<米中間選挙>正常な選挙できるか トランプVSバイデンの「再戦」の様相 共和党はトランプ氏倣い敗北認めず大混乱の懸念も

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 連邦上下両議会と各州3権の代表を選ぶ米中間選挙が1カ月余りに迫ってきた。選挙戦の実態はトランプ氏が根拠なく選挙結果の受け入れを拒否している2020年の大統領選挙の「再戦」(ワシントン・ポスト紙電子版)ともいうべき様相を呈している。トランプ共和党は20年の選挙で大接戦の末,バイデン候補が勝利した激戦州で民主党支持票の抑圧を狙う州選挙法改定を済ませ、投票日が迫る中で民主党選挙登録に不正があると訴えるキャンペーンを展開中だ。同党の候補者の大半は投票で敗れてもトランププ氏に倣って敗北を認めないのではないかと懸念されている。このままいくと投開票をめぐって大きな混乱が起こる可能性が強い。

共和党候補12人は選挙結果受け入れるか答えず

 トランプ氏は2年前の選挙で勝つと思っていたのに敗北を喫して、悔しさのあまり選挙結果の受け入れ拒否に出たのではない。投票で負けてもそれを認めないというのは準備された戦略だった。

 投票日まで半年も前の2020年5月、ワシントン・ポスト紙電子版に「トランプ大統領は選挙で負けても潔く相手に祝福を送るような人物ではない」とする寄稿が載った。筆者は米国生まれのB・クラース・ロンドン大学助教授。6日後にはニューヨーク・タイムズ紙が、民主党選挙関係者と共和党一部の反トランプ派法律家の間で、トランプ氏は選挙で負けてもそれを受け入れないとみて対策を検討していると報じた。

 同じ日にトランプ氏が(コロナ蔓延により大統領選挙では郵便投票が増えるとの報道に対して)郵便投票は(民主党の)不正投票を増やすと反対の声を上げた。その後、トランプ氏はことあるごと民主党は「不正投票」を企んでいると非難するとともに、メディアから「選挙結果を受け入れるか」の繰り返しの問い掛けに答えを拒み続けている(『Watchdog21』2020年6月3日などの拙稿)」。

 今回の中間選挙でも勝敗のカギを握るとみられる中西部・南部の6ないし7州の上下両院と知事選挙戦の共和、民主両党候補者に、ワシントン・ポスト紙(9月18日電子版)が選挙結果を受けいれるか聞いている。それによると、共和党候補者19人のうち9人は受け入れると回答したが、12人は答えなかった。民主党候補者は1人だけ答えなかったが、18人は受け入れると回答した。2020年のトランプ氏のケースから判断すれば、この数字は重大な事態を予測させている。

「盗まれた選挙」を許すな

 トランプ氏は全く根拠を示すことなく「盗まれた選挙」を言い出した。共和党が支配する州の議会や州政府にバイデン当選を認証しないよう圧力をかけ、全米で60件に及ぶ訴訟を起こし、「国会乱入事件」を引き起こしたが、すべて失敗に終わった。それでもこの2年間、多くの州に大金のかかる投票結果の再集計をさせたり、「不正選挙監視」を掲げる市民グループを組織して地元の選挙担当部門に様々な資料を要求させたりして、中には封印されている投票・集計機のソフトを勝手にコピーしたりという事件も起こしている。

 民主党の選挙登録に対しては登録者の自宅訪問をして、学生や軍服務中は自宅投票も許されていることを知ったうえで「不正登録」の疑いで裁判所に訴える。ある地域ではこうした訴えが数千件にものぼり、選挙準備ができないと選挙担当部門や裁判所が音を上げるケースも起こっている。その狙いは有権者の「選挙不信」と敵愾心を煽り、(共和党候補落選の場合の)選挙結果拒否の地ならしとみられている。

 トランプ氏は激戦州を回って支持者の大集会を連続的に開いて士気高揚を図っている。その動員を担っているのが極右組織。中でもトランプ氏を救世主と担ぐ陰謀論団体「QAnon(キューアノン)」の存在感が強まっていて、ブラスバンドが同団体のテーマメロディーを奏でるのが決まりのようになっているという。メディアにはトランプ氏のさらなる過激化を懸念する声が出ている(ニューヨーク・タイムズ紙意見欄M・ミシェル氏など)。

少数派票「減らし」狙う

 トランプ氏の2020年敗北の反省は、バイデン支持の多い黒人やヒスパニックの高い投票率を許したことだった。共和党が州議会や知事を握る州は既に、普通は数週間とる不在投票期間を最大限短縮し、彼らが居住する地域の投票箱設置個所は最小限まで削減し、投票時間も短縮する州選挙法の改定を済ませている。その多くが特定の地域に居住し、白人と比べて契約社員や臨時雇用が多く、自家用車も少ない少数派が投票所に行くことを不便にするのが狙いであることは明らかである(『Watchdog21』2021年3月29日の拙稿参照)。

  不在投票が始まり投票日が迫ると、投票所周辺ではトランプ支持者の「不正投票監視」グループや極右組織の活動も活発化していくだろう。2020選挙では既に、少数派が多数の地域の投票所では順番を待つ長蛇の列ができて、半日も待たされるという事態が起きている。今回の選挙では長蛇の列はさらに長くなる可能性が高い。ある州の選挙法改定では順番待ちをする有権者に水や食物を与えることを禁止する条項も盛り込まれていると報道されている。投票・開票をめぐって共和党の強固なトランプ支持派と民主党有権者の間で不測の衝突が起こるのではないかと懸念されている。

「生き残リ」賭けるトランプ氏

 こうした状況の下で行われる中間選である。トランプ氏にとっては、この選挙で上下両院の多数を民主党から奪還することが至上命令になっている。これによって根拠なき「盗まれた選挙」を権威付け既成事実化できる。バイデン政権はレームダック化(機能不全の死に体)し、2024年大統領選挙戦の共和党候補として政権復帰への道が開かれる。トランプ氏にとっては何よりも、2020年選挙結果を覆そうとして積み重ねた「クーデター」まがいの違法行為(国会乱入事件、国家安全保障にかかわる極秘文書の不法な持ち出し・隠匿事件など)の刑事事件訴追や不動産ビジネスに絡む資産の過大評価による不当利益導入事件の追及などを政治的にかわすことができると踏んでいることは間違いない。

民主党に「州権の壁」

 バイデン政権と民主党は上院と下院の多数を握りながらも、トランプ氏のこうした「虚偽戦略」に対してほとんど対抗手段に出ることができないできた。その理由の一つは、独立当時からの連邦政府権限をけん制する州権限がいまも優位にあるという国家の構造にあると考えている(『Watchdog 21』2021年10月22〜26日の拙稿「トランプ『大嘘』と大統領選挙上・下」など)。例えば少数派投票を妨げる州選挙法の改定に対して、民主党は州法に優先する連邦選挙法の制定を目指したが、上院のフィリバスター(議事妨害の特別ルール)に阻まれて不発に終わっている。

 これまでの共和党とは全く別の、米民主主義の枠組に価値を求めない特異な政治指導者トランプ氏の登場によって、米国のこの特性があからさまに露出された。11月8日の投票まで4週間余り。上下両院選挙の結果がどう出るか、予測はつかない情勢である。民主党側には残された手段は「内戦」を覚悟してトランプ氏の刑事訴追しかないという考えが強まっているのだが、これも予断はできない。米民主主義はこの国難にどう立ち向かおとしているのだろうか。 (10月2日記)