イラン核合意の復活交渉、ペルシャ湾の緊張緩和へ サウジ皇太子は初めて、イランに和解呼び掛け

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 バイデン米大統領の政権発足から3か月半が過ぎた。トランプ前政権下の米国とイスラエルがイランを敵視して、危なさが拡まっていた世界の石油の宝庫ペルシャ湾に、はやくも緊張緩和の兆しが見えてきた。4月上旬、春を待っていたかのように、バイデン政権は、トランプ政権が敵視してきたイランとの3年ぶりの和解交渉を、国際原子力機関(IAEA)本部があるウイーンで開始した。米国の代表はオバマ政権でイランとの核合意にかかわったイラン担当のマレー特使、イランはアラグチ外務次官。以後、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国とIAEAの代表も必要に応じて加わった。トランプ政権が脱退し、イラン制裁を復活したため、弱体化した「イラン核合意」の復活を目指している。

 オバマ政権下の米国を含む6か国とイランは、2015年7月、イランの核開発の平和利用と国際協力を定めた「合意」文書に調印、10月に発効した。IAEAは16年1月、イランがウラン濃縮の停止をはじめ「合意」の実行をしていること確認。以後もIAEAは査察で、これを同様に確認してきた。 
 ところが、トランプ前政権は2018年5月、このイランとの合意から一方的に離脱。以後、イランに対する制裁を原油、金融、海運、自動車部門での禁輸はじめ1,500件以上の禁輸で、イランを苦しめてきた。日本の場合、原油輸入国の順位では、イランは、2016年度4位、17年度は6位、19年は9位と低下している。

イランはトランプ政権に抵抗しウラン濃縮度引き上げ


 イランはトランプ政権下の米国の制裁に抵抗して、2015年7月の米国を含めた「合意」事項に逸脱するとしながら、低濃縮ウラン貯蔵量上限300キロの制限を遵守しないと発表した。さらに「合意」で認められているウラン濃縮度上限3.67%をこえて約4.5%にしたと表明。9月には核関連研究開発の制限を全廃、新遠心分離機を稼働。20年1月には中部ファルドの地下研究施設でのウラン濃縮を進めると発表した。
 さらに21年1月4日、イラン原子力庁は、ファルドの施設でウラン濃縮度を20%に引き上げたことを明らかにした。6か国「合意」の制限を大きくオーバーしている。同庁によると、同月中に濃縮度20%ウランの貯蔵量は50キロに達している。


 核弾頭として使用するためには、最低90%以上の濃縮度が必要だが、20%から90%台に濃縮度を上げるのは、容易だとする専門家も少なくない。
 イランは最近まで、IAEAの予告なし査察を受け入れてきたが、最近になって、予告なし査察を拒否すると通告。トランプ政権以来の米国の制裁が5月末までに解除されなければ、IAEAが設置した監視カメラの録画映像を削除すると通告したという。
 イランとしては、2015年の「合意」の完全復活を求めているが、米国の新政権を信頼しきれず、いわば交渉戦術で、前記のような「合意」に反する行動をやって見せているのではないか。
 主にウイーンで行われている、IAEA・6か国とイランの交渉が妥結して、「核合意」が復活すれば、ペルシャ湾とホルムズ海峡の緊張緩和に、大いに役立つに違いない。

 サウジ皇太子がテレビで関係改善を表明

 サウジアラビアとイラン。厳しい対立を続けてきた、ペルシャ湾の2大国の関係に、画期的な変化が起き始めた。サウジアラビアがイランに対して初めて、和解と良好な関係を呼びかけたのだ。
 サウジアラビア政府の事実上の最高指導者、ムハンマド皇太子が、4月27日、初めて、国営テレビのインタビューで、「サウジアラビアは、イランとの難しい関係を望んでいない」と明言、「イランは隣国であり、我々が望むのは、良好な関係にあることだ。」と続けた。

「我々にとっての問題は、イランの核開発計画からこの地域の不法な武装勢力の支持に至る問題。そして弾道ミサイルの発射だ。我々は、これらの問題の解決を見出すため、この地域及び国際的パートナーと協力し、だれもが利益を得るよう努力している。」

 この発言は、数日前に「サウジアラビアとイランの当局者がイラクで秘密の会合をした」という未確認情報や、「サウジアラビアの当局者がイランを秘密訪問し、イラン当局と秘密会談をしている」という情報が、湾岸地域のアラブの国で流れたことを受けて、ムハンマド皇太子が国営テレビで行ったものだ。これらの情報について、サウジアラビア当局者は否定していたが、イラン当局者は確認も否定もせず、「対話は常に良いことだ」と発言していた。

 上記のように、バイデン米新政権は、トランプ政権が18年5月に一方的に脱退した米、英、仏、ドイツ、ロシア、中国6か国のイラン核「合意」の完全復活に大きな努力を始めている。当初から核合意に協力し、IAEAの「査察」受け入れてきたイランは、米国の脱退後「査察」受け入れを事実上拒否し、「合意」で禁止されている20%までのウラン濃縮を再開した。

 しかしイラン側は、4月以来すでに1か月になる、ウイーンでのゆっくりしたイラン「核合意」への完全復帰交渉で、容易には合意していない。今回のムハンマド皇太子の、初めての「良好な関係を望む」発言には、ウイーンでの交渉を応援する意図がみえる。

 トランプ前大統領が就任後初めて選んだ主要訪問国は、イスラム教スンニ派の大国サウジアラビアだった。ムハンマド皇太子が主役になったサウジアラビアは、巨額の兵器の輸入で歓迎した。以来サウジアラビアは、トランプが当初から示したイラン敵視に同調してきた。イランは1978年の親米パーレビ王政を打倒したイラン革命以来、イスラム教シーア派の反米イスラム強国となった。革命の最中、反米派の学生たちが米大使館を約2年間占拠した。トランプの強固な反イラン姿勢は、このイラン革命への屈辱に根差していた。

 バイデン政権は、トランプ政権の反イラン姿勢から脱却していると、期待している。