高市早苗首相に安全保障政策などで意見具申する立場の首相官邸幹部が「日本は核兵器を保有すべきだ」とメディア記者とのオフレコ懇談で発言した問題。報道が出た翌12月19日になって昨年、ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被爆者団体協議会(日本被団協)が「官邸幹部の発言は被爆者の存在を無視しており、絶対に許すことはできない」と強く抗議の声を上げた。
日本の同盟国の米国も19日、国務省の報道担当者が日本経済新聞の記者に対して「米国にとって日本は核不拡散と核軍備管理の推進で世界のリーダーであり、重要なパートナーだ」と表明。日経は「核保有国と、唯一の被爆国として国際社会で『核なき世界』を訴えてきた日本を含む非核保有国の両方が参加する核拡散防止条約(NPT)体制を堅持するようクギを刺す狙いがにじむ。NPTは核保有を米英仏中ロの5カ国だけに認める」と書いている。中国も同日、報道官が「情報が事実とすれば相当深刻な事態だ」と批判し「中国と国際社会は警戒しなければならない」(産経新聞)と述べ、懸念を示した。
野党からも官邸幹部の更迭や罷免を求める声が相次いだ。朝日新聞によると、立憲民主党の野田佳彦代表は「こうした考えを持っている方が首相のそばにいること自体に問題がある。早急に辞めていただくことが妥当ではないか」。公明党の斉藤鉄夫代表も「核保有は日本の外交的な孤立を招き、安全保障環境を劇的に悪化させる。幹部からこのような発言が出たことが許せない。罷免に値する重大な発言だ」と批判した。官邸幹部による被爆者の気持ちを大きく踏みにじる心ない発言の波紋は海外や野党にまで広がっている。
この官邸幹部の発言は高市首相がこのところ繰り返している「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している」との前提を付けた上であくまで「個人的見解」で「現実的ではない」(共同通信)との見方にも言及している。報道によると、10人ぐらいの記者会見と言うよりは懇談形式のオフレコを前提とした非公式取材だったので、つい気を緩めて口が滑って持論が出たのか。あるいは高市氏が「持たず、つくらず、持ち込ませず」の「非核3原則」の「持ち込ませず」の見直しに首相になる前に言及し、来年4月にも政府提言をまとめる見通しの「安保3文書」改定を控えて、オフレコでも書かれることを承知の上でアドバルーンを上げたのか。いまのところ、よく分からないが、なぜか「台湾有事は存立危機事態」との国会での高市答弁にも共通する官邸の手法を感じる。
在京紙のうち、毎日新聞と東京が20日付の社説で早速、書いている。 毎日は「問われる首相の任命責任」との見出しで「唯一の戦争被爆国として『核なき世界』を目指す国家理念を否定する発言だ、首相は直ちに撤回させ、更迭すべきだ」と主張。東京は「軽率のそしりを免れぬ」の見出しで「高官が高市首相と関係が近いため自民党の中谷元・前防衛相は『お友達内閣と言われないよう、しっかり人選すべきだ」とし、その上で「非核3原則を見直さず、引き続き堅持する旨を早急に明言すべきである」と書いている。発言したのが誰なのか、まだ分からない。
ただ、首相に安保政策などで意見具申できる立場の人物で同じ自民党の安保通の中谷氏が「首相のお友達」だと言うならば、高市氏のぜひにという願いで官邸入りした人物ではないかと私はにらんでいる。オフレコだったとは言え、内容の重大性によっては破られるケースもこれまでにあった。当事者の記者たちはもちろん、中谷氏や野党もこの人物を前提として話していると思われる。政権が明らかにしないのならば、メディアがまず公表すべきではないのか。そして、「更迭」は当然であり、高市氏の任命責任も大きい。
17日で臨時国会が終わった。何をしても〃悪目立ち〃する高市内閣のウオッチがいまや欠かせない。今回も高市内閣の問題を中心に再審法改正問題も付け加え、計4本をフェイスブックに投稿した。
▼「台湾有事」めぐる日本の「従来の立場を変えるものではない」との主張は大丈夫か
高市氏の「台湾有事答弁」をめぐり、日中の「情報戦」が活発化している。中国の王毅外相が英国、フランス、ドイツなどの外相と接触し、「台湾有事が存立危機事態になりうる」との国会答弁について「日本が現状変更を試みている。内政干渉だ」とアピール。これに対して、日本は市川恵一国家安全保障局(NSS)局長がこの3カ国の国家安全保障担当の高官と相次ぎ電話会談し「首相の国会答弁は日本の従来の台湾に関する立場を変えるものではない」と反論する(東京)など、熱戦を繰り広げている。
市川氏といえば、「(前任の外務省出身の)岡野正敬氏は暗い。ネアカがいい。安倍晋三元首相の「FOIP(自由で開かれたインド太平洋)構想を手がけた市川がほしい」との高市氏の強い要請で、国家安全保障局長に25年1月になったばかりの岡野氏を外し、駐インドネシア大使となる辞令が政権発足の5日前に出されていながら、急転直下、市川氏に決まった経緯のある人事だ。 「この人事に霞ヶ関の官僚たちは戦々恐々となった」と月刊誌「文藝春秋」1月号の「高市首相を支える60人」は書いている。安倍元首相が13年に「集団的自衛権」に前向きな小松一郎駐仏大使を内閣法制局長官に抜擢したのと同じ手口だ。高市氏は安倍氏のこのようなやり方までまねをして官僚の「好き嫌い人事」をやるようである。こういうことを最高権力者が露骨に行うと、「官僚の忖度」を招きかねない。
そもそも論でいうと、王毅外相は中国共産党政治局員で党での序列は高い。王毅外相に対抗するならば、本来は茂木敏充外相ではないか。茂木氏は第1次岸田文雄内閣当時の外相で、尖閣周辺での日本漁船の操業を中国主権の侵害であるかのごとく主張した王毅外相を受け流し、20年11月24日の日中共同発表における茂木氏の対応を自民党外交部会で批判する声が上がった(ウイキペディア)ことも影響しているのかもしれない。文藝春秋の同じ記事には「市川氏は(中国寄りとみられている)林芳正総務相との折り合いが悪い」とも書かれている。高市氏の悪い癖は官僚や大臣をうまく使えず、お気に入りと自分の判断だけで何事もやってしまうことだと指摘するジャーナリストもいる。
毎日は11日付で、高市氏が11月7日、台湾有事について「存立危機事態になり得る」とした国会答弁をめぐりスクープを放った。同紙によると、内閣官房が作成した首相の答弁資料には、実際の首相答弁に該当する部分は存在せず、「台湾有事という仮定の質問にお答えすることは差し控える」と答弁資料には明記されていたが、高市氏はこれを無視して独自の見解を述べていたことが判明という。立民の辻元清美参院議員の質問主意書に関連して、政府が辻元氏に開示した。
11月7日は午前3時に秘書官を集めて、官僚が作った予算委答弁書に高市氏が赤ペンを入れて修正していたことは首相自らが公にしていたが、肝心な中国との対立を招いた「台湾有事答弁」が歴代首相があえて避けてきた従来の政府見解を踏み越えて持論を展開していたことが改めて確認された。
11月7日、立民の岡田克也元幹事長は2024年1月に麻生太郎副総裁が「中国が台湾に侵攻した場合には、存立危機事態と政府が判断する可能性が極めて高い」と発言した事例を挙げて「(与党議員が軽々しくこうした発言をするのは)極めて問題だと思うが、いかがか」と質問した。これに対して高市氏は「あらゆる事態を想定しておく、最悪の事態を想定しておくということは、非常に重要です。(中略)だけれども、それはやはり戦艦を使ってですね、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます。実際に発生した事態の個別具体的な状況に応じて、政府が全ての情報を総合して判断するということでございます。もう実に、武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高いというものでございます」と答弁した。
ジャーナリストの布施祐仁氏は月刊誌「世界」1月号の「本当に考えなければならないこと」で 、岡田氏と高市氏とのこのやり取りを紹介しながらこう言う。
「中国が台湾を『統一』するために武力を行使したら、日本政府が存立危機事態と認定する可能性が高いとの認識を首相が示したーそう『誤解』されてもやむを得ない答弁であった」(実際には、台湾有事に介入した米軍が中国の攻撃を受ける事態を想定している)。「これは、台湾を自らの『領土の一部』と考える中国としては絶対に容認できない発言であった」などと書く。
布施氏の言うように、「誤解」かどうか、判断の難しいところだ。私の素人考えではあるが、「存立危機事態」についての厳しい要件を飛ばしてこのような答弁をすること自体問題だと考える。中国を怒らせたことももちろん、重要だが、このようなアバウトな答弁で「存立危機事態」の解釈を拡大して日本を戦争に巻き込むことにならないのか、とても心配である。メディア報道にはこの点が欠落している。この問題での米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の23年1月の台湾有事のシミュレーション報告書では、中国軍が台湾への上陸作戦を実行すると想定すると、中国は作戦に失敗するが、米軍や自衛隊は多大な損害が出るとしている。もちろん、日本の基地を中心とした民間人の被害も大きいと思う。
「台湾有事答弁」から3日後の11月10日の衆院予算委で、高市氏は立憲の大串博志議員の答弁撤回要求を拒否した上でこう答えた。
「総合的に判断する。従来の政府の立場を変えるものではない」としつつ「反省点としては、今後、特定のケースを想定したことをこの場で明言することは慎む」。立民の野田佳彦代表はこの答弁後「事実上の撤回」とこの日の高市答弁を評価した。高市氏の大串氏への答弁は「軌道修正」といえるのか。
高市政権は英国などに「首相の国会答弁は日本の従来の台湾に関する立場を変えるものではない」との11月10日の高市答弁だけを中心に説明しているのではないか。木原稔官房長官もその後の記者会見で記者団の質問に同様の回答を繰り返している。
やはり11月7日答弁の「撤回」か「取り消し」でないと中国側は納得しないだろう。朝日は12月13日付朝刊で、内閣官房が作成した答弁資料(朝日は「応答要領」と表記)の開示の目的について「政府見解を踏襲する姿勢をアピールする狙いもあるとみられる」と書いている。
だが、本当にそうだろうか。国の最高指導者が日本の安全保障について、国会という公の場でいったん口にした答弁はやはり「撤回」か「取り消し」をしない限り、その後に軌道修正しても説得力はない。元中国大使の垂秀夫氏は文春1月号の「高市総理の対中戦略」の中で「高市発言は間違っていない」とし「撤回は最悪の前例になる」と述べている。その上で「数年単位の冷却化は避けられない」としている。このような反中国スタンスの人が中国大使を務めていたこと自体が不思議だが、高市氏の周りには中国とうまくやれる人材がいない。バランス感覚の乏しい人が首相となったことは日本にとって大変不幸なことだと思う。
絶対に戦争だけは避けなければならない。「外交」とは、外国と対立する問題で、どうやってうまく外国と「妥協」し、着地点を探るかにある。日本にもう松岡洋右(外交官・政治家として、国際連盟からの脱退(1933年)、日独伊三国同盟(1940年)などを主導)や白鳥敏夫(戦前期における外務省革新派のリーダー的存在で、日独伊三国同盟の成立に大きな影響を与えた)はいらない。偶発的に起きたとされる「日中戦争」から 「アジア太平洋戦争」にどうして至ったのかの教訓はどこにいった。最近の「高市支持」の前のめりな「国民世論」がとても恐ろしい。(12月15日)
▼「パンダ」から見たに日中関係 台湾政府顧問の元統合幕僚長が中国入国禁止に
このまま日中の緊張が続けば、日本の子どもたちはパンダに会えなくなるかもー。
東京都は12月15日、上野動物園の双子のジャイアントパンダ 、雄のシャオシャオと雌のレイレイを来年1月下旬に中国に返還すると発表した。和歌山県白浜町の「アドベンチャーワールド」で飼育されていた4頭がことし6月に中国に返還されており、上野での最終観覧は来年1月25日。現在、国内にいるパンダはこの2頭だけで、日中関係が悪化する中、新たな貸与は見通せていない。それどころか、遼寧大日本センターの陳洋客員教授は中国メディアに「現在の中日関係の緊張局面が続けば、中国が日本に新たなパンダを貸与することはおそらくないだろう」(毎日)との悲観的な見方を示した。パンダが中国の外交カードの一つとなったわけだが、パンダは1972年の田中角栄首相による日中国交正常化から53年間にわたる「平和友好の象徴」だ。心ない日本のトップの「台湾有事答弁」が日本の子どもたちの楽しみまで奪う結果となった。
72年9月に日中国交正常化が実現し、これをきっかけに同年10月に中国からカンカンとランランが贈られた。上野動物園では53年間で計15頭が飼育された。白浜町や神戸市の王子動物園にも貸与され、これまでに日本国内で30頭以上が飼育されてきた。2023年4月の中国メディアの報道では、22年10月現在で世界で飼育されているパンダの総数は673頭。中国以外では日本が最も多く、米国、シンガポール、スペイン、フランス、ドイツ など14カ国で育てられているという。貸与の条件には「気象条件と環境が整っていること」「パンダの飼育能力があること」などを挙げている。ただ、一番の条件は「中国と友好的であるかどうか」なのだろう。そういう意味で中国は「パンダ外交」を世界で展開してきたといえるだろう。
11月7日の高市早苗首相の中国の「核心的利益中の核心」といわれる「台湾有事は日本の存立危機事態」との衆院予算委での答弁をめぐって日中の関係は急速に冷え込み、中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射にまで発展した。日中は危ない状況になっている。
高市氏は12月16日の参院予算委で、立民の広田一氏が、11月7日の答弁をめぐり、内閣官房が作成した答弁資料には該当する部分が存在せず「政府として答えない」と明記されていたことを取り上げ「なぜ答弁を慎まなかったのか」と追及した。高市氏はこれまでの中国側の「答弁撤回」には拒否してきたが、この日は、「さまざまな想定を交えて議論した結果だ」とした上で「従来の政府の立場を超えて答弁したように受け止められたことを反省点としてとらえて、今後の国会での議論に臨んでいきたい」と語った。
これは11月10日の立民の大串博志氏に対する「総合的に判断する。従来の政府の立場を変えるものではない」としつつ「反省点としては、今後、特定のケースを想定したことをこの場で明言することは慎む」よりは少し前向きな答弁となり得るか微妙だ。これでは、中国側はとても納得しないだろう。
もうひとつ、気になるのは「自衛隊の元統合幕僚長に制裁」という共同電である。15日、中国外務省が、台湾行政院の政務顧問をつとめる防衛省制服組の元トップの岩崎茂・元統合幕僚長に入国禁止や中国国内の資産凍結などの制裁措置を発表したことだ。木原稔官房長官は「中国側が、自らと異なる立場や考え方を威圧するかのような一方的な措置を日本国民にとることは遺憾だ」と批判した。岩崎氏は航空自衛隊の元パイロットで、12年から14年まで統合幕僚長、退任後は防衛大臣政策参与を務めた。今年3月に台湾行政府の政務顧問に就任している。中国外務省の副報道局長は「岩崎氏は台湾で対中国の机上演習に参加しており、(日本政府は)非を認めるどころか、さらに結託して挑発した」と批判した。
「政務顧問」がどのような権限のある職名なのかは不明だが、BSーTBSの15日の「報道1930」に出演した中谷元前防衛相は、「自衛隊の制服組トップが台湾で政務顧問を務めるなど初めて聞いた」とし「好ましいことではない」と語った。3月の岩崎氏の就任時にも中国は反発したようだが、自衛官とはいえ退職後の身の振り方は確かに自由だ。しかし、現職時や防衛大臣政策参与を務めた元自衛隊制服組トップが「強硬な台湾独立派」といわれる賴清徳総統の下で顧問を務めること自体、中国を刺激することになる。ましてや、岩崎氏は多くの防衛秘密を知る立場にあり、この点でも自衛隊法などに触れないのか。いくら、日本が台湾寄りになっていると言っても、日本の「一つの中国」は国際的な約束である。高市氏はまたひとつやっかいな問題を抱えた。木原官房長官の熟慮の足りないアピールは事態の解決にマイナスでさえある。(12月16日)
▼再審法改正が本当に冤罪被害者のものであるためには
「再審は、冤罪救済のための最後の砦です。冤罪は国家による最大の人権侵害です。刑事裁判が人間によって行われる以上、誤りがあり得ます。そのことを率直に認め、無罪となるべき人を、できるだけ早く有罪判決や刑から解放することが必要です」
袴田事件で2014年に再審開始決定をした元裁判官、村山浩昭弁護士が岩波ブックレットの「再審制度ってなんだ?」のあとがきの言葉である。冤罪救済のための再審法(刑事訴訟法の再審規定)の改正が必要なことはいうまでもない。問題はその内容が、冤罪被害者のためのものなのかどうかである。
それまで閉ざされていた「再審の門」の扉を開いたといわれる最高裁の「白鳥決定」から約50年。袴田事件の再審無罪確定により、この4月にようやく始まった法制審議会での再審制度の見直し議論は、「法的安定性」などを理由にして、冤罪を作ってしまったという反省に乏しい法務・検察側委員にこれを応援するような学者委員が加わり、残念ながら審議会では少数派の日弁連側委員はかなり劣勢な状態だ。日弁連側は「このままでは冤罪被害者の救済に逆行して、改悪につながりかねない」と危惧している。来年2月までには、法制審は法相に法案を答申し、法務省は通常国会での法改正を目指す。こういう中で法相の諮問機関である法制審議会刑事法(再審関係)部会が12月16日に開かれ、法務省からこれまでの討議を踏まえた制度改正に向けた「検討資料」が提示された(その内容は、17日付の朝日、毎日、東京による)。
現行の刑事訴訟法には再審手続きの具体的規定はない。論点の14項目のうち、最大の論点は①証拠開示の在り方②検察官の再審開始決定に対する不服申立の禁止ーである。この日の部会では、証拠開示のルール化をめぐり、開示命令を裁判所が出すことを義務付け、検察官にも開示の法的義務が生じるという理解で一致した。ただ、肝心な証拠開示の範囲をどれだけ広くするかについては引き続き検討するとの結果となっている。日弁連委員は「関連性にかかわらず、裁判所が必要と思う証拠を職権で開示させる仕組みが必要。範囲を幅広く認めるべきだ」と主張。これに対して、学者委員は「再審制度の構造にそぐわない」と反論したという。
また、検察官の不服申立の禁止は「再審の迅速化につながる」と日弁連側が支持するが、検察側は「誤った再審開始決定を是正する機会が失われる」と譲らず、この2案が併記された。要するに、二つの論点とも日弁連側と検察官、学者側が対立したままの玉虫色の「検討資料」となった。
今回の法務省の「検討資料」の大きな問題点は、裁判所が再審請求に理由がないと認める場合、検察の証拠開示を経ず、迅速に棄却するように義務付ける「スクリーニング案」が明記されたこと。もうひとつ、検察側が再審請求手続きで、開示した証拠を、弁護団などが外部に公表するといった「目的外使用」を禁じる規定が盛り込まれたことである。これには罰則がある。
これまでの二つの大きな論点に日弁連側としては、さらにシビアな問題が付け加わったといえる。スクリーニング案に対しては、部会委員である村山弁護士は「迅速に救済するはずが、迅速に棄却する法案になりかねない」と批判。「目的外使用」についてはジャーナリストから「再審請求手続きがますますブラックボックス化する」と批判の声が上がっている。
法制審再審関係部会委員は、幹事や関係官を含めて計25人。その内訳は学者が9人(うち関係官1人)、法務・検察5人、裁判官4人(うち関係官1人)、警察2人、内閣法制局1人。非公開のために、学者のすべてのスタンスはわからないが、そして実質的な「冤罪者救済」を求めている委員・幹事は弁護士4人にすぎない。これではとても公平とは言えない。前にも書いたが、冤罪は警察、検察、裁判所、それに時にはマスメディアも加わった「国家ぐるみの犯罪」である。このままでは、何のための「再審法」改正なのか分からない。超党派の国会議員連盟も日弁連寄りの改正案を作ったが、法務省寄りの自民党議員らからの圧力で法案提出から自民が抜ける形となって国会に提出されている。(12月17日)
▼官邸幹部の「核兵器保有」発言に高市政権はきちんと対応を
これは「タカ派」の高市政権だからこそ起きた失言だ。発言の撤回だけで済ませず、きちんと対応すべきである。
高市氏に安全保障政策などについて意見具申をする立場にある官邸幹部が12月18日、日本を取り巻く厳しい安全保障環境を踏まえ、個人の見解としつつ「日本は核兵器を保有すべきだ」との考えを示した(朝日)。オフレコだったため、発言者の名前は明らかにされていない。本来はことの重大性を考えて、メディアは実名で報じるべきだった。あくまでも公式発言ではなく、「個人的見解」だったとはいえ、安全保障問題で首相に直言できる官邸幹部が 唯一の戦争被爆国である日本の「核のタブー」を破り、このような発言をしたこと自体、被爆者だけでなく、「核廃絶」を願う世界の世論に逆行するものであり、到底、許せるものではない。高市氏が臨時国会の答弁で「非核3原則」堅持や見直しについて、あいまいな答弁をしたことに重ね合わせて改めて高市内閣の危険性が浮き彫りになった形だ。
共同の報道によると、高市政権で安全保障政策を担当する官邸筋は18日、「私は核を持つべきだと思っている」と官邸で記者団に述べ、日本の核兵器保有が必要だとの認識を示した。発言はオフレコを前提にした記者団の非公式取材を受けた際に出た。同時に、「現実的ではない」との見方にも言及したという。官邸筋は非核3原則についても「高市首相とは話していない。国論を二分する課題だ」とも述べている。
在京各紙が19日付朝刊で一斉に報道した。時事によると、中谷元・前防衛相は19日、この問題について「政府の立場で個人的な意見を軽々に言うことは控えるべきだ。けしからん話だ」と批判。その上で「発言が公になった以上、しかるべき対応をしなければいけない」と述べて、高市氏が高官の進退を含め対応を検討すべきだとの認識を示した。
中谷氏の見解は当然だろう。この発言者が一体、誰なのか、ネット上では実名を含めて情報が飛び交っている。朝日は「首相官邸の幹部」、毎日は「首相官邸関係者」、共同は「官邸筋」、時事は「政府高官」、NHKは「首相官邸幹部」とその表現はさまざまだが、官邸の「安全保障担当」ということでは共通している。「政府高官」といえば、メディアの政治部用語では「官房長官」を指すが、官房長官は「安全保障政策をなどについて首相に具申する立場にある」わけではない。いずれは名前が明らかになるのだから、高市政権は一刻も早くその名前を公表すべきだろう。木原官房長官は19日、「個別の報道に逐一コメントすることは差し控える。政府としては非核3原則原則を政策上の方針として堅持している」(NHK)といつもの淡々とした調子で述べた。
今回の発言で私が気になるのは、文藝春秋1月号で2010年の退官まで、「台湾有事」と関係のある九州や沖縄を管轄する元陸上自衛隊西部方面総監(陸将)の用田和仁氏が「中国には核保有も選択肢だ 高市首相『持ち込ませず』見直しでは甘い」との対談記事で日本の核兵器保有に言及。「日本では、米国の対中戦略が大きく揺れている実像を深く議論していない」と述べて「米軍が日本を守ってくれるという甘い考えは捨てた方がいい」と断言した。その上で「中国が日本に対する核攻撃を抑制する確証はない。日本は最悪を考えて自主核を保有すべきだ」としている。
最近、トランプ政権が公表した「米国家安保戦略」でも「経済を重視し、中国との関係も貿易の均衡に重点を置いている」とし、台湾有事ではあいまい戦略は続けるが、沖縄、フィリピンを結ぶ第1列島線の防衛について「我々は単独でできないし、すべきでもない」などしている。
国際政治学者の藤原帰一氏は朝日夕刊(12月17日付)の「時事小言」で、「米中『取引』台湾に及ぶなら」でこう指摘する。
「米国家安全保障戦略は台湾海峡における一方的な現状変更を認めないとしており、従来の東アジア政策を基本的に踏襲している。それでも(中略)米国が台湾防衛を放棄する可能性は無視できない。ウクライナを含めたロシアの勢力圏を認めるように、台湾を含めた中国の勢力圏を米国が認めたとき、日米同盟による日本の防衛の基礎はくずれてしまうだろう」
こういうことからも、用田氏のような考えが出てくるのだろう。
今回の官邸幹部の発言も同様な考え方が背景にあるのだと思う。だからこそ、国是の「非核3原則」は堅持されるべきであるし、「核兵器保有」などはとんでもない発想である。昨年、核廃絶を訴えた日本被団協がノーベル平和賞を受賞した意味を改めてかみしめたい。このような考え方に「よく言った」と拍手喝采する人たちが一番怖い。(12月19日)