検察庁としては安倍晋三前首相に真っ向から真剣で「太刀打ち」するのは避け、「みねうち」程度で済ませようという折衷案を選んだようだ。安倍氏の後援会が「桜を見る会」前夜に主催した夕食会の補填問題。東京地検特捜部は、5日の国会閉幕後に政治資金規正法違反(不記載)の罪で、「安倍晋三後援会」の代表を務める公設第1秘書を略式起訴する方針を固めたとみられる。
安倍氏は事情聴取でも関与否定か
特捜部は、近く安倍氏本人から事情を聴くとみられる。安倍氏も4日、記者団に真実解明が重要だとして「誠意を持って対応する」と応じる姿勢を示した。安倍氏は2019年11月の問題発覚以降、国会で「事務所からの補填はなかった」と答弁してきた。だが安倍氏の事務所側が最近になって、収支報告書への記載がなかったため、これまで本人に事実と異なる説明をしていたと明らかにした。こうしたことから安倍氏は特捜部の聴取には、自身の関与はなかったと主張するとみられる。
検察が公設第1秘書だけを略式起訴すれば、正式裁判は開かれず、罰金刑を課す処分になる。安倍氏を証人として裁判所に出廷させるような場面はなく、一件落着を図る方向になる。
宙に浮く「うそ疑惑」の追及
中途半端な幕切れとなる。そうなると、5日の臨時国会閉幕により、安倍氏が残した「うそ疑惑」に対する政治的追及・指弾も宙に浮いてしまう。
自民党は閉会中審査には応じる構えを見せているとはいえ、それとて参考人招致や証人喚問要求をめぐる攻防場面は、まず期待薄だろう。そうなると野党側はここでも出番を失うことになり、虚偽説明を問われている「悪役の剔抉」は見送られて幕は閉じられそうだ。
「途上国並みの国会」
秘書だけに罪をかぶせるという生煮えの格好で幕引きを図ろうとする検察流政治的決着は、ガス漏れしたぐらいの空騒ぎ終わりそうだ。常識派の自民党の議員は「開発途上国並みの国会に思われるのが怖い」と言っていた。1992年と2017年の2度、検察庁の石看板にペンキが投げつけられる事件があった。東京佐川急便事件などで検察の捜査に不満を抱いてのことだった。今回もなんとも不満の残る、残念な幕切れとなりそうだ。