<イランの核開発疑惑とトランプ大統領>イランの核保有阻止に執念  「核合意」離脱のトラウマ 「オバマ憎し」先行の愚行 「大失策の歴史」からの抹消狙う 戦争の目的が貯蔵ウランの押収だと昨年の作戦は失敗だったのか 何が何でも核保有阻止を「手柄」に

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 イラン問題を巡るトランプ米大統領の発言をたどる。「石器時代に引き戻す」は4月1日だったのでエプリルフールだった? 次の「何も残らない」攻撃は19日作戦開始寸前に湾岸諸国から待ったがかかったのだそうだ。4日後の23日戦争終結交渉はほぼ終了、合意を急ぐことはないと停戦を60日延長ー。次に何が来るか分からないが、ワシントンからの日本のテレビ局のニュースによると、トランプ氏は2015年にオバマ元政権下の米や英仏独中ロとイランとの間で締結された「イラン核合意」(オバマ合意)よりよい合意を目指すと記者に話したそうだ。筆者は、これは正直な発言と受け取った。

イランの核の平和利用と「オバマ合意」

 イランの核開発疑惑とトランプ氏とのかかわりついては「戦争終結の障害はイランの核保有阻止に絞られる」(Watchdog21=2026年4月20日)で取り上げたが、その後の情勢の動きを追いかける。

 核兵器保有国を増やさないための核拡散防止条約(NPT)は1970年発効、米ロ中英仏の5カ国以外の国の保有は認めない不平等条約。だが、全ての加盟国に奪われることのない原子力平和利用(電力や医療など)の権利があると規定している。とはいえ、濃縮度の上限が20%を超えるとあとは核爆弾に必要な90%に一気につながるので、平和利用のウラン濃縮は国際原子力機関(IAEA)が必要な支援をしながら軍事利用への防止の役割を果たしている

 1979年のイスラム革命で生まれたイラン政府は当初からNPT加盟国。2002年、イラン中部ナタンズなどでイラン政府がIAEAに申告せずに核施設を建設していると反体制派が暴露、イランの核兵器開発疑惑が浮上した。オバマ米政権と英仏独中ロ6カ国は15年、穏健派とみられたイランのロウハニ新政権と難交渉の末にイランの濃縮度の上限を平和利用の範囲内の3・67%に制限、国際原子力機関(IAEA)が合意履行を確認する査察を受け入れる合意に到達した。見返りに経済制裁は解除した。

自己顕示先行のトランプ政治の手始め

 イスラエル、サウジアラビアなど親米派でイランと対立する中東諸国は、イランが核武装を断念して合意および制裁解除を忠実に実行する保証がないなどと反対した。17年トランプ氏は大統領(1期目)になるとすぐ、イスラエル、サウジアラビアと組んで中東政策の急転換に取り掛かった。歴史的と評価された核合意の実効性は認めないと宣言、翌18年に離脱して、イランにウラン濃縮停止など核開発放棄を要求し、経済制裁も復活させた。

 トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相に対し、パレスチナ紛争の解決には「ニ国家共存」にこだわらないと伝えるとともに、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の三宗教の聖地エルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館をテルアビブから移転させるなど、中東におけるイスラエルへの支持拡大に努めた。

 トランプ氏は、初の黒人大統領オバマ氏に対し米国生まれではないことをごまかして大統領になったと、当時ホストを務めていたテレビのリアリティ番組で執拗に虚偽キャンペーンを続けた。大統領になると、オバマ政権8年間の施策の廃棄あるいは見直しに力を注いでいる。イラン核合意の無効化に始まる中東政策転換は、自己中心あるいは自己顕示先行のトランプ政治の手始めだった。

 こうしたトランプ政権の政策転換に対抗して、イランはウラン濃縮度の引き上げ、新型遠心分離機の導入、IAEAの査察拒否などの対抗措置をとった。事実上、再び核開発を目指すという意思表示である。

「オバマ合意」離脱のツケ

 イランとの核開発規制の合意からトランプ氏が離脱した時、この合意づくりに加わった関係者は「戦争につながる」と頭を抱え込んだといわれる。現状はまさにその通りになっている。

 IAEAの専門家は、イランがその後の8年間で直ぐにも軍事利用につながるとされる濃縮度20%の高濃縮ウランの蓄積が12トンに達しており、山岳地帯の堅牢な地下施設に貯蔵していると確認しているという。イランはこれを軍事用に転用して1~2年で核爆弾を手にすることができるとされる。オバマ合意が認めたウラン濃縮度の上限3・67%の規制とIAEA専門家の査察はこうした事態を許さないためのものだった。

 トランプ氏は「反オバマ」に夢中で、濃縮度20%と3・67%に違いなどには思いがおよばなかったのだろう。オバマ合意からの離脱に代わる手当は何もしなかったようだ。

 ネタニヤフ氏はパレスチナ自治区ガザの反イスラエル武装組織ハマスの居住地区で「ジェノサイド」(民族抹殺)と非難される徹底的な殲滅作戦と並行して、25年6月、12日間におよぶイラン攻撃を行い、トランプ氏も一部の作戦に加わった。この作戦の目的はイランが貯蔵する高濃度濃縮ウランの関連施設の破壊だったとされる。トランプ氏は大成功を収めたと発表していた。

 しかし、今度の対イラン戦争の主目的が同じこの貯蔵高濃縮ウランの押収だとすると、昨年の作戦は実は失敗だったことになる。トランプ氏は貯蔵施設を探し出して米国に運び出そうとしている。しかし、オバマ合意では、順次貯まる濃縮ウランはロシアに搬出されることになっていたという。トランプ氏が勝手に米国に運び出すことが許されるのだろうか。

不勉強の愚行でも「自分は万能」

 トランプ氏のオバマ合意の事実上の破棄は「オバマ憎し」先行で、この合意がなくなったらどうなるか不勉強のままの愚行だったのではないだろうか。もちろんトランプ氏はこの大失策を認めていない。だが、イランの核保有は絶対に許さないとしているのはその裏返しで、「自分を万能とみている」(ワイルズ首席補佐官)トランプ氏は大失策が歴史に残らないよう、何が何でもイランの核保有阻止を自分の手柄にしようとしているように思える。(5月25日記)