投稿者: 第２４回 滋賀県 長浜市余呉の新羅崎神社と鉛練比古（えれひこ）神社
天日槍（あまのひぼこ）余呉湖を開拓
余呉の湖の穏やかな湖面は、鏡のようであると形容される。周囲６、４キロほどなのでＪＲ余呉駅で自転車を借りて、１時間ちょっとで回った。この辺一帯は｢白木の森｣と呼ばれ、湖面に沿っていて明るい。白木は新羅のこととされている。
「近江伊香郡志」をみると、「天日槍、新羅より来り、中之郷に止り、坂口郷の山を切り、余呉湖の水を排して湖面を四分の一とし、田畑を開拓し余呉之庄と名づけし、という伝説あり」と記す。「湖面を四分の一にする」とあるから、往時、湖はもっと大きかったことになる。干拓やコメ作りの技術者も同行していたのだろう。
この森にあった新羅崎神社は、明治の神社合祀で別の神社に移されたが、痕跡でもあれば見たいと思った。ほどなく木立のなかに新羅崎神社舊跡と彫られた石柱と、苔むした石段の跡が見つかった。
郷土史家の朴鐘鳴編の「滋賀のなかの朝鮮」には、「祭神は新羅からの渡来人である天日槍で、明治末期の神社統合のおりに廃止され、川並村の北野神社に合祀された」とある。明治政府の神社統合は徹底していたらしい。新羅とか高麗という名前の神社が別の神社に合祀された。例えば神奈川県大磯町の古社、高来（たかく）神社はかつては高麗神社だった。近くに高麗山があり頂上には高麗神社が祀られ、高来神社の周辺は高麗一丁目、二丁目という地名だ。
日本三大羽衣伝説の地
余呉は三保の松原、丹後の奈具（なぐ）の松原とともに羽衣三大伝説の地とされる。ただ余呉では羽衣を掛けた木は松ではなく、マルバヤナギといい、柳のように垂れずに枝を四方に伸ばす別品種の柳である。
余呉駅から数百メートルの地にある中之郷集落の鉛練比古神社（えれひこ）も天日槍が主祭神である。鉛練とは金属との関係をうかがわせるが、近くの金糞岳（１３１７㍍）の周辺には、鉄の採掘跡や製鉄の跡などが見つかっている。 新羅崎神社の創祀は、国会図書館で見た江戸時代の「近江輿地志略」によると、「祭神はスサノヲノ命にして新羅明神也」とある。孫と散歩していた品のいいお年寄りに聞くと、「自分たちの先祖は、新羅王族だという伝承があり誇りにしています」といった。
帰りの電車の時間が近づいたが、前から気になっていた余呉駅の近くにある、長浜市木之本の黒田集落にある黒田官兵衛ゆかりの黒田神社を駆け足で訪ねた。神社の由緒書には「欽明天皇５４０年に創始」とあり、「近江源氏の佐々木氏の後裔である源宗清がこの地を領し、姓を地名の黒田からとり黒田と称した」とある。
つまり福岡黒田藩の黒田武士は近江源氏の佐々木氏に連なり、その佐々木氏は祖先の新羅神社を尊崇してきたので黒田武士は往古、新羅からの渡来人ということになるのではないか。