「トランプ時代の終わり」が進行中(上) 共和党の亀裂一気に表明化 自信取り戻した民主党

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 「(前米大統領の)トランプ氏と決別するとか、同氏が訴追されるといった満足できる形ではないが『トランプ時代』の終わりは少なくとも道の半分まできた」(R・ドウザット、12月20日)。「反トランプの多数派が形成される方向になったようだ。少なくとも今のところ、トランプ氏が再び大統領になる可能性ははるかに小さくなった」(D・ブルックス、同24日)。米ニューヨーク・タイムズ紙に定期寄稿する2人の著名なジャーナリストが相次いで「トランプ時代の終わり」が進行していると論評する中で、米国は2023年を迎えた。

米国政治の新しい流れの始まりか

 バイデン政権と民主党は中間選挙で予想外の「勝利」を収めて自信を取り戻し、クリスマス休暇前の2022年議会最終日に2023年度予算と重要案件をひとまとめにした「乗合バス法案」を成立させて2年間を終わった。一方のトランプ氏と共和党は中間選挙圧勝の思い込みが大誤算に終わる痛手を負った後も、次から次への逆風にさらされて党内はバラバラになっている。米国政治の新しい流れが始まったようだ。

民主党「乗合バス法案」が共和党分断

 「乗合バス法案」は総額1兆7000億ドル(日本円約224兆円)。その内訳の最大は国防費の8580億ドル。ウクライナへの武器支援もここに含まれる。2番目は医療、教育、労働、環境、経済など国民生活関連、頻発する自然災害対策などが7725億ドル。トランプ氏が選挙結果を転覆しようとして目を付けた1887年大統領選挙人票集計法(ECA)の「抜け穴」封じの改正案など、政治や社会、経済政策も含まれている。

 共和党下院はトップのマッカーシー院内総務がトランプ支持派。今回の選挙で過半数をわずか5議席上回る223議席を得て民主党から多数を奪還した。同法案の審議は新議会が始まる1月以降に引きのばして、予算やウクライナ支援、ECAなどで民主党と対決に持ち込みたかった。

 しかし、反トランプのマコネル院内総務が支配する上院共和党は、新議会早々に党派抗争を仕掛けると世論の支持をさらに失うとして、「乗合バス法案」支持に回った。上院の議席数は民主党50対共和党49だが、投票結果では賛成68票(反対29票)とマコネル氏の同調者が20票近くになった。トランプ派には嫌な数字だ。

下院議長選暗礁に

 下院議長は議員投票で決めるので、過半数を占める共和党のマッカーシー氏がその椅子に就くのが通例。ところが共和党から5人がマッカーシー氏に絶対反対を宣言、他の共和党議員の票だけでは過半数に1票足りないという事態のまま年明けの新議会開会を迎える。マッカーシー氏はトランプ支持派武装デモの議会乱入にパニックになってトランプ氏を批判、トランプ氏の激怒に慌てて平謝りし、忠誠を誓った。トランプ派には不信感が残っているようだし、党内にはこれに「日和見批判」もあった。だが、議長選びで起きたこの異変の裏には新しい状況があった。

 両党の分断が深まって議長(多数党)あるいは院内総務(少数党)の支配が強まり個々の議員の自由な政治活動が許されない現状に、党派を超えた議員の不満がたまっていた。今回選挙で共和党では穏健派グループが仲間を増やして50人近い勢力になり、党のキャスティングボートを握ったと意気込んでいる(ワシントン・ポスト紙電子版)。そうだとすれば、マッカーシー氏が議長になろうがなるまいが、これまでのように1人か少数の「権力者」が下院を支配することは難しいだろう。

反トランプ派台頭

 下院議長選出を巡る異変だけではない。米報道によると、共和党では選挙敗北とトランプ氏の大統領選出馬宣言によって、党内のいくつかの裂け目が一気に表面化している。大別すればトラン支持派対反トランプ派となるが、トランプ派もいくつかに分けられる。トランプ氏の下で共和党が勢力を伸ばすことを選ぶグループ、トランプ氏が掲げる「偉大な米国の再建」(MAGA」)を熱烈に支持する保守強硬派グループ、党外の白人至上主義・陰謀論組織とつながる極右勢力(カルトとの見方がある)などだ。

 これにたいして反トランプ派は共和党本流を自負する議会議員(州議会も含めて)や党指導部を中心に、トランプ氏の「選挙否定」は受け入れないグループ(仮に党人派と呼ぶ)。そのトップは院内総務に20年近く君臨してきたM・マコネル氏。国会乱入事件に対する弾劾裁判でトランプ有罪を主張する演説をした。反トランプで早々に党を離れた「トランプ絶対反対」派が復帰・合流する可能性もある。

陰りが生じたトランプ求心力

 こうした共和党からトランプ氏に対抗して大統領選挙の党候補指名争いにどんな人物が名乗りを上げるだろうか。ウォールストリート・ジャーナル紙が12月中旬に行った世論調査によると、トランプ氏に好感を持つ共和党支持者は30%に低下している。そのトランンプ氏か、それとも大統領選出馬への動きを隠さなくなったデサンティス・フロリダ州知事か。今の時点でどちらを大統領に推すか聞いたところ、デサンティス氏52%、トランプ氏38%と14ポイントの大差がついた。この報道にトランプ氏は激怒したという。受けた衝撃は大きかった。大規模集会で熱狂的支持を煽るこれまでの選挙キャンペーンの手直しを迫られて、規模の小さい集会を足まめに回って歩く戦略への切り替えに傾いていると報じられている(ワシントン・ポスト紙電子版)。

 こうした求心力の低下は、トランプ支持勢力の一角を占めていたキリスト教右派にも及んで、同派の一部でトランプ離れが始まっているという(ジャーナリストのM・ゴールドバーク氏、ニューヨーク・タイムズ紙コラム)。「カルト」視されるような熱狂的支持を寄せる極右組織の一つで、トランプ氏を救世主と信奉する陰謀論勢力「Qアノン」もトランプ支持から、ツイッターの買収・再編で特異行動が注目を浴びている米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)への支持へ乗り換えを図っているといわれる(ワシントン・ポスト紙電子版)。

 共和党が混迷して大統領候補が乱立すればトランプ氏が党候補を獲得する可能性が高まるとの見方もある(2016年のケース)。だが、共和党がバラバラでは本選で多数票を得る可能性は減る。

                                         (続)