「二国家共存」の原点回帰へ アラブ周辺国とパレスチナ自治政府でガザ統治、ネタニヤフとハマス封じ込め後の「和平構想」動き出す

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 反イスラエル組織ハマス最後の拠点、ガザ最南部ラファへの軍事侵攻にネタニヤフ・イスラエル首相が国際世論を振り切っていつ踏み切るのか。緊迫した状況が2カ月余り続く中で、「パレスチナ和平」へ向けた新しい動きが始まっている。米国、エジプト、カタール3国の休戦案をハマスが突然受け入れ、バイデン米大統領のイスラエルに対する大量破壊爆弾の供与停止、ネタニヤフ戦時内閣の国防担当閣僚の相次ぐネタニヤフ批判、米国とサウジアラビアの急接近、その他・・・。これらをつないでいくと、バイデン氏がすでにネタニヤフ氏に見切りをつけて、ネタニヤフ批判派と米国、および周辺のアラブ有力国が加わった国際的なパレスチナ紛争解決グループが新政権つくりを後押ししてパレスチナに永続的平和をもたらそうーという「ガザ・ネタニヤフ以後」の長期戦略に取り掛かっていることが浮かび上がってくる。

「戦火拡大」と「危うし再選」の悪夢

 バイデン政権のこのパレスチナ和平構想推進のピッチを速めたのは、戦争開始から半年の4月初めにイスラエル軍がハマスの後ろ盾イランの駐シリア大使館を空爆、イラン革命防衛隊幹部らを殺害したことから、イランとイスラエルの間で報復攻撃の応酬が起こったこと。米国は双方に自重を求め、中旬までに抑え込んだが、「ガザ戦争」の中東地域への拡大は悪夢だ。

 その後、民主党支持基盤だった黒人やヒスパニック系のバイデン離れに加えて、民主党支持の強い若者層の中核になってきた学生の「イスラエル批判=バイデン批判」の抗議デモが今月初めまでにコロンビア大学(ニューヨーク)からk全米40州の大学キャンパスに広がった。抗議行動は2000人が拘束・逮捕されてひとまず抑え込まれた(ワシントン・ポスト紙電子版報道)。だが、半年後に迫ったバイデン再選のかかる大統領選挙への危機感をさらに深めさせることになった。

 これまでイスラエル批判はイスラエル政府支持派から反ユダヤ主義視される(ヒトラーのホロコーストを容認するものとの非難)ので表に出にくいという現実があった。しかし、学生の抗議行動は、イスラエルの政策に対する批判、あるいはパレスチナ人の悲惨な状況に同情するのは人道主義にもとずくもので反ユダヤ主義ではない、あるいはシオニズム(ユダヤ人国家をつくる運動)への反対が直ちに反ユダヤ主義になるものでもない―などと広い議論を呼んだ。

 学生らの主張は「ガザ戦争」に至る76年のパレスチナ紛争の根源にある問題を鋭く突いていた。パレスチナの地すべてをユダヤ人の国(イスラル)にしようとする「大イスラエル主義」。ネタニヤフ氏はその代表者。パレスチナの土地はすべてパレスチナ人のものでユダヤ人国家をつくることは認めないという「パレスチナの大義」。ハマスはこれを信じてイスラエルと戦う組織。双方のこの「原理主義」には妥協の余地はなく、勝つか負けるかしかない(『Watchdog 21』23・11・14、同12・19.24・1・14.同2・3、同3・1の拙稿を参照ください)。

 パレスチナ紛争の種を蒔く結果を招いた1948年国連総会決議は、パレスチナをほぼ二つに分割してユダヤ人国家(イスラエル)とパレスチナ人国家の2国家を創設して、平和的に共存することを謳い上げていた。しかし、同決議はイスラエルとアラブ側(パレスチナ人と周辺のアラブ諸国)の対立・戦争を引き起こして現在に至っている。この紛争を解決する唯一の道は国連総会決議の「原点」に立ち戻るしかない。バイデン氏は長年後ろ盾になってきたイスラエルに対する強い影響力を持ちながらそれを十分に行使していない―と内外から強い批判を浴びてきた。しかし、唯一の解決の道は「二国家共存」しかないと双方に訴え続けてきたことは確かである。ようやくその実行に取り掛かったようだ。

「悪役」を入れ替える

 バイデン構想が最初に感知されたのは5月6日。ハマスが仲介国(カタールを中心にエジプトと米国が加わる)から提示された休戦案を受け入れると突然発表した。イスラエルは「自分たちの要求とかけ離れている」と反発し、交渉は継続するものの、ラファ東部で「ハマスの拠点」を攻撃した。米国および日本メディアの報道によると、この調停案は4月末に仲介国からイスラエルとハマスの双方に提示されたもので、戦闘を6週間停止した後、ガザの「持続可能な平穏」の達成に取り組むとされていた。しかし、ハマスが受け入れた調停案は「持続可能な平穏」を恒久的な敵対行為の禁止とイスラエル軍のガザからの撤退を意味すると定義していた。

 ハマスが受け入れたのは、カタールを中心にエジプトと米国が加わった仲介国がハマスが受け入れるように書き加えたものだったのだ。イスラエルが受け入れる可能性は初めからなかった。注目されるのは、ホワイトハウスのカービー大統領補佐官が7日、記者団に「イスラエルとハマスとの間に残る溝は埋められる」と述べていることだ。仲介役3国が「休戦反対」の悪役をイスラエルに仕立てたということになる。この「シナリオ」は米国とアラブ諸国側からのネタニヤフへの絶縁通告だったといって間違いない。

 バイデン氏は翌8日、ようやく2000ポンド爆弾などの大量破壊兵器の支援を停止、さらに住民保護の適切な対策を取らないまま作戦を強行するならば兵器供給を停止するとテレビ・インタビューで警告した。

「次期首相」狙うライバル共演

 次はイスラエル政府戦時内閣のガラント国防相(15日記者会見)、ガンツ前国防相(18日スピーチ)の2人が相次いでネタニヤフ首相は軍事力によるハマス殲滅を目指すだけでガザ統治の「青写真」が欠如していると、同じように批判したこと。両人の批判の要点は、バイデン政権が繰りかえしてきた忠告に沿ったものだった。戦争のさなかに軍出身の国防担当閣僚が戦争の進め方について首相を公然と批判するという異例の事態だ。

 ガラント、ガンツ両氏は同世代でともに軍トップの参謀総長を務めた。ガラント氏はネタニヤフと同じ大イスラエル主義を掲げるリクード党。しかし、ネタニヤフ氏の最高裁権限縮小の司法制度改変は自分の汚職起訴・裁判逃れと批判して国防相解任を突き付けられるなどネタニヤフ氏と鋭く対立。ガンツ氏は中道の野党、国家団結党首。両者は次期首相候補のライバルとされている。

 大イスラエル主義勢力を率いるネタニヤフ氏は、ハマス完全制圧後もガザをイスラエル占領軍の統治下におくことに固執してきた。そのままイスラエル領化への実績つくりである。これに対してガラント、ガンツ両氏は、ハマス勢力を鎮圧した後はハマスに代わる統治体制が必要として、米欧、およびエジプト、サウジアラビアなど周辺のアラブ有力国にイスラエル占領地西岸のパレスチナ自治政府も加える文民統治を設置し、治安維持にもパレスチナ自治政府の治安部隊を参加させるという内容を提案した。

「中東和平」のカギは

 この提案はパレスチナ国家創設に直接つなげてはいないが、ネタニヤフ氏の大イスラエル主義、ハマスのパレスチナの大義(パレスチナにユダヤ人国家は作らせない)のどちらにもつながるものでないことは明らかだと思う。15日のガラント国防相の記者会見の後、米ワシントン・ポスト紙電子版は軍事問題を中心に国際問題に詳しいベテラン・コラムにスト、D・イグナティウス記者がガラント氏に直接取材して得た情報をもとに「重大な新たな議論がイスラエルで始まっている」という見出しの記事を掲載、その中でハマスという政治勢力が敗退した後のガザを安定させるためにパレスチナ人の治安部隊を造ることになった、ネタニヤフ、バイデン両氏の関係が悪くなっているので、米国・イスラエルの関係ではガラント氏が重要な役割を担っている―とするスクープを報じていた。

 同記者の20日の記事によると、このパレスチナ和平構想には、アラブ諸国からはエジプト、ヨルダン、首長国連邦(UAE)、サウジアラビアが参加するという。ニューヨーク・タイムズ紙のべテラン・コラムニストで中東問題の第1人者とされるT・L・フリードマン記者は、米国がパレスチナ問題解決にはイスラム教の聖地メッカの国で石油大国でもあるサウジアラビアの直接関与が重要だとして、両国が近年密接な接触を続けているとしばしば報じてきた。5月4ー5日付国際版では、その戦略として米国とサウジアラビアの相互安全保障条約締結、イスラエルがパレスチナ国家樹立を認めたうえでサウジアラビアとイスラエルが国交樹立するというー「新しい中東」の構築を目指していて、米国とサウジアラビアの安保条約は主な内容はほとんど合意ができていると報じていた。

バイデン再選を左右するか?

 「ガザ戦争」の行方もまだはっきりとは見えてこないが、国連総会決議から76年目に入ったパレスチナ紛争はようやく、新たな局面に入りつつあることは間違いなさそうだ。

 イスラエル全面支持の共和党およびトランプ同党大統領候補(前大統領)は、ネタニヤフ氏に振り回され、次第にネタニヤフ氏への批判に傾斜してきたバイデン大統領(同民主党候補)が「イスラエルを見捨てた」と非難を浴びせている。大統領選投票日まで5カ月余り。この間にバイデン構想がどう展開するかが、選挙結果を左右するかもしれない。

                               (5月21日記)