「アジア大学ランキング」低迷続く日本、知の拠点危うい状況に 1、2位占める中国との差大きく 100位以内の大学数で中韓に続き日本は3位 かつて1位だった東大は4位に ソフトパワー強国は夢か メディアも関心示さず

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 英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」は4月23日、中東を含むアジア地区の大学ランキングを発表した。学習環境、研究環境、研究の質、国際性、産業界からの収入をそれぞれ評価し、総合点で順位付けしたものだが、日本のマスメディアはどこも無関心のようだ。国内の大学比較は気になるが国際的な評価には無関心ということだろう。しかし、これは日本にとって深刻な問題ではないか。

 今年のランキング結果は次のようだ。1位清華大学、2位北京大学。7年連続変わらない。シンガポール国立大学と南洋理工大学というシンガポールの2大学が3位、4位となっているのも3年連続。ただ、前年5位だった東京大学が4位同着とわずかに順位を上げたのが日本に関してはこの3年間でのささやかな望ましい変化といえる。6位香港大学、7位復旦大学、8位浙江大学、9位上海交通大学、10位香港中文大学も、9位と10位が入れ替わっただけで結局,10位までの顔触れは同じ。順位も大きな変化はない。

 THEが今年のランキングの特徴として強調しているのは中国本土の評価上昇が止まらないことだ。上位100位内に入った校数を見ると、最も多いのが中国本土で34、次いで韓国14、日本9、香港8、台湾、マレーシア各6、アラブ首長国連邦、トルコ各4、サウジアラビア、イスラエル、イラン各3、シンガポール、マカオ各2、インド、カタール、レバノン各1となっている。このうち前年より増えたのは2校増の中国本土と、同じく2校増の香港、3校増のマレーシアだけ。特に10位内に半数の5校、20位内にほぼ3分の1の7校が入った中国本土の評価の高さが際立つ。これら7校のうち前年より順位を下げた大学はなく、2校は前年より順位を上げているのも目を引く。

              アジア大学ランキング上位20校

アジア
順位
前年
順位
THE世界大学ランキング2026順位THE世界大学 ランキング 2015順位大学名国・地域
1252清華大学中国
1346北京大学中国
1729シンガポール国立大学シンガポール
=4=3186南洋理工大学シンガポール
=42627東京大学日本
3335香港大学香港
36201-225復旦大学中国
39301-350浙江大学中国
1040276-300上海交通大学中国
10=41124香港中文大学香港
111151201-225中国科学技術大学中国
1212=5865香港科技大学香港
1314=62251-275南京大学中国
141673182香港城市大学香港
1515=5859ソウル大学韓国
16136154京都大学日本
1717=7068KAIST(韓国科学技術院)韓国
181880251-275香港理工大学香港
19=1986183延世大学ソウルキャンパス韓国
20=1987201-225成均館大学韓国

(THEアジア大学ランキング2026、同2025、THE世界大学ランキング2026、同2013から作成。=は同順位が複数を示す)

中国の順位上昇あらゆるランキングで 

 中国本土の大学の高順位が目立つのは最近の出来事でもなければアジア大学ランキングに限ったことでもない。世界レベル、地域レベルのあらゆるランキングで継続的に順位を上げている。その理由についてTHEは、英ブリストル大学・オックスフォード大学のサイモン・マーギンソン教授の次のような見方を紹介している。「科学力を評価する最良の指標である論文の発表数と被引用数での躍進が目覚ましい。中国政府が科学、技術、大学への国家投資を優先しているためだ。研究成果、特に研究業績は、政府の資金投入と密接に相関している」

 反対に厳しい結果となっているのが、日本。「全体的には現状維持ないし低下傾向にある」とTHEにはっきり指摘されている。4位に浮上した東京大学以外に上位100位内に入ったのは、京都大学16位、東北大学21位、大阪大学30位、東京科学大学34位、名古屋大学49位、九州大学69位、北海道大学91位、筑波大学87位となっている。この中で前年より順位を上げたのは東京大学のみ。東北大学、筑波大学は前年と同順位だったものの、6校が軒並み順位を落としている。

 今回初めて評価対象となった東京科学大学の34位はどうみたらよいのか。同大学は2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合してできた新しい大学のため前年の順位はない。前年との直接的比較はできないが、統合前の東京工業大学の前年順位は32位で東京医科歯科大学は94位。東京科学大学の34位を統合によって評価を高めた順位とはみなしにくい。「日本の多くの大学は総合評価点でわずかな改善を見せたものの、その改善度は世界平均の上昇を下回っており、世界的な傾向に追いついていない」。データ科学者のこうした厳しいコメントもTHEは紹介している。

10年前に日中の評価逆転 

 中国本土と日本との差は、THEの世界大学ランキングの順位変化を見るとよりはっきりする。アジア大学ランキングが始まった2013年の世界大学ランキングと昨年10月に公表された最新の「世界大学ランキング2026年」順位を比べてみると、東京大学は27位と26位でほとんど同じ。日本で2番目に順位が高い京都大学は54位から61位に順位を落としている。一方、今回のアジア大学ランキングで上位20位内に入った中国本土の大学7校はすべて順位を上げているだけでなく、目を引くのはその上げ幅。52位から12位の清華大学、46位から13位の北京大学の上昇度も大きいが、さらに目立つのが残りの5校だ。36位の復旦大学は2013年の順位が201-225位、39位の浙江大学は301-350位、40位の上海交通大学は276-300位、51位の中国科学技術大学は201-225位、62位の南京大学は251-275位と、軒並み13年間で急激な順位上昇を果たしている。

 中国本土と日本の大学の評価に特に大きな変化が起きたのはいつごろか。最初にアジア大学ランキングが公表された2013年の1位は東京大学で京都大学が7位。中国本土は北京大学が4位、清華大学が6位で、100位内の校数も日本22、中国本土15と日本が上回っていた。この時点ではまだ中国本土に日本が追い抜かれたとはいえない。完全に逆転したのがその3年後の2016年。東京大学がそれまで維持していた1位から7位に急落、京都大学も9位から11位に低下した一方、北京大学は2位、清華大学は5位となり、100位内の校数も日本の14校に対し中国本土は22校と初めて逆転した。しかもこの時点で早くもだいぶ差がついている。

 以後、差は開くばかり。2020年以降は1位清華大学、2位北京大学という順位は固定化し、一方、2025年まで東京大学は5~8位、京都大学は10~18位で推移している。100位内の校数も中国本土は2021年以降30校以上を維持しているのに対し、日本は2022年以降、10校以下と中国本土の3分の1以下、最も差がついた年は5分の1という大差の状況が続く。

中国科学技術進歩法の効果絶大 

 なぜこんなに差が開いてしまったのか。「中国政府が科学、技術、大学への国家投資を優先しているため」とTHEに明白に指摘された実態を探ってみる。1993年に制定された「中国科学技術進歩法」という法律がある。日本の科学技術政策の根幹となる「科学技術基本法」(現科学技術・イノベーション基本法)」が制定された1995年より2年早い。精神規定を中心とした基本法的な性格が濃かったが、2007年に大幅な改正が行われている。この時に以下のような内容を明記した条文が入った。

 「国の財政支出に占める科学技術経費の伸び率は、国全体の経常的な収入の増加率より高くしなければならない」。「社会全体の科学技術研究開発投入額の国内総生産(GDP)に対する比率は、逐次増加させなければならない」。国の予算配分を法律で縛る、あるいは民間企業も含む社会全体の研究開発費に枠をはめる内容で、日本では法律に盛り込まれることはあり得ない規定とされる。しかし、実態はこの法律によって中国の科学技術予算は国全体の経常的収入の伸びを上回るスピードで2007年以来毎年伸び続け、日本との差は開く一方という状況が続いている。

 実際に中国と日本の大学にどのような影響が出たか。日本の教育と科学技術に対する強い危機感を持つ公益社団法人「科学技術国際交流センター」が、昨年6月に発行した「教育・科学技術イノベーションの現状と課題-世界と日本 2025年版」という本がある。「日本の凋落を止め再建を目指す」という副題がついている。大学全体の研究開発費は2016年時点で日本は3.6兆円と中国の2.8兆円を上回っていた。ところが2021年には日本が3.7兆円と微々たる増でしかなかったのが、中国は5.1兆円と逆に日本の1.4倍に急増している。

専門知軽視の日本社会 

 昨年8月、文部科学省科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2025」によると、その後この差はさらに広がっている。経済協力開発機構(OECD)推計による2023年の大学の研究開発費は日本が2.3兆円に対し、中国は7.2兆円と3倍以上に差を広げている。2000年を1とした場合の各国通貨による大学部門の研究開発費の指数(名目額)を比べると、2023年に日本が1.0と23年間全く伸びていないのに対し、中国は35.9と著しい伸びを示している。

 大学の研究者数も「教育・科学技術イノベーションの現状と課題-世界と日本 2025年版」によると、中国は2021年に59万9,000人と2016年の30万7,000人から2倍近くに増えている。日本は2021年に13万6、000人と2016年の13万7,000人より減っている。この本で「覚醒せよ、我が科学技術立国」と題する巻頭言を書いている野依良治氏は日本の現状に最も強い危機感を抱く一人。ノーベル化学賞受賞という研究者としての実績に加え、名古屋大学理学部長、理化学研究所理事長、文部科学省科学技術・学術審議会会長、安倍晋三内閣の教育再生会議座長、科学技術振興機構研究開発戦略センター長などを歴任、現在日本学士院長も務め、学界だけでなく科学技術・教育行政の実情も熟知する。「科学技術は国力の源泉」であり「研究開発費は経費ではなく投資で拡大しなければならない」と主張する野依氏にとって今の日本社会は「明らかな専門知軽視」と映る。

 さらに30年間続いた日本経済の凋落を招いたのは研究開発に対する投資だけでなく、教育への低投資のためとするのが、この本の編集長、沖村憲樹科学技術国際交流センター理事長。科学技術庁長官官房長、科学技術振興機構理事長など歴任し、国内だけでなく早くから中国の動向も重視し、中国との科学技術交流にも力を入れてきた。「日本の経済成長を期するには、教育と科学技術イノベーションへの投資を抜本的に増やし、グローバル最先端社会に対応できる最優秀人材を育成し、生産性の向上を図るしかない。幼児教育、初等教育から始まって大学教育、大学院教育まで膨大な教育投資が必要」。氏はそう提言する。「財政構造を根本から変える政治的決断が必要で、内閣が財源の確保を明確にした立法を行い不退転の決意で臨むことを切望する」とも。

 先の見通しも困難な危機的状況が続く国際情勢の中、日本が進むべき道はソフトパワー強国と考える日本国民は増えているのではないだろうか。しかし、明るい見通しを持てる人はどれほどいるだろうか。

 アジア大学ランキングの詳しい評価法や結果については、別のサイトに載った以下の拙稿をお読みいただければ幸いです。

中国と日本、韓国の差が顕著に 英教育誌アジア大学ランキング | Science Portal China

上昇続く中国、精彩欠く日本 英教育誌分野別大学ランキング | Science Portal China

英教育誌世界ランキング訂正 香港城市大学、香港理工大学順位上昇 | Science Portal China

                         (了)