内閣支持などを調べるNHKの5月の世論調査(政治意識月例調査)の回答率は48%だった。今年2月から4カ月連続で50%を切っている。60%台だった10年前と比べると10ポイント以上の減で、調査結果への信頼度が大幅に低下した。5月の朝日新聞、読売新聞の世論調査回答率も40%台だった。先の統一地方選挙の投票率は低く、〈勝利者はまたも投票行かぬ人〉(ウォッチドッグ川柳)という状況だったが、世論調査でも「多数派は回答しない人」という時代が到来したことをデータが示している。メディア各社には現在の電話による調査方法を再検討するなどして回答率を上げ、調査の信頼度を高める努力が求められる。
携帯電話の回答率が低い
メディア各社世論調査の調査方法は有権者が対象で、コンピューターで無作為に作成した電話番号にかけるRDD(Random Digit Dialing)方式。5月の固定電話・携帯電話別の回答数と回答率は以下の通り。
固定 | 回答数(率) | 携帯 | 回答数(率) | |
NHK | 814 | 502(62%) | 1725 | 723(42%) |
朝日 | 872 | 417(48%) | 1722 | 713(41%) |
読売 | 714 | 421(59%) | 1631 | 640(39%) |
毎日 | なし | 525(?) | なし | 528(?) |
共同 | 511 | 427(84%) | 2716 | 625(23%) |
(注1)RDD方式は2001年に朝日、毎日、読売が導入。それまでの面接方式では調査回数は年間5、6回だったが、RDDは手間と経費が大幅に削減できることから主流となり、調査は月例化、緊急調査も実施されるようになった。
(注2)表の「固定」の下の数字は有権者がいると分かった世帯数
「携帯」の下の数字は有権者につながった人数
回答率の小数点以下は四捨五入
(注3)5月の調査実施日=NHK=12、13、14日 朝日=27、28日
毎日=20、21日 読売=20、21日 共同=27、28日
携帯電話の回答率が低いことが特徴だ。固定と携帯を単純に合計した回答率は、NHK48%、朝日44%、読売45%で、共同通信33%だった。毎日新聞は有効回答数だけを記載、調査した母数は公表していない。
NHK、10年前の回答率は67・7%も
回答率48%について、NHKに問い合わせたところ、5月17日に報道局とふれあいセンター連名の返事がメールで来た。それによると、電話調査の回答率は長期的に低下する傾向があり、その理由について①電話を使った詐欺事件や強盗事件の影響で電話自体になかなか出てもらえなくなった②携帯電話を調査対象に加えたことも影響してしている-の2点をあげている。「回答率については何%あればよいという考え方はしていません」ともあったが、調査方法が面接方式だったころ、共同通信の世論調査の回答率が60%を切った際、次回は60%を超えるようにと社内に大号令がかかったことがあった。今は昔の目標値だ。50%以下では、調査の科学性に疑義が出て来る。
NHKの政治意識月例調査の回答率(%)をWEB検索すると、次のようになる。
2013年 2018年 2022年 2023年
1月 67・7 57・6 56・7 52・4
2月 64・7 56・1 58・4 49・5
3月 64・7 57・5 55・5 47・9
4月 63・4 56・2 54・4 48・2
5月 61・5 60・8 55・4 48・2
NHK調査の回答率は、10年前には60%台だった。携帯電話での調査開始は2017年で、翌年にはほぼ60%を切った。2022年7月から固定と携帯の目標回答数の割合を5:5から4:6に変更した。その後、回答率がさらに落ち、今年2月にはとうとう50%を切り、減少傾向が続いている。
電話調査の弱点をどう克服するか
メディアによる世論調査は、内閣支持率や主な政策に対する国民の考え方の傾向を知る有力な手がかりとなる公共性の高い、不可欠の事業だ。各メディアには、調査方法を工夫して、回答率を60%台に引き上げ、少なくとも50%以上は維持して、調査の科学性を確保することが求められる。例えば、年に数回は面接方式で実施し、郵送方式を組み合わせることも一案だが、同一方式でないと推移が判断できないマイナス面もある。根本的には、NHKは政権寄りでない公平な報道で、新聞各社は論調の二分化に固執することなく多様な報道と調査報道で、視聴者・読者からの信頼を得ることが、回答率を底上げることにつながる、との観点から日常のニュース活動を進めることが重要だ。この文章のデータは限定的だ。メディア研究者には、RDDと携帯電話時代のデータを総合的に分析し、WEB調査のメリット・デメリットも研究して、世論調査の信頼度をアップするための具体策を提示してもらいたい。
(了)