「トランプ・クーデター」成功? 米大統領選、緊迫の開票速報

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 4年間にわたりあらゆる世論調査で4割前後の支持しか得られず、大統領選挙戦でも終始、民主党のバイデン前副大統領にリードを許してきた少数派権力の共和党のトランプ大統領。「選挙でバイデン氏に勝つ。負けるとすれば大量の不正投票による。だから選挙で負けても政権移行には応じない」と事実上のクーデターを強行してでも権力を手放すまいとしている。その大統領選挙が3日投票される。民主主義モデルの一つ、米国で何が起こるのだろうか。世界がはらはらしながらその開票速報を見守ることになるだろう。

郵便投票に「再選シナリオ」賭ける

 投開票時間は、米本土の四つのタイムゾーンにしたがって東から西へと順次進行する(日本でもNHKテレビなどが開票速報を中継すると思われる)。今回の大統領選挙戦の行方を握る激戦州はほとんど、中西部と南部に位置しているので、早めの時間帯にこれらの州の情勢が先行的に報じられる可能性が高い。

 投票締め切り後に始まる開票では、共和党票の割合が高い当日票が先に集計されるので、開票速報ではトランプ氏がまずリードするとみられる。その後、民主党票が多い郵便投票の開票が順次加わり、バイデン氏が追いかけるレースになる。そこでトランプ氏が激戦州のリードが続いているうちに「勝利宣言」して残る郵便投票には不正投票が多数含まれていると主張して、開票停止命令を州裁判所に求める。これらの州の首都にはトランプ氏支持の極右や白人至上主義団体の「不正選挙抗議」のデモが押し掛ける。トランプ氏はいつ、どの段階で「勝利宣言」をするのだろうか。そこに注目が集まる。

 このトランプ氏「再選シナリオ」のキーワードが郵便投票である。世界最悪のコロナ感染国で今も第2波が深刻なさなかの選挙なので、郵便投票が広く取り入れられたからだ(「Watchdog21」10月21日拙稿「『米大統領選』正常に実施できるのか」参照)。

 この選挙に対する米国民の関心は極めて高く、米メディアの最新の報道によると、実際には10月31日までに9170万人が期日前投票をすませている。このうち3分の2が郵便投票。期日前投票は最終的に予想される総投票数の半分を超えるとみられ、3日投票されるのは残る半分だけだ。

 郵便投票は黒人、ヒスパニック(中南米系)など投票率の低い少数派が投票しやすくなるとされ、実際に郵便投票の7割以上は民主党。同党の投票率を大いに高めているとみられる。そこでトランプ氏は何の根拠も示さないまま「郵便投票は不正投票を横行させる」と強く反対した。共和党支持者には高齢者が多く、郵便投票の方がありがたいのだが、トランプ氏が猛反対しているので、同党員の郵便投票は2割程度とされる。

共和党は妨害工作

 当日票は締め切りと同時に開票が始まるが、郵便投票については、州ごとに取り扱いが違ってくる。選挙の管理・実施は州当局の権限だからだ。トランプ氏の反対を受けて共和党が知事や州議会(上院と下院がある)を抑えている州では、無効票を増やすために郵便票に様々な規制をかけている。たとえば投票日前には開封処理はしない、3日の投票締め切りまで集計はしないなど。これに対して民主党知事と同党優位の議会を持つ州では、開封処理を早めに済ませ、投票日までの消印があれは数日間の余裕を取って有効にしている。

 選挙の行方を決めるとされる激戦州では郵便票をめぐって訴訟合戦も起こっている。州裁判所、州最高裁を経て連邦最高裁に持ち込まれたものも少なくない。東部のペンシルベニア州(民主党知事)では投票日から3日後までの配達は有効とした。共和党が反対して提訴、同党多数の州最高裁がこれを認めたが、連邦最高裁で逆転し、民主党勝訴。中西部のウィスコンシン州(民主党知事)では共和党議会が投票当日以降の配達は無効とし、民主党の州当局が反対して提訴、連邦最高裁まで行って敗訴となった。

 郵便投票の配達がこのように遅延する恐れが出ていることも、トランプ氏の妨害工作のひとつだ。トランプ氏は郵便投票導入が避けられないとなった6月、郵便公社総裁に親しい高額献金者を据える人事を強行した。同公社の配達業務はかねて合理化・近代化に迫られていた。新総裁はさっそく超過勤務削減、新システム導入に取り掛かり、現場に混乱が生じて郵便投票が大量になれば処理しきれないという事態になった。

 民主党が強く反発、議会も動いて改革は一時棚上げされることになった。それでも郵便投票の配達の遅れが起こり、かなりの「無効票」が出るのは避けられないとみられている。

トランプ氏が出足リードで「勝利宣言」か

 開票速報では、共和党票の割合が高い当日票が先に集計されるので、トランプ氏がまずリードするとみられる。その後、民主党票が多い郵便投票の開票が順次加わり、バイデン氏が追いかけるレースになる。そこでトランプ氏が激戦州のリードが続いているうちに「勝利宣言」して郵便投票の開票停止を求める。トランプ氏がいつ、どの段階で「勝利宣言」をするのかを世界中が見守ることになる。

 一般投票の獲得数では、世論調査の支持率で5〜10%のリードを保っているバイデン氏が圧勝する可能性が高い。2016年選挙では敗れたクリントン民主党候補の得票率48%、勝ったトランプ氏は46%、得票数ではクリントン氏が300万票近く多かった(トランプ当選は大番狂わせとされ、世論調査の権威が問われたが、この得票率の予想はピタリだった)。

 独立当時は州権限が強く、大統領は各州の人口に応じて割り当てられた大統領選挙人が決める権限を与えられた。それが今も踏襲されているからだ。このために大統領選当選を決めるのは、多数の大統領選挙人を持つ有力州の獲得数にかかってくる。

 前回2016年の結果とその後の情勢からみて、今回選挙でそうした鍵を握る州とみられるのは以下の州だ。( )内は選挙人数。

▽東 部:ペンシルベニア(20) 知事・民主、上院議員(民主、共和 各1)

▽中西部:ミシガン(16) 知事・民主、上院議員(民主2)   

     ウィスコンシン(10)知事・民主、上院議員(民主、共和各1)

     オハイオ(18)知事・民主、上院議員(民主、共和 各1)

 ▽南 部:ノースカロライナ(15) 知事・民主、上院議員(共和2)

       フロリダ(29)知事・共和、上院議員(共和2)

 (以上は2016年の選挙で民主党有利と見られたが、トランプ勝利という因縁のある州)

 その他に接戦州として挙げられるのは、南部ではジョージア(16)、テキサス(38)、西部ではアリゾナ(11)。多数の選挙人を持つ西部のカリフォルニア(55)、東部のニューヨーク(29)は民主党支持で固まっており、その他の人口の少ない諸州は共和党と色分けができている。

最初の鍵はフロリダ

 開票速報は当日票と郵便投票の票がからみ合いながら進む。激戦州や接戦州の開票がどう進行するのかを的確に予測するのはきわめて難しい。そこをどう見極めてトランプ氏は「勝利宣言」を出し、残り票をひとまとめにして「不正票」と断定するのだろう。

 その判断がかかるのはまず、29人の選挙人を持つフロリダ州の情勢だろう。同州をどちらが獲得するかは最初の焦点だ。バイデン氏はフロリダを失っても、ノースカロライナを取り、さらにミシガン、ウィスコンシン、オハイオのうち2州を獲得すれば勝利につながるとみていいだろう。選挙人20人のペンシルベニア州の行方も重要だが、同州の郵便投票は3日後まで集計されるので、大接戦になった場合、最後に勝敗を決める州になるなりそうだ。

何をするのか分からない不安

 訴訟合戦になったとき、トランプ氏は大量の郵便投票をそっくり「不正投票」にする「事実」をどこに求めるのだろう。共和党が州最高裁判事の多数を握っている州ではトランプ氏の権力を押し通せるかもしれないが、いかに強引に保守派多数に固めたとはいえ、最高裁判事までその威令にひれ伏すだろうか。

 この「クーデター」は元々、支持率が伸びない中で幅広い世論の支持に背を向けて「黒人の命は大切」運動に敵対的姿勢を取り、新型コロナを軽視して対応に失敗など、追い詰められた末に逃げ込んだ、ずさんな計画と映る。だが、トランプ氏は何をするのか分からないという不安は残る。