず、慎重であるべきだ」

<立憲民主党・連合の主張>

・野田氏:「落選や解雇の心配がない世襲議員が気楽に物を言うな」

・枝野氏:「首を切りやすくする政策でしかない」など立憲民主党候補が一斉に批判。

・連合:リストラを助長するだけだと批判。

<新聞の見出し・論調>

・「河野氏、柱は労働市場改革/公約発表 解雇時の金銭補償訴え/労使、慎重姿勢 進まぬ議論」(9/6付朝日記事)

・「解雇規制の緩和 争点に」(9月14付熊日記事)

・「解雇規制緩和 各候補が反論/小泉氏主張に慎重論/小泉氏『解雇の自由化、言っていない』」(9月14日付朝日記事)

「防災省構想」

<各候補の主張>
・石破氏が防災省構想を提唱。

・林氏が「自衛隊、消防、警察は防災省に入るのか」と問いかけたのに対し、石破氏は「各省庁との関係は、過程において検討される」と明確な答えを避けた。(9月15日)

「アジア版NATO構想」

<各候補の主張>

・石破氏:「アジアで集団安全保障を模索していくべきだ」とアジア版NATOの創設を提唱。

・茂木氏;「欧州と異なり、アジアは多様な価値観、体制の国がある」として非現実的だと指摘したうえで、「自衛権の行使と憲法の関係はどうなるのか」と質問したのに対し、石破氏は「これから議論を詰めたい。よく承知している」と明言を避けた。

「旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題」

<首相・自民党総裁選の各候補と立憲民主党の野田新代表の主張>

・岸田文雄首相:「統一教会との関係については、これまでも国会答弁などで採算説明させていただいた通りだ」

・林氏:「当時の条件や背景を超えて調査しなければならないとなれば、もう一度調査をすることはやぶさかではない」

・小林氏:「党として教団とは一切関係を持たないことを決めた。それを徹底することに尽きる」

・河野氏:「法律も作ったのでしっかり厳正に政府として対処していく」

【立憲民主党】

・野田氏:「調査をするのか、しないのかは、新総裁・新首相の資質を問う大きな条件ではないか」(以上、いずれも9月18日付朝日)

                                    (了)