投稿者: 第４０回 和多都美神社
◆深いところでつながる大和神話と対馬神話
対馬の中央部、豊玉町仁位にある和多都美（わたつみ）神社を訪ねる前に、厳原市教育委員会の文化財保護課で資料をもらい説明を受けていたら、予定のバスは出てしまった。次は一時間以上待たなければならないというので、後の予定もあってタクシーで和多都美神社を訪ねることになった。
竜宮があったような不思議な光景
豊玉町仁位は、対馬の真ん中に広がる浅茅湾の北になる。仁位川沿いには古くから集落があり、弥生時代には対馬の中心地だった。和多都美神社から少し南に下がった烏帽子岳展望所から浅茅湾を一望すると、波が静かで緑の島が無数に点在していて、大昔の人がここに竜宮があったと考えたとしても不思議はない光景が広がる。
社殿にある由緒書には、「当社は海宮（わたづみのみや）の古跡なり。上古、海神豊玉彦命この地に宮殿を造り玉ひ、御子の一男二女ありて、一男は穂高見命と申し、二女を豊玉姫命・玉依姫と申す。或時、彦火火出見命（ひこほほでみのみこと）失せし鉤を得んと上国より下り玉ひ、此の海宮に在す事三年にして、終に豊玉姫を娶り配偶し玉ふ。良有て鉤を得、また上国に還り玉ふが故に、宮跡に配偶の二神を斎き奉りて和多都美神社と号す。又社殿を距る凡二十歩にして豊玉姫の山陵及豊玉彦の墳墓あり。」とある。
韓国の観光客にも人気のスポット
祭神は海神、豊玉彦命の娘、豊玉姫命と夫の彦火火出見命で、古くから海洋漁労の人々が奉じてきた。本殿の正面にはすぐに海が迫っていて、石でできた五つ鳥居が沖に向かって並ぶ。境内の敷石も白いのであたり一帯が明るい。韓国の観光客にも人気のスポットといわれ、若者のグループがしきりにシャッターを切っている。
一と二の鳥居は、満潮に海水が満ちて来ると、竜宮城に向かう参道のようになるという。また三と四の鳥居の間には珍しい三本柱の鳥居があり、その下に、「磯良（いそら）エベス」と呼ばれる、鱗状の形をした奇異な形の岩が祭られている。神社に社殿が作られる前の原初の磐座だったとされ、鰐や亀などに見えるという。
祭神は山幸彦
記紀神話では豊玉姫命は鵜茅葺不合命の出産に当たって、鵜の羽を敷き茅で囲った産屋で鰐の姿になって生んだとある。彦火火出見命は見ないでと頼まれたのに覗いたので、豊玉姫命は怒って海に帰り、玉依姫が鵜茅葺不合命を育てる。この霊石は鵜茅葺不合命を具現しているとも言われる。対馬出身の古代史家、永留久恵氏は「日本の神々」で、「磯武良をイソタケルと訓めば、ナギサノタケルと同義語となる。また鵜茅不葺合命という名は、海人の産屋の民俗を表現したもの…」とする。
これに対して対馬の伝承をみると、山幸彦が立ち寄った先がなかなか具体的である。釣り針を探して山幸彦が初めにたどり着いたのが、美津島町鴨居瀬（かもいせ）の地で、隠れ住んだのが同町濃部（のぶ）だ。この濃部は潜ぶ（しのぶ）こととされ、この集落にある天神神社の祭神は山幸彦である。
山幸彦と豊玉姫命が出会った場所はこの和多都美神社で、鵜茅葺不合命が誕生したのは鴨居瀬とされる。豊玉町千尋藻の六御前神社（むつごぜん）は、鵜茅不葺合命と六人の乳母を祭神としている。山幸彦の生涯をたどるように、山幸彦を祭神としている神社が点在しているところが興味深い。