トランプ米大統領の関税戦戦略が「破綻」、インフレ追い打ち 対中関税戦争はトランプ氏の敗北に 支持率は低下の一途 共和党首脳部に動揺広がる 支配力の低下鮮明に 演説は「歴代最高の実績」を誇示 関税めぐる最高裁の判断次第で苦境に 

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 米国ではトランプ大統領の関税戦略が破綻したところに、感謝祭からクリスマスへと続くパーティ・買い物シーズンが、くすぶっていた「関税インフレ」を一気に押し出した。世論調査のトランプ支持率は低下の一途、トランプ支持勢力内部からの不満や批判の声もさらに広がっている。やきもきする周辺の進言でトランプ氏は地方遊説に緊急テレビ演説と、「歴代政権最高の実績」の虚偽宣伝にやっきになっている。年が明けると再登板1年目が終わり、早々に、議会や州議会・知事改選の11月中間選挙の与野党予備選挙が始まる。トランプ氏にとっては想定外の展開になってきたようだ。

庶民生活に直接のしかかる「関税インフレ」

 トランプ氏が4月初め、突然に強行した対米輸出品の全てに高額の関税を課す関税戦略は、自由貿易に慣れきっていた国際社会に強い混乱と反発を招いただけでなく、米国内でも経済界やエコノミストからインフレを引き起こすのは必至との批判が多かった。だが、その気配は感じられないまま過ぎて、トランプ氏は胸を張っていた。その理由は格差拡大の新自由主義経済(グローバリズム)のもとで低所得層の購買力が中間層に近づくトリッキングがあったところに、コロナ対策の救援金が加わっていたのが理由。だが、その効果は猛暑が去ったころに期限切れになって、「関税インフレ」が庶民生活に直接のしかかることになったのだという(ニューヨーク・タイムズ紙など米メディア)。

 米メディアの関心が「関税インフレ」に焦点を当てはじめると、トランプ氏は反撃と懐柔策に出た。「関税に反対するのは愚か者」「物価値上がりはほとんどない」「『インフレ』はメディアの『でっち上げ』」「株価は史上最高の活況が続いている」「関税によって米政府が多額の収入を得ているので(高額所得者を除いて)1人当たり少なくとも2000ドル(約30万円)の配当金を出す」(11月9日)ー。

大企業も「造反」

 高額の関税を実際に払ってきたのは企業だった。「配当金」に庶民や中小企業者だけでなく、大企業も含めた企業経営者が激しく反発した。商店からスーパーまでの小売り業者は販売価格に関税をそのまま上乗せはできないにしても、価格を上げれば販売量は減る。末端の購買客は値上がりしても必要なものは泣き泣き買うか、あきらめるしかない。この中で最初に反乱を起こしたのは小規模の輸入業者や小売店だった。

 企業は高額の関税を一時的に負担することはできるだろうが、中小企業はその資金繰りも難しい。関税は政府が支払うよう求める訴訟が広がった。そのなかには中国からの輸入に頼ってきたオモチャ輸入・販売業者が多数含まれていた。中国が逆襲してオモチャ類の対米輸出をストップしたので、クリスマスツリーを飾るオモチャ類が入手できなくなったと途方に暮れての訴えだった。

 この訴訟が一部の大手スーパーに始まって大企業にも広がった。彼らは新しい輸入に対する関税は政府が支払うだけでなく、既に支払った関税の償還を求めた。米国では憲法で諸々の税金を課す権限は議会にあるととされてきたが、ここでもトランプ氏がルール無視の上に自由貿易の原則に逆らって、貿易赤字解消を名目に高関税戦略を強行したことに町の商店から大企業までがそろって「ノー」を突き付けることになった。

「配当」ではなく「償還」を

 ニューヨーク・タイムズ紙(12月5日付国際版)は 「企業が関税償還の要求を急いでいる」という見出しで長文の記事を掲載、同11日付では「関税が引き起こした混乱の封じ込めが続いている」という主見出に「トランプ(氏)は傷の手当中」の脇見出しを付した記事を掲載している。

 トランプ氏の無理やりの関税戦略の主目標は、中国の安価な製品の輸出攻勢を阻むことにあった。双方が関税引き上げ競争の末、中国は対抗してオモチャ類(前出)とともに米国農産品の輸出にストップをかけた。米農業の稼ぎ頭、大豆農家が悲鳴を上げ、トランプ大統領は大豆農家を中心に大農家に120億ドル(1兆9千億円)の支援をすることに追い込まれた(12月初め決定)。120億ドルのうち100億ドルは大農家向けの一時金といわれる。

 中国は、米国に輸入を差し止められた製品はアジア、アフリカ、中東などの新市場を開拓し、今年1月から11月までの貿易黒字は史上初めて1兆ドルを突破し、12月までの通年でも過去最高が確実になった、と中国当局が発表した(12月8日)。「関税戦争」はコブシを振り上げたトランプ氏の敗北に終わりそうだ。

 この背景には、トランプ氏が乱発してきた憲法・法律無視の大統領命令に対して理解を示してきた最高裁多数派の保守派判事の中にも、関税に関しては疑義が出ていることがある。最高裁は早ければ年内にも判断を下すとの見方もある。その判断次第でトランプ氏が苦境に追い込まれる可能性がある。

広がる支持離れ

 世論調査によるトランプ氏支持率はその後も下降線をたどっている(12月3日のウォッチドッグ掲載の「行く先不明の「漂流」参照)。支持率は30%台の半ばからすれすれへと、不支持率は60%台を超える70%台入りも珍しくなくなってきた。その理由は強固な支持層の支持離れがさらに広がりつつあることにある。このままいくと、トランプ政権が今はすれすれの多数を握っている連邦議会上下両院の多数を、中間選挙で失うことにでもなれば、政権後半の2年はまひ状態に陥る。

 ホワイトハウスおよび共和党のトランプ周辺が慌て出し、トランプ氏は地方州遊説やテレビ演説と世論対策に動き出した。だが、トランプ氏の演説は以下のように、いつもながらの自画自賛に差別発言ばかりのようだ。

▽差別発言の一例:西欧からの移民ならいいけど来ない。「ゴミ捨て場」のような国はろくでもない移民を送り込んでくるだけ(12月9日ペンシルベニア州遊説)。

▽事実ではない自己顕示発言:歴史上のどの大統領より最高の成果を上げてきた。前政権(民主党バイデン政権)の酷いインフレを抑え込んだ。インフレと言っているのは民主党のでっち上げだ。物価は下がり(12月インフレ率3%)生活は楽になっている(12月17日TV演説)ーなど。

▽有権者を喜ばせる発言:貯まっている関税収入から(前述の配当金を出すのに加えて)、クリスマスに1776年の米国建国の年にちなんで、145万人の「米軍戦士」にクリスマスまでに1776ドル(約27万円)の特別配当を配る。こうした使い方にどんな法的根拠があるのか不明、とメディアは指摘している)。

「MAGA」の分解始まる?

 こうした攻防の中で、トランプ支持勢力の足並みの乱れは着実に進行しているようだ。12月3日ウォッチドッグに記事掲載以降の動きを拾った。▽年明けに下院議員を辞任して独自の政治活動を始めると決別宣言をトランプ氏に突き付けた共和党下院議員M・J・グリーン氏はメディのインタビューに応じて、トランプ支持勢力の中核を形成してきた米国第一主義運動「MAGA」(米国を再び偉大に)派は分解を始めたと述べた。

▽保守派の世論調査機関のスタッフからワシントン・ポスト紙記者が聞いたところによると、トランプ氏の支持率の低下は主にトランプ支持層のトランプ離れによる。

▽(トランプ氏がノーベル平和賞を欲しがってウクライナ戦争やガザ戦争など国際紛争の和平仲介に走り回っていることについても)われわれのことには関心がないという不満が支持派のなかに広がっている。

▽(同じく)トランプ氏の言葉と支持者が望んでいることの間には隔たりがあって、トランプ氏が「闘う?戦う?」と叫ぶのに対して、支持者は現実的な日々の生活の向上を望んでいる。

 ▽トランプ氏の命令で、中間選挙圧勝を狙って共和党が主義会や知事を握る州で、議員の選挙区線引きを共和党候補に有利に引き直す「ゲリマンダー」に対し、テキサス州(共和党が知事、議会を支配しているにもかかわらず反対した。12月3日掲載のウォッチドッグ)に続きインディアナ州も反対。

▽(43日間の最長記録となった政府機関の活動封鎖は、両党が補助金削減問題を継続交渉にして批判の高まった政府封鎖を解除した。12月3日ウォッチドッグ掲載の記事参照)継続交渉となったオバマケア補助金削減問題で、オバマケアに加入している党員を中心に補助金削減に強い反対が広まり、共和党首脳が事実上のこれを受け入れざるを得ないところに追い込まれている。オバマケアを敵視してきたトランプ氏も中間選挙への影響を考えると補助金削減は強行できないととの見方が出ている。

 共和党は「小さな政府」を掲げ、社会保障は「怠け者をつくり出す」という古臭い決めつけのままに「オバマケア」つぶしを狙ってきた。共和党首脳の方針が党の多数を占める普通の党員の思いとかけ離れていたこと、そして民主党のリベラリズムを敵視してきたトランプ氏の支配力の低下ぶりが鮮明になったといっていいだろう。

                              (12月21日記)