「機密文書」持ち出しで米FBI捜査進展 米中間選挙さなか、トランプ氏訴追の可能性も 異例の選挙として歴史に残るか

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 トランプ前米大統領氏が2年前の大統領選挙の敗北を受け入れずに選挙結果の転覆を図って議会襲撃事件を引き起こし、いずれ刑事訴追は免れまいとの見方がある中、国家安全保障にかかわる大量の「秘密文書」を不法に持ち出していたことが発覚し、ここでも連邦捜査局(FBI)の捜査に追い詰められている。連邦議会および各州3権代表を改選する中間選挙が投票まで6週間余りに迫っており、刑事訴追があるとすればこちらが先ではないかとの見方も浮上してきた。これまで中間選挙は新政権2年間を採点するものとされてきた。だが、今回は米国がバイデン大統領の民主党とトランプ氏の共和党のどちらを選ぶのかという重大な選択の場になった。その選挙戦の主役の一方が、複数の刑事事件の捜査に追い詰められているというのも、異例の選挙として歴史に残るだろう。

核戦略に関する文書も

 トランプ氏は再選を阻まれてホワイトハウスを去るにあたって、国立公文書館に国家財産として保管されるべきホワイトハウス関係の公文書を大量に持ち出し、フロリダ州の邸宅「マールアラーゴ」に秘匿していた。公文書館の繰り返しの要求を受けて1月にやっと15箱に詰められた文書を返還した。その多くは秘密文書と指定されていた。

 しかし、他にも多くの文書が残されているとみた公文書館の要請を受けて8月、FBIが裁判所の捜査令状を取って家宅捜索、100点以上の文書を回収した。その中には「最高機密」が18点など「秘密」指定を受けた文書が多数含まれていた。米主要メディアの報道によれば、ある核保有国の核戦力に関するものや、外部に漏れれば身の安全が危うくなる外国の情報提供者(いわゆるスパイ)に関する文書もあった。 

文書回収は11,000点にも

 しかも、そうした重要文書が普通の倉庫に並べられているだけで、空の書類袋や袋から取り出された書類が床に雑然と放置されたりしていた。ウクライナ戦争で「核戦争も辞さず」とするプーチン・ロシア大統領の威嚇で核戦争への恐怖が広がっているときだけに、米世論はことさらに神経をとがらせている。

 トランプ氏の代理人(弁護士)は、これですべて返還したとサインした文書を提出した。捜索に当たったFBIや公文書館の担当官はこれを全く信用せず、さらに相当量の文書が保管されているとみて捜索を続け、これまでに11,000点の文書を回収している。

 米国政府は重要な情報は最高機密、極秘、秘密など何段階かの秘密指定をして、こうした情報の取り扱いは秘密保持のための特別な教育・訓練を受けて免許を取得した者に限定している。大統領の職務にかかわる記録はすべて秘密文書というわけではないが、公文書として国立公文書館に保管されることになっている。

魔女狩りと反発するトランプ氏

 トランプ氏はFBIの強制捜索に猛烈に反発し、中間選挙で民主党を有利にさせようとしてFBIを政治的に使ったでっち上げの「魔女狩り」と非難、FBIや司法当局にも鉾先を向けている。しかし、秘密文書も含む大統領執務に伴う公文書を勝手に自分の別荘に運ばせ、保管していたこと自体が、重大な法律違反に当たる。トランプ氏がなぜ、そうした危険を冒してこれらの文書を持ち出したかは分かっていないが、国会乱入事件などで刑事訴追にさらされている身として、自分に不利になるような情報が外に出ないように秘匿したと推測してもおかしくはないだろう。公文書館の繰り返しの返還要求に応じず(これは司法妨害)、ようやく1月に返還した15 箱はそうした心配はないと分かったものだけだったのではないだろうか。

 トランプ氏と弁護人たちは違法行為との追及を回避しようと、持ち出した文書のうち秘密指定されたものはすべて大統領特権で秘密解除したと主張して、トランプ別荘所在地所轄の地方裁判所にFBI捜索の停止を要求した。司法省は裁判所の捜査令状の内容を公開する異例の措置を取るなどして我慢の反論に努めた。報道によると、それでもトランプ氏の弁護チームの弁護士が入れ代わり立ち代わり、法理論が成り立つとは思えない主張を延々繰り返した挙句、ひとりの判事がトランプ氏には自分の利益にかかわる文書が含まれているかを知る権利があるとして、それを調べる特別調査官を一方的に任命した。この判事はトランプ氏が退任の置き土産に指名した実務経験の浅い判事だった。11,000点の文書を総点検するというのは事実上、さらなる時間稼ぎである。

トランプ氏の評価で有権者に影響与える可能性

 しかし、特別調査官に指名されたニューヨーク州の保守派ベテラン検察官は、トランプ側の期待に反して、調査の前提として前大統領とそのスタッフには秘密文書を保持し、内容を知る権限はないとの立場を明らかにし、司法省の提訴を受けたフロリダ州の連邦高裁も21日にFBIの捜査継続を支持した。合議した3人の判事の一致した判断だった。2人はトランプ大統領(当時)の指名、1人はオバマ大統領(同)指名だった。それでもトランプ氏の無理な主張は通らなかった。これでFBIの捜査は一気に進展するだろう。

 8月8日の捜索開始以来40日余りが浪費された。この間も、そしてこれからも「最高秘密」や「極秘」の情報がマールアラーゴから流出する危険が続いている。米情報当局は気が気ではないのではないか。司法省が「秘密保持」を優先させるなら、激しい選挙戦のさなかに「トランプ有罪」の訴追に踏み切るかもしれない(身柄拘束を伴うか否かはわからないが)。あるいは選挙戦中の「訴追」は避けるとしても、この事件が両党の一部や無党派の有権者のトランプ氏評価に何らかの影響を与えることは避けられないだろう。

(全般的な選挙情勢については、近々稿を改めてリポートします。9月24日記)