南西諸島がいつの間にか最前線に 加速する自衛隊のミサイル配備 台湾有事を見据えて

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 鹿児島県の奄美大島と加計呂麻島を4日間で旅した。世界遺産に指定された美しい自然をレンタカーで訪ね歩き、渥美清の寅さんシリーズ(マドンナ役は浅丘ルリ子)でロケ地になった自然を満喫したが、驚かされたことが一つある。奄美大島島内の道が素晴らしく整備され、山をくり抜いた新しいトンネルが目立つことだ。12月で観光客が少なかったこともあるが、奄美大島の東西横断は非常にスムーズだった。

奄美大島の道路整備に巨額の国費を投入

 奄美群島の本土復帰(1953年)を受けての復興開発に関する特別措置法で公共事業に対する国の補助率が大幅にかさ上げされていることが大きいとみられる。私は静岡県伊豆半島の道路もよく走るが、伊豆と比べても段違いに道路の建設と整備に巨額の国費が投入されていると感じた。「ここまでの離島振興策が果たして適正な税金の使い方なのか?」と疑問に思ったほどだ。

 加計呂麻島では旧日本軍の戦跡もいくつか見た。喫水の深い良港を有し連合艦隊の停泊地としても使われ、敗色が濃くなると海軍の特攻兵器「震洋」(ベニヤ板製モーターボートの船首に爆薬を装備し敵艦に体当たり攻撃)がひそかに配備された。

南西諸島への自衛隊配備を報告した「報道1930」

 帰京直後の12月14日、BS・TBS「報道1930」番組で「米中最前線 南西諸島で進むミサイル部隊配備」という特集を見た。佐藤正久・自民党外交部会長(陸上自衛隊出身)や防衛省取材が長い石井暁・共同通信専任編集委員らが出演し、奄美大島~宮古島~石垣島~与那国島と800キロにわたって連なる南西諸島に陸上自衛隊のミサイル部隊などの配備が着々と進んでいる実態が報告された。

 中でも印象的だったのは、2019年から陸自部隊駐屯地の建設が始まった石垣島で、ゴルフ場跡地などに急ピッチでミサイル基地の建設が進められていることだ。2022年完成を目指し、隊員500~600人が常駐する対艦・対空ミサイル基地が建設中だ。「中国海軍の軍艦が東シナ海から南西諸島の間を抜けて、太平洋へと出ていく。その海洋進出ににらみを利かそうというもの。自由に抜けることができない中国は非常に大きな脅威を感じていると思う」(石井氏)という。

Nスペは陸自の大規模移動演習を伝える

 陸上自衛隊の南西諸島への力の入れようが極めて強いことを認識させられたのは、12月26日のNHKスペシャル「台湾海峡で何が ~米中”新冷戦”と日本~」だ。緊張が高まる台湾海峡での「台湾有事」の発生時に、日本政府の「事態認定」(重要影響事態か、存立危機事態か、武力攻撃事態か)が定まるのを待たずに南西諸島を防衛することを念頭に、北海道旭川市の陸自第2師団が21年秋、部隊のほぼ全てを九州まで移動させる大規模な演習を実施していたのだ。第2師団は隊員数約8000人と最大規模を誇る精強部隊。本来「北の守り」の要だが、戦車など車両約2000台、弾薬、銃器などあらゆる装備を約2000キロ大移動させ、大分県の演習地で離島防衛を想定した戦闘訓練を実施した。

 膨大な量の装備を移動させるのには鉄道や民間の車両も大量に使用された。相当に物々しい移動光景だったはずだが、これを生々しく伝える記事や映像にはなぜか触れた記憶がない。

リベラル勢力も独自の台湾政策を

 私は台湾が強大な習近平政権の軍事圧力によって、無理やりに「第2の香港」と化すような事態は望まない。また「南西諸島を絶対に戦場にしてはならない。(今のままでは)その危険があると思う」(石井氏)という危機認識に啓発された。こうした目的をともに可能ならしめる方策を模索していきたいと思う。それに際しては、台湾との関係を自民党右派の独壇場に放置することなく、リベラル勢力にも独自の台湾政策の構築を期待したい