コラム「政治なで斬り」有権者の「厳粛な審判」軽んじた「高市解散」 予算案の年度内成立より総選挙優先 選挙する理由の説明不明確 内閣支持率の高いうちにという思惑透ける 物価高や国民生活注視せず民意無視した政権の都合 政治空白つくる暇あるのかいぶかる声 英独仏では首相の解散権を厳しく制限   

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 総選挙は民意を聞く機会なので本来なら大歓迎だ。ただ政権担当者の都合次第でやられては、たまったものではない。2024年10月に石破茂前政権で衆院選挙、昨年は参院選挙があった。いまの議員はまだ1年3カ月しかたっていない。しかも高市早苗首相はメディアが10日に解散検討を報じてから20日に記者会見を開いている。一部野党の協力が確実視されていた予算案の年度内成立よりも、解散総選挙を優先させたのはなぜか。

 重い役割を持つ首相の解散権について、議会制民主主義の先進国、英国をはじめドイツ、フランスでは、首相の解散権は有権者の「厳粛な審判」を軽んじ、与野党間の公平性も損なうので、厳しく制限する方向にある。

驚異的な物価高への対応遅れないか

 衆院解散・総選挙はまず有権者が解散を望んでいるかどうかが重要基準である。しかもこれまでは、解散の理由を説明して、国民の理解を求めている。内閣支持率が高く国会審議で野党の追及で混乱が生じないうちに、与党の議席を確保したいという思惑は推測できるが、選挙をする理由の説明は不明確だ。議会政治の機能とか国会の役割を軽んじているように思える。

 物価高などにあえぐ国民生活を考えると、一日も早く予算案を成立させなければいけないと思われるが、驚異的な物価高や国民生活は注視していないで、内閣支持率の高いうちに議席を伸ばしたいという思惑が透けて見える感じだ。解散特有の高揚感が感じられない。

有権者の生活実感知らず選挙勝利を優先 政治劣化に

 世界各地で紛争が起こり、国際情勢も不透明感が濃い。日本でも米をはじめ生活必需品などの広範囲の高騰、少子高齢化や貧富の格差、非正規社員問題など寸時も気が許せない状況にある。われわれの周りにも選挙をして政治空白をつくっている暇なんてあるのかといぶかる声の方が強い。報道によると、当初、自民党幹部にも相談はなく、首相周辺のごく一部で決めたとされる。

 選挙をやって国会審議が遅れると、例えば、年収の最低ライン引き上げや、教育無償化など4月実施の政策はどうなるのか。今年は雪が多く、北海道、東北など雪国の人は投票に行きづらい。宣伝カーも走りにくいし、受験シーズンでもある。雪国は保守王国が多いいとされる。

 したがって、これまでの政権はこの時期の解散、総選挙は避けてきた。最近は選挙区は地方でも都市で育った二世三世議員が多くなったため、有権者の生活実感を知らないで、勝つことが優先されたのかもしれない。自分たちの利害だけで国民生活に目が行き届きにくくなっているのは、政党の劣化につながるのではないか。

英国では「固定任期議会法」制定

 中低所得者への給付と税負担の軽減を組み合わせる制度(給付付き税額控除)などを議論する国民会議の議論発足からわずか3カ月、まだ中長期の課題も示されていない。

 高市政権は現在高い支持率だが、国会が始まると、物価高騰をはじめ自民党の政治資金や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係などがテーマになるのは必至だ。また19日の記者会見では出なかったが、高市氏自身の政治献金問題も野党は準備しているとされる。解散の真意は人気が高いうちに野党の準備不足なスキを突いて、議席増を狙ったように思われる。議会政治の王道とは言えない解散だ。

 首相の解散権については、英、独、仏では、都合のいい時に解散できると、政党政治の公平さを損なうということで、解散権を制限したり、議員の任期を固定化したりしている。英国では2011年に「固定任期議会法」を制定して首相の解散権に制約を設けており、解散は政権への不信任が可決した時とした。米国は大統領に議会の解散権はなく議員の任期を固定化している。

かつては自民党内に解散反対の署名運動も

 解散権については、日本でも政治学者の間に、その時の首相や政権党に恣意的に使われやすいと指摘されてきた。この解散権をめぐっては1976年(昭和51)年に政界を揺るがす事態から教訓が生まれている。

 当時の福田赳夫首相は政治の主導権を確保しようと、しばしば解散風を吹かせて反対勢力をけん制した。国会中だったので、解散風が吹くたびに選挙区に帰る議員も出て、国会審議が滞る事態になった。この時は、自民党内から解散反対の署名運動が起きている。

「過ちて改たむるに憚ること勿れ」

 事態を憂慮した保利茂衆院議長は、「有権者の厳粛な審判を仰いだ議員を党利党略的に解散するのはおかしい」と強く戒めている。議員諸氏には忘れられかけているかもしれないが、国会の使命、解散権の在り方について見識が披露されている。やや長文だが議会政治の在り方について極めて大事な内容が書かれているので披露しておこう。

① 国会は国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関である。議員は主権者である国民の厳粛な信託を受け、立法その他の機能を果たしているのであって、内閣に衆議院の解散権があると言っても、内閣の都合や判断で一方的に解散できるものではない。

② 解散は議員の任期中に国民に信託を打ち切り、改めて信を問うという重大なことである。それだけに解散は、第一に立法府と行政府が対立して国政がマヒしたようなとき、その機能を回復するために行う一種の非常手段だと考えるべきである―として内閣の恣意的な解散を強く戒めている。

 「過ちて改たむるに憚ること勿れ」で、高市首相にも、こうした先人の教訓や議会政治の積み上げられたよき慣行は、しっかり引き継がれなければいけないのではないか。

      (了)