1月に発足した野党の三党合流(立憲民主党衆院議員21人、公明党同28人、中道改革連合同49人)が頓挫した。一瞬、国会から野党がいなくなるのかという錯覚に襲われた。
空々しい高市氏の国会答弁
かつて、吉田茂元首相をはじめ歴代首相経験者に、「宰相学」を講じていた陽明学者の安岡正篤氏が「人間の器量には大小深浅、精粗雑とあるが、公正、公平にものを見ない人には国の一大事は任せられない」と言うのを聞いた。安岡流に高市早苗首相を採点してもらうとどうか。「人間修行が足りない、もっと多くの人を知る努力を怠るな」と言うのではないか。
権力の行使は抑制的でなければならない。しかし十分な説明や議論欠いていささか独善的に見える。5日から臨時国会が始まるが、首相は肝いりの戦略17分野に広く巨費を投じ、経済成長に向けた構想を描く。広範囲にわたる成長政策だが、これまでの成長策に対する評価や反省点のチェックも必要だ。
国民生活は上を向かず、将来への不安が増している。だが首相からは懸念に対する説明がない。広報予算をいきなり10倍増の70億円にするというが、国民は広い分野の物価高騰、地震や大雨災害、高齢化社会、医療問題など苦戦の真っただ中にいる。まだ概算要求の段階だと言っても常識を逸している。高市氏の国会答弁を聞いていて空々しく感じることがあるが、国民生活への気配りが欠けているからだろう。
かつて中曽根康弘首相や竹下登首相らの選挙を取材したが、行く先々で必ず繁華街や市場をのぞき、人々の生活ぶりや町の賑わいなどに気をかけていた。
反対勢力と合意点見つけるのがうまい自民党
「自民党は反対勢力とも合意点を見つけるのがうまいが、野党の議員は相手の弱点を見つけてとっちめるのが得意だ」と言われる。三党合流が挫折したのに、こんな冗談は不謹慎だが、国会論戦を蘇らせるには、政権党を向こうに回して丁々発止の議論が不可欠だ。
一つ不思議に思うのは、国民民主党、参政党などが自民党に政策要求を突き付けて少しでも実現すると、執行部の手柄だというように振る舞ったりすることだ。巨大自民党に向かって、自党の政策を陳情しているように見える。野党に求められるものは、同憂の士が少しでもまとまって、政権運営に向けて動き出すことである。
二つの再生策
非自民勢力は過去30年、新進党、民主党、民進党、希望の党と離合集散を繰り返した。これに中道も加わると、有権者はうんざりするだろう。ただし自民党だけが政権を担いりがちだといわれる。状況は、議会制民主主義にとって望ましい姿ではない。対抗勢力のない政権は緊張感を失い、国の針路を誤りかねないという。
腐敗も多発する。そこで新中道勢の再生策を考えると、二つあった。一つは志を同じくする勢力をまとめ、どんな国家像をめざすのか有権者と徹底的に議論することだ。政策の方向を示さない党に、有権者が親近感を持ってくれるはずはないからだ。
もう一つは総括と反省の徹底だ。なぜ民主党政権が失敗したかについて分析と検証がない。何度も有権者の期待を裏切ったのだから、出直すには反省と総括ぐらいはきちっとすべきだろう。
この夏のことだが、1997年にブレア英労働党が、18年ぶりに政権を奪還したときの話を聞く機会があった。ブレア氏は低調な党のイメージを脱皮するために、連日のように党改革の会合を開き、激論になり党が何度も分裂しそうになったという。そうすると人々の労働党を見る目が変わりはじめ、「そこまでやるなら労働党は本当に変わるのではないか」という空気が生まれたという。党の再建に取り組むには、首脳陣に必死の形相を見せられるかにかかっていると言えよう。
一強政治にいない監視役
前回の衆院選の比例票は、自民党の2103万に対して、中道は1044万票。中道は民意をもっと信頼すべきだろう。沖縄知事選の有権者は20代から60代までは自民党支持が多く、70代、80代は中道支持とはっきり違いが示された。2月の総選挙も同じで、それに本土から自民党支持の激しいSNS攻勢にさらされた。選挙戦術でも出遅れた。
繰り返しになるが、一強政治には監視役がいないので、金権、腐敗政治になりやすい。そればかりか日本の針路を誤りかねない。高市首相の独りよがりの政権運営の懸念はそこにある。
しかも政権党は膨大な予算や補助金、補給金、税金の優遇措置、許認可などの近くにいるので。予算の無駄遣いや腐敗、汚職も起きやすい。3年か5年に1回は行政改革が必要といわれるゆえんだ。
10月の臨時国会では、高市首相が掲げる消費税減税が焦点になるが、野党は対案を明示すべきで、財源論を欠いた減税や給付の競争では、将来世代に選択肢にならない。また財源論は防衛費なども必要である。給付付き税額控除も減税と給付を組み合わせて、再分配を行う制度設計も急ぐべきだ。外交や安保では日米同盟が基軸になるとしても、自律的な外交の模索は欠かせない。
政治は「弱きを助け強きをくじく」
先の通常国会では、与野党の勢力が伯仲している参院では、高市政権の「暴走」に対して、全野党が結束する場面があった。参院では衆院解散で、当初予算の審議入りが約1カ月遅れたが、高市氏はそれでも年度内成立を固執したため、自民は強引な議事運営を進めた。このため、2000年以降、最短の審議時間で衆院を通過させた。
一方で財政悪化への警戒感から長期金利が上昇し、円安も加速し物価高が続く。国民生活にしわ寄せが集中している。なおさら幅広い合意形成が必要だが、高市氏は独善的な行動を改めなかった。メディアはあまり伝えていないが、先の特別国会中に、物価高など高市政権の経済政策について抗議デモも頻発していたことだ。
最後に安岡氏に高市氏の人物月旦をしてもらうとどういうことになるかだ。政治家は二つの目でしかものを見られないが、政治家は何千何万という国民の目で見られている。世論は正しいことが多い。「弱きを助け強きをくじく精神を忘れてはいけない」というのではないか。