コラム「政治なで斬り」「公私混同」はなぜいけないのか 政治家の道義と常識の劣化を憂う 

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どれだけの 恥か気づかぬ 親子かな                                     増税と いわずに 社会保険料                                      つい数日前、この時事川柳を新聞の読者欄で見つけた。わずか17文字だが、100行の原稿に匹敵するようなパワーを発揮しているのではないか。

公私混同を戒める

 岸田文雄首相の長男翔太郎氏の首相秘書官更迭は、公邸という公的施設での不行跡つまり、公私混同にあった。公私混同がなぜ批判されるのかといえば、国民の汗と努力の税金を無駄遣いしたことになるからである。

 秘書官の不祥事では、菅義偉前首相が総務相時代、息子の大臣秘書官による同省幹部への接待問題が国会で批判されたのはまだ最近のことである。                   

 日本人は忘れっぽいのが「美徳」とされがちだが、2022年暮れには秋葉賢哉復興相を含め4閣僚の「ドミノ辞任」があった。細田博之衆院議長の、旧統一教会との関係や給与に対する不適切発言もある。

安倍政治の検証も不可欠

 公私混同と言えば、安倍晋三政権についても検証が必要だと指摘されている。森友学園への国有地のタダ同然の払い下げ、加計学園の学部開設の審査の在り方、国会召集を拒んだり首相自らヤジを飛ばすなど、近代的な法治国家以前の対応があった。    

 国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、自死した同省近畿財務局の赤木俊夫さん問題について政府は、「幕引き」したいつもりだろうが、どういう経過で文書改ざんが行われたのか、法と秩序の立場からきちっとした検証が求められる。ことは税金を扱う国税庁長官が関係している問題でもあり、だれが首相であってもしっかり検証して、国民に説明する責任があるだろう。安倍政治はまたお仲間政治とか、岩盤規制改革については国の許認可を緩めることなので、利権政治の温床になっているのではないかなどとの指摘もある。

「孤独」に耐える修練を積んだ

 総理大臣というポストは、孤独に耐えることが仕事みたいなところがあるらしい。社会党委員長のまま、自社さ政権(自民、社会、さきがけ)の首相を務めた村山富市氏は「官邸の執務室に1人でいると孤独にさいなまれる。すべて最後は自分の一人の責任で決断するので、息が詰まるほど緊張する」と言った。

 ということから、気心の知れた身内を、近くに置きたくなる気持ちもわからなくはないが、万事、国民の税金で負託されていることなのだから、公私のけじめには特に神経を使ってほしいところだが、メディアの普段のチェックも大切だ。

「子どもに世襲を禁じた」

 したがって、首相経験者たちは孤独に耐える工夫をしている。岸田首相が所属する派閥「宏池会」は、池田勇人首相が創設した。秘書官だった伊藤昌哉氏は「役人時代のくせで言葉使いはぞんざいで、横柄だったが、首相になると先輩たちの忠告をよく聞き、一日ごとに成長した」という。自らを鍛える努力をしていたのである。

 佐藤栄作氏は次男を秘書官にしたが、就寝の前には毎晩のようにお線香をたき、般若心経を唱えた。中曽根康弘氏は、右翼の実力者だった四元義隆氏と座禅を組んだ。写真撮影を許したところなどパフォーマンスのきらいを感じたが、静かに考える時間を大事にした。四元氏は「国家国民のためになるという判断で決断したら、もうぐらぐらするな」と、アドバイスしたという。            

 竹下登氏は、リクルート事件で批判を浴びて、火だるまになっている時も「権力者なのだから批判されて当然だ。悪かったところは直していく」といった。また「政治家は一代限りのものだ。世襲させてはいけない」と言って、その通り世襲をさせなかった。

国民負担率はもはや「五公五民」

 広範囲にわたって狂乱物価と貧富の格差が国民生活を襲っている。すでに7000品目以上値上がりしたという。防衛力強化の財源を捻出する「防衛増税」や、消費税増税をにらむ「異次元の少子化対策」は、いずれも国民に負担増を求めている。一方で支持率上昇を好機とらえて会期末解散説があり、国会論戦では負担増をクローズアップしないように、争点化を避けようとする動きもある。

 財務省が今年2月に発表した22年度の国民負担率は47・5%で、江戸時代の年貢が「五公五民」になるとは全国各地で一揆が頻発した。雇用労働者7000万人の40%は非正規雇用である。

医療費値上がりして患者減る

 経済協力開発機構(OECD)の21年の国に対する国民の信頼度調査によると、20カ国の平均は41%のところ日本は24%で、最低に近い水準だ。社会保障に対する信頼度が原因とされる。消費税増税は社会保障費に使われる約束だったが、財政赤字の穴埋めや他の分野に回っているという。友人の医師は高齢者の医療費が値上がりして患者が減っているといった。

「隗より始めよ」

 話は振出しに戻るが、政治家は二つの目でしかものを見られないが、市民は何百万何千万という目で政治を見ているのだから、政治家の言動はことのほか大事だ。まず隗より始めよで、岸田政治が取り組むべきことは、税金の無駄遣いそのものである公私混同を戒め、綱紀を立て直して、一刻も早く政と官に道義と常識を蘇らせることではないか。

                                        (了)