「NHK日曜討論に野党の出演が少ない」との印象があり、4月の放送を録画し分析した。その結果、4回の放送のうち大臣出演は3回だった一方、野党代表の出演はなかった。登場した専門家らも、政府の分科会委員や元大使らが目についた。日曜討論は、メディアの「公共の広場」としての機能を発揮することが求められるが、実際は、出演者選びに公平性を欠き、この役割を果たしていないことが明確となった。NHKが、大臣らの発言に新鮮味がなくても、昼夜のニュースで取り上げ、政権のラウドスピーカーになっていることも確認できた。
月一もお座敷かからぬ、ああ野党
4月の放送は4回で、出演者は次の通り。(かっこ内はテーマ)
1回目(4日) 「3府県にまん延防止 コロナ再拡大 どう止める?」
西村康稔経済再生担当相/吉村洋文大阪府知事/舘田一博日本感染症学会理事長・東邦大学教授/谷真すかいらーくホールディングス会長兼社長
2回目(11日) 「コロナ感染再拡大 高齢者ワクチン接種 課題は?」
河野太郎ワクチン接種担当相/久元喜造神戸市長/岡部信彦川崎市健康安全研究所所長・新型コロナウイルス感染症対策分科会委員/高口光子特別養護老人ホーム「ラスール掛川」人材開発室部長/平井伸治全国知事会ワクチン接種特別対策チームリーダー・鳥取県知事
3回目(18日) 「徹底分析 日米首脳会談 問われる日本外交」
佐々江賢一郎日本国際問題研究所理事長・元駐米大使/佐橋亮東大准教授(米中関係・アジアの安全保障)/江藤名保子学習院大教授(中国の政治外交)/白井さゆり慶大教授(世界経済)
4回目(25日) 「緊急事態宣言再び 感染急拡大への対策は」
田村憲久厚生労働相/中川俊男日本医師会会長/尾身茂新型コロナウイルス感染症対策分科会会長/坂本史衣聖路加国際病院感染管理室マネージャー
*日曜討論は午前9時から1時間の生放送。司会はNHK解説委員とアナウンサー各1人。
*肩書は字幕から。大臣名など一部は簡略化した。
与野党の大物が激突したことも
ネット時代のジャーナリズムについて、私は①権力監視(watchdog role)②編集(gatekeeper)③公共の広場(forum function of the press)-の3機能を分析の視点にしている。今回は③の公共の広場(多様な事実・意見の伝達)の役割を十分に果たしているかどうか、という観点から上記のデータを分析した。その結果、4月の日曜討論の出演者選びに関して次の2つの問題点が浮かび上がった。
第1の問題点は、野党代表の出演がなかったこと。
出演者をNHKアーカイブスで見ると、A「与野党」、B「大臣+α」、C「専門家」の3型に分類できる。最近のデータを表にすると-。(型の下の数字は放送回数)
| A型・与野党 | B型・大臣+α | C型・専門家 |
今年4月 | 0 | 3 | 1 |
今年1〜3月 | 5 | 6 | 0 |
昨年1〜4月 | 9 | 6 | 1 |
表からは、今年4月の野党ゼロの異常さが浮かび上がる。
NHKのホームページによると、日曜討論の前身は国会討論会。1947年9月にラジオで始まり、その後、テレビでも放送。1994年4月、日曜討論と改題した。国会討論会時代は、例えば、1957年10月26日のテーマは「臨時国会を前にして」で、出演者は、自民党・福田赳夫・船田中、社会党成田知巳・松井政吉、官房長官愛知揆一。この後の1年を見ると、「自民2・社会2・官房長官」型が続いている。55年体制という政治状況を反映した人選になっている。
いい会談! 輪唱をする専門家
第2の問題点は専門家人選の偏り。
1回目出演の舘田教授は、字幕では上記の肩書だが、司会が口頭で、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員だと紹介した。2回目の平井鳥取県知事は、字幕の肩書からは自治体の首長代表のような印象を受けるが、舘田教授と同じ分科会委員。二人とも政府の政策決定過程にコミットしている人だ。政権と一定の距離を置いた識者や自治体代表を選んで、異論を含めた討論で全体像を浮き彫りにするという人選になっていない。
3回目では日米首脳会談の評価について、佐々江元大使が「非常にいい会談だった」、佐橋准教授も「ほんとうにいい会談になった」と述べ、ほぼ同一のスタンスから論を展開した。会談を経済の面からアプローチした白井教授の論は傾聴に値した。分野の異なる研究者3人に絞れば、バランスのとれた論議になったのではないか。
4回目は、出演者4人のうち2人が政権陣営(厚労相と分科会会長)だった。医師会会長が、緊急事態宣言解除の条件に関し「前回、ステージ3で解除したから第4波を招来した。解除はステージ2が原則」とし、「宣言の発令はできるだけ早く。解除はゆっくり慎重に」と政府の政策への異論を述べた点が印象に残った。
大臣のお言葉ニュースで伝えます
日曜討論での発言はNHKのニュースで取り上げられるケースが目立つ。
1回目は正午のニュースのトップ。大阪府知事のマスク会食のすすめから始まり、西村大臣、舘田教授の順で、動画音声付きだった。谷社長の出番はなかった。ニュース7では19時8分42秒から、知事と大臣の発言を25秒流した。
2回目は、正午のニュースの一番手に河野大臣が登場。「自治体をしっかりサポートして接種のスピードを少しでも早くしていきたい」という動画音声付きなどが2分2秒も流された。他の出演者の発言はカット。ニュース7は2番手のニュースの中で37秒。他のメンバーは登場しなかった。
3回目は、正午のニュースもニュース7も取り上げなかった。
4回目は、正午のニュースのトップ「3回目の『宣言』 デパートなど休業」の枠内で、厚労相の発言「期限を限り強い措置で感染拡大を抑えたい」などを動画音声付きで38秒流した。分科会会長、日本医師会会長の発言も動画音声付きで放送した。聖路加病院マネージャーの発言はボツだった。ニュース7では、医師会会長の発言だけを動画音声付きで放送し、大臣と尾身会長の発言はなく、正午のニュースでの扱いに疑問を呈した形となった。
以上のことから、日曜討論での大臣らの発言を、ニュースバリューが高くなくても報道していることが分かる。政治家のテレビでの発言は、ニュース価値があれば他のメディアが後追い報道する。二階俊博自民党幹事長が15日、TBSのCS番組で新型コロナウイルス感染がさらに拡大した場合の東京五輪・パラリンピック開催について「これ以上とても無理だということだったら、これはもうスパッとやめなきゃいけない」と話し、開催中止も選択肢との考えを示し、大きな話題となった。最近の日曜討論での大臣発言を他のメディアが報道したケースがあっただろうか。ニュースバリューは相対的で、大型ニュースがなければ大きくなるという編集上の常識を考慮に入れても、今回分析したデータは、NHKニュースセンターのゲートキーパー機能の衰弱ぶりを示している、と言える。
広場には多様な人の出入りがいい
2回目の放送の後、次のような質問・意見をNHKにメールで送った。
「質問:日曜討論を連続2週で見たが、野党代表が出ていない。なぜなのか。出演者選びの基準を教えてほしい。意見と質問:出演者が担当大臣、自治体首長、専門家で、『討論』の形になっていない。野党代表を出演させバランスをとり、『討論』にするべきだが、NHKの見解をお知らせ願いたい」
これに対し、NHKふれあいセンターから次の返事が来た。
「日曜討論では様々な政治課題をテーマに、与野党同席による討論や専門家による討論、個別インタビューなど様々な形式で放送を行っています…」
返事には野党不在や出演者選びの基準についての言及がなかった。そこで、NHKのホームページを見ると、出演者の選定については、NHKの放送ガイドラインに「番組編成や放送番組そのものの多様性の確保にむけて、常にあたらしい出演者を探す努力をするとともに、公共放送としての公平・公正を保つためにも、特定の人に偏ることのないように幅広く人選する」とあった。しかし、上記の分析で、公平・公正の基準に添っていないことが確認された。
日曜討論について、NHKが出演者を放送ガイドラインに基づいて選んで、多面的に論議する公共の広場とし、視聴者が世の中の動きを理解し考える素材を提供する場とすることを望む。
(4月25日)