自民党総裁選で議論されない「政治と裏金」 裏金議員への対応が焦点 国民に納得のいかない対応 実態解明に消極的な「偽装政権交代」となるのか 政治刷新のスタートに 立憲民主党に必要なビジョンと政権への取り組み 

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 自民党の総裁選と立憲民主党の代表選挙は、終盤を迎えた。自民党の総裁選と立民の代表選挙は、日本の政治刷新のスタートに連動してほしいが、政治と裏金問題をはじめ、国民に納得のいかない対応が続いている。今秋に迫る衆院選、来年7月には参院選があり、二つの選挙を通じて改革への取り組みが本物かどうか引き続いて見極めていく必要がある。

旧統一教会問題が急浮上

 総裁選はこれまで派閥の数の力比べと言われたが、今回は岸田文雄首相が急ぎ蓋を閉じた裏金問題の結着をどうつけるか、なかでも裏金を作ったものの刑事責任の追及までに至らなかった政治家への対応などが焦点だ。

 36年前のリクルート事件後の政治改革の取り組みに比べてみると、反省や改革に向けた動きが驚くほど鈍く感じる。17日付の朝日新聞に、生前の安倍晋太郎首相、萩生田光一氏らと同教会長らが自民党本部で会った写真(2013年6月)が報道された。うやむやのまま幕を閉じたことが悔やまれるが、裏金問題も中途半端で放置すると再発掘される可能性がある。

推薦人に並ぶ裏金議員

 この問題についての各候補を見ると、石破茂氏は裏金議員は次の総選挙で公認しない可能性を指摘したが、すぐ後に後任は新体制が決めることだとして軌道修正した。河野太郎氏は裏金を作った議員にそれを国庫に返納するよう求めると述べた。旧安倍派の議員から反発を受けると、裏金を国家に返納するには改正が必要なので改正はまた難しい。それを承知で改革派をアピールするための発言だったとも思われる。   

 ただしこの問題を選挙と有権者の関係で見ると、政党が悪いとしても、その政党を権力の座に選んでいる有権者にも問題なしとは言えないのではないか。                              

 自民党の候補者に12人が名乗りを上げ、3人が脱落、9人になった。どこか変だと思ったら、推薦人に裏金議員や問題発言議員などが並んでいることだった。高市早苗氏は推薦人の14人が旧安倍派で、裏金の収支報告書不記載による役職停止処分2人、同半年の戒告の4人、未処分など。加藤勝信氏は同じく不記載での戒告1を含む4人。茂木敏充氏は2人、小泉進次郎、上川陽子両氏は各1人。  

企業献金や政治資金パーティーも焦点に

 各候補者は裏金問題は「決着済み」としているが、裏金問題に世論調査などの目が厳しいのは、2023年1年間に7000品目もの物価が値上がりする中で、国民は厳格に税金を納めているにもかかわらず、裏金問題では政治家は税制面で優遇されているという疑念が広がっていることだ。7年8カ月に及んだ安倍政権は「一強独裁」ともいえる中で、闊達な議論を封じてきたが、そろそろ元気溌溂な論戦を期待したい。総裁選では党が幹部らに渡す政策活動費の廃止、政治資金収支報告書への不記載相当額の国庫への返納を主張する候補者はいるが、報道各社の世論調査では、それよりもまだ実体の解明が中途半端だという声が大きい。  

 候補者たちは、実態解明に消極的だが、こういう時に膿や垢を出してしまわないと、新しい政権ができても偽装政権交代だと言われかねない。新政権も政治の新しいスタートを切りにくいのではないか。

 焦点の一つだった企業・団体献金や政治資金パーティーも、現状のまま続けるのは理解が得られないのではないか。野党議員は自民党議員ほど金を使っていないとされるから、今より金のかからない政治はやろうと思えばできるはずである。投開票まで残り少ないが、制度改革も含めて踏み込んだ議論を期待したい。

沖縄の自民の演説会で辺野古にほとんど触れず

 沖縄で17日9人の演説会は、地元の人々の生活実態をよく掴んでいないような討論だった。全員がかりゆしウエアで登壇しマイクの前に立つ。外相、防衛相、官房長官など閣僚経験者が多く、注目された。米軍関係者による性犯罪が今年すでに4件も起きている。ところが基地問題では辺野古に触れたのは石破茂氏だけ。上川氏は「性暴力は二度と起こさない。厳しい姿勢で臨む」と述べたが、今すぐにも対処しなければならない問題のはずだ。小泉氏は「基地という存在を逆手に取って皆さんの生活を向上させる」とした。現状肯定論で新世代らしいアイデアがうかがえなかった。

 日本はいま厳しい局面を迎えている。人口減少や少子高齢化、驚異の物価高、食糧の安全保障もある。日本記者クラブでの討論会では、小泉氏は首相に指名されればできるだけ早く解散すると発言した。総裁選を長期間やったのだから、予算委員会は不要ということのようで、議会を軽んじている感じだ。雇用規制の緩和についても小泉氏は、経済界も賃上げしたのだから、解雇規制の緩和くらいやろうという。ある自民党議員は「経営者側が解雇を勝手にやるようになったら大変だ、という視点がほしかった」といった。

対中関係で積極的姿勢うかがえず

 国連や世界の大国は、いつまでもウクライナやパレスチナの問題に手をこまねいているわけにはいかないのではないか。国際情勢が激変する中で、国のかじ取りをするにはどういう資質を持った人材がふさわしいのか。米大統領選挙では資質や力量、人間性など1年間、国民の前にさらされ、あらゆる角度から吟味される。日本でも党首討論などをもっと活用するべきだろう。

 対米関係とともに重要な中国政策で驚いたのは、知中派といわれる外相経験の林芳正氏をはじめ、中国との会談や交流を持つ意向は示さず、河野太郎氏は周辺の民主主義の国との共同戦略で共に対応すると述べた。近くに台中関係もあるのに、中国と積極的に接触するという姿勢はうかがえない。上川、加藤両氏は拉致などの北朝鮮問題で質問をかわそうとした。日本の外交は米国一辺倒、不平等の日米地位協定についても意見を言ったという話は聞かれない。同盟国という関係は従属ではないはずだ。日本にとっては経済でも歴史、文化の面でも、隣国中国との関係は重要だった。日本はここから引っ越すわけにはいかないのだから、偏ってはいけないがもっと多様な意見交換があってしかるべきだ。

世襲議員の出馬規制を

 政治改革を少し別の視点からみると、例えば世襲議員の問題がある。自民党議員の三分の二近くは世襲議員とされる。欧米ではゼロではないがわずかだという。調整すればどこからでも出馬できるが、親のいた選挙区からの出馬は禁止としてしたらどうか。本来あるべき政治改革の第一歩になると思われる。もう一点は同一選挙区からは3期までとする。英国のサッチャー元首相は、この規定があるために7,8回選挙区を変わったという。政治家は社会全体のために仕事をするものだという視点から政治家を評価することが大事だ。そのためには政界には、政治家の新陳代謝によって絶えず新風が吹いていることが望ましい。                     

 もう一点、首相の解散権についても、有権者の厳粛な審判を仰いだ国会議員を、首相の都合で解散するというのはおかしい。解散権を使って反対勢力や野党をけん制するのもそぐわない。議会政治の先進国といわれる英国やドイツでは、首相の解散権を制約するか、議員の任期を固定化するなど首相の解散権を制限している。                                                 

立民は政権批判とともに将来ビジョンを

 最後になったが、立憲民主党の代表選挙も行われている。同党は議員が少ないのに代表選に出るには、自民党と同じ20人の推薦が必要だ。だから出馬できる政治家はさらに限られてくる。      

 議会政治には野党の存在が貴重で欠かせない。野党が政治や行政全般を監視することで、政権党や官僚機構に緊張感が生まれ、与党の暴走も防げる。また絶えず野党が政権交代をにらんでいるから、政治や行政も善政を心掛けるのではないか。本来チェックの目が光っていれば、いま国民を圧迫している財政赤字は1000兆円にも積みあがらなかったろう。汚職なども減り、天下りなども減り税金ももっと国民の要望を受けて使われるようになるだろう。政権を目指す立場の立憲は、政権への批判と同時に、日本が抱えている問題にどう取り組むのか、日本の将来へのビジョンをどんどん示していく責任もあるように思われる。

                                 (了)