コラム「番犬録」第37回 米国からはしご外された高市氏 今後の日中関係どうするのか、その責任はひとごとではないトランプ政権のメディア統制 トランプ氏の「メディア排除」の暴挙に米テレビ局の反撃始まる 各テレビ局が代表取材停止 米国のICC制裁に高市氏の抗議や撤回要求はなさそうだ 内閣広報室の来年度予算要求額が10倍の72億円に 何に使うのか 佐伯内閣広報官が目指すのは「国益」でなく「高市益」  

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 高市早苗首相の表情はややこわばっているように見えた。さすがに、その余裕もないのか、いつもの作り笑いはなかったー。

 9月25日夕、首相官邸でのぶら下がり(新聞報道ではこれを「インタビュー」と呼ぶ、官邸ホールでの短い立ち話)。24日の首脳会談のために訪米した中国の習近平国家主席の歓迎式典でトランプ米大統領が第2次世界大戦中に米国の義勇軍(志願航空隊の「フライング・タイガー)が中国(当時の蔣介石の国民党軍)に加勢した歴史に触れて「中国は同盟国だった」と発言したことを記者から問われ、高市氏は「日米は強い絆で結ばれた同盟国」との認識を強調した。

 テレビ朝日の報道によると、高市氏は「(日米間に)戦争はありましたけれども、でもそのあとですね、しっかりと和解を果たして関係を深めて今は非常に強い絆で結ばれた同盟国としてお互いに信頼し合える関係であると思っております」と述べた。

 あくまでもテレビニュースを見た私の感想だが、トランプ氏が予想外の発言をしたからなのか、高市氏の言葉はいつもよりも弱々しく聞こえた。

 また、習氏も、トランプ氏の「同盟国だった」発言を受ける形で、首脳会談後の晩餐会のあいさつで「両国の人民は肩を並べて戦い、日本軍国主義の侵略者に抵抗して反撃した。血と火によって築かれた友情は世代を超えて受け継がれる」と応じた(26日付東京新聞)。

 ここで高市政権にとって、ショックだったに違いないと私が見るのは、このことを中国側ではなく、米国側から持ち出したことだろう。

 26日付の朝日新聞の「時時刻刻」では、「米国側から持ち出したのは心地よくはなかった」と外務省幹部の率直な本音を報じている。

 11月の中間選挙を目前にして支持率が低迷する中、何とかこの会談で成果を得て国民の支持につなげたいトランプ氏。米国と並ぶ超大国であることを世界に誇示したい習近平氏。今回の米中首脳会談は双方の利害が一致した「友好の演出」だったことは明らかだ。

 トランプ、習近平会談は11月に中国で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)やその後の12月、米国で開催のG20で今年中、2回の会談が決まっている。トランプ氏の気が変わらない限り、米中の関係はさらに深まっていくことが予想される。

 昨年11月の高市氏の国会での「台湾有事発言」以来、「新型軍国主義」と日本を強く非難し続ける中国だが、忘れてならないのは「失言」とはいえ、この問題のもともとの原因は高市氏自身が作り出したことにある。当初は問題にしていた日本のメディアも時がたつにつれ、そのことに触れない報道が多くなっている。

 トランプ氏の「同盟国だった」発言について「大戦時の中国は今と体制の異なる中華民国だった」などと、日中戦争の問題の本質から離れた報道に終始する日本の大手マスメディア(朝日、NHKなど)の今回の報道には、いつの間にか、内閣広報室による広報戦略を強める高市政権に籠絡されてしまったのか、アジア太平洋戦争へとつながる日中戦争全体を見る視点が足りない。この論法を使えば、「南京事件」までもが同じ結果となってしまう。

 「中国とはいつでもオープン」などと、高市氏は無責任なことを言い続けているが、いまでも、輸出入ベースで日本の最大の貿易相手国は米国ではなく、隣国の中国であることを忘れてはならない。

 高市政権は、年末に改定が予定される安保関連3文書など対中国防衛ばかりに目を奪われているようにしか見えず、中国との外交関係を何とか前に進めようとの姿勢は全く見えない。

 重症の「絶対謝らない病」とも言われる高市氏だが、今回の米中首脳会談で台湾寄りの高市政権は唯一の「同盟国」である米国からもはしごを外されたのではないか。

 まだ遅くないのだから、何とか、中国側が納得する形で、せめて「台湾有事発言」を全面撤回するなどの方法で解決への最大限の外交的努力をしないと、米国からはしごを外されただけでなく、日本は欧州などの世界からも孤立する可能性もある。

 したたかな中国には高市氏が得意とする「抱きつき外交」は通用しない。そもそも外務省はトランプ氏がこのような発言をするという情報が取れていたのか疑問である。

 25日のぶら下がりで見せたこわばった表情は、高市氏がこの問題を本気で考え始めたことを象徴しているのならば、まだ望みはあるかもしれない。

 ただ、高市氏には首相として大切な資質である外交的な「バランス感覚」が欠如していることがとても心配である。米中首脳会談は高市政権にとって、後味が悪いものになったことは間違いない。

▼「出入り禁止」は日本でもいつの間にか広がっている  しっかりしろ大手メディア

 米国のトランプ大統領が政権に批判的なマスメディアへの統制を強めているー。9月20日付の朝日によると、トランプ氏は18日、CNNなど米報道機関3社について「フェイクニュース」を流しているとして「ホワイトハウスから締め出す」とSNSへの投稿で表明した。対象を他の報道機関(投稿後、トランプ氏はワシントンポストとニューヨークタイムズを名指ししてフェイクニュースだと批判した)にも広げる考えを示したという。

 3社への締め出しは即時実施で「報道機関は、米国大統領、トランプ政権、米国について報道する際、虚構やウソを書き連ねたり報じたことが許されるべきではない」と主張した。トランプ氏が締め出すとしたのは、ニュース専門放送局、CNNのほか、「MSNOW」と「ポリティコ」。「MSNOW」は放送ネットワークNBCとマイクロソフトのポータルサイト・MSNが共同で設立したニュース専門放送局、「ポリティコ」は政治に特化したニュースメディアである。

 トランプ政権の「締め出し」は日本でも検察庁などで行われている記者の「出入り禁止」(出禁)のことのようである。この日の朝日では「CNNはトランプ氏の投稿後もホワイトハウス内で取材を続けている」と書いているが、21日付の東京新聞に載った共同通信記事では、CNN記者は19日朝、ホワイトハウスへの立ち入りを拒否され、取材に必要な記者証を没収された、と報じている。他の2社も同じ扱いを受けた。3社は法的措置を取る意向を示している。CNNは「政府からの妨害や干渉を受けることなく、報道する権利が保障されている」との声明を出した。ホワイトハウス記者会も「報道内容を根拠に取材許可を取り消すことはできない」として、トランプ政権に「締め出し」の撤回を求めている。

 共同によると、CNNなどが経済政策や対イラン軍事作戦の成果を伝えず、意図的に否定的な報道をして政権や与党共和党の評価を下げようとしている、と主張しているそうだ。東京新聞の山口哲人ワシントン特派員は20日、「支持率が低迷するトランプ氏は11月の中間選挙で苦戦が予想されている。自身に不都合なニュースを報じるメディアをけん制し、萎縮させることを狙った可能性がある」と分析している。

 トランプ氏は一期目にも記者会見で激しくやり合ったCNN記者のホワイトハウス入館証を取り消したことがあるが、最終的には政権は入館資格を回復させている。ともかく、トランプ氏には、自分に批判的な報道機関や記者を名指しで攻撃し、訴訟や取材制限を繰り返してきた過去がある。

 ホワイトハウス記者会がただちに撤回を求めたように、米国のジャーナリズムにはまだまだ「権力監視」という原則を守ろうとする力がある。共同通信出身の在米23年の米国政権ウオッチャー、津山恵子氏は6月23日に開かれた新聞通信調査会のシンポジューム「トランプ米大統領に揺さぶられる世界」にビデオ参加して、米国の現在のメディア状況を以下のように分析している。ジャーナリズムの在り方としてとても大事な指摘なので紹介しておきたい。私はこのシンポの後、一時帰国した津山氏と8月中旬に会い米国のジャーナリズム状況を聞いたが、ほぼ同じ内容だった。(津山氏の発言は、新聞通信調査会報9月1日号から引用した)。

ートランプ政権の報道規制、メディアと報道の関係をどういうふうに見ているか

 負の面と、米国メディアがすごく頑張っているなという面が混在している。負の面では第1次政権時に比べ、大統領自身、あるいは政権がメディアを攻撃するケースが目立っている。米ABCが早々に巨額の示談金を払って手を打ったという例もある。「負け示談」というが、報道機関としてのメディアが負けた前例になってしまったと思う。

 ただ日々のホワイトハウスでの大統領報道、記者会見などを見ていると、記者がメディア攻撃に対する耐性を強めてきている。例えば、記者は追加質問をしてはいけないことになっているが、A社の質問に対して、きちんとした答えが得られなかった場合、他社の記者が追加の質問を続けていくといったことは、本当に当たり前にみられるようになった。

 どうも米国のホワイトハウス記者会では、1社の記者が質問して相手の答えに納得できない場合、同じ記者が更問いできないのは、日本の 内閣記者会(官邸記者クラブ)と同様のようである。ただし、ホワイトハウス記者会では、各社の連携プレーで更問いをリレーする。津山氏によると、保守メディアとリベラルメディアを問わず、連携ができているのだそうである。

 9月17日夕の内閣改造後の高市氏の記者会見。幹事社2社が質問の後、6社の記者が質問した。幹事社の代表質問だけでなく、6社の質問も高市氏が嫌がる質問は一切なし。フリーや外国メディアの記者も当てられなかった。しかも、いずれの質問も事前に官邸側に知らされていたらしく、互いにカンニングペーパー(首相はプロンプターかもしれない)を読み合っているように見えた。

 高市氏は訪米し、22日にはトランプ氏との首脳会談に臨む。国連総会でも首相就任後初めて一般討論演説する。その最大の焦点は、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長への制裁を科した米国に対してどのように語るかだ。

 17日の記者会見での幹事社の質問は高市氏の気持ちに寄り添ったかのような「ICCの赤根所長の制裁解除に向けた動き、働きかけ等を行うお考えがありますでしょうか」というかったるい内容だった。これに対して、高市氏は「ICCについては、今も米国に対して働きかけを継続しております。関係国と意思疎通を行いながら、国際社会における法の支配の強化に必ず取り組んでまいります」との相変わらず、米国に制裁撤回を求めることではなく、「働きかけ」をするというあいまいな返答に終始した。もちろん他社からのこの問題での更問いなどはなかった(官邸のホームページを見た)。

 19日付朝日の「多事奏論」で田玉恵美編集委員が首相官邸の広報戦略を担う内閣広報官の佐伯耕三氏が雑誌中央公論10月号で「多くの人は、わざわざ情報を取ろうとは考えない。だから、政府からダイレクトに発信していく必要がある」と語ったことを紹介している。 

 佐伯氏の論文はまだ読んでいないが、この部分だけを取り上げると、田玉氏が書いているように、高市氏が熊本の被災地を訪ねた際の官邸発信の動画が高市氏へのヨイショが目立つかなりひどい内容で物議を醸したばかりだが、全く、佐伯氏は意に介していないようである。佐伯氏は首相秘書官として安倍晋三氏にかわいがられ、その結果が国民にかなり不評だった「アベノマスク」だった。佐伯氏の言いぶりは、国民は馬鹿だから、政府側から発信しないと分からない、と言っているようにも読める。これでは、ヒトラーの子分の宣伝大臣のゲッペルスみたいな発想だ。
 
 内閣広報室の来年度予算の概算要求は現在の10倍の72億円。総務大臣時代、衆院予算委で、政治的公平性を欠く放送を繰り返す放送局に電波法に基づく「電波停止命令」を下す可能性に言及したことのある高市氏。事務次官級の内閣広報官に抜擢したこのキャリア官僚を使い何をするつもりか。だからこそ、オールドメディアと揶揄されても、大手メディアの存在は日本の民主主義や言論空間にとっていまなお大切である。トランプの米国で起きているメディア統制はひとごとではない。私の知る限りだが、メディアへの「出禁」は、検察庁、警察だけでなく、トヨタ自動車にまで及んでいる。しっかりしろ、大手メディア。(9月21日)

▼「報道の自由」の侵害に当たると強く反発  CNN記者も厳しい批判記事で対抗

 米国のメディアのトランプ大統領に対する猛反発がの始まった。9月22日の共同の報道によると、ABC,CBS,NBCの各大手テレビ局とニュース専門放送局であるCNNや保守系で共和党寄りといわれるFOXニュースは21日、各局が持ち回りで担ってきたホワイトハウスのテレビ代表取材を停止すると発表した。トランプ大統領がCNNなど報道機関3社の記者を「フェイクニュースだ」と批判してホワイトハウスから締め出し、記者通行証も取り上げたことに対抗する措置。「報道の自由」の侵害に当たると強く反発した。

 テレビ局5社はホワイトハウス記者会を代表し、現場に入る人数が限られる大統領執務室や専用機などで取材し、映像を報道各社に提供してきた。5社は声明で「政府に対する正確で独立した情報を受け取ることは重要な公共の利益だ」と指摘。「報道が気に入らないという理由でメディアを排除すべきではない」と批判した。
 
 米国憲法修正第1条は「言論及び報道の自由」を保障しているが、今回の米テレビメディアが取った行動は、代表取材を停止するもので、「トランプ信者」は別にして世論を気にするトランプ大統領には打撃となるかもしれない。(と思いたい)

 ニュヨーク・タイムズとワシントン・ポストも21日、トランプ氏の写真の配信や掲載をとりやめると発表。ただし、21日限りの措置で、両紙とも締め出された3メディアへの支持を示すための行動だと説明している。3メディアは21日、記者への取材禁止措置を即刻撤回するよう求める訴えをワシントンの連邦地裁に起こした(23日付東京)。米メディアの連帯の動きが相次ぐ。

 また、締め出されたCNNは21日、アーロン・ブレイク記者による分析記事をネット版で載せ、「中間選挙を目前にひたすら奇妙な言動を重ねていくトランプ氏」の見出しで、トランプ氏の今回の乱暴な振る舞いを厳しく批判した。
 
 CNNの分析記事によると、トランプ氏の振る舞いはそもそも奇妙なものが多い。だが、ここ12日間の言動はかなり際立っている。特に中間選挙が迫る時期であることを考えればなおさらだ、との書き出しで始まる。

 その上で、①有権者に対し、一部の共和党員でさえわいろに等しいと指摘するものを提示した=共和党が上下院で多数派を維持すれば、国民の成人全員に5000ドル(約78万円)を支給すると提案したこと②米同時多発テロから25年を迎えるにあたり、テロの現場のすぐ近くにいたという疑わしい話をした③民主党が自身を殺害しようと共謀したと根拠なく示唆した=24年、ペンシルバニア州で起きた暗殺未遂についてで、実際、暗殺を企てたのは共和党支持の登録有権者だった④対外貿易をすべて停止すると脅した⑤芸術施設「ケネディ・センター」に自身の名前を付けることを判事が認めなければ、同施設の未来を人質にとる構えを示したーなどと指摘した。さらに、今回のCNNを含む一部メディアのホワイトハウスへの立ち入りを拒否していることも挙げている。

 そして、トランプ氏の指導力に対する米国民の信頼低下が上げられる、と指摘。「ここ数か月の世論調査では、国民の67%がトランプ氏は重要な決定について慎重に検討していない。また、71%が、トランプ氏は『感情が安定していない』と回答した」など、コテンパンにトランプ氏を批判している。

 米テレビ局のトランプ氏批判はこの問題をめぐって先鋭化する一方だが、日本のNHKを含めたテレビ局にこのような対応ができるのか。特に、NHK政治ニュースの高市早苗政権への配慮ぶりは目に余る。これでは「公共放送」ではなく「国営放送」と言われても仕方がないと思う人は私だけではあるまい。記者会見をコントロールする高市政権のありようを見ていると、1972年6月17日、佐藤栄作首相(当時)が退陣表明の記者会見で新聞記者団に対して「偏向的な新聞は大嫌い。帰ってくださいよ」と発言。記者団が一斉退席した事件を思い出す。日本の記者も国民を代表しているという誇りを忘れないで、政権の理不尽な振る舞いにはきちんと抗議してほしい。(9月22日)

(追記)トランプ氏のCNNなどへの弾圧、その後

 9月24日、ワシントン連邦地裁は「憲法違反の可能性が高い」としてCNN記者らの記者証を復活させるようトランプ政権に命じる。同日、ホワイトハウスは3社の記者証を回復させ、記者の入館を認めた。

 9月25日、米主要テレビ5社は抗議のために停止していた大統領の代表撮影を再開した。ところが、同日夜、トランプ政権は翌26日に代表撮影する予定だったCNNの大統領専用機への同行取材を認めなかった。(いずれも25日付から27日付までの朝日)。まだ、米メディアと政権とのバトルは続きそうである。(9月27日にまとめた)

▼佐伯耕三氏インタビューを読む 

 9月21日のフェイスブックで日本のメディア統制を担う経産官僚出身の内閣広報官、佐伯耕三氏に触れたが、早速、中央公論10月号が届いたので佐伯氏へのインタビュー記事を読んだ。その内容を簡単に紹介する。
 
 佐伯氏がいま内閣記者会(官邸記者クラブ )との記者会見を仕切り、司会を務めているだけでなく、6月からXで「内閣広報官(色々投稿試し中)というふざけたように見えるアカウントを開設して批判を含めた話題を呼んでいる。念のために言うが、記者会見の主催者は記者クラブのはずである。それがいつの間にか政権をはじめ当局に乗っ取られた。
 
 「異色の『官邸官僚』に聞く 批判と失敗を恐れず国益を貫く『役人道』」との見出しで8ページも割いている割には余り内容はない。インタビューする記者に批判精神が足りないのか。何かを引き出そうという意欲がないのか、佐伯氏の言い訳やをヨイショするだけの正直いってとてもつまらない内容だった。その内容を少しだけ紹介しておく。
 
 特に、SNSで物議を醸した高市氏が熊本の被災地を訪ねた際の2分の動画。この動画は高市氏の活躍が中心で、ピアノのBGMが付いたり、自衛隊ヘリから被災地に合掌する姿が映し出された。合掌の場面は「演出ではないか」と批判されたが、佐伯氏は「総理がいく先々で何度も手を合わせていることに僕自身途中で気づいた。そういう自然に出てきた哀悼の気持ちをありのままにお伝えしたい思いであわてて撮影した」という。

 また、BGMについては、「総理が被災地の現場を見て、現地の声を伺いながら激甚災害指定などの必要な対策を打ち出している、ということを伝えたかった」のだそうだ。これでわかるように佐伯氏が目指すのは「国益」などではない。「高市益」ではないのか、と思ってしまう。そもそも税金で首相個人の宣伝をしていいのかとの疑問もある。

 高市ファンはこの説明で納得するのだろうが、そうでない人は高市氏のいつものパフォーマンスだと考える。私などは佐伯氏の説明に「本当かいな」と思わずのけぞってしまった。特に、被災者との面談の内容はひどいものだった。ヤラセ説も出るほどである。被災したばかりなのだから、被災者から首相への厳しい注文があって当然だった。それにもかかわらず、動画に出た被災者からは「よくやってくれている。全部が全部ありがたかったです」と政府対応をほめる言葉ばかりだった。私はこの動画を見て強い違和感を覚えたが、これを「演出した」佐伯氏は全く反省の様子はなく、得意満面だ。こういう人だから、内閣広報官に選ばれたのだろう。
 
 8月6日付の朝日に掲載された「動画は全体的に高市氏にフォーカスを合わせており、その時間も長い。動画の主役は高市氏で被災者や被災地ではない。被災者や国民が置き去りになっていると感じた」との識者の批判に全く同感である。

  佐伯氏は 安倍晋三政権の内閣総理大臣秘書官だった時にも、コロナの初期、星野源さんの楽曲「うちで踊ろう」をBGMにして安倍総理がくつろぐ動画が話題となり「アベノマスク」も有名だ。いずれも悪評プンプンだが、佐伯氏はむしろ得意になってその成果を誇る。

 このインタビューのキーワードは「高市氏への佐伯氏の共感」だ。佐伯氏自身が高市ファンなのだろう。佐伯氏が重視するのはどのビュー数ではなく、「いいね」の数だという。「投稿を目にしてとっさに『いいね』を押してくれる。そうした一般の方の声を大事にしたいですね」という。「うーん」。SNSの「いいね」だけで判断する。ポピュリズム極まれりである。

 重要なことなので何度も書くが、内閣広報室の来年度予算要求額は今の10倍の72億円。何に使うのか。特に国民に届きやすい多彩な動画の発信態勢を強化。この夏には、各省から若手を中心に10人余りを増員したそうだ(19日付朝日)。内閣広報室は政府や国民のためにあるのではなく、高市氏のためにあるようである。確かに動画には影響力がある。目立つことが好きで、まるで「タレント」のようなそぶりを時々することのある高市氏。共同と読売新聞の調査でいったんは下がった支持率がまた上がり始めた。日本の将来は大丈夫か。国民が望むのは一方通行のSNSの「いいね」ではなく、首相の丁寧で誠実な記者会見での説明である。(9月22日)

▼「法の支配」だけは強調  また、通訳の「メディア退出」発言で話題に

 高市早苗首相はアジア大会開会式を欠席してまで準備を進めてきた成果なのか、映像に映し出されたこわもてのトランプ米大統領との9月22日午後(日本時間23日未明)のニューヨーク国連本部での首脳会談はいつもの笑顔や相手を食い入るように見つめるしぐさを振りまいて、まだ、それほど親しい関係をとれているわけではないのに、「ドナルド」とのファーストネームを連呼するなどして、これを何とかクリアしたようだ。

 ただ、その後の22日夜(日本時間23日午前)国連総会での一般討論演説では、トランプ氏が国際刑事裁判所(ICC)の「解体」まで宣言する中、「法の支配」だけは強調。どのように触れるかが焦点だった米国が赤根智子所長らを制裁対象にしたことには触れなかった。また、首脳会談の詳しい内容は明らかにしていないが、日本側の説明によると、「首相はICCについて言及、ICCを一貫して支持する日本側の立場を説明した」とし、首相はその後、ホテルで行った会見で「トランプ氏とICCについて率直にやり取りを行った(24日、毎日新聞)、と述べている。
 
 首相は「率直なやり取り」というが、トランプ氏が改めて一般討論でICCを「米国を不当に標的にする邪悪な組織」と決めつけて全ての国連加盟国にICCからの脱退を訴えていることからも、残念ながら、首相が自民党を含む超党派議連が強く求めていた米国の制裁に抗議したり、撤回を正式に求めたわけではなさそうである。国内では、赤根所長を支持・保護する具体的行動を求めるオンライン署名が16万筆を超えており、赤根氏はこれらの署名活動に講演で「私、ICCに大きな力を与えてくれている」と感謝を表明している。

 24日の朝日新聞は「時時刻刻」で官邸幹部は「トランプ氏に対して、制裁を猛烈に批判したら、解除できるのか。結果が変わらないならやらない方がいい」と言い切っている。このような政権の日和見主義的な態度からは何も生まれない。独立国として国際的にも信頼を絶対に得られない。そもそもICC加盟国は欧州をはじめとして125カ国もあるのだ。

 このところ、第2次トランプ政権となって、権威主義国化を強める米国の属国ではないことを国際的に示すためにも、ICCの分担金最大拠出国で所長まで出しているのだから、多少、米国とはギクシャクしても、きちんと制裁に抗議し、撤回を求めるべきである。

 高市政権は政権ぐるみで権力者も従わなければならないという「法の支配」の意味を知らないのではないか。最近のベネズエラやイランでのトランプ氏の振る舞いは国際法違反であり「法の支配」に反する。これができないならば、高市政権は「法の支配」という言葉を安易に使うべきではない。

 日米首脳会談の映像を見ていて何かがおかしいと気づいたことがある。なぜか画面でみんなが大笑いしているシーンだ。
 
 このことについて、23日の毎日新聞はこう書いている。
 
 高市氏が、日米メディアに公開された会談冒頭の締めくくりの際、「今日はたくさんのイシューを話したいので、そろそろ会談を始めましょう」と発言。日本側の通訳が後半部分を「協議できるよう、メディア(ホワイトハウス記者会を指す言葉を使ったようだ)には退室してもらうのはいかがでしょう」と英訳した。喜んだトランプ氏が「さあ、皆さん彼女の言うのを聞いたでしょう?」と報道陣に退室を促した。
 
 トランプ氏はこのところ、CNNなど3社に「フェイクニュースだ」として、ホワイトハウスなどから締め出し、メディア側がこれに強く抵抗するなど対立が深まっている。高市氏と通訳の発言がこの対立を意識したかは不明だが、英訳された発言を聞いたトランプ氏や米閣僚から笑いが起きた、という。
 
 このことについて、在米ジャーナリストの飯塚真紀子氏は「この場面はXで大ウケしたそうだ(24日、ヤフーニュース)。Xでは「高市氏がフェイクニュースに部屋から出て行けと言った。爆笑ものだ」「同盟国の首相がトランプと同じことをしている」「もう1人のMAGAリーダーだ」などの声が上がっているという。
  
 この通訳はネットで調べると、外務省条約課長の高尾直氏らしい。映像を見ると分かるが、高市氏は「メディアに出て行って」などと言っていない。通訳がこの部分を勝手に英訳したのか。それとも、高市氏と事前に打ち合わせていたのか。おそらく、官僚がこんな大事なことを独断で決めるわけはないので、後者だと私は思う。確かに、高市氏もメディア嫌いで独善的。トランプ氏とやることが最近似てきた。だから、トランプ氏がそう考えているとは思えないが、相性が合うのではないか、と推察する。やはり、そんな人がトランプ氏に抗議したりするはずはなさそうである。

 直近の週刊文春9月24日、10月1日号「片山さつき財務相 ギラつく野望」。この記事の中で、ジャーナリスト櫻井よしこ氏が司会を務めるインターネットテレビ「櫻LIVE」に出演した片山さつき氏が前回訪米前に片山氏と電話した時の、エピソードを披露。「高市氏からトランプ大統領にどう対応すべきか」と聞かれ、「女だから甘えればいいのよ」と答えたことを明かしている。そのうえで「言うべきことは言う」「懐に飛び込めばいい」と口にした。実際、高市氏は初対面でいきなりトランプ氏に抱きついた(安倍晋三氏周辺)。今回はそういう場面こそなかったが、何となく、ありそうな話ではある。テレビを中心に高市氏の訪米を高く評価し、ヨイショする報道が続く。また、支持率が上がりそうな予感がする。 (9月24日)