第2の「ニューディール」なるか バイデン政権100日、次々に大型政策を推進 

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「大きな政府」再び

 バイデン米民主党政権は5月1日、発足から100日目を迎える。同大統領はグローバリズムがもたらした貧富格差とコロナ禍で疲弊した経済の再生をかけた2兆ドル超の雇用創出計画(広義のインフラ投資)を提示、復活祭休暇明けの議会ではこれに断固反対する共和党との攻防が始まろうとしている。米メディアは大恐慌のさなかの1932年に登場したルーズベルト大統領が最初の100日間で「ニューディール」と呼ばれる恐慌対策を一気に推し進めた歴史を重ねて、このインフラ投資計画を「バイデン・ニューディール」と呼び、バイデン氏が第2のルーズベルトになれるのか注視している。だが、この攻防戦の結果がどう出ようとも「『大きな政府の時代は終わった』という時代もまた終わった」(ニューヨーク・タイムズ紙クライン記者)との見方を生んでいる。

バイデン「転進」で党固まる

 バイデン大統領は3月にはコロナ対策として、最も重い犠牲を強いられている低所得・中間所得層に目線を合わせた1,9兆ドル(約200兆円)におよぶ大型「コロナ救援策」を共和党の全面的な反対を押し切って成立させた。これに続くのがこの投資計画だ。これも議会を通過して実施されるとなれば、米国はもちろん国際経済の回復、再建に大きな影響を及ぼすことになるだろう。

 バイデン氏は民主党では中間派に位置し、党派対立をこれ以上深めないよう共和党との対話追求を掲げてきた。左派は選挙戦中からバイデン氏の政策には不満があった。しかし、バイデン氏がトランプ前大統領の政策を次々に覆しながら、全ての成人へのコロナウイルスのワクチン接種を推進、さらに超大型の経済政策を打ち出したことで、民主党はバイデン支持に固まった。

 世論調査はそろって、バイデン氏が60 %前後の高い支持(不支持は30〜40%)を得ていることを示している。コロナ救援策では民主党支持層は95%が支持。一般では支持67%、不支持32%、共和党支持層でも55%が支持した(PEWリサーチ調査)。民主、共和両党の対立が先鋭化している状況の下では珍しい数字だ。

「現実」対応と「オバマ政権」の反省

 バイデン氏が大方の予想を超えて、こうした野心的な政策を打ち出している背景には、米国の貧富格差の拡大(トランプ氏支持につながった)に加えてコロナまん延が米国社会にもたらした危機的状況がある。加えてリーマンショック直後の2009年政権についたオバマ大統領と民主党の苦い体験がある。オバマ氏は選挙で圧勝、両院議会の多数派も手にしていた。しかし、共和党との協調を重視、これが金融危機対策に始まって多くの政策が中途半端な妥協を強いられる流れをつくってしまった。バイデン氏にはこの反省があると多くのメディアが指摘している。

 バイデン氏は今も、コロナ救援策や新たな投資計画にあたり、共和党の数少ない穏健派をホワイトハウスに招いて意見を聞いてはいる。だが、民主党の大勢は、トランプ派が主導権を握って「選挙を盗まれた」「議事堂襲撃は極左の陰謀」という根拠なき虚偽主張に固執し続ける共和党との対話が実を結ぶとは考えていない。

 バイデン雇用創出計画のインフラ投資には、普通言われる道路、鉄道、港湾、下水道、電気、公共施設などだけでなく、気候変動、サプライチェーン、学校・教育、子ども政策、職業教育、AIやデジタルなど包括的な経済・社会基盤の整備、強化が盛り込まれている。そのための財源は企業増税に求める。

 米国の主要なインフラはルーズベルト・ニューディールで構築されたものが多く残っている。老朽化が進んでいて、新規投資の必要をオバマ政権が指摘し、トランプ政権も持ち出していた。しかし、共和党はあらゆる分野にわたる主要な政策をひとまとめにして、「インフラ投資」の緊急性を盾に押し通そうとしていると「バイデン・ニューディール」に反発している。

「小さな政府」のジレンマ

 共和党はそもそもレーガン政権の「小さな政府」を引き継いで党是としてきた。「ニューディール」に始まる民主党の「大きな政府」には頭から反対の立場である。経済活動はレッセフェール(自由放任)で、企業が栄えればその利益が社会全体を潤す(トリクルダウン理論)。企業増税はもってのほか。この原則をいまも堅持している(虜にされている?)。

 しかし、レーガン政権にはじまるグローバリズム40年の結果が今の米国であり、世界である。トランプ大統領が就任早々に実施したのが企業所得税の38%から21%への引き下げだった。企業の投資意欲を刺激するというのが目的とされたが、そうはならなかった。低金利政策と相まった「カネ余り」でマーケットは栄えたものの、貧富格差が拡大の一途をたどり、財政赤字も膨らんだ。

 コロナ救援対策に続くインフラ投資と、2兆ドル規模のプロジェクトが続くと、財政赤字はさらに膨らみ、インフレを招く。だからどちらも許せない。これが共和党のはずだ。だが、トランプ大統領は財政赤字にお構いなく大幅な企業減税を強行した。「コロナ騒ぎ」は民主党の陰謀と片付けて感染防止策を怠った末、世界最悪の感染拡大に慌てて、選挙投票日が迫ると民主党と同じ大型救援策を取ろうとした(議会の合意が遅れて投票日に間に合わなかった)。共和党は実は、今さら「大きな政府」に反対はしにくい立場に立たされているのだ。

 各種の世論調査では、バイデン氏のインフラ投資計画には概ね5 対4で賛成が多く、財源を企業増税に求めると質問に加えると賛成度が10ポイント余り増えるという数字も出ている。米紙の報道によると、トランプ減税でトップ企業の多くは税金を払わなくて済むようになったとされ、企業減税に対する憤懣が広がっていることが分かる。反対を掲げる共和党は、ここでもジレンマに立たされている。

上院議会の独得な60票ルール

 民主党は昨秋の選挙で大統領とともに上下両院の多数を得た。しかし、下院の議席差はやっと10、上院議席は50対50の同数で、議長を兼ねる副大統領の1票を加えた多数。加えて上院には「議事進行妨害」(フィリバスター)を認める独特のルールがある。重要案件を採択するには単なる多数決ではなく、60票(元々の3分の2の67票を修正)の賛成が必要になる。少数意見の尊重がその理念だ。

 このルールの対象になる重要案件とは予算、省庁首脳や連邦判事の承認人事などとされた。その後、省庁首脳や判事の人事は外された。ある議題をこのルールの対象にするには、両党の主張を受けた上院事務局担当官の承認が必要になる。

 コロナ救援法案は下院で共和党反対のまま民主党の多数で採択、上院では反対の共和党が60票ルールを主張した。しかし、救援策の実施は緊急性が高いとして、議事進行を急ぐために60 票ルールから外して単純多数決による賛成多数で採択された。共和党は両院で全議員が反対した。60票ルールからの除外が認められるのは両党それぞれ年に1回だけとされている。   

 インフラ投資計画も60票ルールの対象とされ、共和党の反対で審議難航が必至だった。だが、民主党は同計画の実施は本年10月以降の2022年度になること、および次年度予算は2月に大統領が予算教書として議会に提出するのが通例なのに、コロナ禍によって大きく遅れていることを上げて、60票ルールから外すよう主張、押し通した。

バイデン氏優位

 だが、これで民主党がインフラ投資計画をそっくり実行できることにはならない。共和党は上院審議で投資対象となる個々の計画の経済に与える効果、緊急性などについて厳しいチェックを加え、激しい論戦が展開されることになるだろう。どんな決着になるかは分からないが、共和党支持層も含めて世論の強い支持を背負っているバイデン大統領と民主党が優位に立ったことは間違いない。(4月18日記)