『「桜」巡り安倍前首相不起訴』政権、自民党、検察にメディアも加わった「幕引き劇」 検察の〃大甘処分〃が問題 国会での118回の嘘にも反省せず 

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 衆院調査局によると、安倍晋三前首相は、国会で「虚偽答弁」を118回も重ねていた。日本の憲政史上あまり聞いたことがない出来事である。その重さや、政治家として、このひとは自分の置かれている立場や責任が分かっていないのではないか-。「桜を見る会」前夜祭(夕食会)の経費補填をめぐって、東京地検特捜部は12月24日、安倍氏の配川博之・公設第1秘書を政治資金規正法違反(不記載)で略式起訴し、東京簡裁は100万円の罰金刑とした。安倍氏については、嫌疑不十分で不起訴とした。

 安倍氏が24日夕、不起訴を受けて国会議員会館会議室で開いた記者会見は、コロナを理由に自民党担当の「平河クラブ」所属の24人に限り、フリー記者は参加できなかった。翌25日午後には衆参の両議院運営委員会で、安倍氏自らが前の答弁を修正するために求めた委員会が開かれた。約1時間の記者会見では、「会計処理は私が知らない中で行われた」とあくまでも秘書のせいにした上で「道義的責任を痛感している。深く反省し、国民に心からおわび申し上げたい」と謝罪。まだ、処分を受けた直後なので3回頭を下げて、少しはまともに国民や国会に謝罪する姿勢を垣間見せた。ところが、国会の委員会では、野党の厳しい質問に開き直るなど、〃安倍節〃を復活させ、野党議員の求める議員辞職は拒否した。

 特に国会では、「首相をやった人だから」との検察の忖度が、逆目に出たと思う。安倍氏はむしろ、不起訴により検察のお墨付きをもらったとも言わんばかりに、野党議員に強い調子で反論する姿が印象的だった。これも、家宅捜索を避け、前例踏襲の「起訴基準」を根拠に大甘な処分をした検察にも問題があることを示している。報道によると、安倍氏は委員会終了後、記者団に「説明責任を果たすことができたのではないか」と胸を張ったという。この言葉一つをとっても、このひとは本当に反省などしていないとつくづく思う。9年近く、この人を国のトップに据えていたと考えるだけでも情けない。

補填金の原資や動機など深まるばかりの疑惑

 委員会で立憲民主党の辻元清美衆院議員は「安倍氏の対応は民間会社では通用しない」と、安倍氏に「議員辞職」を迫ったが、安倍氏は躊躇なくこれを拒否した。仮に秘書がやったとしても「管理責任」があるはずだ。委員会での安倍氏の答弁では、補填した金の原資や動機、なぜ問題になってから改めて安倍氏本人が調べようとしなかったのかなど疑惑は深まるばかりである。それこそ、安倍政権のときに、話題となった〃官邸ポリス〃は、この問題の危機管理にはどう動いたのか、も知りたい。前川喜平元文科事務次官の〃出会い系バー〃通いも知り得たのだから、この問題など簡単に真実が分かったのではないのか、ともつい言いたくなる。

 前例もある。やはり、安倍氏には、偽証罪のある国会での「証人喚問」が必要である。自民党は「なじまない」と拒否しているが、愚弄され続けた国会にはむしろ「なじむ」のではないか。私は自民党は「イエスマン」ばかりの政党ではないはずである、と考えている。1月の通常国会で野党(といっても、立憲民主と共産だけだが)は追及の手を緩めるべきではない。安倍氏不起訴については、処分を不当とする市民や法律家による検察審査会への申し立ての動きが出ている。コロナ禍が拡大する年末。政権、自民党、検察が一体となり、メディアも加わったしらけにしらけた〃幕引き劇〃となった。

1億円の「起訴基準」

 法律学者や検察官出身の弁護士などからは、今回の事件で秘書の略式起訴まで持っていったのだから、検察はそれなりにやったのではないかと評価する声もある。また、この程度の額(4年間の補填の差額は700万円、不記載は3000万円)で配川公設第1秘書を略式起訴したこと自体、前例からみておかしいと言う検察OBもいる。

 政治資金規正法違反で正式起訴するのは1億円以上との検察の「起訴基準」がある。元東京地検特捜部副部長の若狭勝氏によると、政治資金収支報告書への虚偽記載や不記載を巡っては、報告書の不備を修正すれば済むような「形式犯」に検察権を行使すべきではないとの批判が広がっていた。この批判をかわすために、ある程度大きい金額の1億円基準ができたと説明する。(朝日新聞デジタル、24日)。

 ただ、すべての事件がそうとはいえない。確かに、これまで、政治資金規正法の不記載や虚偽記入に問われた小沢一郎衆院議員の資金管理団体「陸山会」では史上最高の21億円、小渕優子元経済産業相の関連政治団体を巡る事件でも3億円超と1億円を超え、秘書らが正式起訴されている。しかし、一方で坂本由紀子元参院議員のように137万円の架空経費を計上した事件でも正式起訴されている(読売新聞25日付朝刊)。1億円を超さなくとも悪質性などを踏まえて検察は、正式起訴することもあるということだ。

 読売によると、今回の「桜を見る会」事件でも、5月に弁護士らからの3度目の告発を受けた検察は(それまでに捜査は始まっていたという)、夏頃にはホテルから帳簿類などの提出を受けて、参加者の5000円の会費では賄えない分を安倍氏側が補填していた事実をつかんでいたという。しかし、あくまでも水面下の捜査で、秘書らの本格聴取が始まったのは、9月に安倍氏が体調を崩して首相を辞任して以降だったらしい。この過程で、公設第1秘書の「費用補填」の供述を得たのだという。

安倍氏は「被疑者取り調べ」だった

 政治資金規正法の「不記載」は、基本的に政治団体の会計責任者やその職務を補佐する者が直接的な対象となる。安倍氏は後援会の役職についておらず、ただちに罪に問うのは難しい。安倍氏からの「経費補填」についての「秘書らへの具体的な指示」の立証が不可欠だった。しかし、秘書らから安倍氏の関与をうかがわせる供述は得られなかった。

 「不記載の額、供述態度、他の同種事案などを総合的に考慮して判断した」。24日、安倍首相不起訴を発表した東京地検山元裕史次席検事はこう語っている。また、このとき、安倍氏の聴取(21日に実施)について、山元次席検事は「黙秘権の告知をした上での被疑者(容疑者)取り調べ」であったことも明らかにしている。安倍氏は検察にとって単なる参考人ではなかった。「容疑者」だった。また、不起訴とはいっても、安倍氏の「嫌疑不十分」は真っ白ではなく、捜査の結果、起訴するには証拠が足りないが、疑いが残ると判断された場合に行われる不起訴処分だ。検察は、秘書らの前夜祭の「経費補填」の行為について、読売が11月23日付で「秘書ら聴取」と報道するまで「全く知らなかった」との安倍氏の主張を「あやしい」と疑いながらも、秘書らの裏付け供述が得られなかったので不起訴としたということなのだ。そもそも、この時点で秘書ら安倍事務所関係者が検察の調べを受けていれば、安倍氏にそのことを報告するのではないか。

 それにしても、安倍氏の取り調べをなぜ、たった1回で終えてしまったのか。(その前にテレビ朝日の誤報事件もあったが)被疑者なのだから、配川氏を含めて、さらに粘り強く調べることをしなかったのか。普段の検察の捜査手法からみて考えられないやり方である。これでは、「参考人聴取」あるいは事情聴取に代わる「上申書提出」と同じではないか。新聞報道によると、配川第1秘書も数回取り調べただけだそうである。東京と山口の安倍事務所への家宅捜索はなぜ行わなかったのか。この程度の事件での強制捜査はなじまないと考えたのか。捜索して、特捜部が使う「デジタルフォレンジック」(法的証拠を見つけるための鑑識調査や情報解析に伴う技術や手順のことを指す)技術で、押収したパソコンやスマホや書類などを徹底的に調べることができる。おそらく、そこまでしていない可能性は高い。まさに、安倍氏側に忖度する大甘の捜査だったと言われても仕方ない。

少なくとも公設第1秘書の正式起訴はできたはず

 また、11月23日の読売報道後の24日に、東京の安倍事務所の責任者である秘書が親しいメディアの記者を呼び出して「無理に総理に補填していると答弁させるわけにはいかなかった。私や公設秘書が安倍氏に伝えなかったのが悪い。記載しなかった私が悪い。(安倍氏に)本当のことを伝えたのは読売が報じた23日だ」(12月3日発売の週刊文春12月10日号)と言って、メディア各社に書かせたのはなぜか。わざとらしいこのような秘書の行為は、かえって安倍氏の関与を疑わせないか。安倍氏がこの問題で全く関与していなかった、と信じる人は多くないと思う。この秘書は「略式起訴」されていない。

 その後のメディアの報道ぶりをみると、関係者の話として、次々と検察の動きが分かる。年末までには、検察はこの事件を終わりにしたかったのだろう。公設第1秘書の「略式起訴」も安倍氏の「不起訴」も段取りよく、メディアにリークされ、事実、その通りになった。うがった見方といわれそうだが、特捜部担当5年の経験上、もし捜査が「安倍氏起訴」の方向だったならば、このようにスムーズな報道はされないと考えている。その場合は、検察は徹底的に隠すだろう。

 一部メディアにリークし、他のメディアがそれに追従する。メディア報道が既成事実となり、そのとおりに事態が進むことで、「不起訴」のソフトランディングができる。そうは思いたくないが、11月23日の読売報道以来約1カ月、あれよあれよという間に進んでいく。事態の推移を振り返ると、そう思わざるを得ない。

前代未聞の「国民愚弄罪」

 「起訴便宜主義」により公訴権(起訴する権利)を独占する検察は、少なくとも、公設第1秘書を正式起訴することはできたはずである。そうすれば公開の法廷で問題が明らかになる可能性があった。手口の「悪質性」というよりも、国会の場で、一国の首相が118回も虚偽答弁を繰り返して、国会をだまし、国民をだましたのだ。前代未聞の「国民愚弄罪」(このような罪があればだが)に当たる、と私は考える。国民をなめてはいけない。