「小さく」が問題を大きくした…

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横浜港・大黒埠頭に係留されているダイヤモンド・プリンセスの乗客乗員に手を振って激励する市民

 中国・武漢から始まった新型コロナ・ウイルス肺炎は、2月18日午後8時半現在の集計で、国内感染者は616人に達し、東京マラソンは一般参加を取りやめる措置を取るなど、ますます大きな問題になってきている。安倍政権は問題を小さく見せようと、飛行機もクルーズ船も、「封じ込め」で何とかなると考えたが、それがかえって裏目に。問題を軽視し、場当たり的な対応をした「ツケ」が問題を大きくした。

「邦人救出」の実践、「改憲」への利用

 問題が起きて首相が最初に考えたのは、戦争法で宣伝した、赤ちゃんを抱いたお母さんが飛行機に乗って帰ってくる「紛争地からの邦人救出」。その実践とばかりに、武漢に特別機を飛ばせるところまではよかったにしても、連れ帰った邦人をどうするか、ろくに準備もないままだった。検診計画、隔離対策も不十分で、ホテルの部屋は足らず、他人同士を一部屋に泊まらせたり、飛行機代を徴収しようとしたり、といった具合いだった。

 安倍首相周辺が「人権」より「管理・統制」を優先して考えてきたことがすぐわかるのは,この事態を改憲に利用しようとしたこと。特別機で帰ってきた乗客の中で、ホテルに泊まらず帰宅した帰国者がいたことを知った伊吹文明元衆院議長は30日、「緊急事態に個人の権利をどう制限するか,憲法改正の大きな実験台」と述べ、下村博文自民党選対本部長も「改憲論議のきっかけに」と発言した。野党と東京新聞、沖縄タイムスなどが批判したが、産経はこれに同調、「憲法改正は待ったなし」などと書いている。

ウイルス蔓延の密室で多数の船内感染か

 飛行機で帰国した人々については、まだいい。悲惨だったのは、対策もないまま上陸もできず、ウイルスが蔓延する密室となった、豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客と乗員たち。横浜に寄港した2月3日以降、2週間あまりも「無策」の日本政府に振り回され続けている。
 さすがに、ニューヨークタイムスなど海外のメディアの批判と、米国、カナダなどから帰国便を派遣するとの連絡を受けて、80歳以上,検診で陰性の乗客などの条件をつけ,下船させることを決め、19日には脱出が始まった。しかし豪華客船と言っても、締め切った船室内に,検診もしないまま、感染者とともに長期間滞在させることは、「人権」より「管理・統制」が前面に出た施策としか言いようがない。
 特に、米国は疾病対策センター(CDC)が武漢での感染爆発当初から綿密に対策を練っており、今回も横浜で2週間留め置かれた米国人乗客を米国の基地内でさらに2週間隔離するという方策を採った。これは安倍内閣の「隔離」が医療的には効果のない「監禁」と見做した証拠だろう。
 19日付けの共同電によると、CDCはさらに18日付の声明で「特に無症状の人を含む感染者が船内で発見される割合から、進行中の危機であることが示される」と述べており、2週間の監禁で船内感染が広がったと見做しているとこが分かる。

感染源たどれぬ感染者続出

 日本の公衆衛生体制は、国際的に見ても決して遅れた状況ではないはずだが、こんな事態になったのはなぜか。それは結局、政府の施策が専門的な知識や経験を生かすのではなく、問題を正面から取り上げずに漫然と対応したからだ。しかも感染症対策では、その中核を担う国立感染症研究所のリストラや、経費削減を進めてきた事実も明らかになっている。その結果、思いも見なかったハワイ渡航者から感染者が出たり、全く感染源がたどれない感染者が出たりし始め、社会的機能がマヒし始めている。

 そもそも冷静に考えてみれば、感染の初期から分かっていたはずだった。中国・武漢で原因不明の肺炎患者が急激に増える段階で、原因は新型コロナウィルスと推定されたころには、日本だけでなく世界的に状況が確認されていた。
 特に感染者数上昇の急カーブは、きちんと疫学や統計学を学んだ者なら、その理由を推定できていたはずである。一つは武漢など中国各地での検査システムの充実が上げられる。日本でも検査に時間がかかっているが、武漢でも当初はなかなか検査できず、病院をたらい回しされた患者が感染を広げる結果を生んでいた。もう一つ、重要なことは、非発症者から感染している可能性が疑われていたことだ。インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)などの症例をみても、急激な感染上昇カーブを子細に調べると、無発症者からの感染が多かったことが知られている。今回も当然、疑ってかかるべきだった。

日本は世界から注目されている

 日本テレビなどが報じたので知られるようになったが、世界保健機関(WHO)のシニアアドバイザー、新藤奈邦子さんは2月14日、東京で開かれたシンポジウムで次のように話していた。

「ちょっと日本だけ様相が違う。他の国では全部、感染者が追える。接触者も全部調査が終わって、その中から陽性患者も出ているが、(他国では)そこから先に感染は広がっていない。日本は世界中から注目されている」

日テレNEWS24より

 全国の医師がインフルエンザに対応しているように、もっと早く、民間に協力を求め、検査機器や試薬も十分提供して対応すれば、防げたケースは少なくなかったのではないか、と考えられる。いまからでも、コロナに対決する体制をつくらなければならない。

                            (M&T)