日経新聞が6月4日付け紙面に掲載した記事で、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)推進グループに衝撃が走った。『IR基本方針半年遅れ 決定来月以降に 新型コロナ対応を優先』と題した記事に対してである。カジノ推進派のウェブニュース「iagJAPAN」は日経の記事を受けてさっそく5日に『IRに関する政府の基本方針(決定)はいつになるのか』という記事を掲載した。関係者以外には、さほど大きなニュースではないような記事が業界に衝撃を与えているのは、安倍晋三政権が成長戦略の柱としていたIR付きカジノの行方を大きく左右させかねない内容だからだ。
法の制定期限よりも遅く?
日経の記事は「政府はカジノを含む統合型リゾート(IR)に関する基本方針の決定を7月以降に先送りする。当初は1月に決める予定だった。新型コロナウイルスなどの影響により、すでに半年以上の遅れが確定した。感染の状況次第で、さらに後ろにずれる可能性がある」との書き出しで始まる。
一方のiagJAPANは「政府はIRに関する基本方針の決定を7月以降に先送りする。日本経済新聞が伝えた。この情報源は明らかにされてはいない」と書いている。同記事がいうように、情報源が明らかにされない日経記事がなぜ波紋を呼んでいるのか。注釈が必要だ。
政府は2018年に公布した特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)で、整備のための基本方針を策定するとし、その決定は同法の公布から「2年を経ない時期」と定めている。同法の公布が2018年7月26日なので、決定の期限は今年の7月26日となる。
日経の記事でも「7月以降」としているので、7月26日までならば特段大騒ぎする必要はない。ただiagJAPANが書くように、「明らかにされない情報源」の記事をこの時期に出すことは、後述する「政府高官」の存在が示すように、何らかの意図があるのではないかという疑問が出てくるのだ。つまり日経記事は「さらに後ろにずれる可能性」に重点が置かれているとの推測である。
カジノ汚職で決定延期、さらにはコロナ禍も
主務官庁である観光庁は昨年9月に基本方針(案)をまとめ、パブリックコメントを募集。今年1月に決定の予定だった。それが昨年12月25日、元内閣府副大臣(IR担当)の衆院議員秋元司被告(自民党離党)が収賄容疑で東京地検に逮捕され、状況が変わった。政府は急ぎ、カジノ事業者と政府や行政の関係者の接触ルールを設けると表明。決定は3月ごろにずれるとの見通しを示した。そこに追い打ちをかけたのが、コロナウイルスのパンデミックである。
緊急事態宣言が発令された4月以降、安倍内閣は基本方針決定の日時などについて、野党の質問に答えていない。緊急事態宣言は5月25日全面解除されたが、その後のスケジュールがどうなるのか。カジノ推進派も反対派も気に病んでいるところに出たのが日経の記事というわけだ。同記事の3本目の見出しには「新型コロナ対応を優先」とあり、記事中にも以下のような記述がある。
「カジノはギャンブル依存症などへの懸念から反対論が根強い。IR整備に関わる政府高官は『コロナ禍の最中にIRの準備を急げば国民の反発を招く』と話す」
大阪市の松井一郎市長はこの記事が出た日の4日に記者会見して、市と大阪府が誘致を目指している夢洲でのIRの全面開業時期は(予定していた)2026年度末から1、2年遅れるとの認識を示した。
だが、単純にコロナ禍だけが理由なのだろうか。(続く)