「番犬録」第4回  「読売新聞の誤報問題で考えた」 そろそろ捜査記事の〃前打ち〃はやめたらどうだ トップのガバナンスも問うべきだ いま「解散総選挙」をやったら参政党のさらなる躍進を許すだろう 関東大震災・朝鮮人虐殺の歴史的教訓 「差別は人を殺す」

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 年を取り、長い文章を書くのがおっくうになったので、メタ(旧フェイスブック)で発信している投稿を貯めて、多少の加筆や修正をを加えながらまとめた文章にする。この文章は共同通信有志のブログ「ウオッチドッグ21」に載せるのだから、「番犬録」と名付けて始めたコラム集。これまでに「面白い」と評価してくれる友人もいるし、「もっと吠えろ」と激励の声もある。ありがたいことである。メタの「いいね」はうれしいが、気を付けるようにしている。

 書き始めたのは、参院選投開票前の戦前の7月12日。それからまもなく2カ月となる。

 書くテーマは前もって決めて、事前に資料を集めるケースもあるが、そのほとんどは朝、新聞の朝刊を開いてみてから考える。ちなみに私が定期的に購入している新聞は、朝日、毎日、東京の3紙で毎日はデジタル版のみで、何かあると在京各紙全紙を見る。週刊誌は週刊文春と週刊新潮はほとんど買う。中居氏問題などではスポーツ紙も買う。グーグルやヤフーのネット記事も読むし、「石丸現象」以来、YouTubeも一応見る。月刊誌も「文藝春秋」、「地平」、「世界」だけでなく、「正論」や「HANADA」,「WILL」など右派系雑誌にも目を通すこともある。テーマによっては、関連する本も読む。だから、金もかかる。年金生活者なのでつらい出費だ。

 文章を書くため、週2、3日に1回、新聞や雑誌はもちろんのこと、ネット記事もコピーし仕分けしてスクラップしている。これは自分だけのデータベースだ。たまりすぎるので3カ月に一度捨てることにしている。こんな習慣は現役時代にはなかった。

 20年前に文教大学情報学部で時事問題に沿った作文、小論文の授業を週に一回3コマ持ち、学生にその週にあった出来事を解説するために、けっこう時間をかけてレジュメを作った。70歳の講師を定年後もボケ防止で同じ作業を続けている。役所やNHKなどに追加取材することもあるが、それも電話である。こういうのを〃こたつ記事〃といわれることもあるが、私は「オープンデータジャーナリズム」だと思うことにしている。「番犬録」なのでかつては私も長い間、飯をくわせてもらった〃オールドメディア〃の問題をテーマにすることが多い。私の文章を読んで少しでも「オールドメディア」の存在の大切さを知ってもらえれば、と考えて書いている。あと少しで80歳。この「番犬録」は私にとって「残日録」なのかもしれない。

 今回は読売新聞の誤報関係2本、参政党問題、関東大震災から102年ーの4本である。

▼緊張感のない読売おわび記事  68年前の「売春汚職事件」でも似たような事例

 「記事は誤報 おわびします」。8月28日付読売新聞朝刊の1面トップ記事「石井章議員秘書給与詐欺疑い」のすぐ下の2段の囲み記事。前日朝刊トップの「公設秘書給与不正受給か」の特ダネが捜査対象者を取り違えた内容だったことをわびる記事が掲載された。

 読売新聞が日本維新の会の池下卓衆院議員と、実際に東京地検の捜査対象となり、この日、特捜部が国会議員会館事務所などを国からの公設秘書の給与をだまし取っていたという詐欺容疑で捜索された同じ党の石井章参院議員と取り違えて報道してしまったというのだ。

 私は70年代に東京地検特捜部を5年間担当したが、このような政治家が絡む大事件での〃人違い〃報道など聞いたことがない。「石破氏退陣へ」の〃誤報〃といい、このところの読売新聞はどうかしていないか。日本で最大の発行部数を誇る読売のことだけでなく,大手メディアに身を置いていた者として、読者からのジャーナリズムへの不信感が加速してしまわないか、大変、心配である。 

 おわび記事は「取材の過程で、池下議員と石井議員を取り違えた。捜査対象を誤った記事を掲載することになり、正確な報道が求められる新聞社として、あってはならない重大な誤報だったと考えている」と述べて、記事を訂正、池下議員や関係者にわびている。読売は誤報に27日午前に気づいたらしく、オンライン記事は午前10時43分に削除されている(朝日記事)。読売の編集局幹部が同日、池下氏に面会して謝罪。池下氏は「事実無根、非常に遺憾」と抗議文を手渡した。TBSの報道によると、池下氏はこのとき、読売の担当者が池下氏の名前を「タケシタ」と言い間違えたとしている。この日のおわびの囲み記事のほかに、現時点で分かっていることや識者談話など社会面で触れるべきだったのではないか。紙面からはなぜか、緊張感が伝わってこない。

 捜査対象者の取り違いは、政治家がらみの特捜事件では、ほとんど考えられない誤報であり、なぜこのようなことが起きたか理解に苦しむ。読売には特ダネ記事などを第三者的立場からチェックする「適正報道委員会」(読売新聞オンライン)があるそうだが、機能していなかったことになる。誤報記事を読むと、公設秘書の給与の不正受給の事実が非常に具体的、かつ詳細に書かれており、それでは、誤報記事の内容は何だったのか、ということになる。

 気になるのは、おそらくネタ元は法務省を含めた検察関係者なのだろうが、書いた記者は当局にどういうあて方をして、どのような感触を得たのか。そもそも論だが、検察発表よりも前に書く〃前打ち〃は、よほどの確証がないと書けないし、書いてはいけない。

 メディアは「前打ち報道」の危険性をもっと認識すべきではないか。これも自戒を込めてあえていう。「今日にも強制捜査」などと、〃前打ち〃すると、検察は強制捜査の日をずらし、故意に「誤報」にさせることもある。「にも」が付いているので、安心して、言い訳は立つと思っているふしがある。これがこういう事態を生むのではないか。今回のような捜査対象の〃人違い誤報〃は言い訳のしようがない。どちらにしろ、記者の思い込みが大きな原因だと思う。複数の記者が取材確認を取ったはずだ。読売新聞は詳細な内部調査を行い、記者会見して再発防止策と併せて発表すべきだろう。

 いまから68年前の1957年、東京地検特捜部が摘発した「売春汚職事件」をめぐり読売新聞社会部記者が名誉毀損容疑で逮捕された。記者が「売春汚職 自民2議員を収賄容疑で召喚必至」と報道。これは誤報だった。2議員は読売と検察庁幹部を名誉毀損で告訴した。いまではこれは、検察内部の派閥抗争が原因で、記者のネタ元の検事を洗い出すために、わざと「偽情報」をこの記者のネタ元とにらんだ検事に流して記者を逮捕した、というとんでもない事件だった。

 この事件については、読売出身でこの記者の社会部の後輩のノンフィクション作家、本田靖春さんが「不当逮捕」という本に書き、後に伊藤栄樹さん(元検事総長)が引退後に書いた朝日新聞の連載「秋霜烈日」で特捜派閥の検事を敵対する派閥があぶり出すための〃仕掛けたガセネタ〃だったことを暴露している。いわばこの記者は検察内部の権力闘争の犠牲者だった。伊藤さんは「法務省にいた男の名は忘れた」と書いている。しかし、法務省を長く担当した共同通信出身の渡辺文幸さんは、著書の「検事総長」(中公新書ラクレ)で「ガセネタ」を流したのは伊藤さん、記者のニュースソースは〃デブシン〃の愛称で記者たちから親しまれた「特捜の生みの親」といわれた元東京地検特捜部長の河井信太郎法務省刑事課長(元大阪高検検事長)だったと書いている。伊藤さんだったかどうかは私は知らないが、ネタ元として狙われたのは河井さんだったと思う。河井さんを取材した共同通信の先輩からそう聞いたことがある。

 記者の名は特ダネで鳴らした読売社会部の立松和博記者。立松さんはこのことでこの後も不遇なうちに亡くなった。詳しくは本田さんの本を読んでほしい。後に検察は記者の「不当逮捕」を正当化した。立松さんは本田さんとともに、かつての読売社会部が生んだ伝説の記者たちである。年が離れているのでお会いしたことこそないが、私の尊敬する本田さんも、私が検察担当現役のとき、おっかない東京地検次席だった伊藤さんも、いまはもういない。今回の誤報と、何となく似ている気がするので付け加えた。(8月28日)

▼読売新聞が特捜対象者取り違えで検証記事 社会部長は更迭

 読売新聞の東京地検特捜部の捜査対象者を取り違えた「誤報問題」。読売新聞は8月30日付朝刊1面の準トップで「誤報 記者の思い込みが原因」との記事を載せた。記事では「取材経緯の検証を行った結果、最初の取材で担当記者に思い込みが生じたうえ、キャップやデスクも確認取材が不十分だったことを軽視し、社内のチェック機能も働いていなかったことが誤報につながったと判断した」と書いた。

 その上で、専務編集担当役員、編集局長から社会部デスク、司法記者クラブキャップ、現場の記者らの処分を発表。女性社会部長は「罰俸として更迭」という重い処分だった。

 13面の全部を使って「東京地検捜査巡る誤報検証」という記事が掲載されている。これを読むと、現場の記者が8月中旬、政界の事情に詳しい関係者から「特捜部が政界捜査に動いている」との情報を得た。さらに、別の関係者から「維新の国会議員が秘書給与詐欺の疑いで捜査対象となっている」との情報を得て、過去の疑惑がヒントだとの示唆を得た。23年に維新の池下卓衆院議員の公設秘書が市議と兼任していることを問題視した記事を発見。池下議員の可能性が高いと考えた。その後、おそらく(検察関係者)に池下議員が捜査対象者かどうかの確認を求めたが、あいまいな回答しか得られなかったのに、池下議員と思い込んだ、という。結局、最後まで確定的な情報は得られなかった。

 当然のことだが、検察官の「守秘義務の壁」は厚い。私の経験でも、あくまでも一般的には、記者からの〃持ち込みネタ〃でもない限り、具体的なことには絶対答えてくれないはずだ。一種の表情などの「禅問答」で感触を得るしかない。検証記事では「記者のその根拠は、本件で継続して取材していた関係者から肯定的な回答があったと受け止めたことだった」と書いている。

 検察取材は総合取材でもある。そこで、池下議員の地元取材を行ったが完全否定、キャップはこれまでの経験から強制捜査に入る前に、池下議員らが捜査を否定しても不思議ではないと考えたという。記者やキャップの思い込みが「大誤報」につながった。記事を出すまでの上層部を含めた最終判断はどのようになされたのかの経緯がこれでは分からない。詳しくは読売新聞を読んでほしい。

 前にも書いたが、「思い込み」の問題以前に検察記者たちの「前打ち競争」は必要かという問題もある。いずれ分かること、公になることを書く「前打ち」は本当の意味での特ダネではない。特ダネとは、当局や権力機関などが隠し続け、メディアが報じなければ闇に葬られてしまう事実を暴くことなのだと思う。私も1970年代に同じことをやってきたが、50年もたついまでも、こんなことが続いているのかとの思いは複雑である。

 もうひとつ、読売の発表によると、誤報に関する処分は専務編集担当以下、現場記者まで7人。グループ会社のトップらによるガバナンスには問題なかったのか。主筆代理でもある山口寿一読売新聞グループ本社社長は元司法記者クラブキャップだ。誤報記事掲載から4日。素早い検証や処分はなぜだったのか。記者への特ダネ圧力や記者の置かれた環境、〃ナベツネ〃(故渡辺恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆)時代からの社風や企業風土などを含めて経営陣のガバナンスも第三者委員会により調べる必要があるのではないか。「記者教育」などでお茶を濁していては、残念ながら、「再発防止」はおぼつかないのではないか。余計なことかも知れないが、「石破退陣へ」の記事も多くのジャーナリストが誤報と指摘している。落ち目の新聞界にあって、日本一のいや世界一の発行部数を誇る新聞でいま何が起きているのか。少なくとも読者は知りたい。かつては「事件の読売」の〃ファン〃だった私もとても心配である。(8月30日)

▼やはり、参政党をなめてはいけない

 参政党のことを批判的に書くと、かえってその支持率が伸びるという学者の分析があるので、あまり取り上げたくないのだが、やはり、これは日本の政治の行方にとって重大なことなので書く。

 日本経済新聞9月1日付朝刊に、大手メディアで8月としては最新の世論調査結果が載った。そこで私が注目したのは石破茂首相の退陣問題ではなく、政党支持率だ。トップの自民党28%に続いて参政党は支持率11%で国民民主党と並んで野党第1党の位置を保持した。日経の7月調査でも13%で国民を抜き単独1位だった。このような傾向は他のメディア調査でもほぼ同じで、参院選後もずっと続いている。いま、解散総選挙でもあれば、海外メディアから「日本でも極右政党大躍進」と報道される恐ろしい事態になる。「いずれ飽きられる」という識者もいるが、いまや参政党は「侮れない」というよりは「なめてはいけない」というレベルだと考える。

 そんな中で、毎日新聞が9月1日付朝刊で、参政党の他党との連携を調査した記事を載せている。記事によると、参政党の地方議員155人がいる全国152の自治体を調査。その結果、参政は他党の議員と30議会で統一会派を組んでいた。連携相手で一番多いのが自民党の14議会、日本維新の会が10,立憲民主が8,国民民主5,公明が1だった。 

 参院は今回で前回当選した神谷宗弊代表を含め15議席、「次期衆院選で勢力拡大を目指し、与党入りを目指す」としている。神谷氏はX(旧ツイッター)で「共産党以外の政党ならどこでも会派を組んでもいいと」通達してあるそうだ。こういうところは、やはり、トップの神谷氏が君臨する〃上意下達〃の党らしい。すでに立憲までが参政と統一会派を組んでいたとは。正直びっくりした。毎日記事はその他、「元共産党員が選挙指南 参政党が重視する『地上戦』の極意とは」、「『GHQが洗脳』参政党に地方議会困惑 〃数〃優先で連携する政党も」など盛りだくさん。なぜか、このところ、毎日新聞記事に目が離せない。

 「日本人ファースト」をスローガンに躍進した参政党。英国の公共放送BBCの東京特派員はこの党を「極右政党」と表示した。なぜか、日本の大手メディアはそう書かない。勢力を伸ばすためには、「排外主義」など、右派的な主張を極力抑えて、幅広い支持者を獲得しようという戦略だ。そのためには、地方での他党との連携も必要ということなのだろう。SNSやテレビだけでなく、地方議会に入り込み地道な活動を続ける戦術は、かつて、というよりは大昔、統一教会を母体とする反共団体「国際勝共連合」がスパイ防止法制定運動で行った地方議会での「意見書採択」を狙った〃草の根保守主義〃に似ている。参政党もスパイ防止法の制定を目指している。ただし、神谷氏は統一協会との関係を強く否定していることも書かなければフェアでないだろう。(9月1日)

▼関東大震災から102年 その延長線上の今の朝鮮人差別

 歴史の節目に負の事実も含めてきちんと報道し、その歴史を若い人たちに繋いでいくことはジャーナリズムの大きな役割である。それは「8月ジャーナリズム」といわれるアジア・太平洋戦争に限らない。102年前の関東大震災での「朝鮮人が略奪や放火をした」とのデマのために、住民らから虐殺された朝鮮人を中心として中国人や間違えられた日本人を含め犠牲となった数千人ともいわれる人々への思いを新たにすることも、ジャーナリズムのやらなければならない事柄である。これは、いま世界で、日本で跋扈する「排外主義」に抗うためにも、悲劇を再び繰り返さないためにも、とても大切なことだ。

 その節目の9月1日、犠牲者を追悼する式典が各地であった。当日を含めたマスメディアの報道は「思いを新たにするには」残念ながら、東京新聞を除いて必ずしも十分とはいえない内容だった。

 朝日新聞や毎日新聞の1日付朝刊紙面は、「天声人語」と「余録」で触れたのみ。朝日は夕刊の「素粒子」で「どんなに怖かったろう。突然呼び止められて、話し方が『違う』と刀を振り上げられたら。102年前、東京の路上で起きたこと ◇どんなに怖かったろう。ふと開いた週刊誌に『名前を使うな』と刷られていたら。ひと月前、作家の深沢潮さんの身に起きたこと」などと書いたのが注目されるぐらいだ。翌2日付ではさすがに両紙とも、9年連続で追悼文を送らなかった小池百合子都知事のことや式典の様子、埼玉や横浜で当時起きた出来事を再現し、追悼する記事が載っていた。

 これに比べて東京新聞は1,2日とも社会面トップで森田真奈子記者の記事を掲載。特に1日付では、参院選で、当時の差別扇動を想起させるような言葉が飛び交ったことなどについて、ヘイトスピーチやレイシズムを乗り越える国際的ネットワーク「のりこえねっと」の共同代表の辛淑玉(シン・スゴ)さんが「差別が大衆化している」と指摘。レイシストから攻撃の目標とされながら差別に抗ってきた経験から「扇動が悲劇を生んだ反省に立ち、今こそ政治家が差別を止めると発信すべきだ」と訴えたのが目を引いた。

 辛さんの「差別が、大衆化している」という指摘はとても重要だ。100年以上たったいまも、激しいヘイトデモこそ見られなくなったものの、参政党の躍進や週刊新潮の差別コラム問題を見ると、朝鮮人差別は関東大震災の延長線上にあることを示している。「大衆化」と同時に「差別は大衆から出てくる」ことも大震災の教訓である。  

 「こういう記事が読みたかった」という記事がインターネットに載っていた。フォトジャーナリスト、安田菜津紀さんが書いた「102年前も現代も、差別は人を殺すー関東大震災から続く虐殺の土壌」である。彼女が副代表をつとめる認定NPO法人「Dialogue for People」が発信した。詳しくはネットで無料で読めるのでぜひ読んでほしい。リード部分だけを最後に紹介する。

 「虐殺は果たして『過去のこと』なのだろうか。ルーツや属性のみで数多の命を奪った構造は、今も世界に、そしてこの日本社会にも残り続けてはいないだろうか」

 関東大震災の朝鮮人虐殺の歴史的教訓はまさにそこにある。(9月2日)